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昔ながらの画一教育は、とっくにミスマッチ! 「社会の構造」と「子どもの脳や心」に合わせた教育へ

昔ながらの画一教育は、とっくにミスマッチ! 「社会の構造」と「子どもの脳や心」に合わせた教育へ

時代の変化に伴い、日本の教育が大きく変わろうとしている今、これからの時代に必要な学校の在り方、先生に求められるスキルは何なのでしょうか。

ライフネット生命創業者で、立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さんに聞きました。

写真:出口 治明(でぐち はるあき)
出口 治明(でぐち はるあき)
1948年、三重県生まれ。1972年、京都大学法学部卒業後、日本生命保険入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任して2006年退職。2008年、還暦でライフネット生命を開業して2012年上場、社長と会長を務める。2018年1月から現職。訪れた世界の都市は1,200以上、読んだ本は1万冊を超える。著書に「全世界史(上下)」「哲学と宗教全史」など多数。

製造業の工場モデルから抜け出せない日本


――出口さんは、今の日本の教育についてどう思われますか

今の日本の教育は、日本という社会の中で生まれたものですから、まずは背景を知ることが重要です。第二次世界大戦で焼け野原となった日本は、アメリカのマネをして、「製造業の工場モデル」で国を再建しようと考えました。

工場の機械は24時間稼働できて、力が強い人の方が向いているため、男性の長時間労働というスタイルが生まれました。

国は配偶者控除や第3号被保険者という制度を作り、3歳児神話をでっちあげて「男は仕事・女は家庭」という性分業を推進してきたわけです。

同時に、製造業の工場で働く人に必要な5要素として、「偏差値がそこそこ高い・素直・我慢強い・協調性が高い・上司や先生の言うことをよく聞く」という人材を育てる教育を行ってきました。


――なるほど、国を再建するために、製造業の工場モデルに合わせて5要素にもとづく人づくりをしてきたというわけですね

その通りです。バブルまでは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれるほど、それがうまくいっていました。

しかし平成の30年間で日本のGDPの世界シェアは半分以下に落ち込み、IMDが発表する国際競争力は世界1位から30位まで落ちた。

時価総額ランキング企業のトップ20社を見ると、平成元年は20社中14社が日本企業だったのに、今はゼロです。

なぜだと思いますか?

バブルの後、世界の産業構造は製造業からサービス産業に変化しているのに、日本はものづくり神話にとらわれたままで、新しい産業を生み出せなかったからです。製造業の工場モデルに過剰に適応してしまい、そこから抜け出せなかった。

いうなれば、日本は野球で世界一になり、世界はサッカーに変わってしまったのに、いまだに深夜まで素振りをしている状態なのです。


新時代のカギは、女性・ダイバーシティ・高学歴


――世界のマーケットが変化した今、日本はどうしたらいいのでしょうか

今、世界を牽引しているのは、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるようにアイデアで勝負する企業です。

GAFAの予備軍と目されるユニコーンは世界に400匹いるといわれますが、日本にはたった3匹しかいません。

先ほどの5要素がそろった日本人は、なかなかいい奴ですが、そのような教育からスティーブ・ジョブズは生まれない

では、どうすべきか。
新しい産業を生み出すための条件は、学者によると3つあります。

女性・ダイバーシティ・高学歴」です。


――それら3つが今後の日本や教育の指針になると

そうです、1つずつ説明しましょう。

まず女性はなぜかというと、サービス産業のユーザーは全世界平均で7割が女性です。
日本経済を牽引していると自負する50・60代の男性に、女性がほしいものが分かりますか?

ミスマッチですよね。
ヨーロッパで行われているクオーター制は、男女同権を目指すのはもちろん、経営サイドに女性が入ることでサービス産業における需給のミスマッチを縮めようとしているわけです。

ところが、日本は性分業にもとづく男女差別が先進国で一番残っている。
世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数において、日本は2019年度に過去最低の121位を記録しました。

女性が家事・育児・介護を全て担っている限り、赤ちゃんも生まれない。
先進国で男女差別が一番激しい日本では、ユニコーンが生まれないだけではなく、赤ちゃんも生まれないわけです。

やるべきことは簡単で、配偶者控除などの歪んだ制度を早く撤廃し、性別フリーで仕事をするべく、クオーター制を取り入れるなどして女性を引き上げることが望ましいと思います。


