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先生の育休取得を考える。改革すべきは制度ではなく、人の意識と学校文化

先生の育休取得を考える。改革すべきは制度ではなく、人の意識と学校文化

子育てをしながら働き続けることができる職場風土づくりのためには、育児休業や復職後の支援制度が取得しやすい環境があるだけでなく、日常での働きやすさを実現することが重要視されている。

気兼ねしない子育てと仕事の両立を実現するために、どのような組織づくりが必要なのだろうか。

三児の子育てを経験し、現在は静岡県の小学校で校長を務める小澤美加さんに、管理職として大切にしているあり方や実際の取り組みについて話を聞いた。

写真:小澤 美加(おざわ みか)さん
小澤 美加(おざわ みか)さん
静岡県公立小学校 校長

静岡県生まれ。大学卒業後、公立小学校教員に。三児の多様な習い事と部活で多様なママ友との関わりを得る。2016年より教育委員会管理主事として社会教育行政を担当。さまざまな立場の方と学校教育を外から考える機会に。2021年度より校長に就任。地域社会と繋がる探究学習、子どもが生きる特別活動、個別最適な学びを推進中。関わる人みんながHappyになれる学校づくりを目指す。SDGsファシリテーター資格を取り、自らも外部人材として民間の方と活動中。


育休取得を躊躇する職場

2021年度に静岡県にある公立小学校の校長に着任された小澤美加さん。
自身も3回の育休を取得されているが、教育現場での育休取得に躊躇する雰囲気は、まだあるのではないかと言う。

妊娠報告の第一声が「すみません」だった先生、異動と重なってしまう出産タイミングを心配する先生、これまでの教員人生で何度か戸惑う場面をみてきました。

妊娠を何の心配もなく喜ぶことができない職場ってどうなのだろう。
おめでたいことなのに何がそうさせるのだろう。

制度はただそこにあるだけでは意味がなくて、関わるみんなの意識や、学校に根づく文化が変わらなければいけないと感じました。

最近、学校って社会の縮図だなと感じることが多く、働き方改革などもいくつもの要因が複雑に絡み合っているので、制度を整えただけでは根本的な解決にはつながらないと考えています。

2年の教頭経験を経て、校長に昇任された小澤さんは、管理職を経験したことで「教職員の成長」に興味を持つようになった。

教職員一人ひとりの成長を考える小澤さんが、組織づくりにおいて心掛けていることが2つあるそうだ。

一番意識していることは、適材適所
その人がやりたいこと、合っていることをやるのが一番だと思うんです。

毎年人事評価面談や次年度の希望調査をしますが、来年どんなことをやってみたいか、一番力を入れたいことは何かなどを聞くようにしています。

どうしても今の学校事情に合わせて来年や再来年など目先のことに意識が向いてしまいがちですが、そうではなくて、教員人生の中で目指したい姿やキャリアアップについて思いを引き出す、自分を振り返り内省する面談にしたいと思っています。

将来のなりたい像をしっかりと見据えた上で、今必要な役割を担ってもらう。そのためには、先生の特技や希望に沿って体制を整えていくことも必要だと考えています。

お話を伺った小澤美加校長

小規模校なので、メンバーに合わせて組織も変えます。

学級担任として音楽会をやるとき、個々に合わせてパートや楽譜を改良し、一つの合奏を創っていましたが、そんなイメージですね。

もう1つは、何をやるにも目的をはっきりさせることです。

前年度踏襲を続けていくうちに、「何のために」が霞となり、形だけが残るので負担感が増します。そのため、どんなに短い時間でも何のためにやるかをみんなで話し合い、取り組むべき業務を絞っていくことを意識しています。


今いる立場で、みんながそれぞれ一歩ずつ

目的に立ち返り業務にあたる習慣が教職員に身につくと、子どもたちの自主性にもつながっていくそうだ。

卒業が近い年度末に、6年生を送る会を毎年開催していますが、昨年度の担当は、思いきって子どもたちに企画から運営までを任せてくれました。

すると、各学年の役割分担から全校合唱、並び方などの式隊形まで、事前の提案書はなくなり、子どもたち同士でオンラインを駆使しながら連絡を取り合い、当日「このように並んでください!」と言葉で伝えたりするだけで実際にできてしまいました。

先生が主導すると完成型にこだわり、失敗しないように、他学年が動きやすいようにと細部まで周到に考え指示を出してしまいがちですが、そもそも何のためにやるんだっけ?といった目的に立ち返ってみることが大事です。

そうすることで、6年生に感謝の気持ちを伝えたいとか、この学校で過ごしてきて良かったという気持ちを味わってもらいたいとか、本来の目的が浮き上がってくるんですよね。

初めは戸惑った先生もいたようですが、みんなで式を創ろうという子どもたちの意識が高まり、かえって良かったと思います。

任せきることで子どもたちは想像以上に自主的に動きますし、先生の時間も効率化されます。特別活動だけでなくて、通常の授業にも同じことが言えるのではないでしょうか。

将来を見据えた教職員の気持ちに寄り添い、目的に立ち返り、可能な限り業務を効率化して児童の自主性を伸ばすことを大切に現場で指揮を執る小澤さん。

ご自身の育休中には、中型2輪の免許や英語指導者の資格を取得。3人の子どもの保護者として学校や保育園の役員をするなど、外の世界でのチャレンジが今につながっているという。

育休を取得する機会に恵まれた方は、大手を振って産休も育休も取得してほしいと思います。

男性にもです。学校を離れている間の経験も必ず学校や子どもたちに還元されるはず。我慢して耐えてしまう文化は、次の人へも受け継がれてしまう。

今ある制度に命を吹き込みたいです。子育てにどっぷりとつかり、そこで得た経験や人とのつながりが、学校に戻ってきてから存分に生きるはずです。

働き方改革においても、置かれた立場で一人ひとりができることを一歩ずつ取り組んでいくことが大事だと語る小澤さんは、管理職という立場だからこそ、休みを取ることをオープンにし、休みを取ることに後ろめたさを持たなくても良い雰囲気作りを大切にしている。

子どもの入学式と、勤める学校の入学式が重なることもありますよね。勤め先の入学式を休んで子どもの入学式に行くことにいまだに躊躇する方もいらっしゃるかもしれません。でもそれもあえてオープンにして、気持ちよく送り出しています。

結婚休暇なども同様です。前任校では、保護者にもお便りを出して、休みを取得することをオープンにしました。

なぜ休んでいるか分からない状態にするのではなく、きちんと伝えて、もちろん教員だって結婚休暇を取得しますよと、理解を得ていくことは意識して取り組んでいます。

妊婦の業務軽減もし、そのような法令があることを全職員に伝えました。そして、これを近隣校の校長会でさりげなくアピールしています。

自分の子育ての経験からも、自分より後の世代が家族よりも仕事を優先しなければならない状況を変えていきたいと思っています。

〈取材・文=まるこ /写真=ご本人提供〉