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【環境活動家・露木志奈さんの環境対談 第2弾】ハチドリのひとしずく精神が、より良い社会づくりに欠かせない

【環境活動家・露木志奈さんの環境対談 第2弾】ハチドリのひとしずく精神が、より良い社会づくりに欠かせない

「気候変動の危機について、同世代の中高生にもっと知ってほしい」と、在籍している慶應義塾大学を休学し、2020年10月より講演活動を始めたのが大学生であり環境活動家の露木志奈さんだ。

これまでに1万人以上の小学生から大学生に対して講演活動を行ってきた。

そんな志奈さんが今、語りたい人と語る環境対談の第2弾ゲストは、株式会社ボーダレス・ジャパン代表の田口一成さん。

ソーシャルビジネスしかやらない会社ボーダレス・ジャパンを創業し、これまでに世界9ヵ国で40の事業を展開。最近では地球に優しいCO2ゼロの自然エネルギーを届ける「ハチドリ電力」が話題となっている。

社会問題をビジネスで解決し続ける田口さんと志奈さんのそれぞれの活動に対する思い、これからの社会に対する願い、これから挑戦したいこととは!?

写真:田口 一成 (たぐち かずなり)
田口 一成 (たぐち かずなり)
株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役社長

1980年生まれ。福岡県出身。大学2年時に発展途上国で栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意。株式会社ミスミに入社後25歳で独立し、ソーシャルビジネスしかやらない会社ボーダレス・ジャパンを創業。2021年5月現在、世界9ヵ国で40の事業を展開している。2018年10月には、社会起業家の数だけ社会課題が解決されるという考えのもと、社会起業家養成所「ボーダレスアカデミー」を開校。社会起業家のプラットフォーム拡大を通して1,000の事業を生み出し、社会を変えることを目指している。


ビジネスは、そもそも「良い社会づくりのためのもの」

田口さん、本日はよろしくお願いします。
さっそくですが、まずはこの質問から始めたいと思います。

環境のためにできることっていろいろな方法があると思うのですが、なぜボーダレス・ジャパンは「ビジネス」を通して解決していくことに決めたのか、理由を伺えますでしょうか?

講演会をしてる中でも、高校生や大学生からは「環境活動家って、どうやって生計を立てているんですか?」という質問をいただきます。環境のために何かをしていきたいけどお金がないと生きていけないから、自分は今後どうしていけばいいんですかといった内容です。

ボーダレス・ジャパンさんは最先端を走っていると思っているので、ぜひお話を伺いたいです。

なるほど、分かりました。

まずボーダレス・ジャパンがなぜビジネスという手段を使っているかですが、僕はビジネスというのは本質的には生活者に対して、より良い生活の手段や選択肢を作っていくことだと思っています。

特に僕らは、社会問題をビジネスで解決すると謳っていますが、より良い社会を作りたい人の選択肢を提示していくことが僕らの役割だと思っています。

まさに「ハチドリ電力」は今までにない選択肢ですよね。

そうだね、ハチドリ電力はCO2増加による地球温暖化を解決するために始めた電気サービスです。

環境問題においてCO2を削減しないといけない中で、CO2排出量ゼロの自然エネルギーという選択肢を提示するプレイヤーが出てくることが必要だと思い、始めました。

僕は事業づくりが得意なこともあり、自分の役割分担として事業側からいい選択肢を増やしていくことに取り組んでいます。

例えば、環境問題しかり、せっかく問題に気づいても、気づいた後にとれる選択肢がないと状況が変わらないので、多くの選択肢を作っていきたいと思っています。

僕は志奈さんのように人を惹きつけるような発信力はないし、苦手なので、その代わりに事業を通して選択肢を作って貢献できたらと思ってビジネスに取り組んでいます。

自分ができることをして働いて、その対価としてお金をもらうだけでなく、世の中にも貢献できるというのは、働く人にとってもいいことのように思います。

これからはそういうビジネスのあり方が増えてくると思いますよ。

これまでは盲目的に経済成長を追いかけてきたし、働けば働くほど給料も上がった時代があったけれど、例えば日本国内で行くと人口減少もあり、それはお客さんが減ることを意味しているので、ビジネスとしてうなぎ登りに売り上げや利益が伸ばしていくことは難しい。

そうすると、ただ儲けるために仕事に取り組むには限界があって、そのときに「何のために働いているんだろう?」と改めてみんな冷静に考えると、人のためになることをやろうとか、社会のためになることをやろうという、そういったステージにきている気がしています。

