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横浜市立山内小学校の共育・共創の学校づくりとは?子どもだけでなく、先生も「誰一人取り残さない」

横浜市立山内小学校の共育・共創の学校づくりとは?子どもだけでなく、先生も「誰一人取り残さない」

15年以上前から保護者、地域との共通言語として「あったかハート」を掲げる横浜市立山内小学校は、まもなく創立150年を迎える公立小学校だ。

最上位概念に「誰一人取り残さない」を掲げ、教科分担制やチーム学年経営など一人の子を複数の眼差しで支える取り組みや、校内にフリースクールを設けるなど、誰一人取り残さない仕組みを数々実践されている。

またPTAとは別に、地域と学校の連携を促進する「Yぷらす」という組織を作り、「共育・共創の学校」づくりを目指す校長の佐藤正淳さんに、誰一人取り残さず、学校、保護者、地域全員で子どもたちを育む秘訣を聞いた。

写真:佐藤 正淳 (さとう しょうじゅん)さん
佐藤 正淳 (さとう しょうじゅん)さん
横浜市立山内小学校 校長

1967年生まれ、54歳。福島県出身。文教大学教育学部卒。1989年、横浜市立あざみ野第二小学校で教員人生をスタート。1995年から10年間在籍した西前小学校では、特別支援学級を5年間担当。2005年から3年間、ルーマニア・ブカレスト日本人学校に勤務。帰国後、白幡小学校では教務主任や副校長の立場から、地域や企業と連携した先進的な取り組みを牽引。2013年から6年間、横浜市教育委員会事務局教育政策推進課指導主事として「横浜教育ビジョン2030」の策定や働き方改革の推進等に取り組む。2017~2018年には文部科学省の業務改善アドバイザーとして全国各地に出向き、働き方改革に係る講演等を行う。2019年より現職。


「25/7」「74/33」何を表す数字だと思いますか?

——最上位概念に「誰一人取り残さない」を掲げ、さまざまな取り組みをされていると思いますが、特徴的な取り組みを紹介いただけますか?

まず特徴的なのは校内フリースクール「あったかハートルーム」です。

原点にあるのは1年ぶりに登校した5年生の男の子のこと。その子は1年ぶりに勇気を振り絞って登校したのですが、過ごす部屋がなかったんです。あたたかく真綿のように迎え入れる場所がなかった。

学校って安心できる場所なはずなのに、これって何なのかと。これは情けないと思って、校内フリースクール を作ることにしました。

校内フリースクール「あったかハートルーム」


——素敵な取り組みですね。現在は、何人くらいの生徒さんが、どのように通われているのでしょうか?

入れ替わりがありますが、今は5、6人ですね。

この部屋に来る子は自分の1日を自分でコーディネートします。何時に登校する、どの授業に参加する、勉強の時間、読書の時間、など。この年代の子どもたちにとって、自分のことを自分で決めていく、自分で足跡を残していく経験はとても貴重です。

できなかったら落ち込むこともありますが、なぜできなかったかをその子なりに分析します。そして修正して、次につなげます。そうやってうまくいったときに自己肯定感が育まれていきます。

一般学級にも通じるとても大切な視点だと思いますし、一番大切なフィロソフィーです。

あったかハートルームの中の様子


——保護者や地域との連携体制も貴校の特徴かと思います。PTAとは別の協働組織「Yぷらす」という取り組みを始められたと伺いましたが、どのような取り組みですか?

「25/7」「74/33」これは何の数字だと思いますか?

実はこれ、PTA役員をやりたいと手を挙げてくれた保護者の数です。7人の本部役員の枠に25人の希望者、33人の委員の枠に74人の希望者。

学校に参加したい、学校に力を貸したいという保護者がこれだけいるんです。普通は逆ですよね。これはやはり保護者との連携を強化してきた成果だと思います。

保護者も、本当は学校に関わりたいと思っているんですよ。昨年度も、保護者であり、都内レストランの料理長を務めるシェフが特別イベントとして「味覚の授業」を開催してくれました。

他にも、これも保護者の方で、NHK交響楽団の有志が、学校で演奏会をしてくれたことがあります。それはとても素敵な取り組みでした。北海道の旭山動物園とつないでリモート遠足をした児童たちが動物の絵を描き、その絵にあわせてカバが泳いだり鳥がふ化したりする様子をバイオリンやフルートで表現してくれました。

こういった保護者の学校への参画意識が醸成されてきた流れをさらに発展させようと、新たに「Yぷらす」という取り組みも始めました。

山内小学校の誰一人取り残さないための取り組み一覧


——具体的にはどのような取り組みでしょうか?

