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5人の公認心理師が、チームで学校の日常を支える「日本一心あたたまる学校」。西濃学園が校務分掌に「臨床部」を置く理由とは?

5人の公認心理師が、チームで学校の日常を支える「日本一心あたたまる学校」。西濃学園が校務分掌に「臨床部」を置く理由とは?

岐阜県揖斐川町に、「日本一心あたたまる学校」を掲げる学校がある。校務分掌の一つとして「臨床部」を置き、公認心理師が学校運営の中核を担う学校法人西濃学園だ。

同校では、心理の専門家が非常勤の“外部支援者”としてではなく、日常的に生徒と関わり、教員とチームを組み、学校の一員として子どもたちを支えている。2週間に1回の全生徒へのカウンセリングに加え、公認心理師が授業も担当。「指導」よりも「支援」を大切にする文化が、学校の空気そのものを形づくっている。

もし、学校の中に臨床の視点が当たり前に根づいていたとしたら——子どもたちの学びや人間関係、そして先生のあり方は、どのように変わるのだろうか。中学校校長の仲井智一さん、教頭の丹羽健誌さん、高等学校校長の太田勝也さん、臨床部長の太田宣子さんに話を聞いた。

写真:
仲井 智一(なかい ともかず)さん| 写真上段左
学校法人西濃学園 西濃学園中学校 校長

太田 勝也(おおた かつや)さん| 写真上段右
学校法人西濃学園 西濃学園高等学校 校長

丹羽 健誌(にわ けんじ)さん| 写真下段左
学校法人西濃学園 西濃学園中学校 教頭

太田 宣子(おおた のぶこ)さん| 写真下段右
学校法人西濃学園 臨床部長


2週間に1回の全生徒へのカウンセリング

臨床部は、5名の公認心理師と1名の養護教諭で構成されています。5名の公認心理師のうち3名は臨床心理士の資格も有し、常勤で勤務しています。

専門業務としては、全生徒へのカウンセリングを担当しています。生徒によって必要性は異なりますが、平均すると2週間に1回のペースで、全員と定期的に関わっています。また、各学年で週1回授業も受け持っています。

そのほか、教室に入りづらい生徒や、行事などの集団活動に参加することが難しい生徒へのフォローも行っています。こうした個別の支援は、臨床部として特に求められている、中心的な役割だと感じています。

また、教員と同様に、委員会活動や宿直業務など、専門外であっても学校運営に必要な業務には共に携わっています。

中学では「ライフプランニング」、高校では「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」という科目名で、各学年につき週1時間の授業を行っています。授業の柱としているのは、「自己理解」「他者理解」「コミュニケーション」の3つです。

楽しさを大切にしながら、実際の人との関わりを通して学べる体験型の授業を、さまざまな切り口で展開しています。クラスごとの雰囲気や特徴、その時々の子どもたちに何が求められているのかを丁寧に見極めながら、臨床部内で相談し合い、一つひとつ授業を組み立てています。

そうですね。定期的なカウンセリングの機会があるからといって、人が変わるというのは本当に難しいことだとも、日々感じています。

ただ、それでも少しずつ、「自分も、そして周りの人も、もしかしたら悪くないのかもしれない」と思えるような、そんな感覚が芽生えていくことはあるのかなと思っています。

本学園では、どの先生も一人ひとりの子どもを大切にしていて、そうしたまなざしやメッセージが、日常の中に自然とあふれています。誰かに感謝されたり、「ありがとう」と言ってもらえたりする経験が重なっていく。その積み重ねこそが、変化を支える大きな土台になっているのだと思います。

そういう意味では、劇的な変化ではなくても、絶望よりも希望がほんの少し上回る。そんな小さな変化が、静かに、しかし確かに積み重なっているのではないでしょうか。


臨床心理学の知見を教育に活かす

設立当初からです。本学園では当初より「臨床心理学の知見を教育に活かす」ことを教育活動の特色として実践してきました。

本学園は、1991年に“学校に行きたくても行けない子どもたち”の支援を目的としたボランティア団体からスタートしました。その活動の頃から、常に「心理学」という言葉が身近にありました。つまり、学校を立ち上げた時点で、臨床の大切さや、学びや研修の場を学校の中に設けることは、すでに当たり前の前提だったのです。

最初は臨床心理の研修を受けても、「分かったような、分からないような」感覚もありました。けれど、日々生徒と関わり、また自分自身が課題や困難に直面する中で、臨床の視点や力がいかに大切かを、生活の中で実感するようになりました。そうすると、自然と「もっとしっかり学ばなければ」という思いが生まれてきます。

