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【第6回】教育現場で生かせるコーチングの考え方について「質問(問いかけ)」編/その1

【第6回】教育現場で生かせるコーチングの考え方について「質問(問いかけ)」編/その1

なぜ今、教育の世界で「コーチング」や「ファシリテーション」が注目されているのか?

伴走者として、学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効なコーチング(的な関わり)や、ファシリテーションスキルを紹介する連載です。

写真:木村 彰宏(きむら あきひろ)
木村 彰宏(きむら あきひろ)
復興支援NPO職員、小学校の教師というキャリアの後、株式会社LITALICOに入社してLITALICOジュニア事業部にて子どもたちの発達支援に関わる。その後、人材開発部にて教育に興味関心ある学生や社会人のキャリア支援に従事。2020年4月からは、コーチングを通じて起業家や経営者をサポートする株式会社コーチェットにジョインし、トレーナー兼コーチとして活動。2021年4月からは軽井沢風越学園に参画し、5年ぶりに学校に戻って教育に関わっている。その他、複業として、プロコーチとしての業務、研修・WS設計、ファシリテーション業務、キャリア教育、教員の伴走支援などさまざまな活動を行っている。LEGO®︎ SERIOUS PLAY®︎ メソッドファシリテーター。

この連載では、支援者・伴走者として学び手に関わる方々が、学び手の主体的・対話的な学びを加速させるために有効な、コーチング的な関わりやファシリテーションスキルを紹介させていただいています。

※本連載で「コーチング」ではなく「コーチング的な関わり」という表現を使っているのは、私が教育現場においてコーチングのスキルや考え方・マインドセットなどが活用できると考えている一方、子どもたちに対して教育現場の中で行うその関わりは、あくまで純粋な「コーチング」ではないと線を引くためです

さて、第6回となる今回は、第2回・第4回・第5回に引き続き、支援者・伴走者として学び手に関わっていらっしゃる皆さまに、現場で生かせるコーチングの考え方について、お伝えできればと思います。

※なお、本連載においては、コーチングやファシリテーションの定義や方法論に固執するのではなく、紹介させていただくポイントを参照、実践いただきながら、学びの伴走者として皆さまご自身にとってのコーチングやファシリーテーションの可能性を模索していただければうれしく思います

本連載ではコーチングについて、「教育的文脈で捉え直したときに、浮き上がってくる共通点として、ティーチングやコンサルティングのように専門家が答えや知識を与える関わりではなく、伴走者が学び手に問うことや引き出そうと働きかけることを通じて、学び手が自分自身で考えや意見、また答えを見出していくことをサポートする関わりである」とお伝えし、これまで、教育現場でも生かすことのできるコーチングの考え方やスキルとして「マインドセット」「バックキャスティング思考」「傾聴」「承認」について紹介してきました。

それを踏まえ、今回と次回に分けて取り上げたいのは「質問(問いかけ)」についてです。第1回の連載でお伝えした上記の定義から見ても、コーチングに不可欠なスキルとなります。

特に今回は、そんなコーチングにおける「質問(問いかけ)」の目的や、「質問(問いかけ)」を活用される際に大切にしていただきたいマインドセットについてお伝えします。

※本記事では、普段のコミュニケーションと区別をするため、コーチングにおいて使用する質問のスキルについては「質問(問いかけ)」と表記させていただきます


コーチングにおける「質問(問いかけ)」とは?

皆さまは普段、どんな場面で質問をされますか?

皆さまが普段のコミュニケーションにおいて行われる「質問」とは、質問をする側が相手から知りたい情報を手に入れることを目的としたアプローチであることが多いのではないでしょうか?

例えば、次のようなものがそれに当たります。

「出身地はどこですか?」「何時に帰ってくるの?」「宿題はやった?」「体調はどう?」

一方で、コーチングにおける「質問(問いかけ)」の大きな目的とは、相手がまだ自分では自覚・整理しきれていない本人の願いや感情・考えなどをクリアにして、相手が望む方向へ前進していくのをサポートすることにあります。

具体的な例を挙げてみると、例えば次のような「質問(問いかけ)」があります。

「具体的にはどんな感じ?」「他には何かありそう?」「あなたにとってどんな意味があるの?」「どんな風に感じる?」「1カ月後にはどうなっていたいの?」「そこに向けてどんなことができそう?」

皆さまはもしかすると、これまで他者からされた上記のような「質問(問いかけ)」によって考えが整理された体験や気づきを得た経験、目標が明確になった体験などがあるのではないでしょうか?

