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当事者意識を持って、社会を変えていこう!そんな姿勢を育む、外部との連携・協働を生かした教育活動への挑戦

当事者意識を持って、社会を変えていこう!そんな姿勢を育む、外部との連携・協働を生かした教育活動への挑戦

私は教員としての使命を「生徒が社会に向けて、当事者意識を向けられるようにすること」だと考えています。

私はこれまで、教育やスポーツを通じて社会と関わる中で、社会に対する自分自身の当事者意識の低さに気がつきました。だからこそ、学校現場では「当事者意識を持って社会を変えていこう」「自分の力を発揮していこう」とする姿勢を育むような教育活動に取り組みたいと思うようになりました。

社会に対する当事者意識を育むためには、外部機関や地域と連携・協働し、学校現場に漂う閉塞感を打ち破ることが必要だと考えています。そこで現在私が挑戦している「生徒の自己決定や発信によって当事者意識を育むための取り組み」について、校外学習と外部連携・協働という2つの話題を中心にご紹介したいと思います。

写真:折笠 翔太(おりかさ しょうた)さん
折笠 翔太(おりかさ しょうた)さん
千葉県船橋市公立中学校 教諭 

福島県いわき市出身。幼い頃から野球に明け暮れ、大学卒業後はプロ野球選手を目指して独立リーグに3年間所属。そこで地域貢献や野球教室に携わった経験が、現在の教育に関する考え方の礎となる。2014年から千葉県の公立中学校の教員になり、現在船橋市内の中学校にて学年主任として勤務している。


校外学習の事前・事後学習どうしていますか?

皆さんは、どのように校外学習の「事前学習」や「事後学習」に取り組んでいますか?

私はこれまで、校外学習先での出来事や学びを新聞にまとめる事後学習に取り組むことが多くありました。グループ内で担当を決め、見出しと本文を作成し組み合わせ、簡単な発表会を実施した後は、作った新聞をクラスや廊下に掲示するという方法です。

細かいところまでこだわって上手にまとめている生徒もいるため、初任の頃は「事後学習」として成立していると感じていました。

しかしあるとき、生徒に「事後学習で取り組んだ新聞の中で、どの記事が印象に残ったか?」と質問したところ、誰も答えられませんでした。正直、私自身も「この記事が良かった!」と自信を持って答えられたかというと、そうではありませんでした。

確かに、校外学習先での出来事や学んだことをまとめることも大切です。しかし、それだけに終始して、学んだことを「自分事化し、どう生かすのか」についてまで、学びを深めるサポートができていませんでした。

このままでは、生徒の学びにつながっているとは言えない。
そう考えるようになった私は、より効果的な学び、主体的な学びを生み出すにはどうしたらいいかを考えるようになりました。

さまざまな方からのアドバイスや実施内容を参考に、現在も、新たな事後学習を展開するべく試行錯誤しています。


実際の校外学習の学習計画

以下に紹介するのは、中学1年生で実施した校外学習の学習計画です。

この学習では、校外学習先を千葉県にある水族館「鴨川シーワールド」に定め、SDGsの目標14【海の豊かさを守る】をテーマに実践を進めました。

今回の実践は、【未来の授業「SDGsってなんだろう?」】【EduTown SDGs -わたしたちがつくる未来-】を参考資料にしながら取り組みました。

出典:SDGs未来会議チャンネル【SDGs MIRAI KAIGI Official】

【実践の流れ】
(1)SDGsについて知る
(2)SDGsの中で興味のある目標項目について調べる
(3)校外学習先のスタッフの方に実施したインタビューの内容をまとめる
(4)校外学習先がさらによりよく発展していくために必要なアイデアをグループ内でブレインストーミングする
(5)内容を洗練しスライドにまとめる
(6)クラス内で発表をする
(7)各クラス代表1グループが、校外学習先のスタッフの方に向けてプレゼンテーションをする


次に、この単元を設計する上でのポイントや、生徒の反応を紹介していきます。

◯事前学習のポイント
学習計画の全体像を見通す

効果的な事後学習を展開するために、事前学習の段階から工夫しました。

(1)(2)では教員からのプレゼンで生徒はSDGsについて学びます。
このとき、生徒がインプットの内容を自分事として捉えることができるよう、事後学習の内容がプレゼンテーションであることを先に伝え、実践をスタートしました。

校外学習当日は、実際に訪れた校外学習先の状況についての記録を、メモや写真に残していきます。

◯事後学習のポイント①
校外学習で学んだことや、気づきをシェアする

ここからは、事後学習について紹介します。
事後学習で最初に取り組んだブレインストーミングに関して、生徒に2つのポイントを伝えました。

1つ目は、校外学習先にとって「こんなアイデアを実現するのは無理じゃないか?」と思うような内容だとしても、後に素晴らしいアイデアに発展することもあるため、細かいことは気にせず、どんどんアイデアを出すこと。

2つ目は、出たアイデアに対してはどんな意見であっても否定をしないこと。この2つのポイントについてあらかじめ生徒に伝え、クラス内の心理的安全性が確保された上で実施することを大切にしました。

スライドにまとめる際には、出たアイデアを洗練させていきます。校外学習先のさらなる発展についてアイデアを考えるというテーマを設けたため、生徒が楽しみながら学習に取り組むことができました。

