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教育と臨床心理の知見を融合し、子どもと社会をつなぐ支援を。「そのままでおいでよ」から始まる、西濃学園の教育

教育と臨床心理の知見を融合し、子どもと社会をつなぐ支援を。「そのままでおいでよ」から始まる、西濃学園の教育

岐阜県揖斐川(いびがわ)町の山あいにある西濃学園は、不登校を経験した中高生を「そのまま」で受け入れる“学びの多様化学校”だ。不登校支援のボランティア団体から出発し、現在は学校法人として中学校・高等学校を運営している。

寮生活と臨床心理の知見を教育に融合し、生活・精神・経済・性的の4つの自立と「10のスキル」を軸に、「コラボレイト」「リカバリー」「ライフプランニング」という独自のカリキュラムを設計し、卒業後に社会で生きていく力の獲得を目指している。

不登校を経験した子どもたちの自立を全力で支援する同校の理念と実践について、理事長の北浦茂さんと学園長の加納博明さんに聞いた。

写真:
学校法人西濃学園 理事長 | 写真左
北浦 茂(きたうら しげる)さん

学校法人西濃学園 学園長 | 写真右
加納 博明(かのう ひろあき)さん


教育と臨床心理学の知見を融合して生まれた学校

西濃学園は、学校に行きたくても行けない子どもたちの自立を支援する、全日制の私立中学校・高等学校です。寮を完備し、多くの生徒が共同生活を送っています。

岐阜県西部の山や川に囲まれた自然豊かな環境の中で、子どもたちのありのままを受け止めることを教職員全員で共有し、教育活動に取り組んでいます。

本学園の原点は、私が1991年に立ち上げた、学校に行けない子どもたちを支援するボランティア団体「21世紀の学校を作る会」です。私はもともと愛知県で生徒指導を専門とする高校教員として、やんちゃな生徒と熱心に向き合うことにやりがいを感じていました。

ところが、登校できずに悩む生徒と出会い、当時は「不登校」ではなく「登校拒否」と呼ばれ始めた頃でしたが、情熱でぶつかるほど彼らは離れていくことに気づいたんです。学校には行けない、でも彼らは「本当は学校を卒業したいんです」と語る。そんな彼らの力になりたい一心で、子どもの会や親の相談会を何度も開いてきました。

その過程で臨床心理学に出会い、子どもの「行為の意味」を理解することの大切さを学びました。2000年代に入り不登校の子どもがさらに増え、ボランティアには限界があると感じたため、2003年に揖斐川町で宿泊型フリースクール「坂内新生塾」を設立。

2004年にNPO法人の認可を受け、2005年には揖斐川町から場所の提供を受け、2009年に「学校法人西濃学園 西濃学園中学校」を開校。2017年には文部科学省から、学びの多様化学校(旧来の不登校特例校)の指定を受けました。2022年には高等学校も開校し、中学校から高校までの6年間を通じて、子どもたちの自立支援に取り組んでいます。

生徒と一緒に寝泊まりし、食事を共にし、風呂にも入る――この「寝食を共にする」ことが、不登校の子どもたちには非常に大切だと考えています。

昼間だけ通う一般的なフリースクールよりも、生活を共にすることで人間関係が築かれ、関係修復が進み、自立への歩みが早まることが、長年の取り組みから分かってきました。

もちろん、24時間一緒にいればトラブルも起きます。でも、トラブルがなければ成長もしません。大変ではありますが、そうした生徒たちが卒業して社会で頑張っている姿を見ると、「続けなければいけない」という思いが自然と湧いてきて頑張れます。

実は当初は全寮制でしたが、寮生活には経済的負担もありますし、寮での生活が難しい生徒もいます。そこで一人ひとりの状況に合わせ、現在は通学生が約3割という体制で運営しています。

不登校を経験した子どもたちは、こちらの「なんとかしてやろう」という思いが見えてしまうと、私たちのもとに近寄ってこようとしません。枠にはめるのではなく、そのままの状態を受け止めることから始めれば、自ずと成長が見えてくる。

ただ、こうした受容は最初からできたわけではなく、臨床心理学と出会い、学びを深めたことが大きかったです。子どもたちはスクールに来るとき大抵、とてもびくびくしながらやってきます。そのとき、お互いが呼ばれたい「ニックネーム」で呼び合うことで、大人と関わる心理的なハードルが下がり、会話が生まれると教えてもらいました。

そうですね。教員としての知見だけでは、子どもの行為の意味を理解できませんでした。臨床心理学を学校に取り入れる必要性を感じ、現在も、専任・非常勤あわせて5人の臨床心理士が本校に勤務してくれています。子どもの成すことの意味が分かれば、より接しやすくなる――これが私たちの基本的な考え方です。

また、臨床心理士に常駐してもらい、いつでもカウンセリングができる体制があるのも西濃学園の強みです。さらに、臨床心理士を指導する大学の先生にも来ていただき、年6回のケース会議を実施し、一人の生徒について3時間かけて分析します。これは創立以来、継続している取り組みです。心理学の視点がなければ気づけなかった、行為の裏側にあるものはたくさんあります。

印象的だったのは、解離性同一性障害を抱えている生徒のケース。代表的な行為でいうと、人の物を盗ってしまうのに本人は覚えていないということです。最初は嘘ではないかと思いましたが、臨床の先生の分析で「解離現象」だと分かりました。このことは表面的な出来事だけを捉えていたら、気づけなかったと思います。

このように臨床心理分野のスタッフと手を携えて教育に当たっているため、本校の教職員はカウンセリングマインドが高いのが特徴です。困っている子どもに対しては、ただ寄り添うだけでなく、一人ひとり異なる背景を踏まえ、教育と心理の両面から分析し、どう支援するかを設計しています。


