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先生という仕事は、生涯学び続け、発達し続けるもの。大学修士レベルの教員養成に取り組むフィンランドの教員学生組織「SOOL」代表インタビュー

先生という仕事は、生涯学び続け、発達し続けるもの。大学修士レベルの教員養成に取り組むフィンランドの教員学生組織「SOOL」代表インタビュー

フィンランドで1990年代に元教育大臣オッリペッカ・ヘイノネンさんのもと行われた教育改革の一つの柱が、教員資格の大学院修士修了レベルへの引き上げだ。

そんなフィンランドで教員になるために学んでいる大学生たちは、積極的に教育現場の未来計画に参加しようと教員学生組織SOOLに所属し、活動している。

そこで、2020年6月にSOOLの新しい代表となった、現在トゥルク大学で学ぶサーナ・ユリクルービさんにSOOL立ち上げの背景や目的、現在の取り組みについて話を聞いた。

写真:Ms.Saana Ylikruuvi(サーナ・ユリクルービ)
Ms.Saana Ylikruuvi(サーナ・ユリクルービ)
SOOL(Suomen Opettajaksi Opiskelevien Liittoフィンランド教員学生組織)代表

トゥルク大学に在学し、歴史と倫理社会を学ぶ。大学生活は5年目で、2020年6月にSOOL代表に選出される。


みんなが平等な関係の中で互いを支援していく場「SOOL」

——SOOLができた背景について教えてください。

私たちSOOLは、フィンランドの教員労働組合OAJの傘下に属する特別な学生組織で、約60年前の1959年にスタートしました。

もともとフィンランドは組合、協会組織が多い国ですが、教職員の利益の保護と監視のための活動への意識も高く、教員を目指す学生の相互支援やネットワーク作りのために協会組織を作る必要性が出てきたんです。

はじめは同じイデオロギー(物事に関して歴史的・政治的な自分の立場によって構築された考え方)を共有する学生の小規模なグループ活動から始まりました。


——SOOLのビジョンやミッションを伺えますか?

やはり一番大切なことは、学生たちのネットワークを作ることです。さまざまな活動を通して、とても多くの素晴らしい個性とスキルを持った人たちとの出会いがあります。

私たちのミッションは、みんなが平等な関係の中で互いを支援していく場を作ること

そしてもう一つ大切なことは、教員養成に影響を与え、未来の教育を作り上げることです。

大学修士レベルの教員養成に取り組むフィンランド


——SOOLの具体的な取り組みについて教えてください。

フィンランド各地に13人のスタッフがいて、さまざまなプロジェクトを計画します。

例えば、教員や教員を目指す学生を対象にそれぞれの地域でコーヒータイムなどの交流の場を提供したり、大きな研修イベントも年に3回ほどありますし、ウェビナーも定期的に開催しています。

それらのいくつかは大学によっては授業カリキュラムの単位として認められることもあります。


——学生の自主的なイベントが大学の単位になるとは驚きです。大学から干渉されることはないのでしょうか?

フィンランドの教員は、授業やクラス運営において「自由決定権」が与えられています。

ガイドラインに沿ったカリキュラムは存在しますが、方法決定は自分の選択です。自ら計画をしなくてはいけませんし、最も良いと思われる方法で教育が提供されるよう、必要なアクションを取らなければなりません。

教育実習で「どのように対応するか」の練習は大変重要と考えられていますし、これらの経験の結果、自分のプロジェクトやセミナーの企画・運営も自然と行えるようになります。

ですので、大学から干渉されることはありません。

教育実習の回数も多く、他の教員との対話の時間も大切にしている


——イベントやセミナーではどのようなテーマが人気がありますか?

性教育に関するテーマや国際化、グローバリゼーション、環境教育などのテーマが人気です。

社会で実際に起こっていることや話題になっていること、また学生自身が学びたいことや授業で子どもたちが学びたいと思っていることを見つける努力をしています。

専門家を招いて話を聞くこともあります。専門家の方々との対話は大変貴重で、視座が上がるような経験になります。

そうそう!一つお伝えしたいことが。

私たちは、「Winter Days」というイベントを毎年開催しています。2020年は計3,300人も集まりました!これは過去最大でした。

Winter Daysは教員になるために学ぶ学生たちのイベントとしては、フィンランド最大です。

そしてこれも歴史が長く、1947年からやっています。保育から一般教育、職業教育、全ての教育の場面で将来活躍する学生たちが集まり、互いに学び合います。

個性豊かな人たちに会えることは、とても楽しく、特に他の教科を学んでいる学生や特別支援を学ぶ学生との対話はとても興味深いです。

SOOLも出展したフィンランドの教育の祭典Educaの様子


先生という仕事は生涯自己開発され続けるもの

——550万人の小国・フィンランドで、3,300人の参加はすごいですね!

Winter Daysではいつも有名な歌手や、ラッパーなどスターゲストも出演します。

もちろん研修プログラムや新しい友人を作るのがメインの目的ですが、良い思い出を作る機会も欠かせません。

プログラムのテーマは多様ですが、今話題になっていること、ディスカッションの必要があることなどを選びます。2020年は性教育や、学校での暴力と教員としての対応の仕方などをテーマにしました。

また最近は、海外からの留学生も参加しているので、彼らの学校環境の話を聞くのも一つのコンテンツになっています。


——参加されている学生たちからはどんな声や要望が聞こえてきますか?また現場の先生とも交流はありますか?

