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大切なのは「制度」よりも「人がどう関わるか」。前身フリースクールから27年、星槎中学校が貫く「1対1の関わりが26通りある」教育

大切なのは「制度」よりも「人がどう関わるか」。前身フリースクールから27年、星槎中学校が貫く「1対1の関わりが26通りある」教育

神奈川県の私立・星槎中学校は、2005年の開校と同時に文部科学省から「不登校児童生徒の自立支援を目的とする学校」として指定を受け、制度の黎明期から現在の「学びの多様化学校」の役割を担ってきた。

そのルーツは、1991年に不登校や学習障害を抱える子どもたちの居場所として始まったフリースクールにあり、「人を認める・人を排除しない・仲間を作る」という創設者の思いを、今は「共感理解教育」として30年以上受け継いできた。

さまざまな困難を抱える生徒に対し、個別指導計画や日々の振り返り、教職員同士の密な連携を通じて寄り添っている同校の実践からは、「学びの多様化」という言葉にとどまらない、一人ひとりに合わせた学びの環境づくりの本質が見えてくる。副校長・佐藤由加子さんに、その具体的な取り組みを聞いた。

写真:佐藤 由加子(さとう ゆかこ)さん
佐藤 由加子(さとう ゆかこ)さん
星槎中学校 副校長

星槎中学校の前身であるフリースクール時代から、25年以上にわたり星槎中学校の教育に携わる。少人数のフリースクールから「宮澤学園中等部 横浜校」を経て現在の星槎中学校に至るまで、学校の成長を支え続けてきた。個別指導計画「ステラプラン」についても、紙ベースの時代からシステム化された現在に至るまで一貫して担い、現場での実践をリードしている。現在も副校長として教育の最前線に立ち、一人ひとりの生徒に寄り添い続けている。


「1クラス26人を見る」のではなく、「1対1が26通りある」関わり方


本当にさまざまな背景を持つ生徒がいます。例えば「通常の公立中学校では集団が大きすぎて見てもらえない」「勉強が難しすぎて不登校になってしまった」「読み書きなど学習特性の困難がある」など、それぞれに異なる困りごとを抱えています。

当校は神奈川県の私立中学校として入試があり、倍率は2倍程度。残念ながらお断りせざるを得ない場合もあり、その際は星槎グループ内のフリースクールをご案内することもあります。


私たちがよく言うのは、「担任と副担任で1クラス26人を見る」のではなく、「1対1が26通りある」ということです。これは私が星槎グループに入職した当時から、創設者である故・宮澤名誉会長に「1人で20人見るのではなく、20通りの1対1の関わりがあるのだ」と言われ続けてきました。だから一人ひとり、やり方は違って当然なんです。

もちろん、クラスは集団ですから、その子だけに関わっていては他のトラブルに対応できません。常に視野を広く持ち、「それぞれに合った関わり方がある」という意識を忘れないようにしています。また、同じクラスの中に毎日休んでいる子がいても、「今日はこの子はお休み」と必ずクラスに伝えます。そうすることで「その子もクラスの一員なんだ」という意識を、クラスみんなで共有できるようにしています。


「苦手」も「得意」も目標に。個別指導計画が育む自己肯定感


はい。本校の指導の根幹となるのが、生徒一人ひとりの個別指導計画(Individualized Education Program:IEP)です。

IEPでは、生活面・学習面・対人面を含め、その生徒に今必要な課題を目標として設定します。作成に当たっては、全職員がさまざまな角度から生徒の行動を観察し、入学時に受けていただく心理検査の結果や保護者の意見も取り入れながら、個々に合った、取り組みやすい目標を立てていきます。

また、教員は生徒が目標に向かいやすいように環境づくりを工夫します。例えば、心理検査で視覚性優位と分かった場合には、「視覚支援カード」や「約束カード」といったオリジナルのツールを活用し、その子に最も効果的と思われる支援を行います。

そして、毎日6時間目に設けている「個別学習の時間」では、生徒が担任と1対1で一日の学校生活を振り返ります。この振り返りの積み重ねこそが、翌日の学校生活につながる最も大切な時間だと考えています。


私が担任をしていた頃は、1クラス15人程度だったので、毎日対面で一人ひとりと話をしていました。現在は「ステラプラン」というシステムを導入し、生徒が振り返りをするとすぐに担任に届く仕組みになっています。

