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OBT×ICT !? 長年の教員経験に1人1台端末をかけ算したら、鬼に金棒

OBT×ICT !? 長年の教員経験に1人1台端末をかけ算したら、鬼に金棒

私は、公立学校に勤務するごく普通の教員です。子どもたちとの毎日は充実していて、本当に楽しく、あっという間に月日が経ちました。

ごく普通の私の特徴を強いて挙げるとすれば、好奇心旺盛だということでしょうか。

「OBT(おばちゃんティーチャー・自身で命名)」ですが、1人1台端末が本格的に導入されて以来、試行錯誤しながらも積極的に活用してきました。

この記事では、これまでの長い教員生活で培った経験と、ICTをかけ算して取り組んでいるさまざまなチャレンジについてまとめています。

写真:佐藤 博美(さとう ひろみ)さん
佐藤 博美(さとう ひろみ)さん
秋田県公立小学校 教諭

小学校に32年勤務、中学校に5年勤務。2023年春に退職する。その後の活動の拠点とする空き家探しに夢中で、ステキな古民家を見つけては、妄想をどんどん膨らませている。どこかのだれかがしているステキなことを、どこでもだれでも活用できるようにつなげていきたいなあと思っている。これまでの教員経験を生かして、子ども・保護者・教員が、楽しさ・悩み・さまざまな情報を共有できる居場所づくりをしたいと思う。その一方で、これまで全く経験していないこと(古民家DIYや農業など)にも興味津々。楽しいことしかしていないから、毎日が幸せ。家族は、私の勢いに巻き込まれたり、傍観したりしている夫と息子が一人ずつ。


1人1台端末導入という、退職間近の「初めて」

いつもおもしろそうなことを探していて、ピンときたことには首を突っ込んでいる私は、特に「〇〇で初めて」という言葉に心惹かれる傾向があるようです。

これまでに出会ったICTの類。

最初は、大学の部屋中に「どーん」と置いてある感じのパソコン。次は、教員になって数年後に手に入れたワープロ専用機とフォントカード。そして、1990年代に、勤務していた中学校に設置されたコンピュータ室。

コンピュータ室に1クラス分のパソコンがあるだけ…という状態がその後も長く続きましたが、自宅や学校のパソコン環境は便利に整っていきました。この間に、私のICT活用への意欲や関心はどんどん高まり、情報収集を続けてきました。

そして退職間近になって、大きな「初めて」がやってきました。それは、「GIGAスクール構想」の実現です。

当初の予定より大幅に前倒しされたことにより、1人1台端末等のICT活用にチャレンジできることになりました。ギリギリセーフ、退職前になんとか間に合いました。


「何事も楽しむ」と決めている

一般的には、ICTとOBT(おばちゃんティーチャー)は結び付かないイメージが強いようです。

ICT関連のオンラインセミナーを受講した際に、「年配の先生がネック」という言葉を何度も聞きました。「そのOBTが、ここでセミナーを受講しているんだけどなあ…」と、ちょっぴりモヤモヤしたことがあります。

なぜ私がICT活用を楽しむことができているのか?

「初めて」が大好きという私の性格が、大きな原動力になっているのだと思います。旺盛な好奇心に動かされ、いろいろな機器が使えるようになり、仕事の仕方が大きく変わったと感じています。

学級通信や学年通信を発行するにあたり、私はタイトルに1年間の思いを込めます。さらに、そのロゴ(字体)にも工夫を凝らします。

一方通行になりがちな学級通信も、
コメント欄を設けることで、保護者と双方向のやりとりを実現

手書きで発行していた頃、文字の大きさや形、レイアウトなどに凝り、プロの技を真似するために雑誌や新聞を参考にすることに多くの時間をかけていました。

タイトルのロゴ作成を子どもたちに任せたこともありました。通信を配付すると、「誰のが採用されたのか?」と、子どもたちは真っ先にロゴ部分を見ていました。保護者の方がロゴを考えてくれたこともありました。参加型の通信の作成の可能性に気づいたのは、今から30年ほど前でした。

