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山内佑輔の[余白]をつくる#5

山内佑輔の[余白]をつくる#5

これからの時代に必要なクリエイティビティとは?

「余白」をキーワードに、これからの時代に必要なクリエイティビティを読者の皆さんと共に考える、新渡戸文化学園の山内佑輔さんによる連載第5弾です。

写真:山内 佑輔(やまうち ゆうすけ)
山内 佑輔(やまうち ゆうすけ)
新渡戸文化小学校 プロジェクトデザイナー/VIVISTOP NITOBEチーフクルー/SOZO.Ed副代表/Microsoft Innovative Educator Expert

実社会と学びを繋ぐ授業をデザイン。ワークショップの手法をもちいて、子供たちのクリエイティビティを育む環境をつくりだす。
学校内では様々なアーティストや専門家、企業と連携した授業を実践。2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVITA株式会社と連携しVIVISTOP NITOBEを開設。「教室や教科、学年などの枠をなくし、教師も生徒も共につくり、共に学ぶ」を掲げ、新しい学びのあり方を模索したり、放課後の子どもたちの活動を拡張中。
学校外ではTechnology×Creative×Artをキーワードに各地でワークショップやイベントを展開。キッズワークショップアワード優秀賞を受賞。出張図工室プロジェクト「山と水の図工室」の活動では東京新聞教育賞を受賞。その他にも、地域と連動した創造型プロジェクトに複数携わる。二児の父。


デザイン思考か、アート思考か!?

デザイン思考か、アート思考か!?

近年多くの場面でその言葉を聞くようになった「デザイン思考」。そして、さらに最近耳にすることが多くなってきた「アート思考」。

これは教育のみに関わる話ではなく、むしろ教育関係者以外の方が敏感になっているキーワードなのかもしれません。


最近友人との会話の中でも「デザインとアートの境界線って何だろう?」なんて話題があがったり、絶賛流行中のclubhouseを聴いていても、「デザイン思考か、アート思考か!?」という話題も出てきたり。

さまざまなところで注目されている思考法、それぞれに関連する本も出ていますし、ネットで検索しても、その定義らしきものを知ることができます。

アート思考については、昨年のベストセラーでもある『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考 』(末永 幸歩 著 ダイヤモンド社 2020)がとても分かりやすくて、大変勉強になりました。


そこで、僕がつくる授業やワークショップは、どうなのだろうと考えました。デザイン思考を育んでいるのか、アート思考を育んでいるのか。

題材、テーマは異なれど、どちらも大事にしていそうです。ただ、僕が特に大事にしているのはそこではないのかもしれないと思いました。

デザイン思考もアート思考も、手段です。その手段を用いて取り組む前段階のゼロ地点、その本人の「やってみたい!」という最初の衝動がまず必要です。

その上で、手段を選択して取り組んでいきます。やらされているのではなく、自らが「やってみたい!」と思える力。もしくは「よく分からないけど、とりあえずやってみよう!」という一歩踏み出せる力。

僕は、その力をいかに育めるのかに興味関心があるのです。

「知」ではなく、「もの」との出会い

今や知らない人はいないのでは!?とさえ思う「探究学舎」。

僕も授業を見学したことがあるのですが、とってもワクワクしました。ここでは圧倒的な「知」に出会えます。

個人的には、その「知」を教えてもらっているというよりも、ワクワクに出会わせてもらっている、という感覚をもちました。エンターテインメント性もあって、ぐいぐいと引き込まれて、その「知」との出会いを機に「やってみたい!!」と思うのです。

探究学舎のキャッチコピーそのままに「探究心に火がつく」のでしょう。

探究学舎に擬えるのは、甚だ恐縮ですが、僕の授業やワークショップは、その出会いが「知」ではなく、「もの」なのだと思いました。


僕はいかに「もの」とワクワク出会えるかを一生懸命考えています。

「もの」は「知」とは違って、実際に触れることができます。目の前に、知らない「もの」があったら、まず触れてみたいと思うのです。(よほど気持ちが悪くない限り・・・)

知っていても、違う視点を与えられれば、やはり触れてみたい思うものです。違う視点というのは、例えば、目の前にあるのは「紙」であっても、「実はこの紙工場から出た廃材なんだよ。」というストーリーであったり、ただの木材でも圧倒的な個数があったり、他の何かと組み合わせてみることができるような環境設定であったり、その仕掛けはさまざま考えられます。

触れたい!と思った次の瞬間に、その「もの」についての説明・解説が長々と続いたり、はたまた「〜はしてはいけません」という規制がたくさんあったりしたら、どうでしょう。触れたい気持ちが減退していきませんか?まずは、とにかく触れてみたいですよね。

その「触れたい!」は「やってみたい!」と似ています。その気持ちがアツいままに、その「もの」と触れていくことで、「こうしたらどうだろう?」「こんな風にしたらどうなるだろう?」と自然と積極的に関わっていくのです。

年齢に関わらず、そのときに見せてくれる表情は本当に素敵で、キラキラしているように思うのです。僕はそういう表情をたくさん見たいのです。もちろん失敗もするでしょう。でもそれは失敗ではなくて、学びです。