社会的自立に必要な「4つの自立」と「10のスキル」

私たちは、西濃学園を社会的に自立できる力を持って卒業してもらう学校と位置づけています。私たちのような学びの多様化学校では、社会を見据えた上で教育課程を組むことが何より大切だと考えていて。

というのも、不登校の子たちというのは、高校の年齢を超えると「引きこもり」という名前に変わって、社会との接点がますます薄くなっていくんです。そうではなく、きちんと社会とつながって、自分で働いてお金を得られる人になってほしい。

学校生活を通して社会的に自立した存在になれるように、私たちは社会的自立を4つの柱から捉えるようにしています。

1つ目は生活的自立。学校や寮生活を通して得られる基本的な生活能力のことです。
2つ目が精神的自立。学校生活の中で、自己決定を促すこと。
3つ目が経済的自立。18歳になるとクレジットカードも作れますし、一人暮らしなどお金に関わることが増えるため、高校生のうちに身につける必要があります。
そして4つ目が性的自立。不登校を経験している子どもたちは、互いにどのような距離感で過ごすのが良いかを考える経験が乏しい場合が多く、特に入学直後の中学1年生は、小学校低学年でよくあるような揉めごとを起こしがちです。

これら4つの自立を促すために、臨床心理士の職員たちと分析し、「10のスキル」を設定し、10のスキルを寮生活を含む学校生活で養えるようにサポートしています。これらのスキルを独自の基準で1〜5段階で評価できる仕組みを設けて、子どもたちの成長を丁寧に見守っています。

西濃学園は、社会とつながり自分の力を発揮できるよう授業設計を工夫しています。体験学習「コラボレイト」では、教科横断で地域と関わる学びを年間約100時間行い、協働プロジェクトやボランティア、見学・職場体験でコミュニケーション力と問題解決力を養います。

学び直しの「リカバリー」では、少人数・個別で基礎学力を丁寧に補強。「ライフプランニング」では、自己理解と進路設計を進め、生活習慣・コミュニケーション・自己コントロールを鍛えます。

これらは全て「10のスキル」に基づき社会的自立の力を育むために設計しており、学力だけでなく実社会との接点を保ち、子どもが自分らしい未来を描けるように支えます。

地元の職人を招いた和菓子・豆腐・ソーセージ作りなどの「ものづくり」、農園での収穫や老人介護施設での交流など、校外で人と関わる学びを積極的に行っています。

目的は仕事や社会の仕組みを知ること、人とつながる力を養うことにあります。特に不登校経験のある子どもにとっては、初対面の人と関わる練習ができることで、対面での対話のハードルが下がります。

また地元揖斐川町の一大行事「いびがわマラソン」では給水ボランティアを担当しています。参加者の方から、「ありがとう」「頑張って!」と声を掛けてもらえることで、自分の行動が誰かの役に立つ実感を得て、自己肯定感が高まります。

さらに揖斐川町と連携したアメリカ短期派遣も計画中で、町の補助を受けつつ、参加生徒はアルバイトで費用を積み立てます。目標に向けてコツコツ積み重ねることを学ぶことで、経済的自立にもつながっていく学びになります。

こうした地域協働の実体験と教室での学びが循環し、社会と自然につながる力が着実に育っています。

はい。子どもたち一人ひとりの状況やペースに合わせて、学びを積み重ねることを大切にしています。

例えば、小学校時代にほとんど学習機会がなく不登校だった生徒が、西濃学園で勉強のおもしろさに気づき、「英検を受けたい」と挑戦して5級に合格したことがありました。本人が受検したのは、その子の学年に見合った級ではありませんでした。

でも大切なのは、その子がどの級を受けたかということではなく、「受けてみよう」と踏み出したこと。そしてその一歩を、先生や仲間が一緒に喜ぶことだと考えています。本校での学習は、単に点数を上げることよりも自己肯定感を育み、学ぶ楽しさを実感できる場であることを重視しています。小さな成功体験の積み重ねが、次の挑戦への意欲を後押しすると考えています。


不登校を、もっと社会全体の課題に

文部科学省は、学びの多様化学校を約300校に拡大する方針を掲げています。ただ、数が増えるほど「どんな思いで、どんな子どもを育てるのか」の定義が曖昧なまま学校が作られることを懸念しています。

私は学びの多様化学校マイスターとして自治体や学校法人の相談に応じていますが、必ず「どんな子を育て、どこまでの力を付けて送り出したいのか」を最初に確認します。

社会との接続を見据えた設計がなければ、不登校を経験した子どもにとって良い学校にはなりません。学校は子どもが一人前へと育つ場――この原点を大切にしたいのです。

通信制が増えても、通信か通学かは制度の違いにすぎません。大切なのは、不登校を経験した子を受け入れる体制が整っているかどうかです。通信制=不登校に最適な学び場、という認識には危うさを感じます。

不登校は、その子や家族だけの問題ではなく、「社会的課題」として捉える必要があります。適切な支援がなければ長期の引きこもりに至る可能性がありますが、機会があれば自立し、税を納める社会の一員になれる。この転換は社会にとっても大きな価値です。だからこそ、社会全体でこの課題に向き合うべきだと思います。

不登校の子たちを社会とつなげるという点においては、高校の学びの多様化学校がもっと増えて、不登校を経験した子たちを適切に社会とつなげる場が増えてほしいと感じています。

不登校で悩む子どもたちが社会的に自立すれば、少子化で労働人口が減る中でも貴重な財産になります。適切な教育があれば、必ず社会に貢献できる人材になる。

不登校という課題への投資は、長期的に見ると社会を豊かにする営みです。その視点を、学校から社会全体へ発信していきたいですね。

〈取材・文・写真:先生の学校編集部〉