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20歳の環境活動家・露木志奈さんに聞く、未来のグリーンリーダーを育成する世界一エコな学校「グリーンスクール」とは?

20歳の環境活動家・露木志奈さんに聞く、未来のグリーンリーダーを育成する世界一エコな学校「グリーンスクール」とは?

世界で一番環境に優しいと称される学校「グリーンスクール」をご存知だろうか。

創設者であるジョン・ハーディ氏夫妻が「持続可能な世界を創造するグリーンリーダーの育成」をミッションに掲げ、2008年にインドネシア・バリ島に開校した。開校のきっかけとなったのが、環境問題啓発のために元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏が脚本を手掛けたドキュメンタリー映画「不都合な真実(An Inconvenient Truth)」だった。

現在は、幼稚園児から高校生まで、幅広い年代がグリーンスクールで学んでいる。そんなグリーンスクールで高校3年間を過ごし、現在は気候変動の危機を伝えるため大学を休学し、環境活動家として全国の小学校から大学で講演活動を行う露木志奈さんに、同校が世界一エコな学校と言われる理由について、在学時の様子を交えながら話を聞いた。

写真:露木 志奈(つゆき しいな)さん
露木 志奈(つゆき しいな)さん
環境活動家をなくしたい環境活動家

2001年横浜生まれ、中華街育ち。15歳まで日本の公立学校に通い、高校3年間を「世界一エコな学校」と言われるインドネシアの「Green School Bali」で過ごし、2019年6月に卒業。2018年にCOP24(気候変動枠組条約締約国会議) in Poland、2019年にCOP25 in Spainに参加。2019年9月、慶應義塾大学環境情報学部に入学。現在、気候変動の問題を中高生に伝えるため大学を休学し、環境活動家として活動している。


「グリーンリーダーの育成」「孫の代を意識した選択」を軸に進化し続ける学校

——露木さんは2016年から高校3年間をグリーンスクールで過ごされたそうですね。実際に在学していた立場として、どのような学校だったと感じていますか?

インターネットで検索すると一番目を引くのが、インパクトのある校舎ではないでしょうか。

グリーンスクールの校舎は、成長の早いインドネシア産の竹を利用して作られており、部屋と部屋との間には壁がありません。学校内の電気は全てクリーンエネルギーが供給されていましたし、自給自足で手に入れた食材が提供される食堂では、土に還るバナナの葉で作ったお皿が用意されていました。

教材には廃材を活用するなど、学校のどの部分をとっても環境に配慮されていました。

グリーンスクールは環境負荷軽減を極めるために、私の在学中にも学校のシステム自体が変わり続けていて、「どうしたら学校が持続可能な存在になれるか」を常に探っていました。

在学中変化したことと言えば、家畜によって排出される二酸化炭素量が多いことを理由に、食堂でお肉が提供されなくなりました。自給自足するための畑に撒く肥料になる「し尿」を集める方法も変わりましたし、学校の二酸化炭素排出量を計測し始めたりもしましたね。

環境への配慮はもちろん、学内に生徒のための研究スペースが増えるなど、生徒へのサポートも年々進化していきました。開校して10年以上経った今でも、グリーンスクールは「グリーンリーダーの育成」「孫の代を意識した選択」を軸に、学校自体が進化し続けています。

校舎は、成長の早いインドネシア産の竹を利用して作られている


——環境に配慮する意識は、グリーンスクールで学ぶ生徒たちにどれくらい浸透していましたか?

基本的にグリーンスクールのミッションに共感した人たちが入学してくるので、学内にプラスチックバッグを持ち込んだり、ペットボトルを買ってくる人はほとんど見たことがないほど、みんなが当たり前に環境に配慮した選択をしていました。

入学するとマイボトルが配られるなど、持続可能な取り組みへの準備を学校が用意したり、学校から借りることもできました。

部屋と部屋の間には仕切りがなく、開放的


——グリーンスクールで過ごした3年間で印象に残っていることはありますか?

グリーンスクールで学んだ生徒同士で「グリーンスクールは学校そのものも素晴らしいけど、働いている先生が素敵なんだよね」と話していました。

本当に親身になってくれる先生ばかりなのですが、先生の姿勢で一番素敵だと感じているのは、「生徒に多様な学びの選択肢を与えよう」としてくれること。先生は、私たちのやりたいことを実現するためにアドバイスをくれたり、道具を用意してくれたりして、常に学びをサポートしてくれました。

学校にいる先生だけでは教えられないことが出てくると、インドネシア国内外を問わずさまざまな方が授業のために訪問してくれて、プロの授業を受けさせてもらえました。

ユニークな校舎と素晴らしい先生方のおかげで、学びに対する意欲がどんどん湧いてくるのが実感でき、次々に挑戦したいことが浮かんでくる3年間を過ごすことができました。

志奈さんとグリーンスクールのクラスメイト


自分のプロジェクトを授業化できる「Independent Study」

——1日の流れや授業の特徴について伺えますか?

