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一人ひとりのワクワクが学びの軸になる!次世代人材の育成に挑む「未来の教室」

一人ひとりのワクワクが学びの軸になる!次世代人材の育成に挑む「未来の教室」

今、世界は情報社会(Society4.0)から、超スマート社会(Society5.0)へと移行し始めている。そのような社会の変革期の中で、特に大きな変化を求められているのが教育だ。

新たな社会で求められる人材をどう育てるか、そしてその人材を育てる教師はどうあるべきか。その問いへの答えを模索するために動き出したのが、経済産業省の「未来の教室」である。

2018年から本格始動した「未来の教室」では、子どもたちが未来を創る当事者(チェンジ・メーカー)となるためのビジョンを掲げ、多くの実証授業を行って成果を挙げている。

なぜ、経済産業省が教育分野に乗り出したのか。そして「未来の教室」が描く、これからの教育とは!?

2020年4月までサービス政策課教育産業室課長補佐として「未来の教室」を総括してこられた柴田寛文さんに、その想いを伺った。

写真:柴田 寛文(しばた ひろふみ)
柴田 寛文(しばた ひろふみ)
2008年入省。企画金融政策、医療介護周辺サービス政策、東日本大震災後のエネルギー基本計画の検討、福島県第一原発の廃炉・汚染水対策の計画策定の業務等に従事。2015年10月からの約2年9カ月間、人事交流にて、厚生労働省年金局事業管理課に在籍。日本年金機構の業務改革、年金関連法改正の対応、マイナンバーを扱う業務や行政手続き簡素化・電子申請義務化の実現に向けた企画立案等に従事。2018年7月よりサービス政策課・教育産業室の課長補佐(総括)に着任。サービス産業の生産性向上の大ミッションと併せて、長女(8歳)、長男(6歳、自閉症・知的障がい)の親として、自分ごととして、「未来の教室」プロジェクトに従事。

次世代人材の育成に挑む「未来の教室」

——まずは経済産業省(以下、経産省)が展開されている「未来の教室 Learning Innovation」について、どのような取り組みかを教えていただけますか

未来の教室」は、次世代を担う人材の育成を目的とした実証事業です。

【①学びのSTEAM化】【②学びの自立化・個別最適化】【③新しい学習基盤づくり】の3つを柱に、効率的な知識習得と創造的な課題発見・解決能力育成を両立する新たな教育プログラムの開発・実証を行い、学校・学習塾・個人学習で使える国内・世界のEdTechの最新動向等を広く情報発信しています。

2018年の7月に本格的にスタートしました。




——皆さん抱かれる疑問だと思いますが、経産省がなぜ教育の領域に取り組もうとされたのでしょうか、その背景を教えてください

これまで経産省は、人生100年時代の産業で活躍する人材に必要な「社会人基礎力」を提唱するなど、大学生や社会人に必要な力を育む政策を打ち出してきました。

しかし、数年前から果たしてその世代の育成にだけ注力していていいのだろうかという議論がなされるようになったんです。

結果的に、小中学校や高等学校へも政策的なフォーカスを当てていこうという議論となり、2017年に教育産業室が立ち上がりました。

日本は昔から、与えられたフィールドの中で質の高い最適解を作るのは得意ですが、特に国際競争の場面において、ルール自体を見直したり新たなルールを作るのは苦手ということが長らく指摘されてきていました。

そういった課題に向き合わなくていいのかという問題意識の中で教育産業室が生まれ、「未来の教室」が動き出しました。


——次世代を担う人材をどう定義されているのでしょうか

次世代人材のキーワードというのは、例えば「知識を活用し、自分で考える」「感性、好奇心、探究力」「他人と異なる異質な考えや能力」「失敗を恐れずに挑戦」などいろいろありますが、私が講演などでいつも紹介させていただいているのは、相対性理論で有名な20世紀を代表するドイツの物理学者アルベルト・アインシュタインの言葉です。


