1. TOPページ
  2. 読む
  3. 子ども・保護者とのつながりをデザインし、教師の笑顔を生み出す学級通信✕ICTの可・・・

子ども・保護者とのつながりをデザインし、教師の笑顔を生み出す学級通信✕ICTの可能性

子ども・保護者とのつながりをデザインし、教師の笑顔を生み出す学級通信✕ICTの可能性

「学校は見えにくい」と言われることがあります。

私が小学校1年生の担任をしていたとき、保護者の方から「小学校は、先生と子どもの様子を気軽にお話できる機会が少ないからか、幼稚園に比べて壁があるイメージがあって…」と言われたこともありました。そして、その壁が保護者と連携していく際の障壁となることも。

そんな課題を解決し、教室と保護者の双方向のつながりをデザインするために「学級通信✕ICT」の実践に取り組んできました。今回は、その取り組みを行う背景や実際の事例を紹介します。

写真:平子 大樹(ひらこ だいき)さん
平子 大樹(ひらこ だいき)さん
埼玉県公立小学校教諭 教員9年目/Google認定教育者レベル1

「未来を担う子ども達とそれを支える大人達が笑顔で過ごせる社会をつくる」をビジョンに、子どもたちが身の回りにあるモノの「よさ」、周りの人の「よさ」、自分の「よさ」を探究し、実感できるような緩やかなつながりと、余白をデザインする。また「みちをたのしみ、みちを歩き、みちをつくる」を合言葉にPBL(Problem based learning)に取り組む。最近は同僚の先生と「DIALOGUE RADIO」という Podcastを配信中。


学級通信を大切にし、学級通信✕ICTに取り組もうと思った理由

私は学級担任をする中で、保護者に「No」を突きつけられたことがあります。

「あなたの取り組みを理解することができない。あなたにうちの子どもは任せられない」そう言われました。教員になって6年目のときです。

当時の私は、教師としてできること・やりたいことが増え「自分なら子どもたちを幸せにできる!」と信じて、学級でさまざまな教育実践を行っていました。天狗になっていたのだと思います。

そんな中で突きつけられた保護者からの「No」に、私は教育に対する情熱を失ってしまいました。

家族や学級の子どもたち、周りの先生方の支えのおかげで今は情熱を取り戻しましたが、最後までその保護者の信頼を取り戻すことはできませんでした。

今になって振り返ると、保護者にしっかりと説明もせずにさまざまなことに取り組んでいたので、信頼を失うのは当然だと思えます。ただ、教師も保護者も「子どもを幸せにしたい」と同じ方向を向いているにも関わらず、力を合わせて教育にあたることができなかったことが悔しかった。

この経験から私は、教師の思いや、子どもの輝く姿を保護者に届ける手段として、学級通信に力を入れ始めました。目指したのは「まるで一緒に教室にいるかのような雰囲気を味わえる温かい学級通信」です。

子どもたちの「よさ」をより鮮やかに伝えるためにはどうすればよいか。日々の生活の中で起こるさまざまな物語を、断片的ではなく文脈まで伝えるにはどうすればよいか。

情報を一方的に伝えるツールではなく、家庭で見つけた子どもたちの「よさ」や、子育ての悩みを共有できるような双方向のつながりのある温かい場にするにはどうすればよいか。試行錯誤を繰り返し、学級通信とICTの組み合わせに辿り着きました。

学級通信は、ICT機器と組み合わせることで大きく幅が広がります。

今回は、学級通信✕ICTに約3年間取り組んできて感じたメリットを「子どもたちの日常を鮮やかに伝えられる」「生産性が高まる」「双方向のつながりをデザインできる」という3つの視点から紹介します。


