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どんな学校でも取り組みやすく、手の届きやすいものを。全250ページ!働き方改革事例集に込められた、文部科学省の願い

どんな学校でも取り組みやすく、手の届きやすいものを。全250ページ!働き方改革事例集に込められた、文部科学省の願い

学校現場の働き方改革が急務となっている。しかし、何か一つをやれば解決するという特効薬があるわけではないため、文部科学省主導の制度改善と並行し、現場発の取り組みの積み重ねが欠かせない。

そんな学校現場ですぐに始められる働き方改革の事例集があるのをご存知だろうか。

2021年3月に文部科学省により制作された事例集は、2022年2月には改訂版も発表され、インターネットから誰でもダウンロードできる。

全250ページ154項目もの取り組みを紹介したこの事例集の制作者である文部科学省にて、校務改善専門官を務める菅谷匠さんに事例集に込めた思いを聞いた。

写真:菅谷 匠(すがや たくみ)さん
菅谷 匠(すがや たくみ)さん
文部科学省 初等中等教育局財務課 校務改善専門官

平成20年度に文部科学省に入省し、初等中等教育企画課教育制度改革室等での勤務を経て、令和元年7月から令和3年度末まで高知県教育委員会に出向。GIGAスクール構想の実現や県立学校改革を担当した。過去にはプロのキックボクサーとして試合に出場した経験も有しており、現在は戦いの場を文部科学省に移し、学校の働き方改革の推進に取り組んでいる。


どの学校でも取り組みやすい、手の届く事例に出会える事例集

——改訂版 全国の学校における働き方改革事例集」は全250ページ、154項目の取り組み事例、62件のインタビューを掲載し、ニーズや領域ごとに整理されていて図解も多く、小中高の校種を問わず、教育委員会も含め学校教育に関わる多くの人に役立つ内容をカバーしています。この事例集を作ろうと考えた背景や、その思いを聞かせてください。

自己研鑽の時間や、家族との時間など、先生方がワークライフバランスを整えられてこそ、子どもたちに良い教育を届けることができます。

また、働く環境を整えることで、教員志望の学生も増えていくと思いますので、働き方改革は大変重要な課題だと捉えています。

国でもさまざまな予算を確保し人を増やしたり、サポートスタッフを配置したりするなど、全力で取り組んでまいりますが、やはりそれだけで改善するものではありません。

教育委員会の皆さまの力も必要ですし、一番即効性があるのは学校現場の取り組みが一つでも進むことです。

実はすでに全国にはさまざまな働き方改革の事例が出てきており、それらは「あの学校だからできた」といった特別な話ではありません。どれも手の届く取り組みばかりで、働き方に悩む全ての先生方や自治体に知っていただきたいと思い、事例集を作りました。

コンセプトは、どの学校でも取り組みやすい、手の届く事例に出会える事例集です。

改訂版 全国の学校における働き方改革事例集


——今年の2月に改訂版が出されていますが、どのような情報が新たに加わったのでしょうか?

2021年3月に事例集を公開し、多くの先生方にご覧いただくことができました。そこでいただいた声として、もっとプロセスを知りたいと。

どのような課題があり、その課題に対して教職員をどのように巻き込み意識を変えていったのか、そのプロセスを知りたいというご要望をいただきました。

そこで改訂版では2校にご協力いただき、実際の改革に至るまでの道筋を見える化しました。また、ICTを活用した校務効率化、教員業務支援員の有効活用にも焦点を当て、動画でも事例を紹介させていただいています。


——実際に事例集をどのように活用してもらいたいですか?

各学校によって抱えている悩み、お困りの内容や知りたい内容が異なると思いますので、「具体的に改善したい業務がある方」「一部の教職員に負担が偏っていることを解消したい方」「執務に使える時間が少なくてお困りの方」「支援スタッフの募集・活用にお困りの方」「GIGA端末を活用した校務効率化に取り組みたい方」の5つのニーズ別に分類し、さらにカテゴリーを分けて事例を紹介しています。

ですので、まずはそれぞれのニーズに沿ってパラパラと斜め読みからスタートし、取り組めそうな事例を見つけていただければと思います。

取り組みがある程度進んでいる学校においては、目次に戻って全体を俯瞰して見ていただき、まだ取り組んだことのない取り組みをチェックしていただきたいです。自己診断のように使ってもらえたらうれしいです。

お話を聞いた校務改善専門官を務める菅谷匠さん


うまくいっている学校に、特別なことはない

——制作過程で多くの学校や自治体の話を聞いてこられたと思いますが、改革がうまくいっている学校や自治体に共通する特徴はありますか?

共通点はありますが、特別なことはありません。財政的に豊かということでもありませんし、あの人がいたから実現できたということもありません。

共通点は、「とりあえず、やってみよう」と、皆で一歩を踏み出したということです。結局はそういった学校や自治体に成果が生まれているように思います。

本当にスモールステップで構わないんです。小さな取り組みを1つ2つと取り組んで積み重ねていくことで、徐々に皆さんの意識も変わっていくのではないでしょうか。

そうすると、「もっとこうしたらいいのではないか?」というアイデアや気づきが生まれ、より効果的な方策が生まれて広がっていくのかなと思います。


——働き方改革を推進するために必要な心構えはありますか?