便利にはなりましたが、大切なのは「入力して終わり」ではなく、そこから先生がどう関わるか。生徒が「今日はあまりできなかった」と入力していれば、「今日、この子とは必ず話そう」と考えて呼ぶようにしています。毎日全員と面談するのは難しくても、システムを通じて必ず振り返りはできている。その上で対面での関わりをどう生み出すかがポイントなんです。だからこそ先生方には、「システムだけで終わらないでね」と常に伝えています。


例えば、悪気はないのに友達が嫌がる声掛けをしてしまうAさんのケースです。教員が日頃の様子を観察すると、「余計なひと言が多く、相手が嫌がることをつい言ってしまうためトラブルにつながりやすい」「本人はなぜ相手が嫌がるのか理解できず、逆に『なぜ自分ばかりがトラブルになるのか』と不満を漏らしている」といった課題が見えてきました。そこで保護者面談での意見も踏まえ、Aさんの目標を「相手の嫌がることを言わない」と設定しました。

次に、その目標に向けてどのような支援を行ったかというと、心理検査の結果、Aさんは「見て得た情報」の理解が得意で、逆に「聞いて得た情報」の理解は苦手なタイプだったため、イラスト付きの「視覚支援カード」や「約束カード」を使って支援することにしました。

具体的には、登校時にカードを5枚わたしておき、学校生活の中で目標から逸れる行動をした場合にカードを1枚回収します。そして一日の終わりに、残っているカードの枚数をもとに担任と一緒に学校生活を振り返る、という方法です。


「視覚支援カード」は、生徒が学校生活をスムーズに送れるように、意思表示をしやすくするためのツールで、「約束カード」はその子に合わせて守ってほしいルールを具体的に書いたものです。例えば「唐突に話しかけない」という課題がある子には、

①唐突に話しかけず、「ちょっといいですか?」と伝えてから話す
②先生に指名されてから発表する
③気になることは先生に相談する


といった約束をカードに記します。

カードは青・緑・黄・橙・赤と色分けされていて、できなかった場合があると青色から順番に回収され、最後に赤色のカードが残る。色の変化によって、「カードがなくなる=注意が必要だ」と視覚的に理解できるのが特徴です。

カードのアイデアは担任が出し合い、「そのカード、この子にも合いそうだね」と学年全体で共有して活用しています。


当初はカードを回収される場面も多かったのですが、都度「どの言葉が相手を嫌な気持ちにさせたのか」を確認していく中で徐々に気をつけられるようになりました。個別学習の時間にやさしい声の掛け方を担任と一緒に練習したことで、実際にやさしい声掛けができる場面も増え、トラブルも減って落ち着いた学校生活を送れるようになっています。


目標を「今できないこと」や「苦手なこと」だけに設定してしまうと、どうしてもマイナス面ばかりに注目することになり、生徒のやる気を削いでしまいます。そこで、苦手なことだけでなく得意なことも目標に含めるようにしています。そうすることで、必ずどこかに二重丸をつけられるようになるんです。

例えば「係活動で得意なことを発揮しよう」「得意なことをみんなの前で発表しよう」といった目標を立てると、その子の強みを自然にクラス全体に生かす機会が生まれます。

生徒には誰でも苦手なことと得意なことがあります。苦手なことは毎日コツコツとチェックして「今日は頑張れた」と実感できるようにする。一方で得意なことも目標に含めて、自信を持てる場面を増やす。その両方のバランスが大切だと考えています。

自己肯定感を高めるには「褒める・励ます・認める」といったプラスのフィードバックが欠かせません。ステラプランの振り返り機能を通じて、教員・生徒・保護者がつながり、努力や成果をすぐに共有できる仕組みがあります。学校という枠を超えて自分を認められる機会が増えることが、自己肯定感の向上につながる。だからこそ、生徒と先生が毎日振り返りを行い、「今日も頑張ったね」と褒めることを大事にしています。


「褒めチャット」で生まれる教職員連携と“褒める”文化


情報共有は全てチャットで行っています。例えば「Cさんは保健室にいます」と連絡が入ると、すぐに次の授業担当の先生が「じゃあ迎えに行きます」と対応してくれたり、「今日からDさんにこういう目標を入れました。授業中に声掛けをお願いします」と全員に伝えたり、といったやり取りが日常的に行われています。チャットが多すぎると思うほど頻繁ですが(笑)、担任だけが知っていても意味がなく、全員で情報を共有していることが大事なんです。