学級通信のロゴを子どもたちに任せたことも

必要に応じて機能を選んだり、それまでのデータをもとに微調整したりといったことは、ICTの活用によって簡単に最適な状態に近づけられるようになりました。

私の最近のお気に入りは、「ロゴメーカー」というサイトを使って作るアニメ「おそ松さん」タイトル風のロゴです。このときは、アンケートフォームを使って、タイトルを子どもたちと保護者に予想してもらう、なんてこともしました。

ロゴメーカーで作成した「おそ松さん」風のロゴ。
タイトルロゴにもこだわり学級通信を作成している

学級通信が、子どもと保護者と担任がつながるツールとして、大きな役割を果たしてくれています。

私は昔から細々とではあったものの、コンピュータ室にあった児童用パソコンを活用していました。ワープロ機能は、作文指導にとても有効でした。子どもたちがストレスなく校正できることや文字数が設定できることなどから、特に卒業文集の原稿作りには必須でした。

その後、授業支援クラウドやデジタル教材を無料体験させていただく機会を通じて、双方向のコミュニケーションツールとしてのICT活用の有用性を感じ、常時活用に強く憧れるようになりました。

新年度が始まってまもなく、コロナの影響で休校となった2020年度は、2年生の担任。「子どもたちへの課題を工夫したい…。どうしよう…。 何とかしたい…。」と考え、まずはSNSなどで情報を収集し始めました。

自治体によって、または学校によって、そして先生によって、さまざまな取り組みがされていることが分かり、休校中の自分の動きの参考にしました。

さらに、教育系Youtuberの存在を知り、彼らの動画から課題や授業スタイルのヒントをもらい、かけ算の学習前でもリズムに乗った九九の唱えならできる…と課題に加えました。

そのときに見つけた「カップス(プラスチックカップでリズムを刻んで演奏する遊び)」や「ボディーパーカッション(体を叩いて楽器として演奏する遊び)」は、学校再開後にも安心して楽しく取り組めました。


長年の教員経験に1人1台端末をかけ算したら「鬼に金棒」

あるとき受講したオンラインセミナーで、運命的な言葉に出会いました。

これまで経験を積み重ねてきた先生方がICTを活用できるようになれば、鬼に金棒」と。

この言葉に、私の心が大きく揺り動かされました。「鬼でも何でもいいから、大きくて強固な金棒を手に入れよう」と強く心に誓ったのでした。

「鬼に金棒」の話を聞いた同僚が書いてくれたイラスト

コロナ禍による休校期間で、授業参観も懇談会もなくなり、異動してきたばかりの学年団の先生が保護者に会えるのは当分先になってしまいました。

オンラインのセミナーでそのことを相談したところ、「担任紹介動画を作って、そのQRコードを保護者の方にお伝えするのはどうですか?」という回答が。私の頭の中には全くなかった発想でした。

OBTは「QRコード使いまくろう」と思い立ち、担任紹介の動画以外にも、校外学習の様子を撮影した動画や、アンケートフォームを作成して保護者に配付するなど、夢中になって活用しました。

私にとって休校期間は、ICT活用において大きな転換期となりました。

企画・撮影・編集までを子どもたちが担当した動画を、
QRコードで保護者に共有した

2020年の冬休み直前。

1人1台端末というクリスマスプレゼントが学校に届きました。子どもたちに負けないくらい、私もわくわくして開封の儀を行いました。

見ただけで「わあ」、箱ごと受け取って「おおっ」、シールをはがして「ふふ」、ふたを開けて「きゃあ」、端末のお出ましに、私も大興奮。

冬休み明け早々、校内研究会で1人1台端末した授業を提示してみました。端末上で文書を読み、サイドラインを引き、友だちと意見交換する小学2年生の姿に、大人(教師)の方が圧倒されていました。

授業後には、参観した校長を子どもたちが囲み、「僕たちの授業の様子はどうでしたか?」「タブレットを使った授業を見た感想を教えてください!」などと、動画撮影をしながらインタビューを始めました。