Yぷらすは、学校・PTA・地域との協働のもと組織された新たな教育支援ネットワークです。

授業や学校行事などに関わる活動は学校とPTAで実施し、そうでない取り組みついて、Yぷらすが担います。通年での活動としては、安全見守り、花植え、ICTサポート、放課後の学び場運営、読み聞かせなどがあります。

また企業等と連携し、週末を活用して「親子スナッグゴルフ体験会」や「iPad活用講座」「親子メルカリ教室」などの特別イベントも開催してきました。

授業や学校行事などに関わる活動は学校とPTA、
そうでない取り組みをYぷらすが担っている


子どもだけでなく、先生も誰一人取り残さない

 ——保護者の方との関わりを増やすために、InstagramなどSNSも積極的に活用されていると伺いました。

そうです、私が毎日のように投稿しています。30・40代の小学生のお母さんたちが頻繁に使っているものといえば、ダントツでInstagramです。

今、本校では学級だよりを出していません。教員と保護者との接点を作りやすくし、学校の日常を知ってもらえるように、Instagramで発信しています。

私たち教員にとっては当たり前の光景も、その様子を保護者の方に伝えることで、喜んでいただけることがあります。そうやって日頃の信頼関係を積み重ねています。

誰一人取り残さないを実現するためには、一人の子を皆で見ることが大切だと思います。教員はもちろん、保護者の方も地域の方も巻き込んで、共育・共創の文化を作る必要があると思っています。そのためにSNSなども積極的に活用しています。

保護者主導で子どもたち178人と共に制作したLINEスタンプも


——「一人の子を皆で見る」という点においては、教科分担制についても早くから実践されているそうですね。

横浜市では本校を含め、いくつかの学校で先行的に取り組んでおり、私も教育委員会に在籍していた際に本校を視察しました。一人の子どもを複数の先生が見て、その子の可能性も課題も皆で早期に見つけてあげようという視点で進められていました。

今まさに国の施策になっていることを先取りしていたわけですが、先生方の働き方改革という視点においても重要です。

先生にも個性や凸凹があります。育児や介護のために時短を取りたい先生もいる。そうした先生方が肩身の狭い思いをせずに、ベストパフォーマンスを発揮できる仕組みでもあると思います。

誰一人取り残さないというのは、子どもにとってだけでなく、先生にとっても同じことです。

 
——佐藤さんが「誰一人取り残さない」を学校の最上位概念に掲げた背景を伺えますでしょうか?

赴任2校目で特別支援学級を5年間受け持ったときから、「誰一人取り残さない」が私の中で大切なキーワードになっています。

それぞれ抱えている障がいも違ったので、課題も違えば可能性も違って、目指すものも違う。中学校を卒業したあとや、成長してからなりたい姿も違う。そんな違う人たちが同じ校舎、同じ教室の中で学んでいる。

これって一般学級の子どもたちも同じだよね、と。みんなに可能性があって、でっぱっているところ、とんがっているところ、良いところも課題もある。

そういった気づきを得ることができ、十把一絡げ(じっぱひとからげ)に何かするというのはもうおしまいにしましょう、という気持ちで、「誰一人取り残さない」を最上位概念にしています。

より良い学校づくりに挑み続ける校長の佐藤正淳先生


人を育てるためには、木を見て森を見る、森を見て木を見る、考え方の行ったり来たりを

——本質的に「誰一人取り残さない」を実現するために、大切なマインドは何だとお考えでしょうか?

私にとっての出発点は「一人の個人なんてちっぽけなもんだ」ということです。

私、曹洞宗のお寺の生まれなんですけど、簡単に言えば、子どものときからずっとお布施をいただいてご飯を食べてきたんですね。だから今度は、自分が誰かを支える、という気概を持ってやっています。

それと私は末っ子で、末っ子気質もとても大事です。周りに甘えるんです。一人の個人なんてちっぽけなもんだと、謙虚になって甘えて、周りに頼りながら、子どもを中心に置いて考えて行動するんです。それが私が大切にしてきたマインドです。

 
——貴校は先行して取り組まれていることが多く他校の参考になることも多いと思いますが、今後の展望について伺えますか?

SDGsの考え方を早くから取り入れていると仰っていただくのですが、正直に言うとまだまだかなという気がしています。この一連のチャレンジをしているのは、子どもたちも、私たち教員も、少し先の未来のことを考えられるようになりたい、と思っているからです。

目の前のことだけでなく、少し先の未来を見据えていきたい。もちろん予測しながらやりますが、走りながら考える、まずは進めていく。ワクワクすることをどんどんやってみて、子どもたちや保護者からフィードバックをもらう。

私は公立学校のイチ校長にすぎないけど、学校で風を起こしたら、何か化学反応が起きるかもしれない、この先につながるかもしれない。そう思って、今の一歩を歩んでいます。

山内小学校は、まもなく創立150年を迎える


——最後に、本質的な「誰一人取り残さない」を実現するために何かを始めたい先生方に、メッセージをお願いします。

例えとして、森と木の関係を考える習慣をつけてほしいなと思います。

教員として一本一本の木に向き合い、丹精を込めて育てる、銘木を育てる、などはプロとして覚悟を持ってやってほしい。同時に、森全体をどんなイメージを持ちながらデザインしていくのか。

例えば太陽がどっちにあって、風はどちらから来ていて、冷たいのか暖かいのか。それらによって森の広がり方や大きさも変わってくる。一本一本の木を育てながら森全体をイメージする。森全体を見ながら一本一本の木を見る。そうやってモノの考え方の行ったり来たりを習慣づけてほしいなと思います。

あとはもう、チャレンジですね。30代くらいで学校全体のことが俯瞰的に見られるようになってきて、他者との連携の楽しさも味わってきたような先生に可能性を感じます。学校づくりってもっとダイナミックでいいんだよ、既成概念をぶち壊していけ、失敗OK、どんどんいこう!ということを語りたいし、応援もしたいと思っています。

一緒にチャレンジしましょう!


〈取材・文=鈴井 孝史/写真=竹花 康〉