以前は生徒が帰った後に毎日1時間〜1時間半ほど会議をしていましたが、現在はシステム化されて、必要な情報をすぐ全員が見られるチャット機能が大きな役割を果たしています。その中でも特徴的なのが「褒めチャット」です。


生徒が良い行動をしたときに先生が写真を撮ってアップすると、先生同士がリアクションを返し合い、その取り組みが学校全体に共有される仕組みです。課題改善に目が向きがちな日常の中で、「得意なことをみんなで共有し、褒め合おう」という発想から始まったこの仕組みは、学校全体に“褒める文化”を広げるきっかけにもなっています。

生徒の自己肯定感を育てるだけでなく、担任を持っていない私のような管理職でも、その子の頑張りを知ることができるのが、褒めチャットの良さ。投稿を見て声を掛けると、生徒は「なんで先生が知ってるの?」と驚きますが、それがまたうれしい驚きにつながり、「自分の頑張りがみんなに伝わっているんだ」と実感できる。そうした効果が、褒めチャットの大きな魅力だと思います。


はい。不登校経験のある子や特性のある子は、「友達と話したいけれど何を話せばいいか分からない」「話し始めてシーンとなったらどうしよう」といった不安を抱えていることが多いんです。そのため、SST(ソーシャルスキルトレーニング)やSEL(ソーシャル&エモーショナルラーニング)、表現の授業を設けています。

授業では3〜4人の小グループに分かれ、副担任などがファシリテーターとして入り、「素敵な挨拶の仕方を練習しよう」「相手の気持ちを考えた言葉を選ぼう」といったテーマでロールプレイを行います。

絵カードを使って「この状況で何がいけないのか」「なぜ相手は怒っているのか」と考える活動もあります。授業だけで力がつくわけではありませんが、週1回の授業と日々のやりとりを結びつけることで、少しずつ身につけていくことを目指しています。

ただ、社会性は授業だけでは完結しません。日常の中で「その言い方はちょっと違うよね」「今先生と話しているときに、そこを横切るのはよくないよね」といった声掛けを重ねることが、実際の成長につながります。


子どもたちの「今日頑張ったね」を一緒に喜ぼう

よく「名前が変わって、学校としても何か変わりましたか?」と聞かれますが、星槎としては「学びの多様化学校だから」という特別な意識はあまりありません。私が入職した当時から、星槎は「いろいろなタイプの子に丁寧に寄り添う学校」だと感じてきました。

大事なのはやはり、一人ひとりの個性にきちんと向き合うこと。そして「学校が楽しいから行きたい」と思える環境をつくることです。それこそが私たちの使命であり、そのために教室の工夫をしたり、先生たちが寄り添って関わったりする姿勢を大切にしてきました。


状況は学校ごとに違います。公立には1クラス40人という大規模校もあれば、私たちのような中規模・小規模校もある。その中で共通して言えるのは、「子どもが発している小さなサインを受け取ること」が大切だということではないでしょうか。「今日ちょっと様子が違うな」と気づいて声を掛けるーーそんな日常の関わりが、問題が大きくなる前に支えることにつながります。

私自身も、廊下ですれ違うときには名前を呼んで声を掛けています。

そこから対話が生まれることもありますし、面談で「時計の針を読むのが難しい」と生徒がふと口にしたときも、それを聞き流さず「そうなんだ」と受け止め、保護者に「ではデジタル時計にしましょう」と伝える。そんな小さな発信を見逃さないことが、何より大事だと思っています。

結局のところ、大切なのは「制度」よりも「人がどう関わるか」。一人の先生だけでは限界がありますから、学校全体でその姿勢を共有することが欠かせません。そうした学校が増えれば、不登校の子が減り、「少しずつ変わってみようかな」と思える子も増えていくはずです。学びの多様化学校が広がる意味は、そういうところにあるのだと思います。

「学びの多様化学校」というラベルがなくても、目の前の子どもに真摯に向き合い、その子なりの成長を信じて待つこと。そして一人で抱え込まず、チームで支えること。これは星槎が歴史の中でずっと大切にしてきた姿勢であり、学校の規模や状況に関わらず実践できることだと思っています。

子どもたちの「今日頑張ったね」を一緒に喜べる。そんな先生や学校が一つでも多く増えてほしいと願っています。


〈取材・文:先生の学校 編集部/写真:ご本人提供〉