また、立ち上げ当初から、当時中心となっていた現理事長である北浦が、臨床の重要性を強く認識していたことも大きかったと思います。そのため、私たち現場の教職員も、抵抗感なく臨床心理を学校の中に取り入れることができたのだと感じています。

はい。それは私自身もそうですし、他の先生方を見ていても感じます。

例えば、生徒が示すいわゆる「問題行動」は、教員の立場からすると、朝起きられないといった行動が「怠けている」ように見えてしまうことがあります。そのため、「良くない行動だから正さなければ」「修正しなければ」と考え、どうしても指導が強くなりがちです。

しかし、臨床心理を学ぶことで、その行動がその子の特性によるものであり、例えば自閉的な傾向によって朝は身体感覚がうまく働かず、起きることが難しいのだという背景に気づくことができます。

そうした理解があると、「これは仕方のないことなのかもしれない」と受け止められるようになり、生徒への関わり方も自然と和らいでいきます。すると生徒の側も、「この先生、以前と少し違うな」と感じるようになり、関係性がスムーズになっていきます。

その結果、指導もしやすくなり、先生の言葉も生徒に届きやすくなる。生徒の言葉も、こちらが素直に受け止められるようになります。そういう意味で、臨床の視点は、日々の学校生活の中で本当に大切なものだと感じています。

私はこの学園に来てまだ2年ほどですが、それ以前は公立学校で校長として働いていましたので、その実情はよく分かります。公立校では、予算があらかじめ決まっている中で、「来てほしい」という思いがあっても、年間で配置できる回数には限りがある、という現実があります。

私が最後に関わっていた学校では、生徒数が約700人いました。その規模になると、本当に支援が必要な全ての子どもたちに十分に関わることは、どうしても難しくなります。スクールカウンセラーをどれほど頼りにしたくても、限られた時間を超えてお願いすることはできず、関わりはどうしても浅くならざるを得ませんでした。

その点、この学園に来て強く感じるのは、「臨床部」という組織が学校の中で明確に位置づけられ、スクールカウンセラーの先生方がやりがいと責任感を持って関わっていることが、子どもたちにとってどれほど大きな支えになっているか、ということです。そしてそれは、周囲で共に働く教職員にとっても、本当にありがたい存在です。

「スクールカウンセラーが学校に常にいることが大切だ」ということは、頭では分かっていましたが、ここに来て初めて、実感として分かるようになりました。

例えば、課題のある生徒がいたとき、担任が話をすることもあれば、スクールカウンセラーが関わることもあります。そうした場に、カウンセラーが一緒に入ってくれて、必要に応じて言葉を添えてくれる。さらに、私たち教員とは少し違う視点から、その子のことをより深く理解した言葉を掛けてくれることで、「ああ、そういう言い方をすればよかったのか」と気づかされることが多くあります。

そうした関わりの中で、子どもたちの表情がふっと明るくなったり、少し素直になったりする変化を見ると、「やはり、こういう関わり方や声掛けが必要なんだな」と実感します。正直なところ、「もっと早く学んでいればよかった」と思うこともありますが、率直に「すごいな」「ありがたいな」と感じています。

こうした体制が特別なものではなく、当たり前のように多くの学校へと広がっていけば、不登校で悩む子どもたちや保護者も、少しずつ楽になっていくのではないでしょうか。結果として、支えられる人は確実に増えていく。そんな手応えを、日々感じています。


「指導」よりも「支援」

本学園は「学びの多様化学校」ですが、3年ほど前にアンケートを行い、私たちが大切にしていることとして、改めて3つの柱が浮かび上がりました。

一つ目は、「一人ひとりを理解し、個別に対応する」ということです。
多様な学びへの理解は一般の学校でも広がってきていますが、それでも現場では、どうしても集団を優先せざるを得ない場面があります。その中で、「この子には個別の配慮が必要かもしれない」と立ち止まって考えられる視点を持つことは、先生にとって教育の幅を大きく広げることにつながります。

二つ目は、「指導よりも支援」という考え方です。
もちろん、一般の学校でも「指導」と「支援」の両方が大切ですが、カウンセリングマインドを学び、状況に応じてそれを使い分けられるようになることで、先生たちの関わり方の選択肢は確実に増えていきます。

そして三つ目は、「連携」です。
校内外を問わず連携を大切にし、「一人で抱え込まなくていい」「チームとして関われる」体制があることで、先生たちは精神的にも支えられ、関わりの幅も大きく広がります。

臨床心理士が大切にしているこうした視点は、「学びの多様化学校」が重視している考え方と深く重なっています。そうした視点に一般の学校の先生方が触れることで、教育の可能性はさらに広がっていくのではないかと感じています。

