9時半始業やチャレンジスペース。「安心して登校できる」を設計する、東京みらい中学校。「やったらできた!」という成功体験や感動体験を共に
東京都足立区に誕生した学びの多様化学校、東京みらい中学校。母体は「人を活かし、困難を希望に変える」をミッションに掲げ、全国で大学や短大、専門学校や通信制高校を運営する三幸学園だ。
三幸学園初の中学校として、全授業を対面とオンラインで自由に選べるハイフレックス配信とし、教員2人体制、教室外の「チャレンジスペース」を整え、不登校経験のある子どもたちの“来られる形”を広げている。
これまでの学校運営で培った知見や仕組みを中学校運営に生かしながら、どのような変化が生まれているのか。開校から1年あまり――試行錯誤を続ける副校長の齊藤貴雄さんに、学びの多様化学校の可能性と課題を聞いた。
大学卒業後、2008年学校法人三幸学園入職。2023年10月、東京みらい中学校の準備室着任を機に同校の立ち上げに参画。それまで三幸学園で専門学校や通信制高校の運営に携わってきた経験を生かし、学園初の中学校事業である学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)の運営に従事。
登校のハードルを下げるさまざまな工夫
——東京みらい中学校は、どのような経緯で設立されたのでしょうか?
三幸学園は「人を活かし、困難を希望に変える」というミッションのもと、全国で大学や短大、専門学校や通信制高校を運営してきました。不登校の課題にも、飛鳥未来高等学校・飛鳥未来きずな高等学校・飛鳥未来きぼう高等学校の設立を通じて取り組んできました。
三幸学園内では「ゆりかごから墓場まで」と表現しますが、小・中学生向けにはフリースクール事業がある一方で、一条校としての中学校は未設置でした。
そうした中、三幸学園として「初の中学校=学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)に挑戦したい」という思いが高まっていた折、2021年4月に足立区・千寿第五小学校の跡地活用事業が始動し、公募プロポーザルで事業者に選定され、現在の取り組みへとつながりました。

——東京みらい中学校の教育方針について教えてください。
学習指導要領の標準時間数1015時間を775時間に再編成しています。授業時間や時間割の工夫、ICTの利活用、学習サポーターの配置、教員2人体制での授業、個別支援、ポートフォリオ評価と家庭連携などを組み合わせています。
校訓は『「好奇心・チャレンジ・感動」みらいへ 一歩前へ』です。よくある「努力」「忍耐」「不撓不屈」といったものではなく、ポジティブで前向きになれるような言葉を意図して選びました。
——1日のスケジュールはどのようになっていますか?
9時30分始業で、ゆとりのある設定にしています。これは登校のハードルを下げるための工夫の一つです。また月曜日の1限目は自分で好きな授業を選べる「Choiceタイム」という時間を設けて、将棋、イラスト、デッサンなど、先生の得意な領域から3〜5個の選択肢を用意して、生徒が自分で選んで取り組みます。
社会人でもサザエさん症候群があるように、月曜日1限目が苦手な授業だと「授業かあ」となってしまう。それだけで登校のハードルが上がってしまうので、少しでもハードルを下げようという時間割の設計です。
他にも、独自のキャリア教育や社会性・人間関係を育む「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」や、1日の始まりと終わりに設定されている「マイタイム」、昼食後の10分間に指定された教科の学習を補う「ちょこトレ」といったオリジナルの時間も設けています。
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——「マイタイム」はどのような時間なのでしょうか?
マイタイムの目的は3つあります。
(1)学習意欲の向上、(2)未学習内容の補填、(3)課題設定能力の向上です。
不登校を経験していることから、学習に遅れがあることが想定されます。学習サポーターと相談し、個々の目標を設定し学習することが学習意欲の向上および、未学習の補填を行います。学習計画の立て方を学んだ上で、日々実践することで適切な課題設定能力を養います。
朝のマイタイムでは、1週間の中で曜日によって実施することが異なります。自習または読書を最低一回は行い、保健体育科が担当し体を動かすことのできる学習など、各学年によって実施内容を検討し実施をしています。帰りのマイタイムでは、1日の振り返りを行い、翌日(翌週)の学習内容の確認と目標設定をして1日を終えます。また時間があれば、その日の学習の復習や予習にも取り組んでいます。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)では三幸学園のつながりの強みを生かし、姉妹校である専門学校の授業体験などを通じて、自分がなりたい姿を見つけることができます。
また、三幸学園と言えば「学校行事」と言っていいほど、数ある行事を通じて生徒はさまざまなことを学んでいきます。例えば、昨年度の文化祭では生徒自らテーマや内容、集客方法を考え実践しました。校外学習や修学旅行では、班でプランを考え、それに基づいて実際に見学や体験をしてもらいます。
集団の中で協力し、意見を交わし、行事を成功に導くこと。そういった体験の積み重ねが、生徒の潜在能力を引き出し、生きる力や自信となり、大きな成長につながります。
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学びの多様化学校ならではの進路指導の難しさ
——カリキュラムだけでなく、空間にも多くの工夫が施されてますよね。
どんな状態で登校しても安心して過ごせるように、クラス外でも過ごせる環境を「チャレンジスペース」として、用途別に3種類整えています。
1つ目は個人で過ごす場所で、クラスで授業を受けるのが難しい子が、オンライン配信で授業を受けられます。全ての授業をハイフレックスで配信しているので、生徒1人1台のタブレットで視聴できます。2つ目は学び直しができるスペース、3つ目は休養してエネルギーを蓄える場所です。
また心理面のサポートとして、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、養護教諭も常駐していますので、生徒も保護者も、相談したいことがあれば相談室(ルポルーム)で相談をすることができます。