――教育においても、性別フリーにしなければいけませんね

教育の現場でも、男は仕事・女は家庭という男女差別意識をなくすことから始めなければいけません。

男性と女性は同じ人間で、何一つ変わりがない。
コロナ危機では、むしろ女性リーダーの活躍が目立ちましたね。

性別フリーで、男性でも女性でも好きなことをやっていいという教育をやっていくことを根本に据えるべきです。

それから、今回のアフターコロナの世界は、英語ではニューノーマルといわれているそうですが、ニューノーマルの世界は女性にとってすごく都合がいいと思うんですよ。

安倍総理が突然全国の小中高等学校を休校にして、我々の大学も大変困りました。一部はテレワークにしましたが、卒業判定・入学判定という個人情報を含む事務作業は、簡単にテレワークに切り替えられない。

APUの職員の約7割は30代・40代の若い子育て世代ですから、すぐに部屋を整備して、子連れ出勤を可能にしました。


日本では今後テレワークやオンライン会議がもっと使われるようになるでしょう。

おじさんの得意な飲みニケーションは消え、働き方改革が起こる。機械に弱いおじさんにはダメージが大きく、若者や女性にとっては圧倒的にプラスだと思いますね。

社会改革でも教育改革でも、ジェンダーギャップ指数をいかに121位から引き上げるかというのが大事な眼目で、女性をさまざまな制約から解放したら、ユニコーンも赤ちゃんも生まれると考えられます。


――2つ目のダイバーシティはどんなことでしょうか

ダイバーシティの話は簡単です。
昨年ラグビーのワールドカップで日本のワンチームがベスト8に入りましたね。日本人だけではなく混ぜたチームだったから、いい成績を残せた。

混ぜたら強くなるんです。

Googleの創業者はロシア人とアメリカ人、Zoomは中国とアメリカの合弁事業。ところが日本の企業の役員は50・60代のおじさんばかり。勝てる気がしません。

教育の世界でもダイバーシティが大事で、子連れ出勤にしたら小学校高学年の子どもが低学年を教えていましたよ。
学校も混ぜこぜにしたら面白いし、大学でも社会人や若者や外国人などを混ぜた方が教育効果も上がります。

ありとあらゆるところでダイバーシティを実践すると、互いに学ぶことが多いんですよ。

日本では画一的な教育をして、偏差値で上からクラスを分ける。
僕はね、高校は偏差値クラスと変態クラスに分けようと提案したい。偏差値クラスは今まで通りでOK。点数が上がることを喜ぶ子どももいるから。

でも、そうじゃない子どもは好きなことを徹底的にやればいい。

偏差値クラスは東大を目指せ、変態クラスはAPUが引き受けますから。それがダイバーシティです。


――いわゆる勉強だけでなく、好きなことを徹底的にやる子がいてもいいですね

日本には勘違いがあって、個性を伸ばそうというと、クリエイティビティだと短絡的に考える人がいる。それは違うと思います。

個性はクリエイティビティじゃない、そもそもみんながクリエイティブであるはずがない。一人ひとり顔も姿も考え方も違う、違うこと自体が個性なのです。

好きなことも嫌いなことも違うから、好きなことを徹底的にやるのが個性。
好きなことが違う人が集まることで、ダイバーシティが生まれるわけです。


――なるほど、そして3つ目の高学歴について教えてください

高学歴は、好きなことを勉強した人がたくさんいる社会の方が、アイデアが出るということです。

ところが製造業は低学歴産業で、全世界の製造業の従業員のデータを見ると、大卒は4割に達していない。日本の社会は製造業モデルに順応しすぎて、大学進学率が低い。OECD平均より7ポイント低く、特に女性は低い。

さらに、日本人は大学で勉強しない。
これは企業に責任があるんですよ、採用基準に成績がないので。日本の子どもたちは、いい企業に入るためにいい大学を目指す。

そのいい企業が成績なんか聞かずに5要素で面談をするから、大学で勉強しないわけです。今の企業面談では「エントリーシートをかっこよく書くために1つぐらいボランティアをやっておこう」という学生を生んでしまう。

アメリカのグローバル企業で話を聞いたところ、ハーバード大学を出ていても、大学の成績が平均以下だったら採用しないそうです。

なぜなら、「地頭はいいけれど、成績が平均以下ということは、適当に流して卒業した奴だろう。会社に入っても地頭がいいだけで、上司にゴマをすって適当に流して仕事しそうだから採用しない。どんな大学でも優が7~8割ある人を、みんな競って採用したがる」と。