行為の意味や背景を理解した上で、それでも必要だから伝える。その前提があるかどうかだと思います。学校生活の中だけでなく、その先、社会に出たときのことを見据えて関わることを常に意識しています。

正直なところ、時には言い過ぎたかなと思うときもあります。そういうときは、「ごめんね、言い過ぎた」と素直に謝ります。先生だからといって謝らない関係では、信頼は一気に崩れてしまうと思うからです。

また、「ここまでは言うよ」というラインを、すでに信頼関係が築けている子を通して、他の子にも伝えていくようにしています。生徒の特性によっては、「他者の視点」を持つことが難しい場合も多くあります。その視点を少しずつ育てていくことこそが、とても大切なのだと感じています。

ひとつ、授業の中でのエピソードをお話しします。
授業中、誰かが発言するたびに、小さな声で自分の考えを次々と口にしてしまう男の子がいました。本人に悪気はなく、ただ思ったことをそのまま言っているだけで、自分が周囲にどう映っているかには気づいていなかったのだと思います。

一般的な授業であれば、「もう少し静かにしよう」と注意して終わる場面かもしれませんし、臨床の視点がなければ、私自身も同じ対応をしていたと思います。けれど、その様子を見ているうちに、「この行動が原因で、前の学校では周囲から距離を置かれていたのではないか」「本人は理由が分からないまま、『なぜ自分は避けられるのだろう』と感じていたのではないか」と考えるようになりました。こうした背景をもつ子どもは、決して少なくありません。

そこでケースカンファレンスで話し合い、授業中の声掛けを少し変えてみることにしました。「今日はもう3回発言しているから、次は少し待ってみよう。OKになったら声を掛けるね」と、事前に伝えるようにしたのです。

すると、「じゃあ、ここはいいです」と、本人のほうから発言を譲る場面が増えていきました。少しずつバランスが取れてくると、クラス全体の空気も落ち着き、周囲の生徒の小さな苛立ちも和らいでいきます。教室に、安心感が生まれてきたように感じました。

臨床の視点があることで、指導と支援のあり方が変わり、教室全体が少しずつ変化していくことを、日々の授業の中で実感しています。


臨床の視点があると、勇気を持って踏み出せる

やはり、先生の存在はとても大きいと思います。先生のちょっとした表情や言動、排除するような雰囲気があるかどうかを、子どもたちは本当によく見ています。そうしたものが「ない」ということ自体が、大きな影響を与えているのだと思います。

教員って、「子どもの意見を大事にしなさい」と教えられてきていますよね。だから、意見を言う子を止めることに、「自分はダメな先生なんじゃないか」と迷ってしまうことがある。特に、自由な発想を大切にしようとしている子たちを前にすると、なおさらです。

でも、臨床の視点があると、「ここは止めてもいい」「今は調整が必要だ」と、勇気を持って踏み出せる。そこが大きいと感じています。

正直に言えば、学校が今の形のまま続いていくとしたら、それは難しいと思います。

ただ、全ての子どもを一つの枠で見届けるのではなく、同じ学校の中に複数の「居場所」や「学びのスペース」、そして関わる「人」を配置できれば、可能性はあると感じています。

少子化に伴って、学校の統廃合や義務教育学校の設置が進んでいますよね。いくつかの学校を一つにまとめる、このタイミングこそが重要です。この機会に、少人数で過ごせる教室や、少し異なる学びの場を組み込むことができれば、まだ間に合う。今やらなければ、手遅れになってしまうかもしれません。

私は以前、公立学校に勤めていました。6クラス×40人規模の学校で、中学1年生の理科を全て担当していて、正直、授業を回すだけで精一杯でした。準備は毎日深夜まで続いていたし、先輩からは「黒板に書いたことを班の全員が書き終えるまで、実験に入るな」と言われ、管理的に進めざるを得ない状況でした。

でも、書くのが遅い子は必ずいます。そうすると実験に取り掛かるのが遅れる班ががてくる。一生懸命やっていることは伝わるのに、どうしても「その子が悪い」という空気が生まれてしまう。それを見るのが、とても苦しかった。

当時は知識も経験も足りず、「見えないふりができる先生のほうが楽なのかもしれない」と思ったことさえあります。でも、ここでは違います。

時間と人数、そして臨床の視点があるからこそ、そうした子どもたちを丁寧にケアできる。全員が100%理解する授業は難しくても、「今日はこれが分かった」「今日はここまでできた」という実感を持って授業を終え、次につなげていく。それができる学校です。

本学園では、こうした日々の取り組みや事例を、外にひらいて共有していくことも大切にしています。この記事が、「こんな関わり方もあるのか」と考えるきっかけになればうれしいです。

〈取材・文・写真:先生の学校編集部〉