今の若い人は、特にそういった感覚が強いように思います。

仕事は、お金を得る手段という側面ももちろんあるのだけど、もう半分はやはり社会づくりに参加しているというか、社会をつくるために働いているという実感を伴う時代がやってくるし、やってこないとみんなが幸せではなくなってしまう。

だからこそ、より良い社会づくりのための会社が増えていくといいなぁ。

ビジネスは、そもそも「良い社会づくりのためのもの」という風に、ビジネスの概念自体が変わっていくと思います。


経営者が一番身につけないといけないのは「教養」

世の中にある問題を解決するために、新しいサービスが生まれたり、商品が生まれたりというのは現在もあると思います。

ですが、結局環境に配慮できていなかったり、逆に問題を増やしてしまう会社も結構あると思っていて、そのあたりのバランスの取り方が難しいなと思ってます。

もう、その通り。

だから、組織の意思決定を担う経営者が一番身につけないといけないのはやっぱり「教養」だと思うんですよね。

ほとんどの人が「ちゃんと知らない」故に、そういうミスを犯していることが多いんじゃないかなって。

ミスを犯したのを気づいた後も修正しないでいるのは、ちょっと人間性の問題だと思うけど。ただ、大きな会社になると人間性を超えて何か別の力学で方向転換ができないこともあるかもしれない。

でも僕は、経営者や経営陣が、ちゃんとした正しい知識を身につけていくことで、やり方がどんどん是正されていくと思いますね。

矛盾ですよね。矛盾がいっぱい。

例えば、僕も環境負荷をできる限りかけないようにしたくて、100%リサイクル素材の物ということで、パタゴニアの洋服を選んで着ているんだけど、オーガニックコットンにしたって、リサイクルにしたって、そこにはエネルギーコストがかかっている以上、環境に負荷はかかっているんですよね。

だから究極的なことを言うと、環境のことを考えると服は作らない方がいいし、買わない方がいい。

やはりすごく大きな矛盾の中に生きてるからこそ、「じゃあ、どうしたらいいんだろう」というところを、僕も常に考えています。

「矛盾を少しずつなくしていく作業に知恵をどう出していけるか」というところをみんなやっていて、そういう意味で「サーキュラーエコノミー」という良い言葉が出てきてる。

循環していくというのが一つのゴールとして提示されているコンセプトで、ある意味正解の方向性は指し示されたかなあって思っているので、みんなが循環するために自分たちの事業をどうしたらいいのか考えていくことがきれば、この矛盾を一つ解決していく方向性につながるのではないかと考えてますね。

日本全体のCO2排出量の約40%を発電が占めている

先ほども話のあった「ハチドリ電力」という電力事業を始めた理由もお伺いできますか?

これはもう志奈さんがよく知っているとおり、地球温暖化はCO2が関連していて、CO2排出をどう抑制していくのかが重要なミッションですよね。

「社会が今、本当に変わらないと駄目だ」と思っているので、そういった意味でこのCO2削減に一番大きいインパクトって何なんだろうか?とずっと考えてきたんですね。そこで出た答えが「電気」でした。

日本全体のCO2排出量の割合として発電が約40%を占めていて、その理由は、火力発電が8割という日本の状況がそうさせているんですよね。でも逆にいうと、発電を自然エネルギーという再生可能エネルギーに変えていくことにより、CO2を約4割カットできる。

これはとてつもなく大きなインパクトになるなと思ったんです。それが今は技術的にも可能になってきているので、選択肢を作るタイミングだと思って始めました。

私の講演の中でも、すぐにできるアクションの一つとして、紹介させてもらっています。

ありがとうございます!
これのいいところは、みんながすぐ参加できるっていうところなので、地球温暖化のことを知って「自分には何ができるんだろう?」と思ったときに、実は日々の電気を変えることで地球温暖化の抑制に貢献できることを知ってもらいたいです。

正確にお伝えすると、今の電気のままだと「火力発電を使う側」にいるので、地球温暖化の加速に加担してしまっている。

だから少なくともその加担からは外れることができるし、ハチドリ電力は自然エネルギー100%にすることでCO2排出に加担しないだけでなくて、電気代の1%で新たに再生可能エネルギーの発電所を増やしていく仕組みになっています。

