【環境活動家・露木志奈さんの環境対談 第4弾】持続可能な社会の実現には、みんながチャレンジできて、応援してもらえる場所が必要
「気候変動の危機について、同世代の中高生にもっと知ってほしい」と、在籍している慶應義塾大学を休学し、2020年10月より講演活動を始めたのが大学生であり環境活動家の露木志奈さんだ。
これまでに1万人以上の小学生から大学生に対して講演活動を行ってきた。
そんな志奈さんが今、語りたい人と語る環境対談の第4弾ゲストは、大分県臼杵市に住む中学3年生(対談当時)の佐藤世壱さんだ。
世壱さんは小学3年生の頃から、間伐材を利用して風呂を焚き、灰を畑の肥料として活用し野菜を育てて食卓に並べるといった、循環を楽しむ暮らしを実践してきた。
志奈さんと世壱さんのそれぞれの活動に対する思い、これからの社会に対する願い、これから挑戦したいこととは!?
大分県臼杵市在住、大分県内の公立高校に通っています。趣味は、マイ畑で野菜作り、海で遊ぶ(フィッシングカヌーで釣り、日本泳法)、森づくり、料理(魚料理・麺づくり)などです。最近は、ユヴァル・ノア・ハラリさんの本を読んでいて、経済や政治、国際などに興味がありまだまだ学びたいことがたくさんあります。好きな言葉は、「利は義の和なり」という言葉で、これは企業や会社、政治にどれも当てはまると思います。時代が刻々と変化していく中で特にこれから人類はどのような道をたどっていくのかを考えることにはまっています。
循環型の「8の字の暮らし」
世壱さんは大分県臼杵市で循環型の暮らしをされていると伺いました。それはどのような生活ですか?
我が家では循環型の暮らしを「8の字の暮らし」と呼んでいるのですが、魚を釣って、食べて、肥料にして畑に戻したり、間伐材を利用して風呂を焚き、灰を畑の肥料として活用し野菜を育てて食卓に並べるといった生活を実践しています。
ある意味不自由にも感じられるかもしれない暮らしを楽しんでいます。
今の時代はすぐに何でも捨てて買換えることができますが、本来は僕たちも含め自然は循環して成り立っています。
中学校の生徒会長として、学校林の問題にも取り組んでいると聞きました。
学校林というのは、70年前の先輩が次世代のために植林をした豊かな森のことなんですが、今は放ったらかしで手入れが必要な状態にあると地域の方から聞いて、何とかしたいと考えるようになりました。
「学校からSDGsに取り組み、持続可能な社会を目指したい!」と校長先生に直訴したのですが、学校の先生や生徒の多くがSDGsを知らない、という課題に直面しました。
そこで、知ってもらうためには何が起きているのかを実際に見て体験してもらうことが必要だと考え、学校が所有する学校林にみんなを連れて行き、状況を見てもらい、説明をしました。
その結果、現在は「100年の森プロジェクト」が立ち上がり、当初は誰も知らなかったSDGsを全校の仲間が理解し、活動を楽しもうとしてくれています。
学校林の問題は地域の方から話を聞いたということですが、日頃から地域の方との交流があるのでしょうか?
そうですね。先日は漁師の方にお話を伺う機会があり、地球温暖化や乱獲のせいで、魚が減っていることを知りました。
そのお話を聞いて、乱獲するのも漁師だけど、生きるために乱獲をするしかない漁師さんがいる。そうなったら、気候変動の問題に取り組みつつも、漁師の仕事のサポートをすることが、環境面にもつながっていくのではないかと思いました。
いつも地域の方に新しい視点をいただいています。
すごい気づきですね。
私も世壱さんと同じようなことを、アメリカの畜産業の側面から感じています。
アメリカでは畜産業が大きな力を持っています。その一方で最近は、大豆ミートなどお肉の代用品になるものが出てきていますよね。最近は代用肉の需要が高まってきているようで、そうすると必然的にお肉を生産している畜産業を圧迫していきます。
だから、畜産業の人たちが代用肉を販売している会社に株を売ったりしていることもあるそうです。対立するのではなく、お互いに生き延びる方法を探しているといった形でしょうか。
乱獲にしても畜産業にしても、何かを変換させていくことは、マイナスのダメージを伴うということですね。
マイナスのダメージをフォローする取り組みやシステムも大事になってきますね。
そうですね。環境に良くて、やった方がいいと言われていることでも、その裏で仕事がなくなったりする人もいるんですよね。
仕事がなくなっていく代わりにどんな仕事を生み出したらいいのか、仕事がなくなっていくにしてもみんなが変化に対応していけるように緩やかに変化させていくことが大事だと思います。
経済においても循環が大事
僕も経済と自然の関係について、難しさを感じています。志奈さんは、経済と気候変動について、どんなお考えをお持ちですか?
