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先生を評価する校内授業研究会は、もうやめよう。先生の思いと子どもの育ちを大切にする、校内研の新たなカタチ

先生を評価する校内授業研究会は、もうやめよう。先生の思いと子どもの育ちを大切にする、校内研の新たなカタチ

私たちは、どこの小学校でもほぼ必ず行われている「校内授業研究会」に注目して取材をしました。

いろいろな小学校の先生に話を聞く限り、授業研究会というものの多くは、同じ学校の先生同士で授業を見せ合い、授業についての検討会を行うという形で行われているそうです。

そして研究会の話題の中心となるのは、授業の進め方、子どもへの発問の仕方など教員の振る舞いについて。先生が評価されているような印象を受けることすらあります。

それよりも、子どもが授業の中でどう学んでいるのかについて、先生同士で対話をするような研究会はないのだろうか。そんな問題意識を抱える中、授業研究会の形に違和感を覚え、職員間で対話を重ねながらそのあり方を変化させてきた、横浜市立旭小学校主幹教諭の玉置哲也さんに話を聞きました。

写真:玉置 哲也(たまき てつや)さん
玉置 哲也(たまき てつや)さん
横浜市立旭小学校 主幹教諭

長崎大学を卒業後、教員の道へ。現在小学校教員18年目。2020年度には横浜市教育委員会の一般大学派遣研修制度を活用し、慶應義塾大学大学院で、1年間校内研究のあり方について学ぶ。専門は幼児教育、体育科教育。


きっかけは、従来の授業研究会に対する違和感


——玉置さんは、現在勤務されている小学校で研究主任を務められているそうですね。どのような取り組みをされているのでしょうか?


研究主任とは、先生方の授業力向上を目指して研究テーマや研究教科などを決めて、公開授業やその後の研究討論会を企画・実施するという校務分掌です。私がこれまで勤務してきた学校では研究主任がリーダーとなって「校内授業研究会」という研究会が行われてきました。

講師を招いての事後研究会の様子


一人の先生が指導案を授業前に準備し、当日は全校の先生と外部の指導者の方が授業を参観し、授業後にコメントやご指導をもらうという研究会です。小学校にはさまざまな教科の専門性を持つ先生がいますが、学校によっては研究する教科が1つに絞られていることも多いようです。

しかし現在本校で取り組んでいる校内授業研究会は、自分が研究したい教科を選び、それぞれの先生が授業前に専門家と授業を検討してから、授業に臨みます。事前に私や同じ学年の先生と一緒に授業案を練った上で授業を公開し、授業後には振り返りを行うというスタイルに変わっています。


——なぜ従来のような研究会のあり方から、現在の形へと変えようと思ったのでしょうか?


授業に対するコメントを授業後にもらうというやり方に、負担やプレッシャーを感じていた人が多かったという現状がありました。

私は今の学校に異動して3年目なのですが、異動した初年度に、授業研究会を担当する先生から「今年度の研究計画を立てたいのですが、やはり全員が授業を公開した方がいいでしょうか」という相談がありました。きっと研究を負担に感じることがあり、少しでも軽減したいという意図があったのでしょう。

しかしその質問に、私は疑問を感じました。なぜかというと「どんな授業研究にしたいのか?なぜ授業研究をやるのか?」という目的やビジョンが先にあるのではなく、「どのように行うか?」という、方法についての質問だったからです。

そこで私は「今のやり方のままで苦しいのであれば、一度研究会自体をやめてみませんか?」と提案しました。


——やめるという提案に驚きました。なぜそのような提案をされたのでしょうか?


そもそも授業研究会は、先生たちの授業力を向上するためのものであるはずなのに、そう感じていない教員が多いことに疑問があったからです。

現在は研究会が終わった後も、有志で対話の時間が続く


実際に私も、事前に授業について相談に乗ってもらってもいないのに、授業後の研究会で後出しジャンケンのように指摘が入るこれまでの研究会のやり方に対しては、ずっと違和感を覚えていました。

だから授業力を上げる前に、まずはこれまでの研究会のあり方をイチから見直すことにしたのです。


——なるほど。どのように見直してこられたのでしょうか?


