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学校も、先生も、無敵!もっともっと外部のおもしろい大人を巻き込んで、「学びの特等席」を楽しんで

学校も、先生も、無敵!もっともっと外部のおもしろい大人を巻き込んで、「学びの特等席」を楽しんで

横浜・元町中華街に一風変わった「イルム元町スクール」という名の塾がある。

一般的な学習塾の役割である受験指導にも力を入れ成果を挙げる一方で、意欲、創造力、コミュニケーション力といったテストでは測ることのできない非認知能力を引き出す多様な体験の提供にも力を注いでいる。

「教育からギフトへ」を掲げ、全ての大人たちがその能力と専門性と時間を少しずつ子どもたちに寄ってたかってギフトする社会の実現を目指すイルム元町スクール代表の甲斐昌浩さんに、これからの時代の教育のあり方や、教師に求められる役割について話を聞いた。

写真:甲斐 昌浩(かい まさひろ)
甲斐 昌浩(かい まさひろ)
株式会社LIFE代表取締役/イルム元町スクール代表

「教育からギフトへ」を掲げ、全ての大人たちがその能力と専門性と時間を少しずつ子どもたちに寄ってたかってギフトする社会の実現を目指す。小中学生を対象に教科指導・受験指導をしながら各分野のプロと連携して「イルムアカデミア」「ヤバい図画工作」など大人も子どもも楽しく学べるイベントや日本・デンマーク・バリ島への体験ツアーを企画実施。


教育からギフトへ」を掲げる学習塾

――イルム元町スクールは受験指導にも力を入れている一方で、「やばい図画工作」や「イルムアカデミア」など非認知能力を伸ばすような独自のプログラムやイベントも開催されています。具体的にはどんなスクールなのでしょうか

よく「変わった塾だね」と言われますが(笑)、当スクールでは高校受験対策や小学生向けの教科指導という一般的な学習塾の役割に加えて、将棋やそろばん、ダンスなどの教室を開いたり、外部講師を招いた特別講座を定期的に開催しています。

それが「やばい図画工作」や「イルムアカデミア」という名のプログラムです。

「やばい図画工作」ではその道のプロを招いて、ただひたすら工作をします。

「イルムアカデミア」も同様に、各分野のプロをお招きして先生になってもらう特別講座ですが、こちらは特定の領域に限らずテーマはさまざま。

昨年はハロウィンの時期に特殊メイクの仕事をしている方に来てもらい、プロの技を体験しました。かなり本格的な仕上がりで盛り上がりました。


――大人でもなかなかできない貴重な体験ですね。これらオリジナルプログラムの狙いはどんなところにあるのでしょうか

おもしろい大人たちを子どもたちに引き合わせ、「なぜそれをやるのか?」「どんな自分になりたくてそれに取り組むのか?」というメッセージを伝えるためにやっています。

「教育からギフトへ」と表現しているのですが、大人たちの専門的な能力をお裾分けすることで、子どもたちの将来の選択肢を増やし、可能性を広げられればと思っています。


――「教育からギフトへ」、大変興味深い考え方です

全ての大人たちがスキルと専門性を少しずつ子どもたちにギフトする、そうしたあり方が教育の本来の姿だと私は考えています。

教育とは、大人から子どもへのかけがえのない贈り物なのです。

私自身、「教育」や「教師」という手垢にまみれた言葉を使わずに、それを表現できないかとずっと知恵を絞ってきました。その結果、たどり着いたのが「教育からギフトへ」という考えです。

ただ新しい考えでは決してありません。むしろ、もともと自然であったはずの営みが、いつからか「教育」という言葉で語られるようになったのではないでしょうか。

技能や知識などを大人が子どもに分け与える。「教育からギフトへ」というトレンドは、そうした本来の姿へ回帰していく動きだと思っています。


――開校当初からこのようなスタイルだったのですか

開校当初は受験・教科指導を行う一般的な学習塾でした。

自分にしかできないことをやるんだという強い思いで起業したので、従来型の塾の役割に留まっている自分がもどかしくて…。

結局、自分にしかできないことにこだわっていると、この場所での子どもたちの学びも狭苦しいものになってしまう。そう気づいて、どんな教育の場を作りたいのか、試行錯誤を続けてきました。


――もともとは小学校の先生をされていた甲斐さんが、なぜ塾を開こうと思ったのですか

もともとは大学で中高の英語教師になろうと思って教員免許を取ったのですが、なぜ英語教師になりたいのか?と自問自答したときに、理由が見つからなかったんです。そこで大学卒業後に通信教育で小学校の教員免許も取得しました。

そして念願の小学校教師として働き始めたわけですが、1年で退職という選択をします。子どもたちとは楽しい日々を過ごしていたのですが、職員室に漂う妙な平等意識や前例主義の考え方には違和感を覚えていました。

なぜこの授業やカリキュラムを子どもたちがやるのかという本質的な疑問を持つことすら許されない空気がありました。


よく「人は何からでも学べる、だから無駄なことは1つもない」と言われますが、その前提に立って教育が提供されてしまうとなんでもアリになってしまい、何のために学ぶのかという根本部分を見失いかねません。

教師として子どもたちの前に立つからには、なぜ・何のために今これをやるのかをきちんと説明できる自分でありたかったので、小学校を離れて大手塾での経験を経て独立し、イルム元町スクールを開校したというわけです。


