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世界が注目する学び手主体の公立校ハイテックハイ留学経験者に聞く、ハイテックハイのユニークなPBLとは?

世界が注目する学び手主体の公立校ハイテックハイ留学経験者に聞く、ハイテックハイのユニークなPBLとは?

AIやロボットが生活に浸透していく時代を生きる子どもたちにとって、必要な教育とはどのようなものか?、をテーマとした教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」。

この映画では、アメリカはカリフォルニア州サンディエゴにある「High Tech High(以下、ハイテックハイ)」という公立校が紹介されており、授業は全て学び手主体のプロジェクト型学習(PBL)というその先進的な教育スタイルが、これからの子どもたちに必要な学びの形として、多くの教育関係者や有識者の注目を浴びている。

ハイテックハイが実践する学び手主体の教育とは?ハイテックハイに1年間留学した経験を持つ岡佑夏さんに話を聞いた。

写真:岡 佑夏(おか ゆうか)
岡 佑夏(おか ゆうか)
教育コンサルタント

高校在学時に開校2年目のHigh Tech High International へ交換留学。 いつかこんな高校を日本にも創りたいと教育に興味を抱く。語学学校のカウンセラー、アウトドアツアー会社にてサマーキャンプや野外研修のマネジメントを経験。観光業にも長く従事し、カナダの大手観光会社にてホスピタリティマネジメントを行う。2018年に帰国後、Loohcs高等学院の立ち上げに参画。「先生を幸せにする学校づくり」をテーマに、様々な学校のコンサルティング、教員向けの研修プログラムを行っている。


ベトナム戦争×演劇、円周率×歌。ハイテックハイのユニークなPBL

――岡さんが留学した2005年は、ハイテックハイが開校してまだ5年というタイミングでした。留学のきっかけは何だったのでしょうか?

アメリカの高校を舞台にしたミュージカル映画「ハイスクール・ミュージカル」を見て、その自由な教育スタイルに憧れたことがきっかけです。

当時私が通っていた公立高校は、生徒が主体的に動ける雰囲気ではなく、校則もガチガチで学校生活がつまらないと感じていました。

入学してすぐに文理選択を迫られる仕組みなど、日本の教育に対してどこか反発するような気持ちもあって。

そこで、自由度が高いと聞くアメリカの高校生活を見てみたくなり、2年生のときに留学団体に申し込み、たまたま交換留学先に決まったのがハイテックハイでした。

当時はハイテックハイの名前すら知らなくて、ここがどうやら特殊な学校であることは後々知りました。


――今やハイテックハイはPBLをベースとした授業スタイルで有名ですが、岡さんが在籍した頃はどんな学校生活でしたか?

私が在籍した2005〜2006年の頃は、授業は1日5時間。数学・生物・人文科学といった必修科目の他に、興味がある科目を選んで受講する形式でした。

この頃から授業は全てPBLを基本としていて、毎日複数のプロジェクトに取り組んでいましたね。

エッセイやテストといった言葉でのアウトプットが全てだと、私のように英語が第一言語ではない生徒が好評価を取るのは難しいですが、創作や表現をテーマとしたプロジェクトであれば、絵が得意、身体を動かすことが得意など、個人の強みを生かして参加できるので、とても良い仕組みだと感じました。


――特に印象に残っているプロジェクトはありますか?

たくさんあります。

例えば、人文科学の授業では1カ月かけてベトナム戦争を題材にした劇を各クラスで作り、全校集会で発表するというプロジェクトに取り組みました。



まずは家族や体験者へのヒアリングから始め、教室で議論することでベトナム戦争を多角的に捉え、考えを深めます。

その後、2人ペアになって劇の脚本を書き、クラスでプレゼン。一番に選ばれた脚本をクラス全員で劇にしていきました。

誰が何をするかの役割分担から衣装・小道具・演出まで、全てを私たち生徒が考え、決めながら1つの作品を作り上げていくプロセスはとても学びが多く、夢中になれる時間でした。

最後に4クラスがそれぞれ創り上げた劇を全校生徒の前で発表したのですが、同じ題材でもこれだけ違う作品ができるんだと知ることができておもしろかったし、他のクラスに負けたくないという対抗心や一体感が生まれて、大変盛り上がりました。

もちろん、ベトナム戦争についても理解が深まりました。

他にも、数学では「円周率をパフォーマンスで表現する」というプロジェクトがあり、私のグループは歌で表現しました。

円周率って調べてみると想像以上に世界が深くて、ロマンがあるんですよ。パフォーマンスのテーマとしてはぴったりだったと思います。


――ユニークなプロジェクトばかりですが、プロジェクトの内容は誰が決めているのでしょうか?

プロジェクトのテーマは先生から与えられますが、先生はひとたびテーマを与えたら、あとは“生徒が自分で選ぶ”ことをとても大事にしてくれます。

どういうアウトプットにするか、そのために誰が何の役割でどんな形で進めていくか。

プロジェクトの過程は全て生徒に任されるので、自ずと学び手中心のスタイルになります。

「自分たちの作品を創っているんだ」と自覚しながら目的意識を持って取り組めるところが、日本の授業と異なる点です。


人間力を育むオーセンティックラーニングとクラフトマンシップ

――ハイテックハイの在り方がこれからの教育の理想型だとしてアメリカでも注目を集めていますが、その背景には何があるのでしょうか?