私は、経済においても循環が大事だと思っています。お金も含めて、誰かが流れを止めないことです。
例えば、誰かが大きな利権を持っていて、その下にいる人たちにお金が流れない。その結果として起きることが、貧困です。「お金の流れを作る」のは、「社会をうまく循環させる」と言い換えられます。
世壱さんの営む暮らしのように「魚を釣って、骨などを肥料にして野菜を作る」循環を、社会の規模でも起こすことが理想だと思っています。
先日、環境活動家の谷口たかひささんのお話を聞く機会があり、ある地域内でだけ使われる仮想通貨のお話が紹介されていました。
地球上にあるほとんどのものは、時が経つと価値が下がるのが一般的ですよね。でも唯一価値が下がらないのが「お金」。
価値が下がらないからこそお金がとても大事にされて、お金のために生きていこうとする人がたくさんいるのが、今の社会だと思うんです。
でも、谷口さんのお話の中で登場した地域の仮想通貨は、時間と共に価値が変わっていきます。お金の価値が日々変化すると、「お金を今、使いたい」と思うようになります。
お金を使う人が増えることで、経済が回るスピードが通常の3倍の速さになるそうです。その地域の方々は、お金よりも食事を大事にするんだそうです。
食事こそ、命に直接関わるものですもんね。そのためか、その地域では農作業に従事する人がとても多いとのことでした。
ここまで聞くと、世壱さんが最初に話をしてくださった「8の字の暮らし」にとても似ていると思いませんか?
本当ですね!持続可能な社会というのは、循環だと改めて思いました。
循環は、本来自然が普通にやっていることです。自然の中に人間がいて、人間もその循環の中にいるのだと感じています。
私が高校生活を過ごしたバリのグリーンスクールでも、自然の中のものをとって食べて、排泄物が肥料になっていく生活に取り組んでいました。人間も普通に生きているだけで循環の一部なんですよね。
しかし現代は、例え循環していたとしても、いくつもの過程が間に入っています。
例えば、食料品の流通が顕著ですが、自分のところに食べ物が届くまでに、多くの人の手を介します。だから、根本的に「循環している」ということに目が向きにくくなっているのが現状です。
グリーンスクールは本当にうんちとおしっこを畑に撒いていますからね(笑)。微生物が仕事をしてくれて、水を使わないのに肥料になっていくんです。
みんながチャレンジできて、応援してもらえる場所が必要
世壱さんは、今後どのような社会を創っていきたいと考えていますか?
僕の場合田舎で暮らしていることから、地域の人からたくさん応援してもらっていることを強く感じます。
地域の方が応援してくれると、自分たちが考えていることをチャレンジする場を整えてもらいやすくなります。僕の挑戦を応援してくれる地域の皆さんに、とても感謝しています。
このことからも、みんなのチャレンジが応援される学校や社会になっていけば、もっとさまざまないいアイデアが生まれるのではないかと思います。
持続可能な社会のために、みんながチャレンジできて、応援してもらえる場所が必要だと思います。
世壱さんにとって、「学ぶ」ことと「アクションを起こす」ことはセットになっていることが伝わってきました。
私の講演では、みんながすぐにできるアクションも紹介しています。環境は大事だと学んでくれたことはうれしいのですが、アクションもセットで考えてもらえると、さらにうれしいです。
環境に対するアクションって、すぐに効果が見えにくいから、「やって意味があるのか」と思われることもあるんですよね。
新しい挑戦を、引いた目ではなく、応援してもらえることが本当に大事だと改めて感じました。
学んだことを軸にアクションを起こすことは、「明治維新」にも似ていると思いました。
高杉晋作も渋沢栄一も伊藤博文も、海外に行っていろいろなことを体験して自分の目で見て学んできています。そこから彼らは、日本でできることを考え、彼らなりのアクションが生まれたのだと思います。
学びからアクションへと変化する中で、教えてもらったこと以外に、自分の中で芽生えた新しい気持ちがアクションに組み込まれていきます。自分の中で芽生えた気持ちを例であげるならば、自分の志や、自分の中の価値基準などです。
「学び」と「志」が掛け合わさることで、その人なりのアクションが生まれてくるように感じます。
学んできたことに加えて、自分の周りの状況を掛け合わせることで、新しいアイデアが生まれるということですよね。
私自身は、自分の創造性をどんどん行動に移せる場で学ばせてもらった背景もあり、0から1を生み出すことが好きです。自分の特徴を理解して、学んだことを生かしてアクションを考えられる社会になるといいですよね。
世壱さんの友達には、環境に興味のある人はいますか?
