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【第10回】コーチングはどのように学ぶのか(2)

【第10回】コーチングはどのように学ぶのか(2)

なぜ今、教育の世界で「コーチング」や「ファシリテーション」が注目されているのか?

伴走者として、学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング(的な関わり)や、ファシリテーションスキルを紹介する連載です。

写真:木村 彰宏(きむら あきひろ)さん
木村 彰宏(きむら あきひろ)さん
国家資格公認心理師 / 国際コーチング連盟(ICF)認定 プロフェッショナル・サーティファイド・コーチ(PCC) / LEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎ メソッドファシリテーター

復興支援NPO職員、小学校の教師というキャリアの後、株式会社LITALICOに入社してLITALICOジュニア事業部にて子どもたちの発達支援に関わる。その後、人材開発部にて教育に興味関心ある学生や社会人のキャリア支援に従事。2020年4月からは、コーチングを通じて起業家や経営者をサポートする株式会社コーチェットにジョインし、トレーナー兼コーチとして活動。2021年4月からは軽井沢風越学園に参画し、5年ぶりに学校に戻って教育に関わっている。その他、複業として、プロコーチとしての業務、研修・WS設計、ファシリテーション業務、キャリア教育、教員の伴走支援などさまざまな活動を行っている。

この連載では、支援者・伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効な、コーチング的な関わりやファシリテーションスキルを紹介させていただいています。

(本連載で「コーチング」ではなく「コーチング的な関わり」という表現を使っているのは、私が教育現場においてコーチングのスキルや考え方・マインドセットなどが活用できると考えている一方、子どもたちや同僚などに対して教育現場の中で行う関わりは、あくまで純粋な「コーチング」ではないと線を引くためです。また、本連載においては、コーチングやファシリテーションの定義や方法論に固執するのではなく、紹介させていただくポイントを参照、実践いただきながら、学びの伴走者として皆さまご自身にとってのコーチング的な関わりやファシリーテーションの可能性を模索していただければうれしく思います)

こうやって雑誌で記事を書かせていただいたり、さまざまな自治体や企業でコーチングについての研修をさせていただいたりしていると、「コーチング的な関わりが教育や人材育成に活用できるのは良く分かりましたし、紹介してもらった一つひとつのスキルはすぐにでも取り入れられそうなのですが、もう少し詳しくコーチングを学ぶにはどのようにすればいいですか?」という質問を多くいただきます。

そこで、前回(第9回)と今回の2回に分け、「コーチングはどのように学ぶのか」というテーマで、私がおすすめするコーチングの学び方についてご紹介しています。(1)学ぶ目的を明確にする (2)コーチングを受けてみる (3)コーチングを学ぶ (4)コーチングを実践する (5)コーチングを振り返る という5つのステップのうち、前回は(1)(2)を紹介しましたので、今回は(3)の「コーチングを学ぶ」からご紹介していきます。


(3)コーチングを学ぶ


書籍、コーチングスクール、論文、研修、ネット記事、動画、大学院、などなど…。2023年5月時点で、世界中にコーチングを学べる多くの手段が存在します。

ただ、それぞれで言及されているコーチングというものの定義や、そんなコミュニケーションを構成しているスキルやマインドセット、コーチングの進め方などには開きがあります。その背景としては、コーチングというコミュニケーションの流派の多様性や、コーチングという表現を使う方がどこまでのコミュニケーションをコーチングだと捉えているかの違いなどが関係しています。例えば、ビジネスのマーケティング手段としても、最近コーチングという表現がよく使われていますが、正直「その関わりは本当にコーチングと言えるのか…?」と突っ込みたくなるものも少なからず存在します。

前回の記事では、(1)の「学ぶ目的を明確にする」の中で、どんな場面で誰に対して、コーチング的な関わりを活用したいですか?という質問をしました。学校での子どもとの関わりで活用したい、授業の中で活用したい、子育てで活用したい、同僚への関わりで活用したい、部下の育成において活用したい、プロのコーチになりお金をいただいて他者へコーチングを提供したい、など目的はさまざまだと思います。

コーチングを詳しく学びたいという方は、上記で説明した背景や、前回の記事で扱った自分がコーチングを学ぶ目的などを踏まえた上で、どんな学び方の手段を選ぶかを考えてみて下さい。

例えば、教育現場において子どもや同僚、保護者との関わりの中でコーチングを活用したいという方は、コーチングに関する基礎的な内容が書かれた書籍や、教育関係者が書かれたコーチングの教育的活用に関する書籍などを数冊読んでみたり、組織や個人が主催されているコーチングについての短い期間の研修に参加する程度でも、充分に効果があるでしょう。

一方で、私のところにもよく相談が来る「プロのコーチになりたいのですが、どうしたらいいですか?」というような方へは、やはりしっかりとしたコーチングスクールへ通うことをおすすめしています。「しっかりとしたコーチングスクール」の定義については、前回の記事(2)の「コーチングを受けてみる」で紹介した内容を参考にしてみてください。

前回の記事も含め、ここまでで(1)学ぶ目的を明確にする、 (2)コーチングを受けてみる、(3)コーチングを学ぶ、について説明してきましたが、この3つについてはどの順番で取り組んでも良いかと思います。

ただ、コーチングスクールでコーチングを学ぶことを検討されている方は、高額な自己投資になりますので、(1)や(2)のステップを踏み、自分に一番合った信頼できるスクールを選択することを強くおすすめします。国際コーチング連盟(ICF)の認定を受けたコーチングスクールとカリキュラム等を比較して「それはひどい…」と言いたくなるようなスクールが存在しているのも事実だからです。