ハチドリ電力を使うことで、「実際に自然エネルギーの割合を増やしていく活動に参加できる」ということです。

ハチドリ電力は、さらに電気料金の1%を応援したい社会活動に取り組まれている方に寄付できる仕組みもありますよね。

そう、ハチドリ電力は環境問題を解決するために立ち上げた事業だけど、貧困問題であったり、動物愛護など他の分野の問題にも広く皆さんに関心を持ってもらいたいし、何かの形でそこにも寄与する、貢献できる機会を作りたいと思っています。

ハチドリ電力は、電気代の1%は新たな発電所を作るところに行くんだけど、別のもう1%は、自分が応援したい社会活動をやってる人を応援できるという仕組みを作っています。

志奈さんの活動もハチドリ電力で応援できるようになっていますので、ぜひ


ビジネスという手段を使う社会活動家が「社会起業家」

お話を聞いていて、ただお金を儲けるだけではなくて、そのお金をどう使っていくのかが、会社としては大事になってきますね。

すごく大切。その通りだと思います。

基本的に資本主義というのは、資本家(=お金を持ってる人)が資本金を出して、商売をして出た利益を配当という形で資本家に戻していく仕組みなので、どうしてもどんどん稼げという世界を作ってしまう。

そこでボーダレス・ジャパンでは、お金を出した人に過剰にお金が戻っていく仕組みではなくて、生まれたお金を次の新たな社会的な活動への挑戦に回すようにしています。

だからハチドリ電力も黒字化したら全て再生可能エネルギーの発電の投資に使います。

すごいですね。

それがつまり、「何のために仕事をやってるか」という話で。

儲けるためにやるなら、もっと別のやり方が当然あるけど、「こういう社会を作りたいなぁ」という理想社会に向けて活動しようとすると、儲かりづらくても思いを優先して取り組む、それが僕らのソーシャルビジネスの特徴な気がします。

だから僕たちは社会起業家ではなくて、本質的には社会活動家で、「ビジネスという手段を使う社会活動家」が「社会起業家」の定義だと思っています。

だからビジネスは手段であって目的ではない。ビジネスという手段がすごく寄与するフィールドにおいては、ビジネスという手段を使って取り組む。でも、あくまでも社会活動家なんだという考え方やスタンスを忘れず大切にしていますね。

講演をさせてもらって感じるのは、ビジネスは手段であり、環境問題の解決にもなるということが、学生にあんまり浸透してない部分です。

環境のために何かしようとすると、お金がうまく回らないので、持続可能に活動ができないと思ってる人がたくさんいる印象です。

だから講演の中で、ビジネスを手段として環境問題の解決に取り組んでいる企業もあることをお伝えしていますが、「え、そんな会社があるんですか?」という反応が多いです。

御社を含めて、そういう会社の存在が広がっていくといいなぁと思うし、そもそも知ってもらえるような活動をしたいなと思いました。

志奈さんが大学を休学して、こうやって活動をされていて、2021年は環境元年じゃないけど、みんながWake upする年になるかなと思っています。

しっかり気づいた上で立ち上がってアクションに向かう年になりそうな気配があるんじゃないかな。

個人で取り組めることもたくさんあって、生ごみを捨てないとか、無駄に服を購入せずリユースのものを購入するとか。抑制的な生活ではなくて、無理せず自然にできることって結構たくさんあるので、それを習慣化させていきたいですよね。


ちゃんと事実を知ったら、変わる人は一定数いる

私も一人ひとりができるアクションをいくつか提示させてもらっているのですが、先日講演したときに「ストライキってどれくらいの効果があるんですか?」とか、「一人ひとりのアクションって、やって意味があるんですか?」いう質問をもらったんですね。

例えばストローを1本使わないことが、どれくらい環境にインパクトを与えるのかと言ったら、小さなインパクトかもしれない。でも、意識が変わっていくことが大事だと思っていることを伝えさせてもらっています。

ただ、ストライキに関する質問にはうまく答えられなくて。生活者がみんなで集まって声を上げて、それが本当に世の中に対してのどれぐらいのインパクトがあるのかは、なかなか数字としてはうまく表せないじゃないですか。集まった人数は表せるけど、じゃあ、その効果って何なの?と聞かれると、分からないところはあって。

それについて田口さんはどう思われますか?