興味を持ってくれる友達はいますが、アクションを起こしづらいと感じている人がいるのが現状です。
そこから推察すると、人が学んでから行動に移すまでには、いくつかの段階がある気がしています。しかし、行動すればするほど、小さな成功が積み重なっていきますし、小さな行動に刺激を受けてくれる人が現れてくると気づきました。
私も講演を重ねる中で、話を聞いて行動に起こしてくれる人にもいくつかのパターンがあると気づきました。
1つ目は、講演を聞いて「このままではまずいな」と思って行動してくれる人
2つ目は、講演を聞いて、「楽しそう」と思って行動してくれる人
3つ目は、別に環境のことは興味がないけれど、「この人すごいな」と思って行動してくれる人
私は、どんなアクションも大事だと感じています。
僕は今の話を聞いていて、楽しそうに行動している人は、他の人も巻き込みやすいように感じています。
中学生にとっては、「このままではまずい」という、危機感を煽るような言説は、理解や行動に移すことを遠ざけるようです。
最終ゴールは、「環境活動家をなくすこと」
私がやりたいと思っているのは、「学校で使っているエネルギーを持続可能なエネルギーにすること」です。
私が休学している大学で、学校で使っているエネルギーを持続可能なものにするプロジェクトに取り組んでいる学生がいます。大学のキャンパスのエネルギーを持続可能なものにすることが目標で、私も仲間に入りたいと考えています。
私が講演活動に取り組んでいるゴールを考えたときに、もちろん小さなアクションはすごく大事ですが、それだけでは地球を守れる時間に限界があるのも事実です。
大きなアクションにつながることとして、2つ考えています。
1つ目は、学校で講演をさせてもらえているのだから、生徒さんの学びを講演後もフォローできる仕組みを作ることです。講演から生まれた生徒との個々のつながりと、学校という大きな組織とのつながりも大切にしたいです。
2つ目に考えていることは、学校に持続可能なエネルギーを導入する取り組みです。これができたら大きなアクションができた、と言えそうですよね。
まずは大学で取り組むことができれば、1つ成功例ができて後に続く学校が増えるのではないかと期待をしています。
志奈さんの考えで素敵だと思った点は、さまざまな人と力を合わせて取り組むことがねらいになっている点です。
志奈さんの目指す最終的なゴールは、1人ではたどり着けない目標ですよね。
持続可能なエネルギー100%にすることがゴールであるよりも、持続可能な社会になるために、いろいろな人の力を借りることが大切だと気がつきました。
学校が持続可能な社会に向かって行動することで、地域にも影響が出そうな気がします。
みんなを巻き込むって大事ですよね!
講演会も、みんなを巻き込むことの一貫だと思います。その傍らで私は、講演会の究極のゴールとは何かをずっと考えています。
今のところの最終ゴールは、「環境活動家をなくすこと」だと捉えています。
具体的にいうと、「2050年までに、地球の気候変動による温度上昇を1.5度以下に抑える」ということです。このことが、環境活動家をなくすことにつながると思います。
講演会でただ話を届けるだけでは、なかなか社会は変わっていかないです。
そのために改めて、
1)私の話を聞いて行動を起こしてくれた人のアクションを支えること
2)学校で使われるエネルギーを持続可能なものに変えていくこと
に取り組みたいと考えています。
持続可能を実現するためには、「交流」が多い方がいいと感じています。
立命館アジア太平洋大学の出口先生のお話をテレビで聞いたときに、教育において大事なことは「人が人の間で生きていることを実感すること」だとおっしゃっていたのが印象的です。
実際に、志奈さんも幼い頃の教育経験や、グリーンスクールでの実体験を元に今のご自身があるのではないかと推測すると、自然と人との循環、人と人との出会いから社会が変わると実感されているのではないでしょうか。
その通りだと思います。グリーンスクールに留学したことで、現在もグリーンスクールの卒業生たちとつながりがあり、オンラインで話をしています。
グリーンスクールを卒業して1年以上が経ち、以前グリーンスクールで学んだマインドが薄れたと感じるときがあります。
しかし、グリーンスクール時代の同級生と話をすることで、昔の自分の感覚を取り戻すことができるんですよね。
志奈さんが、グリーンスクールの卒業生と現在も交流があることを考えると、講演会の役割って気候変動について教えるだけではないと感じました。
講演会は、人と人とが交流する場にもなりうるということですよね。
今まで私が気候変動団体に入っていたときは、中高生のような子どもではなく、政府の周辺にいる大人に自分たちの考えを伝えることが多かったんです。
しかし、大人と話をしてもなかなかすぐに行動にうつしてもらえず、もどかしさを感じていました。「大人は対話をたくさん繰り返さないと変わってもらえない」ということを学びました。
多くの大人とのやりとりから、やっぱり私の活動は、考えや行動を柔軟に変えていける同世代の人たちに伝えて、「よりスピード感を持って社会を変えようとする大人に成長してもらいたい」と考えるようになりました。
僕の好きな言葉で、「利は義の和なり」という言葉があります。
利益は自分のものさしや志の行動の先にあるという意味です。利益を追い求めるのではなく、本質を追い求めることがおもしろいことだし長期的な効果もあるという考え方が、社会で一般的になってほしいと思います。
これがSustainableな価値観だと思います。
今まさに、時代の転換点にきているような気がしますね。
僕は自分たち人間のことをたんぽぽだと思っています。土の元で成長して、花を咲かせて種を作って飛んでいく。その飛んでいく先は人それぞれだけど、最終的には次の世代に繋がっていくものになるといいなと思いました。
〈取材・文=先生の学校編集部/写真=竹花 康〉