自分が選んだ場所でいいパフォーマンスを上げた人間は、自分が選んだ職場でもいいパフォーマンスを上げる蓋然性が圧倒的に高いというわけです。


――日本の大学生が勉強しない理由は、その通りだと納得しました

日本社会の問題はまだあって、「なまじ勉強した奴は使いにくい」などという経営者が結構いて、大学院生を大事にしない。勉強した人の方が役に立つに決まっているのに。

GAFAやユニコーンの経営者のほとんどがWドクターWマスターです。
好きなことを深く勉強してはじめてアイデアが出て、新しい産業が発展するわけです。

日本では平成の30年間、正社員に限れば労働時間が全く減ることなく、サービス残業もあり、夜の8時9時まで仕事をした後に上司が部下を飲みに連れていく。すると「飯・風呂・寝る」の生活になり、学ぶ時間がない。働きながら大学や大学院で学びたくても、余裕がない。

仕事を早く終わらせて、おもしろい人に会い、本を読み、刺激的な場所に行くといった「人・本・旅」の生活をしなければ、人は賢くならないしアイデアも出ないんです。

日本は社会の仕組みそのものが問題で、今は政府もさかんに働き方改革を叫んでいますね。

これからの日本は、女性・ダイバーシティ・高学歴をキーワードに社会が生まれ変わってはじめて、新しい産業が生まれ、豊かになれるということです。


パッションを持ち、ファクトベースの教育を


――APUで大切にされている教育方針の中で「学生それぞれの希望を応援する」というのが印象的でした

教育はファクトベース、サイエンスベースで考えることが重要です。
脳科学や心理学の研究によって、人間はどういう動物なのかが最近よく分かってきました。

1つは、大学でどんなに素晴らしい講義をしても、学生に興味がなければ単位を取った瞬間に忘れてしまうということ。

ならば大学は学生が興味のあることや、やりたいことを見つけられるように多様な機会を提供して、教職員は全力でそれをバックアップしようと決めたわけです。

人が生きていく上で、自己肯定感が大事であることも分かっています。
子どもが行動したときは結果がどうであれ、保護者や先生はめちゃ褒めてあげてください。叱っても人の能力は伸びませんから。

また、好きなことを最後までやる能力も大事で、好きなことを徹底的にやらせればいい。

「マンガばっかり描いてないで勉強しなさい」なんて叱らず、「そんなにマンガを描くのが好きなら、投稿して早くお金儲けして」などと助長してほしい。

そして、人と比べないことも大事です。人はみんな違うのだから。

教育は人に生きる武器を与えるためのもの。
根拠なき精神論が最も教育をダメにするのです。


――これからの時代、先生にはどんな能力が必要でしょうか

3つあると思います。1つはパッション

先生というのは次の世代を作るとても大事な仕事で、教えて育てることが楽しい、子どもたちの能力を開花させてやりたいなどというやる気がなければどうにもならない。日本の先生方は素晴らしいと思っています。

日本は、教育への公的支出がOECD35か国の中で最下位。
税金をあまり教育に投資していないわけです。

それにも関わらず、15歳を対象とした国際的な学習到達度テストPISAで、中国にはボロ負けですがG7ではベスト。
お金を使っていないのに日本の子どもたちがなぜ勉強するのかといえば、先生のパッション以外にない。

一番大事なものは、やはりパッションですよね。

2つ目は脳科学や心理学の知識。
先ほどお話ししたような人間の脳の構造や心理を知った上で、サイエンスベースの教育をやらなければいけません。

3つ目はロジカルシンキングです。
急激に変化する世の中では、すぐ役立つ知識はすぐに陳腐化する。

今、文科省は探究力や問いを立てる力と表現していますが、数字やファクトをベースに物事を自分の頭で自分の言葉で考える能力がこれからはますます重要になります。だから、ロジカルシンキングを教える能力というのが大事なのではないでしょうか。


――現場は「全員平等」という意識から抜け出せずにいる感じがします。そこを脱するためにはどうしたらいいと思われますか

校長先生をはじめ先生方が腹を決めたら、今の学習指導要領の中でもいろんなことができますよね。

一番大事なことは、先生も保護者も大人も、まず意識を変えること。

今の教育が生まれた背景を知り、日本社会の問題を理解して腹落ちすれば、意識と行動を変えられるはずです。


――最後に、先生方にメッセージをお願いします

ぜひ「人・本・旅」で学んでください。
いろんな人に会い、いろんな本を読み、いろんな面白いところに行って、自分に投資しましょう。先生方は子どもたちのロールモデルですから。

皆さんも学生時代に憧れた先生がいるでしょう?

子どもたちは先生方を見て育つので、先生方が魅力的であれば、子どもたちも魅力的になるに違いありません。