1日の流れは日本と大きく変わる部分はないですよ。ただ全て生徒自身が授業を選択できる点がユニークです。授業は課外学習が中心で、体験的に環境問題に対する考えを深めることができました。

例えば「気候変動とはそもそも何か?」という授業では、データや映像で学ぶだけでなく、実際にバリ島のゴミ山へ連れていってもらいました。この体験によって私の中に「なぜこのような問題が起きるのだろう?」という大きな問いを持つことができました。

体験的に学んだこと・気づいたことをきっかけにプロジェクトを立ち上げ、行動を起こしていくのがグリーンスクール流の学び方です。

私の場合は、環境にも健康にも配慮した化粧品をつくるプロジェクトを立ち上げました。グリーンスクールでの学びを通して、学んだことを基に行動し続けることが必要だと強く感じています。

バリ島で開催したオーガニックコスメのワークショップの様子


——自分で立ち上げたプロジェクトを深めるような時間は、授業の中にあるのでしょうか?

グリーンスクールには、自分でカリキュラムを作って研究や実践に取り組める「Independent Study」という授業があって、私はその中で「Cosmetic Experiment(化粧品開発)」に取り組みました。

ここでは環境への負荷に配慮しつつ、敏感肌の方にも優しい化粧品を実際に開発しました。この経験は、後の化粧品ブランドの立ち上げや家庭でコスメをつくることができるキットの製作にまでつながっています。

私はもともと理科の単位を取得するのに苦労していたのですが、化粧品開発に取り組むことで理科の単位を代替することができました。苦手なことを無理して頑張るのではなく、興味のあることに代替して学べることがうれしかったです。

Independent Studyでは授業内容だけでなく、担当してもらうメンターの先生の選出まで自分で決めることができました。この自由度の高さによって、学ぶ意欲がどんどん高まっていくのが分かりました。

家庭でコスメをつくることができるキット


——生徒のやりたいことを叶えるために、先生がしっかり応援してくれる学校ですね。

その通りだと思います。先生のサポートももちろんですが、環境問題に向き合う多様な仲間との関わりからも、行動を起こす勇気をもらいました。

さらに、各国からグリーンスクール に通うために移住している保護者の方など多様な人たちの力を借りることができ、私の場合は化粧品のロゴをデザイナーさんに作ってもらったり、ホームページを作るのを手伝ってもらったりするなど、やりたいことの実現に向けて手を差し伸べてくれる人たちがたくさんいました。

そのような方々の期待に応えたいと挑戦していくうちに、最後まで責任を持って取り組む粘り強さも身についたと感じています。

志奈さんが開発したオーガニックリップ


次世代の選択肢を残し、増やしたい

——社会に対して行動を起こす学びに対して、先生はどのような評価をしていましたか?

私たちの能力を評価するというよりも、一人ひとりの「らしさ」やクリエイティビティに焦点をあてて評価してもらえました。生徒がその子らしい挑戦を行動に移すときに、優劣をつける評価はあまり意味がないというのが先生の考えだったと思います。

例えば私が化粧品づくりに夢中になっていたとき、ある教科の成績が大幅に下がったことがありました。そのようなときでも担当の先生は「成績が下がっているみたいだけど、何か他に夢中になって取り組んでいることがあるの?」と、声をかけてくれたんです。

成績が下がったことを責めるのではなく、先生が何よりその子らしさを大事にしていることが分かる象徴的な言葉です。

化粧品開発に取り組むことで理科の単位を代替


——なるほど。評価については日本の学校も学ぶことがありそうですね。

そうですね。でも、日本の学校ならではの良さもあると思っています。

これまで環境活動家として100校以上の学校で講演活動をさせてもらいましたが、生徒の皆さんがとても一生懸命聞いてくれている様子が伝わってきます。この一生懸命さの背景にあるのは、日本の先生が持つ丁寧さのような気がしています。先生の丁寧さに対して、生徒が真面目に応えているような印象です。

一方で、先生にも生徒にも「選択肢が少ないのではないか?」と心配になることがあります。

皆さんはこれまでにできないことに出会ったとき、「もう自分はだめだ」と感じた経験はありませんか?選択肢が少ないと、限られた範囲の中でしか自分を把握できず、苦しくなることがあります。

でもグリーンスクールで私が理科の代わりに化粧品開発をして単位を取得したように、先生も生徒も自分で学びの選択肢を作れることに気づければ、もっと学びの可能性が広がると思うんです。

志奈さんは現在、大学を休学し
環境活動家として学校での講演活動に力を入れている


——グリーンスクールで学んだことを、どのように次の世代につなげていきたいですか?

これまでに全国で取り組んできた講演活動をきっかけに「気候変動を食い止めるために行動したい」と考え始めている人が増えていて、とてもうれしいです。今後はそのように行動を起こしたい方々をサポートする取り組みに挑戦したいと考えています。

日本の先生や生徒の皆さんに、気候変動の講演はもちろん、ゲストティーチャーとして直に生徒と話をしたり、先生の授業づくりの相談に乗ったりもしたいです。もちろん、今回のようにグリーンスクールの様子を話してほしいという依頼も大歓迎です。

日本のグリーンリーダーとしてこれまでの学びを伝えていくことは、次世代の選択肢を残し、増やす行動だと信じています。

グリーンスクールのミッションを体現していけるよう、これからも科学的根拠に基づいた気候変動を食い止める行動について発信を続け、話を聞いてくれた人に実践してもらえるよう働きかけていきたいと思います。


※ここでお話ししているグリーンスクールの内容は、露木志奈さんが通っていた当時(2016年〜2019年)の話です

〈取材・文=岩田 龍明/写真= ご本人提供〉


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