なるほどね。それはすごくいい質問だよね。
僕は目に見える効果と、目に見えない効果があると思っていて。

例えば、志奈さんはグレタさんと会ったと思うんだけど、グレタさんのストライキの数がすごかったとか、そういうことじゃなくて、アクションをしたという事象が世界中に伝わった部分ってすごく大きいよね。

それって、恐らくインパクトがどうとかではなく、すごく素直に心から訴えたいことがあるからやったということだよね。それはやはり情熱の伝播であり、すごく大切なこと。

世界中にばーっと波紋のように広がっていったのは、まさにグレタさんの現象を見ても分かるように、ある行為が具体的にどう直接的な1+1=2のような形になるのかは分からないけど、まさに一つの事象として伝わっていくことがある一例だと思います。

だから、僕らは事業をやっていても、いつもそういう風に考えているよね。

もちろんインパクトを大前提に事業は組むけれど、インパクトがない、薄いからといってやらなくて良いことばかりではないというか。

たとえインパクトが薄くても、やらないといけないことが絶対あるなと思えば、ちゃんとそこには力を入れてやるという話です。

そうなんですよね。大切な気づきをいただきました。

やはり大切なことは「意識変容」だと思う。それが文明のアップデートだと思ってるので。事象が起こる渦は人の意識の変化だと思うから。それをいろんな角度から攻めていくっていう感じです。

みんな知らないだけで、ちゃんと事実を知ったら、変わる人は一定数はいると信じてるし、僕も志奈さんも、そういった意味では環境にはすごく意識高いと思うんだけど、他の社会問題に関して言えば、アクションできていないこともたくさんある。

それはなぜかというと、その問題についてきちんと知らないからで、みんなが常々そういう部分があるのかなとも思っています。

だから気づきをちゃんと与えていくっていうのが一番大切なことだし、そういうことに取り組む志奈さんのような環境活動家と呼ばれる人たちに感謝の気持ちがあるし、何か全力で後支えをしたいと思っています。

そう言っていただけて、とてもうれしいです。


大きく変わった状態の中身は、ハチドリのひとしずくの集まり

さっきの志奈さんに対する質問、「ストライキやって意味があるのか?」という質問に関連するんだけど、志奈さんは「ハチドリのひとしずく」の話は知ってますか?

はい、知っています。赤い本ですよね。

僕は、あの話がとても好きで。ちょっと紹介します。

森が燃えていました
森の生きものたちは われ先にと逃げていきました
でもクリキンディという名の
ハチドリだけは いったりきたり
口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは
火の上に落としていきます
動物たちがそれを見て
「そんなことをして いったい何になるんだ」
といって笑います
クリキンディはこう答えました
「私は、私にできることをしているだけ」

出典:「ハチドリのひとしずく」 辻 信一監修 光文社刊 2005年

僕は、「自分は何をやったらいいのだろうか」とか、「自分が何かしたことによって本当に世界が変わるのだろうか」と思う、そういう人たちに、「大切なことはまさにハチドリのひとしずくなんだよ」と伝えたい。

ハチドリのひとしずく精神でやることしかないんだよ、と常々思っています。

僕もいろんな社会的課題が少しでも解決できたらいいなと思っていろんな事業を立ち上げる。でもそれが成功したら社会問題が全部解決されるとかというと、そうではない。

そういうことって世の中に一個もないんだけども、今自分にできることをできる範囲の中でみんなが確実に、その範囲のものだけは着実に解決していくということをやり続けた集合体が、たぶん大きく変わった状態であり、その中身を見ると全部、ハチドリのひとしずくの集まりだと思っているんですよね。

ハチドリ電力の名称も、この話が由来ですか?

そうですね。著者である辻さんに許可をいただいて、僕はハチドリのひとしずく精神で地球温暖化解決しなきゃと思っているので、「ハチドリ電力」という名前をつけたいと思っていますと伝えました。

薬みたいに何でも効くようなものってやはりなかなか世の中にはないけど、みんなのアクションが集まって変化が生まれますというのは、小学生でも伝わる内容ですよね。

この精神は、僕はいろんな意味で大切だと思っています。

「どうせ自分なんて」とか、「何で自分はできないんだろう」とか思ってしまうことは誰にでもあると思うんです。でも、「いいんだよ。ハチドリのひとしずくなんだよ」って。

「何でできないんだろう」ではななくて、あなたが今の実力でできることをやればいいんだよ、今の状態からできる一手を繰り出すだけでいいんだよって。

これは環境活動に限らず、子どもたちが大きくなって何かあったときにも背中を押してくれる物語の一つだと思っています。


〈取材・文=先生の学校編集部/写真=本人提供〉