(4)コーチングを実践する


(1)〜(3)のステップを踏み、コーチングというコミュニケーションへの解像度を高めたら、いよいよ実践です。

なお(4)(5)のステップについて、今回の記事では冒頭で述べた「コーチング的な関わり」についての内容は含めず、純粋なコーチングやその振り返り方にのみ焦点を当てて紹介します。コーチングの背景理論やマインドセットなどを活用した「コーチング的な関わり」における実践や振り返り方法までここで触れてしまうときりがないためです。

学び深める目的でコーチングを実践する際には、(1)〜(3)のステップを踏んだ上で、自分が今コーチングを学んでいるスクールの講師(プロコーチ)や、協力してもらえる知人、同じくコーチングを学ばれている方などにクライアント役をお願いし、その方が本当に扱いたい悩みやテーマに対するコーチングをして、練習することをおすすめします。コーチには守秘義務があるため、実践練習でクライアント役から聞いた話はどこにも漏らさないことが前提になります。こういった練習のことを、「デモコーチング」と言います。

デモコーチングを通して練習するメリットは、クライアント役の方から直接フィードバックをもらって振り返りができることです。教育でいうところの、「模擬授業」に近い練習方法です。

なお、知人にクライアント役をお願いする際には、あまりにも親しい相手を対象にコーチングの練習をすることはおすすめできません。親しすぎる相手のコーチングを行うと、親しすぎるが故にコーチの感情や意見が強く働いてしまい、結果ティーチングやコンサルティング寄りの関わりになってしまうからです。コーチングや、コーチングと類似性が高いコミュニケーションであるカウンセリングの世界では、二重関係 (専門的な関係以外の私的な関係があること)の相手にコーチングやカウンセリングをすることは良くないとされています。

また、SNSなどで時々「コーチングの練習をしているので、コーチングを受けたい方を募集しています」という投稿を見かけるのですが、こういう募集をする場合は、何よりも相手を傷つけないために、自分が練習したいコーチングがどんなコミュニケーションなのか、どんなコミュニケーションではないのか(例えば、カウンセリングではないことなど)を事前にはっきりと説明することが非常に重要です。

上記の内容も踏まえた上で、丁寧なやり取りを通して協力してもらえるクライアント役の方を探し、(2)コーチングを受けてみる、(3)コーチングを学ぶのステップを通して学んだコーチングの実践にチャレンジしてみてください。


(5)コーチングを振り返る


アンテナの高い教育関係者の方は、授業を子どもたちにとってより良いものにしていくために、リフレクション(振り返り)を行うことの重要性をご存知の方が多いかと思います。コーチングも同じように、クライアントの方にとってより良いものにしていくためには、実践後のリフレクション(振り返り)を通した研鑽が欠かせません。

コーチングの振り返りには、チェック項目等を決めて自己採点する、クライアント役の方から直接フィードバックをもらう、実践動画を撮影して後から見返す、実践を録音して後から文字起こしをする、動画や音声などを元にプロコーチからスーパーバイズしてもらう、などの方法があります。勿論、動画の撮影や録音は、クライアント役の方へ許可をもらった上で行ってください。

例えば、クライアント役の方に「あなたにとってどんな時間だった?」と質問をしてフィードバックをもらう方法は、コーチングを受けた本人から感想を聞いて振り返りができる貴重な機会ですが、クライアント役の方のコーチングに対する理解度や言語化スキル等がフィードバックの質を左右してしまうという側面もあります。

一方、動画や文字起こしを元に振り返る方法は、かなり手間はかかりますが、例えば動画だとコーチ役である自分やクライアント役である相手の表情や声の抑揚、互いの感情などにまでフォーカスをしながら振り返りをすることができます。また、文字起こしをすると、自分の言葉遣いや質問の癖などをかなり細かく把握することができます。

何を目的に、どこに重きを置いて振り返りたいかによって、望ましい方法を選択するのが良いでしょう。

ここまでが、私がおすすめするコーチングの学び方、5つのステップです。必要に応じて(1)〜(5)までのステップを何度も繰り返しながら研鑽を積んでいくことで、目的に応じてコーチングを学び深め、研鑽し続けることができます。

コーチングは人の可能性を信じて関わり続け、相手の可能性をひらいていく素晴らしいコミュニケーションです。ですが同時に、教育や授業と同じように、学び進めると終わりのない、とても難しいコミュニケーションでもあります。

私もプロコーチとして、さまざまな方のコーチングに1,500時間以上関わってきましたが、何度実践を行っても「あの場面でもっとこういう質問(問いかけ)をした方が、クライアントにとっての新しい発見につながった気がするな…」「あの場面では、しっかり傾聴ができていなかったな…」「じっくりと話を聞こうとするあまり、承認が少ないコミュニケーションになってしまっていたな…」など、反省ばかりです。

これからコーチングを詳しく学んでみたいという方は、ぜひ、本記事で紹介した5つのステップも参考にしながら、学び進めてみてください。

今回の内容は、いかがでしたでしょうか。

本記事の内容が、変化が激しく未来が見通しにくい今の時代に伴走者として学び手に関わる皆さまにとって、学び手のより良い成長・変容に関わる際の一助となっていれば幸いです。

連載内容について何かご質問等ございましたら、いつでもTwitter(@1130kimura)のDMにてご連絡くださいませ。