その結果として、生徒たちからは商品開発やイベント企画など、たくさんのアイデアが発案されました。

アイデアを洗練する際に、忘れてはならないのは今回メインテーマとして設定したSDGs【海の豊かさを守ろう】の視点です。

考えたアイデアによって、校外学習先にどのような成長・発展が見込まれるのか?校外学習先がどのように地域や環境問題に貢献できるのか?という視点を盛り込んでいきます。

ここで頭を悩ませる生徒も多く見られますが、活発な話し合いが展開されました。アイデアが固まってきたら、プレゼンテーション作成などの発表準備にうつります。


◯事後学習のポイント②
実社会に向けて、学びを表現するプレゼンテーション

クラス内発表会では、オリジナリティあふれるプレゼンテーションが展開され、大変盛り上がりました。

最終的には、各クラスから1グループが代表として、校外学習先のスタッフの方にプレゼンテーションをすることになっていました。結果として代表に選ばれなかったグループもありましたが、選ばれなかったチームからも「校外学習先に提案をしてみたい」という声が上がりました。

プレゼンテーションはオンライン上で行い、鴨川シーワールドの販売課の方2人に参加していただきました。

外部の方に参加していただくことで、社会と触れ合うことができ、プレゼンテーションをする生徒も、それを聴く生徒も、真剣かつ主体的に取り組める学習内容になりました。

普段から主体性のある生徒たちですが、教員も驚くようなアイデアを考えて、分かりやすくプレゼンテーションをする姿が見られ、これまで以上に生徒の本気度を強く感じた事後学習となりました。

生徒がコミュニケーションやプレゼンテーションの能力を磨いたり、社会や地域、施設がよりよく発展するために必要だと思うことを考え提案することは、先行き不透明な時代だからこそ、生徒が自律的に行動できるようになるために重要な力だと考えています。

今回の取り組みをベースに、2年次はキャリア教育をテーマに、企業の価値を高めるためのプレゼンテーションを実施予定です。

3年次は修学旅行で訪問した地域に向けて、テーマを選択してプレゼンテーションを行いたいと考えています。その発表は、修学旅行で訪れる場所の地域振興課の方に、生徒の考えた内容を聴いていただく予定です。

私自身が経験したことのない領域なので、どのような内容になっていくのか、現在楽しみながら計画を立てています。


外部との連携・協働する2つのメリット

ここまでに紹介した取り組みの他にも、コロナ禍によって実施できなくなった職場体験に代わって、外部機関によるキャリア教育プログラムの実施、部活動における専門家のスポーツメンタルコーチングなどを行いました。

外部機関と連携した取り組みを実施することに、私は2つのメリットを感じています。

1つ目は、生徒が学びを深めることができ、学びや取り組みを自分事として責任を持って考えるようになれる点です。

外部機関と関わることは、実社会と関わることに繋がります。生徒が実社会と繋がることで新たな価値が生まれ、これまで出会ったことのない知識を得ることができます。自分が考えたことが誰かの役に立ったり、社会に影響を与えられる実感が伴うことで、生徒は喜びを覚え自走できるようになっていきます。

外部と連携する学びを展開する際、学年の先生方には、学びの道筋や方向性を示す「ファシリテーター」としての役割を意識していただくようお願いしました。教員が答えを伝える存在ではなく、問いかけベースの関わりによって生徒の思いや考えを引き出していく役割です。

うまくいかないことも多く、生徒の状況に応じて声かけの方法を変えなければならない難しさはありますが、非常にやりがいのある関わり方だと感じています。

教員の意識と関わり方を変えたことにより、その後の生徒の生活にも変化が見られるようになりました。

校外学習後にリーダーシップを発揮してクラスの中心になって活躍する生徒、自分の考えを積極的に共有しようとする生徒が増えたように、私には思えたのです。


2つ目のメリットは、働き方改革につながる点です。

職場体験の代わりとなるプログラムを外部の企業に依頼して取り組み始めてからは、教員による企業への連絡やお礼の手紙の指導などが一切なくなりました。

授業の流れが決められており、動画や教材などの資料も添付されています。生徒用のテキストもあり、学校の実態に応じてアレンジ可能です。私は生徒がハッピーでいるためには、教員がハッピーな状態でいることが重要だと考えています。

肉体的にも精神的にも疲れ切っている状態では生徒とハッピーな関係を作ることは難しいでしょう。

外部機関や地域と連携・協働することで、結果として教員が幸せでいるための余白を生み出すことができたと思っています。決して楽をしようとしているわけではありませんが、任せられるところは任せて、教員が生徒のサポートをすることに集中できる環境が整えば、生徒の幸福度もどんどん増していくのではないでしょうか。


コロナ禍で痛感した無力さをバネに、まずは自分が変わろうと決意

2年前のコロナ禍では学校が突然一斉休校となり、生徒との関わりをほとんど持つことができないという、学校教育や自分自身の無力さに私は愕然としました。

休校が明けてからもさまざまな制限がかかり、制限のために自分の取り組みたいことを何も実施できずにいました。このままではいけない、何か変化していかなければと思い、さまざまなオンラインイベントやコミュニティに参加するようになりました。「先生の学校」もその一つです。

そして自分自身が変わることで、生徒が自ら学びに向かっていけるような学習プログラムをつくることが必要だと考えるようになり、実際に行動に移すことができました。

今後は、生徒が当事者意識を持って世の中の激しい変化に対応し、地域や社会を変えていけるような存在になってほしいと願っています。さらには、社会に対応できるような多様な価値観を持っている学校づくりを続けたいと考えています。

今回紹介した内容を実施することは、そこまで大きな労力を必要としませんでした。校外学習は学年単位の判断である程度計画をたてることができますし、キャリア教育プログラムも管理職や職員会議の中で承認を得られれば、すぐに実施ができます。

若手や中堅の先生方でも提案しやすく、私立・公立に関係なく、「誰でも」「どんな学校でも」実現可能なプログラムだと思います。

ここまで私の実践を紹介しましたが、まだまだ未熟で改善の余地はたくさんあります。皆さんとつながって、この実践に関するご意見やお考えも聴いたりしながら、教員として人として、一緒に成長できたらうれしいです。