——開校から1年余りですが、どのような手応えを感じていますか?
まだ試行錯誤の途上ですが、出席率はオンライン参加を含めて約85%、実際の登校は約75%です。クラスルームでの学校生活がベースになっていて、不登校経験者同士という安心できる環境の中で、生徒たちはのびのびと学校生活を送ってくれています。同じような境遇を持った生徒たちなので、安心して過ごせているのではないでしょうか。
本校では教職員を「スタッフ」と呼びます。スタッフは、生徒一人ひとりの好奇心を形にする挑戦を支え、希望する進路の実現まで伴走します。その結果、昨年度は全日制高校に7名、通信制高校に8名、定時制高校に1名が進学しました。
ただ、課題もあります。不登校期間によっては、学力的に厳しい状況にある場合もあります。読み書き・計算といった学びの基礎が十分でない子もいます。そのような場合も、スタッフと各教科の理解度を確認しながら、小学校の内容の復習、高校受験に向けた発展的学習まで対応します。スモールステップを積み重ねることで前向きに学習に取り組めるのが本校の強みだと思います。
——学びの多様化学校の中学校ならではの進路指導の難しさはありますか?
難しさは、大きく「学校理解」「個別理解」「創設初期ならではの実績不足」の三層にあります。
まず学校理解の壁です。高校見学や相談の場で学びの多様化学校であるがゆえ、「毎日登校することができるのか?」といった確認を受けやすいことです。加えて、同じ校舎内に通信制高校があることで「中高一貫校ではないか?」と誤解されがちですが、実際は異なるため、個々の希望に沿って進路を選ぶことを丁寧に説明する必要があります。実際、志望校ごとに訪問し、出席状況や本校の取り組み内容を一校ずつ理解いただく地道な関係構築が欠かせません。
次に個別理解です。全日制・通信制・定時制など多様な選択肢の中から“その子に合う現実解”を見極めるには、家庭との面談、高校との個別調整、体験入学後のフォローまで、ケースワーク型の支援が求められます。
最後に、創設初期ゆえの実績不足です。蓄積データや前例が少ないため、高校側の不安を払拭するには、実績校を中心に「まず理解者を増やす」段階が続きます。
一方で、私たちには「自ら行動して社会に貢献する人材を育てる」という育成目標があり、入学選抜や進路基準を厳密にし過ぎると「選ぶ学校」と受け取られるジレンマも生まれる。志願者を広く集めつつ、個別最適の伴走と対外理解の醸成を同時に高水準で回す——ここに、中学校の進路指導の難しさが凝縮されています。
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人を活かし、困難を希望に変える
——公立学校で「学びの多様化」を進めるにあたって、貴校の取り組みで応用できるものはありますか?
例えば、私たちがやっているクラス外での学習支援や、オンラインでの授業参加などは、公立の学校でも実現可能ではないでしょうか。
少子化で、公立学校にも空いている部屋が出てきているはずです。その部屋を活用して、オンライン授業に参加できる環境を整えたり、保健室でもない「第三の学びの場」として休憩できるスペースを作ったり。小中学生はみんなタブレットを持っているわけですから、技術的には十分に可能だと思います。
——最後に、学びの多様化学校の意義と今後の展望について教えてください。
不登校の子どもたちが年々増加する中で、私たちのような学校が果たす役割は大きいと思います。「人を活かし、困難を希望に変える」という三幸学園のミッションのもと、一人でも多くの子どもたちに学びの場を届けたい。私立だからこそできる柔軟な支援や個別のニーズに応じた教育を提供し、不登校支援の選択肢を広げる。

同時に、私たちの取り組みが多くの学校に参考にしてもらえる部分があれば、それも大きな意義だと考えています。全ての子どもたちが安心して学べる社会を目指して、私立・公立の枠を超えて、お互いに学び合いながら教育のあり方を変えていければと思います。
あわせて、進路指導の現場で直面する“風評”を社会全体で変えていきたいとも考えています。「学びの多様化学校=通えない子の場」という先入観をほぐし、不登校の子どもたちを評価ではなく理解と応援のまなざしで「みんなで育てる」空気を広げていく。
そうした意識の転換が進めば、子どもたちは自分のペースで安心して学び直し、将来の選択肢を自分で選べるようになるはずです。私たちは発信と連携、データの蓄積を重ねながら、その流れをつくっていきます。
〈取材・文・写真:先生の学校 編集部〉