端末が導入されて1カ月足らずでここまで使いこなす子どもたち。この2年生は、年度末には6年生にアンケートフォームの活用方法を説明しに行くなど、校内No.1の使い手となりました。

開封の儀は大盛り上がり

1人1台端末がなくても、ICT活用ができなくても、 子どもたち一人ひとりの反応を踏まえた双方向型の授業をしてきたつもりでしたが、お互いの考えを即時に共有できることに大きな魅力を感じました。

OBTは「金棒」を手に入れました。


「子どもと一緒に挑戦している」という感覚で、とにかくやってみる

2021年度より、本格的なICT活用が始まりました。

私は、新しいアイデアを思いついたり、役に立ちそうな活用情報を収集したりすると、「ねえ、ちょっと試してみたいことがあるんだけど」と子どもたちに声を掛けます。すると、子どもたちはいつもニコニコ笑顔で、「いいですよ〜」と返してくれます。

「~したい」「~できそう」を考え、教えるというよりは子どもたちと一緒に模索している時間が心地よく感じられます。

子どもたちと一緒にしたICT活用の例を挙げてみます。(【 】は主に使用したアプリ)

(1)活動や学習のふり返り【Googleフォーム、Googleスプレッドシート】
時間ごと・単元ごとに。児童間で共有してコメントし合ったり、担任が評価に生かした。

Googleフォームで日々の学習を振り返る
Googleフォームからスプレッドシートを作成すれば、
回答一覧が簡単に見られる

(2)発表資料の作成や学習のまとめ【Googleスライド、Word、プログラミングソフト(Scratch、Viscuit)】
発表したり、印刷して掲示をした。

子どもたちが制作したスライド

(3)国語科で学習した語句に合った画像の確認【検索エンジン、Microsoft Teams】
教科書に出てくる植物を検索し、チャットに貼り付けて共有した。

教科書に出てくる植物を検索して、チャットで画像を共有し合った

(4)音読練習【Microsoft Teams
コミュニケーションツールに実装されている機能を活用した。提出、自動採点、返却が可能。

(5)算数で作った図形の撮影【カメラ、コラボノート】
3本のストローで作った三角形を撮影した。残すこと、見返すことができた。材料(ストロー)が最小限で済む。

(6)画像の共有【Googleフォーム、コラボノート】
上記の三角形を友達と比較して共有した。二等辺三角形や正三角形に分類した。

(7)ビデオ作成【カメラ、ビデオエディター】
自己紹介や活動の様子、教室の紹介などの動画を撮り、編集した。それを素材として、児童が「学年通信(皆が作るversion)」の作成もした。

子どもたちが作った学年通信。
QRコードを読み取ると、子どもの解説つきの動画が流れる

(8)曲作り【クロームミュージックラボ】
さまざまな音色で、メロディーやリズムを楽しんだ。接触や飛沫飛散がなく、感染の心配がない。

(9)演奏の動画撮影【カメラ、コラボノート】
広いところで間隔を取り、リコーダーや鍵盤ハーモニカの練習したものを、保存した画像を通して見合うことができた。一番上手にできたものを保存し、担任が評価に生かすことができた。

(10)ダンスや跳び箱、マット運動の練習【カメラ、コラボノート
鏡を見るように、端末の画面を見ながら練習した。撮影したものを見て、次の練習に生かした。一番上手にできたものを保存し、担任が評価に生かすことができた。

(11)実況中継【カメラ、コラボノート
教育系Youtuberのように、学習したことを説明して動画撮影をする。

(12)音源として【YouTube、NHK for school、スピーカー】
スピーカーとつなげば、体育館やホール、プールサイドなどで活用できた。

(13)端末活用のルールを一緒に考える
学級に掲示、児童・家庭に配付した。児童の実態に即し、校内で共通理解・実施できるように、必要に応じて改編する。

端末活用のルールは大人が決めるだけでなく、
子どもと一緒に考える余白も残しておく

次に、ICT端末を活用した学習を経験していない保護者を巻き込みたくて実践してみた例を紹介します。

(14)カラー版通信や動画の配信【QRコード、Googleドライブ】
配付される通信はモノクロだが、QRコードを読み込むとカラー版を見られるようにした。児童が作った動画や動く素材なども見られるように。

