【第4回】 教育現場で活かせるコーチングの考え方について「傾聴」編

なぜ今、教育の世界で「コーチング」や「ファシリテーション」が注目されているのか?
伴走者として、学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング(的な関わり)や、ファシリテーションスキルを紹介する連載です。

この連載では、伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効な、コーチング的な関わりやファシリテーションスキルを紹介させていただいています。
※ 本連載で「コーチング」ではなく「コーチング的な関わり」という表現を使っているのは、私が教育現場においてコーチングのスキルや考え方・マインドセットなどが活用できると考えている一方、子どもたちに対して教育現場の中で行うその関わりは、あくまで純粋な「コーチング」ではないと線を引くためです
まず初めに、私のメインの所属組織が、この連載をスタートした当時から変化しましたので、文脈をお伝えする意味を込めて改めて簡単に紹介させていただこうと思います。
これまで、復興支援NPO→公立小学校(認定NPO法人TeachForJapanより派遣)→株式会社LITALICO→株式会社CoachEd(コーチェット)とキャリアを歩み、それらの本業や本業以外での活動の機会・学びの機会を通してコーチングやファシリテーションについての理解を深め、実践をしてきたのですが、2021年の4月から縁あって5年ぶりに学校に戻ってまいりました。
長野県軽井沢にある、幼稚園と義務教育学校からなる12年間の幼小中混在校「学校法人軽井沢風越学園」で、教育に関わっています。
複業として、引き続き株式会社CoachEd(コーチェット)にて起業家や経営者の方を中心にコーチングを学ばれるサポートをしたり、自身がコーチングを行ったり、ファシリテーション業務に関わったりと活動しているのですが、メインの仕事としても自分自身がコーチング的な関わりやファシリテーションスキルを活用して子どもたちと関われる立場となりました。
そんな環境の変化もあり、連載当初4回までと予定していたこの連載を、もう少し継続させていただく運びとなりました。「HOPE」を購読されている皆様、特に現場で奮闘されている皆様にとって、少しでも学びや気づきのある情報をお届けできればと思いますので、もう暫くお付き合いいただけますと嬉しいです。
さて第4回となる今回は、第2回に引き続き、子どもたちに伴走する教育関係者の皆様が、教育現場で活かせるコーチングの考え方について、お伝えできればと思います。
※ なお、本連載においては、コーチングやファシリテーションの定義や方法論に固執するのではなく、紹介させていただくポイントを参照、実践いただきながら、学びの伴走者として皆さまご自身にとってのコーチングやファシリーテーションの可能性を模索していただければうれしく思います
コーチングの基本スキル「傾聴」
今回取り上げたいコーチングのスキルは、「傾聴」のスキルです。
第2回でお伝えした「コーチのマインドセット」や「バックキャスティング思考」などに加えて、学び手に対するコーチング的な関わりを行う上で基本中の基本と言われるスキルです。
皆様は、普段どれぐらい子ども達や同僚など、相手の話をどれぐらい「聴く」ことができていますか?
相手の話を聴いているふりをして、本当は自分が次に何を話そうか考えていることはありませんか?
相手の話を聴いているふりをして、「きっとこの人は(この子は)こう言いたいんだろうな」と、こちらが勝手に相手の話のオチを決めつけてしまっていませんか?
(私は、結構あります。。。)
上記のような状態を、世界最大のコーチ養成機関、米国CTIのコーチ育成プログラムの中では「レベル1の傾聴(内的傾聴)」「レベル2の傾聴(集中的傾聴)」「レベル3の傾聴(全方位的傾聴)」のうち、「レベル1の傾聴(内的傾聴)」と呼んでいます。
相手の言葉を聴いてはいるものの、それが自分自身にとって何を意味するかなど、意識は自分の内側に向いている状態を指します。
コーチングにおいては、コーチは相手に意識の焦点を当てる「レベル2の傾聴(集中的傾聴)」と、相手の周囲全てに焦点を当てる「レベル3の傾聴(全方位的傾聴)」を行き来しながら傾聴をしていくのが理想だと言われています。

―人の潜在力を引き出す協働的コミュニケーション』
自分の聴き方の状態を自覚する
この「レベル1の傾聴(内的傾聴)」は、コーチング的な関わりを受ける側(教育の文脈で言えば学び手)にとっては理想の状態だと言われています。
相手の質問や問いによって、自分自身の内側での思考が進み、自分なりの答えを探せる状態にあるからです。
一方、伴走者として学び手に関わる皆様が、相手の話を聴いているつもりで「レベル1の傾聴(内的傾聴)」に陥っている場合は、「この人は聴くと言いながら、結局聴いてくれていないな」「最終的に自分の意見を押し付けられるのだろうな」などと、相手との信頼関係を損なうことにも繋がりかねません。
また、一見聴いているようで学び手の話に耳を傾けきれていない状態は、無意識に伴走者側の意見を押し付けることや、伴走者をコントロールしてしまうこと、結果として学び手主体の学びを阻害することにも繋がるのではないでしょうか。
もちろん、どの場面においても「レベル1の傾聴(内的傾聴)」が悪いと言いたい訳ではありませんし、コーチングにおいても、コーチがレベル1の傾聴(内的傾聴)状態に陥る事も珍しくありません。
(その際コーチは、それを自覚して「レベル2の傾聴(集中的傾聴)」以上の状態へと立て直します)
ただ、相手の話を聴きたい場面、聴いているつもりの場面で、「レベル1の傾聴(内的傾聴)」に陥りがちだと感じられる方は、「自分は本当に相手(学び手)の話を聴くことができているのだろうか」「そもそも相手(学び手)の話を聴きたいと思っているのだろうか。本当は結局こちらがコントロールしたいだけなのではないか」と、自分の聴き方や、本当に相手の意見や話を聴きたい場面なのかどうかなど、一度立ち止まって考えてみてもいいかもしれません。
また伴走者の皆さんが、相手の話を聴きたい場面、聴いているつもりの場面で、「聴くよと言いながら、こちらが相手に伝えたいことや、教えたいことで頭がいっぱいだな」などと思われた際には、「聴いているふり」をするのではなく、一度聴くことを中断して「一つ伝えたい事があるのだけど、いいかな?」などと、相手に正直に伝えてみるのもいいかもしれません。
今回はコーチングの中で扱う「傾聴レベル」という表現でお伝えしましたが、自分の聴き方の状態を自覚しながら、目的や場面に応じて使い分けることは、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるための一つのポイントになるのではないでしょうか。
この記事では「レベル2の傾聴(集中的傾聴)」や「レベル3の傾聴(全方位的傾聴)」などについては詳しく扱えませんでしたので、もし「レベル2の傾聴(集中的傾聴)」や「レベル3の傾聴(全方位的傾聴)」についても詳しく知りたいと思われた方は、世界最大のコーチ養成機関、米国CTIのコーチ育成プログラムのコーチングについて詳しく書かれている『コーチング・バイブル ―人の潜在力を引き出す協働的コミュニケーション』を読んでみてください。
今回の内容が、変化が激しく未来が見通しにくい今の時代に伴走者として学び手に関わる皆様にとって、学び手のより良い成長・変容に関わる際の一助となっていれば幸いです。
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