1年目は研究会をなくす代わりに、年に1回、それぞれの先生が設定した2週間の間は「いつ授業を参観してもいいですよ」という期間を設けました。この授業公開では、指導案の準備も必要ありませんし、事後の検討会の実施もなし。だからただ見るだけにならないように、授業を見るときの視点を決めたんです。

従来の授業研究会における授業を見る視点は、「先生が何を言ったのか?」であることが多かったと思います。そのため、「学習の中で素敵だなと思った子どもの姿を、その子の名前と具体的な様子、そしてなぜそのような様子が見られたのかを見る」という視点で授業を見てもらうことにしたんです。先生方が見つけた姿は、小さなカードに書きためてもらいました。

初年度はこの取り組みを続けた後、年度末に職員が書きためたカードを持ち寄って共有する時間を設けました。先生たちが思う子どもの良い姿が共有できたところで「今子どもたちに足りないものは何だと思いますか?」と尋ねると、「今の子どもに足りないもの」をテーマにした対話の中から「思いを持つ子」「関わり合う子」「やり抜く子」という育てたい子どもの姿が明らかになってきました。

このキーワードを、翌年度から学校教育目標に掲げることにしました。


授業力とは、子ども一人ひとりを理解する力


——学校教育目標を変えたことは、教職員の皆さんにとっては大きな変化だったのではないでしょうか?


もともとあった教育目標を、実は全職員が覚えていたわけでもなくて。それなら自分たちが育てたい子どもの姿の方がしっくりくるし、覚えやすいんじゃないかと思って職員で相談して変えました。

そして次の年には、その3つのキーワードをもとに子どもたちの姿をしっかり観察して、キーワードに関連する子どもの様子をどんどん書きためていきました。

全職員での対話研修の様子


授業研究会をやめて2年が経過した頃、授業後に子どもの姿をもとに先生同士が対話する時間が増えていったのですが、どこか物足りなさを感じる雰囲気も出てきたんです。


——物足りなさ、ですか。


はい。実際に子どもの様子はじっくり観察できるようになってきたけれど、これが校内研究会の真の目的である授業力の向上につながっているのかという論点です。この論点が出てきて初めて、授業研究会の目的に立ち返ることにしました。

「じゃあ具体的に、授業力って何?」という点について、いろいろな文献や資料から引用して先生方と共有する中で分かったことが、教員の授業力において大切な資質の1つが「子ども理解」だということ。

つまり授業力のある先生とは、一人ひとりの子どもに寄り添った授業ができる先生だということなんです。ここまで共通認識ができて初めて、授業研究会が自分ごとになるスタートラインに立てたと思いました。

このように2年間かけてじっくりと「思いを持つ力、やり抜く力、関わる力の育成」という学校教育目標と、それを実現するための授業研究のテーマとして「教職員一人ひとりが自分の課題に合った授業改善」を設定していきました。

そして今年度から、指導案を作成して授業公開をする研究会の形を実施することになったんです。


——2年間かけてじっくり先生同士の目線をそろえてきたのですね。新しい形の授業研究会に向けて、指導案の作り方など、これまでと何か変わった点はありますか?


授業を見て振り返る視点が「思いを持つ力、やり抜く力、関わる力の育成」の3つに定まったので、私はこれらをもとに授業の目標を立ててほしいと考えていました。


しかしいきなりそれではハードルが高いと思ったので、私が、一般大学派遣研修で指導していただいた慶應義塾大学総合政策学部の井庭崇さんが開発に携わった「アクティブ・ラーニング・パターン」というアイテムを使いました。これは、アクティブ・ラーニングを実践している全国の先生に、その秘訣を聞いて45枚のカードにまとめたものです。

このカードには「好きの深掘り」「同じ側に立つ」「一緒に改善」などといった、アクティブ・ラーニングを支援するコツがキーワードで書かれています。その中から一人ひとりの先生が目標にしたいことを3つ選び、選んだ目標を実現する授業をイメージしながら指導案を作っていきました。


——先生方が大事にしたい目標をワークや対話を通して設定し、その後に授業アイデアを検討するのですね。


はい。先生が目標を決める際に対話の場を設けることで、それぞれの先生がどのような子どもを育てたいかについて、カードや他の人の力を借りながら言語化できるようになりました。

あと、実際に授業を構想するプロセスも変えました。従来は指導案を書いてから校内の先生と検討していたのを、アイデアベースの段階で同僚の先生方とどのような授業にしたいと思っているか相談できるようにしました。