そのような体験を意図的に起こすために用いるのが、コーチングにおける「質問(問いかけ)」であり、普段のコミュニケーションにおいての質問との決定的な違いとなります。


「答えは相手の中にある」というマインドセットが大切

コーチングに用いる一つ一つの「質問(問いかけ)」の目的を、もう少し細かく整理してみると、例えば世界5カ所に拠点をおくグローバル・コーチング・ファーム「コーチ・エィ」が『新版 コーチングの基本』の中で紹介しているものを引用すると、主に以下の図ようなものがあります。

新版 コーチングの基本』より抜粋

上記の目的はもちろんほんの一部でしかなく、質問の目的は多岐にわたります。

コーチングにおいてコーチは、例えば第4回で紹介した「傾聴」などを用いて相手の話をよく聴き、相手が置かれている状況を的確に判断した上で、明確な意図や目的を持ってクライアントにさまざまな「質問(問いかけ)」を行っていきます。

これら、コーチングにおける質問の目的を、皆さまが現在支援者・伴走者として関わっていらっしゃる学び手への関わりに置き換えてみると、いかがでしょうか?

例えば「他には何がありそう?」という「質問(問いかけ)」は、学び手が他の選択肢を出すことや新しいアイデアを見つけることにつながるかもしれませんし、「具体的には?」という「質問(問いかけ)」は、学び手が考えている物事を具体的にすることや、問題点を明確にするサポートができるかもしれません。

「それができるとあなたはどんな気持ちになるの?」などと「質問(問いかけ)」をすることで、本人のモチベーションをあげることにつながるかもしれません。

既に教育現場において、皆さまが学び手に対して意図的に行われているコミュニケーションの目的と重なることもあるかもしれませんが、ぜひ、学び手にどんな場面でどんな「質問(問いかけ)」をすると、上記で紹介した「質問の目的の例」のようなサポートができるかを考えてみてください。

最後に、学び手の主体的な学びに向けて「質問(問いかけ)」を通したサポートを行う上で、何よりも大切にしていただきたいのが、「答えは相手の中にある」「相手のために質問をする」というマインドセットになります。

私は現在、風越学園での業務以外に、株式会社コーチェットという会社で、経営者や会社でマネジメントに関わる方々に「コーチングを教える」という業務に関わらせていただいていますが、そこで出会うクライアントの皆さんがコーチングを学ばれる中でよくおっしゃるのが、「相手(部下など)に主体的に行動してほしいからコーチング的な関わりを意識したいのだけど、相手のための質問をするのが難しい。自分が相手を管理するために、相手から自分が望む答えを引き出す質問になってしまう」というものです。

相手がまだ自分では自覚・整理しきれていない本人の願いや感情・考えなどをクリアにして、相手が望む方向へ前進していくのをサポートするために、コーチング的な関わりや「質問(問いかけ)」をしようとしているつもりが、ついつい自分が相手から知りたい情報を聞くための質問や、自分が相手に望む回答を引き出すための質問になってしまうことがあるのです。

もちろん、支援者・伴走者としても、そういった質問が必要な場面もあるかと思いますが、学び手の主体的な学びのサポートを目的とされる場合は、ぜひ「答えは相手の中にある」「相手のために質問をする」という「マインドセット」を大切に、「質問(問いかけ)」をすることを意識してみてください。

今回はコーチングの中で扱う「質問(問いかけ)」について、その目的と、意識したいマインドセットについてお伝えしました。

本記事の内容が、変化が激しく未来が見通しにくい今の時代に伴走者として学び手に関わる皆さまにとって、学び手のより良い成長・変容に関わる際の一助となっていれば幸いです。

連載内容について何かご質問等ございましたら、いつでもTwitter(@1130kimura)のDMにてご連絡くださいませ。