『教育とは、学校で学んだことを一切忘れてしまった後に、なお残っているもの。そして、その力を社会が直面する諸問題の解決に役立たせるべく、考え行動できる人間を育てること、それが教育の目的と言えよう』


経産省で働いている職員は、どのような政策領域と向き合っていても、突き詰めると結局この考えにたどり着くのかなと感じています。

次世代を担う人材というのは、「教育を通して手にしたスキルや思考を、社会が直面する諸問題の解決に役立たせるべく、考え行動できる人間」なのだと思います。

ただ、社会に出ていく準備段階の学校において、社会で問われる力を想定して実践が行われているかというと、まだまだできていないというのが現状です。ですので、学校での学びと実社会の紐付けが、教育産業室の大きなミッションだと考えています。


一人ひとりのワクワクが学びの軸になる

——次世代を担う人材育成のために「未来の教室」ではどのような取り組みをされていますか

「未来の教室」が目指す姿をまとめた図があるのですが、「一人ひとりのワクワク」を中心に、【知る】と【創る】がサイクルになっています。



私自身、学生時代は生物の授業に夢中でした。生物って、細胞分裂やDNA、ホルモン、酵素や消化、全て自分の身体の中で起きていることなんですよね。

一度ワクワクが生まれると、授業外でも夢中で勉強するようになって、図書館で本を借りて読むと知らない単語ばかりなので、一つ一つの単語をノートに書き出して自分なりに単語帳を作ってみたり。そうするとまた分からないことが出てくるので、没頭しながら学んでいました。

「未来の教室」で言うと、これがワクワクを軸にした【知る】から【創る】に移行しようとしていた部分です。

さらに、外に対して成果を発信していくことによって、他者からフィードバックがもらえるので自分が探究してきたことの考えがどこまで正しかったのか、足りない着眼点は何かが明らかになります。

そうすると足りなかった部分をまた埋めようと【知る】モチベーションが高まっていき、探究が深まっていく。この循環がすごく大事なんだと思うんです。



——日本の教育では【知る】は充実している気がしますが、【創る】が足りないように感じます

まさにそうで、今の学校では【知る】だけになってしまっていて、【創る】がありません。

ですので、「未来の教室」では【知る】の部分はデジタル教材も活用し、効率良く短時間で学び、与えられている時間の多くを、思考を巡らせる【創る】時間に費やす取り組みをしています。

これを私たちは「学びのSTEAM化」と呼んでいます。

さらに、生徒一人ひとりのワクワクが学びの軸になるということは、学習が各人各様のものになります。そこで「学びの自立化・個別最適化」が必要になってきます。

そして「学びのSTEAM化」と「学びの自立化・個別最適化」を実現するためには、新しい学習基盤が必要になります。

そこに文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想がバチッとはまってくるわけです。ICT環境が整い、ネット環境が整備されると、いよいよその上で描かれる「未来の教室」が現実味を帯びてきます。

文科省の政策と経産省の政策ががっちりクロスして、ここから先どう価値あるものに昇華させていくか、ここからがスタートです。


——「ワクワク」という定義しづらい言葉を使っているのがいいですね

政府が出しているレポートで「ワクワク」とか書いているレポートは我々のものだけだと思います(笑)。

でもワクワクって何かって整理しようと思っても、なかなか他の言葉にできないんですよね。定義しようとすればするほど面白くないものしかできないので、あえて境界線を曖昧にしていくことによって、「一体なにを目指しているのだろう」「これって正解なんだろうか」などの不安は生まれるとは思いますが、「正解がない世界」と言われているのが現在です。

ですので、この曖昧さ、不安と同居しながら、いろいろな方向に興味が伸びていく可能性を持っていると思います。


先生は子どもたちにとっての「灯台」

——「未来の教室」を2年ほど運営されて、実証授業を体験した生徒たちや先生の様子を伺えますか

実証授業を行うと、生徒も先生も確実に変わっています。

例えば長野県のある高校で民間企業の力を借りてSTEAM学習に挑戦したのですが、授業をやる前の先生方の懸念事項として「集中力がもたないのではないか」「コミュニケーションが減るのではないか」「まだこういう取り組みをするには早いのではないか」などが挙がっていました。