学級通信×ICTのメリット(1)
子どもたちの日常を鮮やかに伝えられる

私は現在、タブレットPCで学級通信を作成をしています。タブレットで学級通信を作成する理由は、手軽に写真や動画を撮影でき、学級通信に入れ込むことができるからです。

アメリカの調査会社Forrester ResearchのJames L.McQuivey博士が2014年に発表した研究結果によると「1分間の動画から伝わる情報量は、文字に換算すると180万語、Webページに換算すると約3600ページ分になる」そうです。

文字だけでは伝わりきらない具体的な姿や場の雰囲気も、写真や動画なら伝わりやすくなります。そして何より、写真や動画を活用した学級通信の方が保護者の反応も大きいです。文章が多いと読むのも一苦労ですが、写真や動画が多いと気軽に読むことができるからかもしれません。

もちろん文字も大切です。動画では出来事の様子(事実)しか伝わりません。

学級通信を書く際には、出来事の様子を写真や動画で伝え、その出来事に至るまでのエピソードや教師から見た出来事の価値について、文字で伝えるようにしています。

動画は二次元コードに変換したり、ハイパーリンクにして埋め込んだりすることで、保護者が視聴できるようにしています。

Viscuitというビジュアルプログラミング言語を使って、
教室に水族館を作った日の学級通信

結果だけではなく過程や文脈まで伝えることも、学級通信を発行する上で大切にしていることです。

例えば運動会。所属校で実施している運動会の表現運動では、子どもたちと話し合いながら表現のテーマを決め、振りつけも子どもたちと一緒に考えて作品を創り上げていきます。

ICTと学級通信を組み合わせれば、動画・写真・文字を組み合わせながら、一生懸命振りつけを考える姿、壁にぶつかった姿、それを乗り越える姿などを伝えることができます。

保護者に背景や文脈まで共有することで、当日は子どもたちが運動会に至るまでのストーリーに、丸ごとファンとなって運動会を見ていただけました。運動会本番のみの参観だと、どうしても見栄えに目が行きがちですが、その過程にあった子どもたちの輝く姿を伝えることができるのは、学級通信の素敵なところです。


学級通信×ICTのメリット(2)
生産性が高まる

教育の本質は生産的の向上にあるわけではありませんが、教員という仕事において、生産性を高めることは大切だと考えています。生産性を高めて時間を生み出すことで、余裕を持って子どもに向き合えるようになるからです。

「学級通信の発行に価値があるとは思っているのだけれど…」と取り組むことに躊躇している方の声を、今までたくさん聞いてきました。その理由のほとんどが、学級通信を発行することによって生じるであろう負担からでした。しかし学級通信にICTを組み合わせることで、この負担を減らすことも可能です。

1.写真を活用することで作成の時間を削減する。

子どもたちの一生懸命な姿や笑顔は、長く文章を書いて説明するよりも、写真を活用した方が伝わりやすい場合があります。

タブレットで学級通信を作成すれば、「学級通信に写真を載せる」という作業も、撮影から写真の挿入まで1台で完結します。動画に関しても、撮影、二次元コード化、学級通信への挿入まで、全てタブレットだけで行うことができます。

私は、iPadの純正アプリ「Pages」を使って学級通信を作成していますが、写真の多い学級通信なら5分で1枚を作成することも可能です。

2.学級通信をデータ配信することで印刷の時間を削減する。

学級通信をタブレットで作成し、データをGoogle ClassroomやMicrosoft Teamsで配信すれば、印刷する手間も消費する紙も丸々なくすことができます。

Googleサイトなどで学級通信置き場を作っておくと、自分も保護者の方も配信したデータを見やすくなるのでおすすめです。

Googleサイトで学級通信をいつでも閲覧できるようにしている

学級通信の発行は、保護者との温かいつながりをつくり、共に手を取り合って子どもたちと向き合っていく架け橋となるという点で、長期的に見て生産性の高い取り組みであると感じています。