ハイテックハイは今年で設立から20年を迎えます。小中高をあわせると6,000人を超える生徒が通い、それでも入学希望者が絶えない人気校になりました。

ハイテックハイのようなおもしろい学校も増えている一方で、相対的にみると教育水準の低い公立校、バカロレア認定校であっても詰め込み式の教え方の学校の方が多いのが実情です。

私の同級生たちは「ハイテックハイがなかったら高校を辞めていたかもしれない」と話していました。

そんな中、ハイテックハイは「公正(Equity)を実現する」ことを主軸に設立されました。

入学者も抽選で決まるので、家庭の経済状況、人種、宗教に関わらず多様な生徒が集まります。


平等(Equality)は、全員に同じものを与えることですが、それは公正ではありません。生徒一人ひとりの家庭環境、能力といったバックグラウンドは異なります。

だから一人ひとりにとって必要なサポートや、学習課題を与えることがハイテックハイの目指す公正です。


――学び手中心かつ公正な学校の在り方が、注目を集めている背景なんですね。ハイテックハイの設立経緯が気になります。

ハイテックハイは、半導体企業Qualcomm(クアルコム)創業者の息子さんが設立資金を出す形で、2000年にサンディエゴで開校しました。

サンディエゴは電子半導体企業が多い地域なのですが、「優秀な人材が他都市に流出してしまい人材確保が困難」という悩みを抱えていました。

その解決策として、企業が求める人材をサンディエゴ内で育成してしまおうという話が持ち上がり、High Tech=高い技術力の習得に特化した学校を作ることになったことが始まりだったと聞いています。


――なるほど。学校の設立がそもそも社会との接続を前提としたもので、既存の教育では身につかない非認知能力を、学び手を中心とした学習環境によって育もうと考えたわけですね。

その通りです。

ハイテックハイのPBLは、「生徒たちがプレゼンテーション・制作物を作ってアウトプットするまでの一連のプロジェクトをデザインし、実行することによって得る学び」だと定義されていて、プロジェクトも地域社会を題材にしたものや、校外フィールドワークをするようなものが多く、オーセンティックであることが意識されています。

オーセンティックとは、現実社会の中での生きた学びを意味する言葉で、社会や将来との結びつきを感じることができる学びのことです。

ハイテックハイでは外部の大人が講師として来てくれることもあり、自分たちが生活している地域を知ったり、普段出会わない職業の大人から話を聞いたりする経験は刺激的で、社会に対する自分の視野を広げてくれました。



そしてプロジェクトの大半は、グループワークなんです。人と意見を擦り合わせたり、役割分担をして一緒に創り上げることを繰り返していきます。

その中で喧嘩になったり、うまくいかないこともありますが、反省は次のプロジェクトに生かせばいい。締め切りから逆算するタイムマネジメント力や、やり切る力が育まれました。

また、“クラフトマンシップ”も重要視されていました。

直訳すると“職人”ですが、「自分の創作に誇りを持つこと」「周りの人や学校外にとって意味があるものを創ること」「美しい仕事を追い求めること」というニュアンスが込められている言葉です。

創造性を育み、美しいものを作り上げるという美術的な教育的要素も、とても大切にされていました。

このようにプロジェクトを繰り返していく中で、自然と非認知能力が伸びてしまう。しかも公立だから無料。

理想的な学校ですよね。


先生が生き生き楽しんでいれば、教育は変わる

――先生に求められるスキルも日本とは異なりそうですが、ハイテックハイで働く先生に求められる資質はどういったものでしょうか?

ハイテックハイでは、「教員も協働し、学び続ける組織」というフレーズが教育指針の中で掲げられていて、常に学び続けられる人と、生徒の可能性を信じられる人がハイテックハイが求める教員の資質だとされています。

実際に、先生方は生徒が登校する前に、互いにプロジェクトを披露したりフィードバックしたりすることで高め合っているそうです。

日本とは異なり、プロジェクトのゴールや、何のために学ぶのかという目的が明確に生徒に共有された上でプロジェクトが進むため、「これは意味のある学びなのだ」と生徒自身が納得してプロジェクトに取り組めるような設計力も求められているように思います。

またハイテックハイでは、先生と生徒がフラットな関係でいることによって信頼関係を築いています。



先生が廊下を歩いていると、どんどん生徒が話しかけてきます。

そうやって一人ひとりと近い関係を築き、その子に必要なサポートが何かを見極めるんです。ハイテックの先生たちは生徒のことをとてもよく見ています。


――ハイテックハイで1年間を過ごしたご経験を生かして、今後どんなことに取り組みたいですか?

ハイテックハイに留学して最も印象的だったのは、先生がみんなキラキラと輝いていたことです。

そもそも学校側が、「先生を育てることこそが学校を作ること」という考え方のもとに、先生たちに権限と自由裁量を与えているので、先生たちは伸び伸びと自分たちの思い描く授業ができている。

教えることは楽しい!自分の人生を生きることはとても楽しい!そんな姿勢が毎日伝わってきました。

日本でも教育改革の議論が盛んですが、私は、先生が幸せになることこそが教育を良くする鍵になると思っています。

先生が生き生きとした顔で子どもたちと向き合っていて、教員という仕事にやりがいと誇りを持てる環境があってこそ、クリエイティブな授業が生まれ、クリエイティブな生徒が育つ。まさにクラフトマンシップですよね。

そのためのお手伝いをしていきたいと思っています。



現在、ハイテックハイでの経験を生かして新しい学校作りやカリキュラム作りに協力させていただいているのですが、その中で、ハイテックハイのような仕組みを導入したいがどうしたらいいか、とよくご相談をいただきます。

ここでお伝えしておきたいのは、PBLはあくまでも一つの手法であって、全てではありません。

教育環境は地域によっても学校によってもさまざまで、ベストな形はそれぞれで異なります。

大切なことは、生徒主体の学びであること。そして、先生たちがやりたいことを自由にやれる環境であること。

この2つを念頭に、それぞれの地域や学校に合った最良の形を作っていくことが大切なのではないでしょうか。

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