目指したのは、『ポンキッキーズ』の世界観

――一般的な学習塾から脱するためにどんな行動を取ったのでしょうか

まずはいろんな人と会って話してみようと思い、 Facebookで「以下に挙げる条件に少しでも当てはまる人、話しませんか?」と呼びかけました(下記写真)。

すると驚くことに、北は北海道から南は九州まで日本中から連絡がきて。教育は誰もが通ってきた道なので、みなさん何かしら一家言を持っているんですよね。

それらを聞いていると、もう受験科目だけやっていればいい世の中でないことは明らかだったし、世の中にはすごい人がたくさんいるんだということも知りました。

しかも、そういう人たちから聞く話はとても面白かった。これはもっとたくさんの人が聞いた方がいい!と思い、友人とイベントを開催したりもしました。

甲斐さんがFacebookに投稿した内容


――授業の準備から実施まで、全てを担任の先生が1人で行う小学校の現場とは異なり、外部の大人を巻き込んで授業を作るやり方は、甲斐さんがもともと目指していた姿だったのでしょうか

私が目指す教育の形として、『ポンキッキーズ』(フジテレビ系列およびBSフジで放送された子ども向けテレビ番組)やNHKのEテレがイメージとしてあって。

いろんな業界のアーティストやプロたちが集まって番組を作り上げている。エンタメの一線で活躍する人たちが、その能力を子どものために発揮しているなんて、たまらないです(笑)。

小説家の芥川龍之介もそうです。彼は児童文学の作品集を作るから力を貸してくれないかという友人の呼びかけに応えて、『蜘蛛の糸』などの児童向け作品をいくつも寄稿しました。

あんなに神経質そうで難しそうな顔をした人が子どもたちのために筆をとったのかと思うと、グッとくるものがあります。

それらは教育なのでしょうか?
想像ですが、きっとそのときの大人たちの気持ちは、自分の能力を子どもたちにギフトするような感覚に近かったのではないかと思うのです。


――学校現場でも塾でも、もっと外部のおもしろい大人を頼り、巻き込んでいくことも大切ですね

はい、学校現場にもどんどん外部のおもしろい大人を巻き込むべきです。

そして、「学校」って無敵なんですよね。学校からの依頼で断る方はなかなかいないと思います。

それくらい、学校って世の中から信用されているんですよ。信用力が違う。だからこそ、もっともっと先生たちは外部の大人に頼っていいと思います。


これからは社会貢献という意味も兼ねて「ギフト」が広がっていくと思います。

実際、当スクールではたくさんの人々がその専門性を生かして、素晴らしい学びと体験をギフトしてくれています。

東京工業大学理学院物理学系助教の山崎詩郞博士をはじめ、ショートショート作家の田丸雅智さん、人形師の栗山秀夫さん、特殊造形師の河津一守さん、古生物復元画家・イラストレーターの小田隆先生など、数え上げたらきりがありません。


子どもに効果的に伝える技術を持つ先生の存在は欠かせない

――教えることを専業としてきた「先生」の役割は、今後どう変化していくでしょうか

「教育からギフトへ」が進めば進むほど、先生の仕事はおもしろくなっていくと思います。それは「教える」から「一緒に学び考える」に役割が変化していくからです。

これまではどちらかと言うと「教える」ことがメインだったと思うのですが、「教育からギフトへ」が進むと、先生たちには「キュレーション」や「ファシリテーション」といった役割が生まれます。

「キュレーション」は、世界に散らばる学びや体験、あまたのおもしろい大人たちの中から、子どもたちにとって良質なものを選んでくる役割です。セレクト眼ともいえます。子どもたちが何にワクワクするのか、今社会で起きていることは何か、感度の高いアンテナと好奇心が必要です。

そして「ファシリテーション」は、外部のおもしろい大人たちのギフトを子どもたちにしっかり届くように翻訳したり、舵取りする役割です。

各分野のプロは、多くの場合、子どもに効果的に伝える技術は持ち合わせていないことが多いのです。これを補完する役割として、いつも子どもたちの側に立ち、深く理解している先生の存在は欠かせません。


――学校現場で外部のおもしろい大人を巻き込むには、どんな一歩を踏み出したらいいでしょうか

何かきっかけを探していたりヒントを得たい場合は、SNSでもブログでも何でもいいので、自分の考えを発信してみるといいと思います。

あとは、異業種の友人や生徒の保護者さんに「ちょっと授業してみてくれない?」と一日教師を依頼してみてください。保護者の方々も普段は何かしらのプロだったりするし、仲のいい友人であれば無償で協力を得やすいからです。

そして特別授業ができる運びとなった際には“先生”ではなく全力で“ファシリテーター”になってください。そういう働き方もとても楽しいので、ぜひ一度やってみてほしいですね。


――最後に、現場で奮闘されている先生方へ、メッセージをお願いします

何度も言いますが、学校も、学校の先生も、無敵です。

無条件に信頼されている特権を生かして、外部の方を学校に積極的に巻き込んでいってほしいと思っています。

そしてもう一つ。
教育がギフトになる時代の先生というポジションは、毎日子どもたちと一緒に新しいギフトを味わえる「学びの特等席」に座れるってことでもあるんです。

それってすごく贅沢ですよね。教師もいつだって学び直せる。一緒に楽しみましょう!