(15)アンケートによる参観授業や懇談・面談内容の決定(史上初の紙上学年全体会も開催)
保護者がPTAで見たい教科や、話題にしたいことを懇談会や面談に生かした。PTAが実施できなかったときには、学級通信を疑似学年全体会の場とした。

保護者懇談会ができなくなった代わりに、
会で話題になるようなテーマを学年通信で取り上げた

(16)学習発表会に画像参加【カメラ、Googleスライド】
児童が自宅で撮影した家族の写真をスライドに貼り付け、加工し、劇の効果として活用した。

(17)オンライン学習に参加【Googleジャムボード、Canva、クイズレット、Googleフォーム】
約束した時間に、ご自宅や職場などから参加していただいた。離れていても、どことでもつながれることを、児童も保護者も実感できた。

懇談会を利用して、保護者の方にもICTを活用した取り組みを
体験していただいたときの資料

最後に、1人1台端末を活用している姿を多くの方々に紹介しようと試みた例を紹介します。

(18)校外学習に持参(OBT自作のタブレットホルダーと共に)【カメラ、メモ機能】
大人からのプレゼントである端末を児童が活用している姿を見ていただきたいと思い、校外学習に持参し、活用した。

(19)学習のまとめポスターを作る【Googleスライド、Word】
校外学習で学んだことを1枚のポスターにまとめた。(例:市民市場を紹介しよう)

(20)ポスターコンクールで投票してもらう【Googleフォーム】
完成したポスターの中から学級代表を選び、校内の職員や校外学習でお世話になった方々、ICT活用の学習をサポートしてくださった方々などに特別審査員として投票していただいた。

Googleフォームを活用したポスターコンクールに、
学校外の方も特別審査員として参加していただいた

(21)ポスターを掲示してもらう
特別審査員による投票の結果をもとにサイズを変えて印刷をし、全員のポスターを市場に掲示していただいた。子どもたちも、保護者も、市場で働く方々も、市場を利用する方々も…皆がニッコリ笑顔になった。

児童が作成したポスターを、
校外学習先の市場に掲載していただいた

…などなど。

私や子どもたちが思いついたことを、できる方法で楽しみながら実践してきました。

1人1台端末の活用は、皆にとって初めてのことです。子どもたちも保護者も教員もです。確立したモデルはありません。だからこそ、今はチャレンジのときです。

情報収集のために、相変わらずオンラインセミナーに度々参加しています。ときには、スマホ・タブレット・PCなどで同時に複数のセミナーに参加して、目も耳も頭の中もごちゃごちゃになることもありますが…。


学校の先生って、とにかく楽しい!ずっと楽しい!

私は、テレビのCMやチラシ、風景などを見ていると、いつの間にか、「これは教材になるな」と考えています。担任している子どもたちのことをイメージして、さまざまな人・もの・ことから教育活動を創造することに楽しみを感じます。

一生懸命に考えて準備をしても、満足のいく結果にたどり着けないこともよくあります。そんなときには少し落ち込むけれど、また楽しいことを考えて元気を取り戻します。大きな未来に向かっている子どもたちの近くで関わる教員として、自分も先(未来)を見ていたいと思うからです。

ICT活用に戸惑ったり、手間取ったりしている先生方に、私が取り組んできたささやかな実践や心のあり方に共感していただけて、少しでも何かのお役に立てれば幸いです。

ご自身が大好きな味つけを見つけて、「楽しい!」と思える方向へ進んでいってくださいね。

OBTはもうすぐただのOBになりますが、これからも日々アップデートしていくつもりです。離れたところから、T(Teacher)の応援をしていきたいです。