さらにはそこに、外部講師の先生にも来ていただき、どんどんアイデアを広げていきました。そのため先生たちは、一人で授業を作っているというよりも、 皆で授業を作っているという感覚になったと思います。

指導案を書く期間は、必ず長期休みをはさめるようにしました。長期休みに指導案を考え、その後に授業を実施するという形になります。こうする理由は、あまり負担なくのんびりできるときに指導案を書いてほしいからです。

例えば、夏休み中の8月に授業を検討した人は、2月頃に公開授業を実施します。つまりその先生は、2月のことをずっと頭に入れながら、日々の授業をするようになります。頭の中で研究会の授業をイメージし続けることになったことにより、先生方が日頃から育てたい子どもの姿ややりたいことを職員間で話すようになりました。これは大きな変化でしたね。


特別なものではない、日常の延長線上にある授業研究会に


——授業研究会の形が変わったことで、先生たちの意識にも変化があったということですね。


はい。授業研究会のあり方を変えることで、いつも以上に特別なことを義務的にやらなければいけないという感覚から、まずは自分のためにやっていると思ってもらえる研修になったのだと思います。

授業研究会の一番の目的は、子どもの姿を私たちの真ん中に据えて語り合うことなんです。従来は「先生が一斉授業で子どもにどう教えているのか?」というように、先生を中心に見ていました。でも今は、子どもを見ています。

「今日この先生が目指している子どもの姿を、授業の中で探そう」という視点で、先生同士が授業を見る。先生の教える技術を評価するのではなく、子どもの姿を見てそれを根拠に先生同士で語り合うことを、この3年間で積み重ねてきました。


——子どもの姿を見て先生同士で対話すれば、授業を評価するときのような厳しい視線ではなく、子どもができたことを認め合うような温かい雰囲気の研究会になりそうですね。


そうですね。先生方からは、授業について気さくに話せるようになって良かったという意見がとても多く聞こえてきます。「あの子のこんなところが良かったね」という話をする研究会はすごく楽しいようで、中には「今まででやったことがないぐらい楽しかったです」という感想を言ってくださる先生もいました。

子どもを見てくれる大人が増えるので「自分が気づいていないところに目を向けてもらえるのでありがたかった」といった意見もあって、人に見てもらうことは悪いことじゃないと思ってもらえているようです。

子どもの姿を中心に語り合う授業研究会は、決して特別なものではなく、毎日の振り返りの延長線上にあって、振り返りをたくさんの先生でお手伝いするイメージなんですよね。


——玉置さんの取り組みは、「子どもが授業の中でどう学んでいるか?」という問いを真ん中に置いた研究会だと感じました。


今年度、授業研究会の目的である授業力向上を「自分の授業の中の、子どもたちの変容について語れること」に設定しました。そのために「子どもの姿を真ん中に置く」というキーワードはとても大事です。

でもその前に、実は先生が授業を通して育てたい子どもの姿や、授業の意図を研究会の中心に置くことも大切にしたい。子どもと一緒で、先生も一人ひとり思いや願いが違うということを、お互いに実感できるようにしたいんです。


——子どもが真ん中にいて、先生にとって自分ごとである授業研究会ということですね。3年間の取り組みの成果や、今後の展望について最後に聞かせてください。


この研修をやっていて一番良かったと思った瞬間は、先生が子ども一人ひとりのことをもっと知りたいと思うようになったことです。

こんな風な子に育ってほしいという願いの前に、子どものことを知りたいと思えれば、子どものことをよく見るようになりますよね。これが何より大切ですし、新しい形の授業研究会を通して、そこに先生方の目線がそろったことはとても大きいですね。

授業を公開するということは、どうやっても負担に感じたり、教員が緊張したりすることはまだまだあるんだと感じています。やっぱり苦しいこともいっぱいあります。だけど、この時間が良かったと感じられたら、授業力を上げるために少しでも放課後の時間を、子どものことを話したり、授業のことを話したりする時間に充てようと思うようになると思うんです。

決して楽な道のりではないけれど、子どもたちが日々変わったり、自分の考えたことが実現できたりといった楽しさがあれば、負担感や緊張感は乗り越えられる。結果的に「学ぶのが楽しい!授業研究って楽しい!」と少しでも思ってもらえたらと願って、取り組みを進めていきたいです。


<取材・文:チームKT/写真:ご本人提供>