ですが実際に授業をしてみると、テストの得点率が約3倍にアップし、授業中の私語も大幅に減り、家に帰ってもなお課題に取り組んだ子も多く見られました。また、先生方の授業準備の時間が大幅に減ったことも実証されました。

授業後に特に印象深かったのは、「学習意欲がないのは、生徒の責任ではなかったことが分かった」という校長先生の言葉でした。

もちろん新しいものを実践するには手をかけないとなかなか難しい面はありますが、結果は確実についてくるので、まずは挑戦してみるということが大切だと思います。

時に励まし、時に諭しながら、経産省も一緒に伴走させていただきます(笑) 。



——【知る】だけでなく【創る】のサポートもしていく先生の役割は、どう変化していくと思われますか

これまで教科書に載っていることが全てだった世界から、ICT 環境が整っていくことでさまざまな情報にアクセスできる世界に変わっていきます。

それは皆さんも実感されているのではないでしょうか。ですので、これからは学校だけでなく、いろいろなところへ学びが広がっていく時代になります。

ICTのようなデジタルな世界だけでなく、実社会全てが学び場です。
情報やデータが蓄積されている図書館や美術館も、その可能性やリソースを使いきれていないので、そういった場所での学びも広がるはずです。

そうすると生徒たちは、自分が思ったことや感じたことを探しに行くことができるようになります。

その中での先生の役割は、さまざまな情報にアクセスすることを許し、後押しし、違ったらここに戻っておいで、また一緒に考えようっていう存在になっていくと思います。

例えるとするなら、海の道しるべである「灯台」のような。



——先生自身も、外の世界と繋がることで豊かになっていくように思います

その通りだと思います。先生自身が外の世界とつながることも、とても大事になってきます。

でも別に新しいことをする必要もないと、私は思っています。だって先生は、保護者という外の人の第一接点をすでに持っているからです。保護者の中には私のように公務員として働いている人もいるだろうし、エンジニアだっているし、町の中小企業の社長さんだっているでしょうし。

30人以上の生徒の担任をしていれば、30通りの外へのアクセスポイントをもうすでに持っているということなんですよね。もっともっと保護者というリソースに頼ってほしいなと思います。

私もPTA活動に参加する中で、副校長先生に私はこういう仕事をしていて、こういうことができます、企業の方ともおつなぎできますっていう紙を作成して渡したんですが、保護者側からもそういったアクションを起こしていけるといいなと思っています。


——では最後に、今の教育現場では何かを変えたいと思いながらも、その一歩をなかなかうまく踏み出せない先生もいらっしゃいます。そんな先生方にぜひメッセージをお願いします

私も教育産業室にいたこの2年間の中で手にすることができた感覚なんですが、「自分の思った通りにやってみていいんだ」と思えるかどうかだと思います。そこが重要なポイントのような気がしています。

私自身、上司に相談したり確認したりしながら進める業務がある一方で、その枠を超えて気がついたら「こうしたらいいのではないか」という想いに駆られて行動していたということもいくつもあったような気がしています。

その中で、多くの方々からポジティブなフィードバックを得ることができ、「自分の思った通りにやってみていいんだ」と思えるようになり、その積み重ねが今の私を作っているんだと思っています。


今回この記事を読んで、何か少しでも感じるものがあったなら、「なんだかすごい話を読んだなぁ」ではなくって、そういうことが自分にも許されるんだという前提を持っていただいて、その中でどう自分の中で小さなチャレンジを積み重ねていくか、を考えていただきたいなと思います。

思いついたチャレンジが、小さなチャレンジに感じたとしても、そんなことは全然気にしなくていいんです。

その小さなチャレンジの積み重ねの先に、大きな動きを作っていけるようになるという希望が待っていると思います。

これを読んだあなたが、まずは小さな一歩を踏み出してみようと思えるきっかけになるといいなと願っています。