パッケージ化された学び

今の子どもたちを取り巻く学校内外での「知」や「もの」との出会いの場面を見ていると、その多くがパッケージ化されてしまっているように思うのです。

安全安心、効果的。大人によってそのゴールまでが計算しつくされた枠の中で、子どもたちは取り組まされているのではないでしょうか。

さらに大人はその「知」や「もの」を子どもよりも知っている存在としてそこにいて、子どもたちに「教えよう」としてしまう。効率よく、安心安全に、「知」や「もの」を教えようとする大人、そんな学びのパッケージ商品を提供される子ども。そんな構図になっている場面が多くないでしょうか。

だからこそ、「余白」の設計が必要だと思っています。


おそらく昔は、わざわざ余白など設計せずとも、たくさんの余白があったのでしょう。

それは遊びの時間と言い換えることもできます。さらに遊びを辞書で引くと、工学分野において接合部などに設けられた隙間や緩みのことも意味します。余白、あそび、隙間や緩み、それらが今、暮らしの中でどんどん埋められているように思うのは僕だけでしょうか。

放課後の子どもたちも、習い事ばかりでとても忙しそうです。自由な時間を謳歌することなく、余白のないパッケージ化されたコンテンツを提供されることに追われているようにさえ思います。

だからこそ、あえて積極的に「余白」をつくらなければいけないのだと思っています。本来は必要のなかった学校の授業や、学校外のワークショップにだって、「余白」が必要になっていると思うのです。

余白を設計するからには、計算外のことも起こりうるのです。むしろそれがおもしろいのです。計算外だらけは、準備不足・計画不十分にも等しいのですが、授業やワークショップを設計する際には、そこを初めから織り込みたいと思っています。

計算外のことが起きることを知っているのですから、そうなったら大人はビクビクしないで、子どもと一緒になって考えていけばいいのです。失敗はありません。そこから新しい問いが生まれ、学びとなっていくからです。

失敗を、失敗と思わない風土をつくりたい

話は少し脱線しますが、これは2021年4月から全国で展開されるGIGAスクール構想による1人1台端末についても同じことが言えると思っています。

タブレット端末という「もの」とワクワク出会ってほしい。大人たちが想定して、計算して、管理することばかりに意識を向けないで、まずはやってみる。触れて、学んで、「教える」と「教わる」の関係ではない、大人も子どもも共に学びをつくりだす、そんな未来を見たいのです。

話がGIGAスクール構想に飛んでしまいましたが、タブレット端末に限らず、僕はたくさんの「もの」と子どもたちがワクワク出会い、「触れてみたい!」「やってみたい!」と思う気持ちを大切にしたいと思っています。


そして、一歩踏み出した先の失敗を、失敗と思わない風土をつくりたいのです。そもそも失敗か成功かの尺度ではなく、うまくいかないときにはどうしたら良いかを考える、新しい問いにチャレンジするんだという捉え方です。成果より過程。その環境づくりこそが、僕が一番大切にしたいことなのです。

こうした環境は、「成長型マインドセット(グロース・マインドセット)」のスキル育成に貢献しているのではないだろうかと考えています。「成長型マインドセット(グロース・マインドセット)」とは、成長し続ける人が持っている考え方・姿勢と言われています。

スタンフォード大学心理学教授のキャロル・ドゥエック氏が提唱した考え方で、彼女が行なってきた数十年の研究内容をまとめた『MINDSET「やればできる!」の研究』(キャロル・ドゥエック著 草思社 2016)は世界的ベストセラーとして注目を集めています。

「成長型マインドセット(グロース・マインドセット)」について分かりやすく解説してくれている記事はこちら。(Katsuiku Academy記事

グロース・マインドセットを身につける

冒頭にも触れましたが、、デザイン思考・アート思考の前に、ゼロ地点としてまず身につけたい自らが「やってみたい!」と思える力。もしくは「よく分からないけど、とりあえずやってみよう!」と一歩踏み出せる力です。

#4で紹介した、森をつくった当時の6年生たちは、このグロース・マインドセットをもって、取り組んでくれたに違いないと思っています。全員でないにせよ、そうしたマインドセットをもった多くの子たちの想いが伝播して、集団の行動をつくっていったのです。


そして何より、2014年に教員に転職してから今もなお、その環境づくりに一生懸命になっている自分自身が、グロース・マインドセットを身につけていたのだと思っています。もちろんまだまだ成長途中です(笑)。

誰かに決められた世界ではない、余白のあるの世界を、自分がまずは楽しんで創造、挑戦する。そういう姿を子どもたちに見せていくこと、その世界を共に楽しむことが必要なのです。

さて、計5回にわたって「余白をつくる」というテーマでこうして自分の思うところを書かせていただきました。これまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

初めてこのような連載をもたせていただき、これは僕にとって本当に大きなチャレンジでした。書くことによって自分自身の思考が整理されていくことにもなりました。こうした機会をいただけた先生の学校・三原さんに本当に感謝です。

この連載は今回で最終回として、また次の新しいことにチャレンジしたいと思っています。またぜひお会いしましょう!!ありがとうございました!!

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