はい、私たちは常に学生たちからの問題やアイデアを聞くようにしています。

また、ネットワークを通じて情報を提供、共有することや互いを支えることがとても必要だと感じています。

フィンランドの教員労働組合OAJとも常に双方で意見交換ができます。どんなスキルが未来の教員に必要かということも常に話題になっていますし、正直な意見を伝えることができます。OAJとはとても良い関係です。

そして現場の先生方も多くは昔SOOLのメンバーでしたので、実際の私たちの活動や行動内容をよく理解してくれていますし、支援してくれます。

フィンランドの小学校の様子


——教員の資質として大切なものは何であるとお考えですか?

やはり一人ひとりの生徒と平等で公平な姿勢で向き合うことでしょうか。

クラスの運営管理能力だけでは良い教員としては十分ではないと思います。私は身近な大人の一人として、子どもたちの成長に寄り添いながら支援したいです。

一人ひとりを知るためには時間と努力が必要ですが、とても重要なことです。

また、他の大人やプロフェッショナルと協力できるチームワークも大切な資質だと思います。

SDGsやサステナブルな発展は一人では無理ですから、他の教科の先生と一緒に教科を超えて学ばなくてはいけませんね。

例えば、倫理社会と数学は世界経済を理解するのに必要ですし、数学と体育(運動)は問題解決能力を育てるのにいい共同授業だと思います。ということは、先生同士のソーシャルスキルも必要です。

ちなみに、日本ではそういった制度はないそうですが、フィンランドでは高校を卒業して教員の代理教員として仕事をすることもできるので、私は社会科の代理教員をしていました。


——それは貴重な機会ですね。

私にとっては、歴史を教えながら現場の様子を早いうちから知る機会を得たことはとても良い経験だったと思います。

先生という仕事は生涯発達し続けるものだと思うのです。先生方は自分の知識を補充するためにいつも学んでいます。

常に新しい研究結果も発表されますし、社会は、世界は常に変化していきます。変わり続ける社会に対して、子どもたちが投げかけてくる質問に答えられなくちゃいけないですものね。

ですから先生も生涯学び続けるということが自然なんです。そう思いませんか?

大学や国家教育委員会でも、さまざまな教員向け研修をしてくれます。

教員向けの研修が充実しているフィンランド


大きな変化が起きたとき、一晩ですぐに反応することができますか?

——教師は時代を先取りする必要がある(未来にフォーカスする)」とサイトに記載がありますが、時代を先取りするために必要なスキルやスタンスについて、お考えを伺えますか?

未来のチャレンジに対応できるスキルですね。

例えば、今回のCOVID-19もそうですが、ある日突然大きな変化を強いられることが今後増えてくると思います。そういった何か変化が起きたときに、一晩ですぐに反応することができますか?

フィンランドの先生たちの多くはすぐに反応し、リモートでの学習に挑戦されていました。

“もしも、こうなったら…”と普段から想像して準備しておくこと。新しい光の中で物事を見るように、批判的なアプローチも重要です。

教員には自由が与えられているのですから、自分でも関心のある方法をどんどん開拓して急な変化にすぐに対応できるように準備しておく必要があると思います。


——現在フィンランドでは先生になりたい学生が減っていると聞きます。その原因は何だと思われますか?

メディアや世論調査によると、先生たちの仕事環境の困難さが増してきたとか、勤務時間が増えたなどと言われています。

また教育レベルに比べ給与が低いことや、問題を抱える子どもや家庭の問題も出ています。

いくつかネガティブな問題が取り上げられていますが、私たちSOOLはポジティブな点についてもっと強調していく義務があると思います。

というのは、まず教育というのは本当に素晴らしいものですし、“若者に自分たちの未来を考えるチャンスを与える”ことができるんですから。

教えることは本当に素晴らしい仕事です。
このように教員になろうとする人たちも感じてほしいです。

そして職場としての学校の、より良い労働環境、例えば職場のWell‐beingを整えることも教員になろうとする学生にとっては重要な関心事だと思います。

フィンランドでも、日本同様に先生になりたい学生が減っているそうだ


——現在のフィンランド教育をご覧になって、課題に感じられることがあれば教えてください。その課題を克服するために取り組んでいることがあれば教えてください。

フィンランドは移民、難民の受け入れも積極的に行ってきたのですが、フィンランド語を第二言語としている方たちの立場を心配しています。

社会経済的な背景もあるかもしれませんが、現状では教育においてハイレベルまで達することが困難な状況です。

今の政府はこの問題を調査するワーキンググループを作りました。そして大学レベルへの全体の入学比率を上げるための方法を検討しています。

私たちSOOLは、多方面との対話を通してフィンランド教育がより良い方向に向かうために最善を尽くしたいと思います。


——日本の先生たちへ、メッセージをお願いします

“Be yourself. Be brave. Don’t be afraid. Be thankful for even the smallest things.”
(自分らしくあること。勇気を持って。恐れずに。たとえ小さなことであっても感謝すること。)

まずこの言葉を贈りたいのと、ネットワークを大切に、たとえ意見が異なっても周囲の人々の声をよく聞き、情報を共有し、勇気を持ってアクションを起こしてください。

互いに助け合って、より良い教育を作りましょう。

〈取材・文=ヒルトゥネン久美子/写真=ヒルトゥネン久美子、編集部提供〉