働き方改革の取り組みをこれからスタートする学校であれば、校長先生なり牽引役の先生のリーダーシップで、「何のために働き方改革に取り組むのか」をテーマに、教職員全員で対話をしてもらいたいです。

働く環境を整えていくことは、先生と子ども、両者の人生を豊かにしていく取り組みだと思います。そういった共通の目的の目線合わせができると、一人ひとりの意識も行動も徐々に変化していくのではないかと思います。

最近になって徐々に、民間企業や第三者の手法、発想を参考にして改善に取り組む学校も出てきています。そのように一歩を踏み出すことで、どんどん改善が進んでいくということはあると思います。


——手法や発想だけでなく、民間企業のサービスをうまく活用したり、外部人材との連携・協働も欠かせないという印象があります。

日本の学校は、とても責任感が強いと思います。子どもたちに関することは自分たちが全てやってあげなきゃいけないという意識があります。

そういった日本ならではの考え方がこれまでの日本の教育を支え、素晴らしい成果を上げてきました。それは世界的にも称賛される仕組みである一方で、働き方という面においては限界がきてしまっているのではないかと思います。

ですので、先生がやるべき業務を選別し、任せられる業務は外部に任せていくことが非常に大事な視点だろうと思います。


プロフェッショナルがその仕事に専念できる環境を

——任せられる業務は外部に任せるということですが、具体的にはどんなことができますか?

この事例集でも特集していますが、平成30年度から文部科学省でも配置支援するようになったスクールサポートスタッフ、正式名称は教員業務支援員というものがあります。

「教師が一層児童生徒への指導や教材研究等に注力できるよう、教師の業務の支援に従事し、負担軽減を図る支援スタッフ」というのがその定義です。

民間企業ですと当たり前の発想ではあると思うのですが、プロフェッショナルがその仕事に専念できる環境を作るための支援です。

だいぶ浸透し始めてきていますが、ぜひ活用してほしいと思います。


——地域の人たちとの連携という話もよく聞きますが、どのような方法がありますか?

一番おすすめしたいのは、コミュニティスクールの制度を活用していただくことですね。働き方改革も含めて、学校運営に地域の方を巻き込んでいく際に大切なことは、日頃のコミュニケーションです。

日頃から一緒に活動をする中で意見交換をしながら、口も手も出してもらうような形で学校運営に関わってもらうことで、新しい取り組みにおいてもお願いしやすくなると思います。コミュニティスクールの制度を生かして、日頃からそのような関係性を作っていっていただきたいと思います。

学校閉庁日を設けることや留守番電話を導入するといった場面でも、保護者に説明を行う際、コミュニティスクールの人たちが第三者の視点でその重要性を話してくれると、保護者の方の抵抗感が和らぎ、理解が進んだというお話がありました。


——学校の一員という点では、事務職員の皆さんとの連携・協働も可能性がありそうです。

事務職員の方々との連携・協働は、私も大きな可能性があると思います。事務職員は教員と同様に、正規職員として学校のことを全て分かっている方です。

事務職員の業務をICTを活用して効率化し、そこで生まれた時間を使って、配置されているさまざまな支援スタッフさんとの連携を担っていただくなど、そんなことを期待しています。

実際に、ある地域の事務長は、生徒会活動にすごく力を入れられていました。それはもしかすると従来の事務長の役割を超えているかもしれませんが、「チーム学校」の取り組みとして可能性を感じました。

令和2年度には、各教育委員会が事務職員の職務内容を定める際の参考となる標準職務例を改正し、地域との連絡調整やICTに関することなど、いくつかを事務職員の標準的な職務の例示の中に加えさせていただきました。

教育課程は教員の仕事かもしれませんが、事務職員もチーム学校の一員です。予算のことも分かっているし、行政のプロであり、学校のプロでもある。

事務職員の皆さんに働き方改革の文脈でも活躍してもらえたら、すごくいいなと思いますね。


子どもたちが割を食う構造を、一刻も早く改善したい

——カリキュラム本体に切り込んでいくような、画期的な事例も掲載されていて参考になりました。

朝学習や給食時間、昼休み、清掃時間などを見直す事例は全国でも増えてきていますが、教育課程の編成を工夫し、45分授業を40分授業にして午前中を5時間制にするといった小学校の事例も出てきています。

滋賀県の小学校の事例ですが、短縮した授業時間は、午後に25分間の学習タイムとして導入し、子どもたちの個別の課題に合わせたサポートを実現しています。さらに、下校時間を20分短縮できるので、先生方が教材研究をしたり、保護者の方と話す時間を捻出したりすることができるようになったそうです。

今後はそういったカリキュラム本体に切り込んでいく事例も増えていくのではないかと思います。

45分授業を40分授業にして
午前中を5時間制にする小学校の事例も


——最後に、読者へメッセージをお願いします。

改めて働き方改革は、子どもたちの教育を充実させるために、非常に大事な取り組みです。

それをどのように実現するかを考えると、やはり教育に関わる全てのステークホルダーが、それぞれの持ち場でできることに全力で取り組む以外にないと思っています。

先生方においては、文部科学省や教育委員会からの要望も多く、腑に落ちない気持ちを抱えていらっしゃる方もいるかもしれません。しかし、全員で力を合わせて改善に向かわなければ、最後に割を食うのは子どもたちです。その構造を一刻も早く何とかしたいと思っています。

我々も逃げずにやるべきことにしっかりと取り組んでまいります。我々への要望は変わらずいただければと思いますが、一方で、学校単位で取り組めること、個々人で取り組めることについても積極的に取り組んでいただけたらうれしく思います。そんなときに、この事例集を役立てていただければと思います。


〈取材・文=鈴井 孝史/写真=竹花 康〉