子どもたちの学校での様子が可視化され、教師と保護者が分かり合えれば、保護者の方は学校をサポートしやすくなり、結果的に生産性は上がると考えています。

学級通信の発行は、目的ではなくひとつの手段なので、無理におすすめしようという気持ちはありませんが、発行の負担感から取り組むことを躊躇していた方にとって、ICTを活用することで、学級通信が手軽に作成・発行できるという気づきにつながれば幸いです。


学級通信×ICTのメリット(3)
保護者との双方向のつながりをデザインできる

 学級通信とICTを組み合わせたことで私が一番効果を実感しているのが、保護者の方との双方向のつながりをデザインできることです。

例として、私は学級通信に「お便りコーナー」を設け、そこで双方向のつながりが生まれる仕組みを作っています。

「お便りコーナー」のテーマは、「褒めてあげたいと思った出来事」「最近感じた子どもの成長」などポジティブなものから、「やってしまったこと」「最近の悩みや不安」など、ネガティブなものまでさまざまです。

Googleフォームを活用して質問項目を作成し、二次元コード化して学級通信に載せています。いただいた回答と、それに対するコメントを次回の学級通信で紹介するという流れです。Googleフォームに「学級通信に載せてもいいか」の許可を取る質問項目を設定しておくことも大切です。

Googleフォームで質問に答えてもらい、
回答を「お便りコーナー」に掲載している

このコーナーを始めてから、保護者の方からたくさんのお便りをいただけるようになりました。

そのコメントをもとに、学校でも子どもたちを褒めることができたり、保護者の方がなかなか教師に伝えられていなかった悩みを聞くことができる機会になりました。

また、このコーナーを通し、学校で見えている子どもたちの姿は一部分であることを改めて実感しました。保護者の方の声を知ることで、家庭での子どもの様子を知ることができます。今ではお便りコーナーが、私にとって子どもの新たな一面を知ることができる、なくてはならないものになっています。

さらに、想定していなかったことですが「コロナ禍で保護者同士の関わりも少なくなっている中で、悩んでいることに共感できたり、家庭での工夫を知ったりできてうれしい」という感想をいただき、教師と保護者のつながりだけでなく、保護者同士のつながりをデザインできる可能性もあるという、うれしい気づきも得ることができました。

保護者の方からは「毎週家族で楽しみにしてます。クラスのエピソードにほっこりしたり、子どもたちの成長に感動したりしています。なかなか学校の様子を知れない中で、子どもたちの様子や、先生の考えを知ることができとてもありがたいです。これからも楽しみにしてます!」といううれしい感想も聞くことができました。

ありがたいことに、毎回多くの方からのお便りや感想をいただき、1年間で頂いたお便りの数は100通を超えました。

学級通信✕ICTでの双方向のつながりには、まだまだたくさんの可能性があります。現在小学2年生の担任をしていますが、クラスに「絵本係」(絵本の読み聞かせをしたり、紹介をしたりする係)と「景色係」(タブレットで心動かされた景色を写真に撮り、教室を彩る係)という子どもたちが作った係があります。

最近その2つの係がコラボレーションをし、「心動かされた景色を写真に撮り、『キャンバス』というGoogleアプリを使って写真の上に絵を描いて絵本を作る」というプロジェクトを始めました。

Canva」というアプリで綺麗にポスターを作り参加者を募ったかと思えば、「絵本ができたらQRコード化して学級通信に載せてほしい」というのです。担任ながら、子どもたちの創造力と行動力に感動を覚えました。

この経験から、学級通信を子どもたちが発信するツールとして活用し、保護者の方からフィードバックをもらったり、保護者の方とのつながりを授業に生かしたりもできそうだと妄想しています。

「双方向のつながりをデザインする視点」について書いてきましたが、学級通信✕ICTだけで全ての保護者とつながりを築けているかというと、そうではありません。そのことをしっかりと自覚しながら、お互い不快にならない緩やかなつながりをデザインしていくことが重要だと私は思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事が、保護者との温かいつながりをデザインし、力を合わせて教育活動に取り組んでいきたいと思われている先生方の一助となれれば幸いです。