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子どもたちは未来からの留学生。住民との対話を重ね、町全体で教育のOSをアップデートする三宅町の挑戦

子どもたちは未来からの留学生。住民との対話を重ね、町全体で教育のOSをアップデートする三宅町の挑戦

奈良県磯城郡三宅町。人口約6,500人のこの小さな町に、全国から注目を集める教育ビジョンがある。「子どもたちは未来からの留学生」——第3期三宅町教育大綱に掲げられたこの言葉は、子どもを一人の権利主体として尊重し、町全体で未来の社会をつくろうとする決意の表れだ。

三宅町では現在、老朽化した小学校の建て替えを機に、「未来の学校プロジェクト」を推進している。しかし、それは単なる校舎の建設ではない。教育長の大泉志保さんは、学校を核とした「まちづくり」と捉え、毎週のように住民との対話の場を持ち続けている。

37年間の教員生活を経て、行政未経験で教育長に就任した大泉さんが感じる学校現場への違和感と、住民を巻き込むことの難しさと希望。正解のない問いに向き合い続ける、教育行政の最前線に迫った。

写真:大泉 志保(おおいずみ しほ)さん
大泉 志保(おおいずみ しほ)さん
奈良県磯城郡三宅町教育長


「前例踏襲」への違和感を原動力に、現場主体の教育行政へ


私は1986年から37年間、ずっと大阪の中学校現場におりました。定年退職と同時に「違ったステージで教育に携わりたい」と考えていたところ、校長時代の取り組みを知ってくださっていた三宅町の町長から「うちに来ませんか」と声をかけていただいたのがきっかけです。

正直なところ、教育委員会の事務局で働いた経験はありませんし、現場にいた頃は教育委員会に文句ばかり言っていた側でした(笑)。

だからこそ、自分が教育長になったら「現場の校長先生には、好きなようにやってもらおう」と決めていました。横並び一線の校長会で指示を待つのではなく、自分の学校の子どもたちを一番よく分かっている校長先生が、独自に判断し進めていく。その方が子どもたちにとって良い教育になると考えています。


そうですね。実は、教員になった初日から、学校という場所に「違和感」を感じていました。新設校に赴任したとき、「新しい学校をつくるぞ」とワクワクしていたのに、最初の職員会議で飛び交ったのは「前の学校の流れで行きましょう」「前例踏襲で」という言葉ばかりでした。

高度経済成長期にはそれで良かったのかもしれませんが、時代が変わっているのに学校だけが変わらない。その違和感を忘れないようにしたいと、ずっと思ってきました。

今、教育長として取り組んでいることも、当時の自分が抱いていた反骨心が原動力になっているのかもしれません。


「絵に描いた餅」にしない。子どもたちの切実な声でつくる教育大綱


教育大綱は、法律(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)に基づき、各自治体が教育の目標や根本的な方針を定めるものです。

いじめ問題への対応などを背景に、首長と教育委員会が連携するために作られるようになった仕組みですが、正直なところ、多くの自治体では美辞麗句が並ぶだけで、現場や住民にとっては遠い存在、「絵に描いた餅」になっていることが多いと感じていました。

三宅町には小学校が一つしかありません。だからこそ、国の方針をなぞるだけの文章ではなく、もっと分かりやすく、三宅町独自の「子ども中心」の姿勢を打ち出すべきだと考えました。


ここが難しいところなのですが……正直に申し上げますと、策定した直後は「外からは注目されたが、町民にはあまり響いていなかった」というのが現実でした。

映画の上映会やフォーラムを開き、この大綱の理念を発信したところ、町外のメディアや教育関係者からは「素晴らしい」「先進的だ」とたくさんの評価をいただきました。しかし、蓋を開けてみると、肝心の町民の皆さんの反応は薄かった。自分ごととして捉えてもらうまでには至らなかったんです。


そうです。私はそこで、「立派な大綱を作って終わり」にしてはいけないと痛感しました。外から見てキラキラしているだけでは意味がない。だからこそ、現在は方針を転換し、毎週のように少人数のタウンミーティングを開き、泥臭く住民の皆さんと膝を突き合わせる活動に注力しています。

「未来からの留学生」という理念を、ただのお題目ではなく、町民一人ひとりの腹に落ちる「納得解」にしていく。そのための対話のプロセスこそが、今まさに私たちが挑戦していることなんです。


異質な他者を混ぜ合わせ、住民の「納得解」を紡ぎ出すチーム戦


三宅小学校の建て替えが迫る中、単に新しい校舎という「箱」をつくるのではなく、それを機に町民の皆さんの教育観をアップデートしたいと考えています。

設計者や行政だけで方向性を決めることは簡単ですが、それでは意味がありません。たとえ少人数でも対話の場に来てくださった方が、「学校のことだけでなく、この町の未来を一緒に考えるんだ」と感じ、表情を変えて帰ってくださる。その変化が何より大切だと思っています。

「私もこのチームに入りたい」と思ってくれる人が一人でも増え、関係の相関図が広がっていく。そのプロセス自体が、町の教育を変えていくと信じています。


一番の理由は、ハレーション(摩擦)を恐れず、多様な意見を混ぜ合わせるためです。私一人の力には限界があります。行政の内部だけで完結させず、異質な視点を持つプロフェッショナルとチームを組むことが不可欠だと考えています。

目指しているのは、プロジェクトチームの中だけで盛り上がるのではなく、その熱が住民へと伝播していくこと。チームで議論した内容を住民との対話の場に持ち出し、「自分も関わりたい」と思う人が少しずつ増えていく。

行政が決めた計画ではなく、住民一人ひとりが役割を見つけ、緩やかに輪が広がっていく。学校の建て替えというハード面をきっかけに、町全体の「教育のOS(教育の前提となる価値観や仕組み)」をアップデートしていきたいと考えています。



「つながる」ことが何より大事だと思っています。私自身、40代後半で大学院に行き、外の世界に出たことで大きく変わりました。

学校の中だけで悩まず、外の空気を吸い、新しい人と出会うこと。それがエネルギーになります。改革は一人ではできませんが、チームをつくり、仲間とつながることで、少しずつ前に進めると信じています。


▼三宅町の教育大綱は以下のリンクから、ご覧いただけます。
https://www.town.miyake.lg.jp/soshiki/1/5637.html


〈取材・文:先生の学校編集部/写真:ご本人提供〉