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世界から注目を集める、フィンランド最大の教育の祭典「Educa」とは?先生方にはもっと勇気を持って、新しいことにチャレンジしてもらいたい

世界から注目を集める、フィンランド最大の教育の祭典「Educa」とは?先生方にはもっと勇気を持って、新しいことにチャレンジしてもらいたい

フィンランドといえば、先進的な教育をするイメージで知られている。

15歳の子どもを対象とした国際的な学習到達度調査(以下、PISA)では、2000年以降フィンランドは常に上位にランクインしているが、暗記によって知識量を増やす、いわゆる「詰め込み型」の教育ではなく、子ども一人ひとりの個性を育むことに重点を置いているのが特徴だ。

フィンランドの首都ヘルシンキでは、年に一度、国内最大の教育の祭典「Educa(エデュカ)」が開催されている。

教育関係者らが集まり、セミナーやパネルディスカッションなどを通して教育分野の最新動向に関する情報が提供される本イベントでは、教科書や書籍、学校机、デジタル関連機器などの販売も行われているようだ。

そんなフィンランド最大の教育の祭典を企画しているのが、フィンランドの教員労働組合OAJだ。OAJでEducaのプログラムの企画及び開発を担当するリーッタ・シルボネンさんにEducaの目的や工夫、今後の展望について伺った。

写真:Ms.Riitta Silvonen(リーッタ・シルボネン)さん
Ms.Riitta Silvonen(リーッタ・シルボネン)さん
フィンランド教員労働組合OAJ スペシャリスト

保育園教諭資格習得及び教育学を大学で学び、クオピオ市にて30年間保育と教員研修の現場に携わる。2013年よりフィンランド教員労働組合OAJに勤め、2014年より フィンランド最大の教育の祭典「Educa」を担当。Educaプログラム企画及び開発チームを率いる。現在60歳。


30年以上続く、教職員研修のビックイベントEduca

——フィンランド最大の教育の祭典「Educa」の歴史とその背景について教えてください。

1986年に初めてEducaが開催されました。

当時は3年ごとに開催される4日連続の教員のための研修プログラムとしてスタートし、保育園から大学までの全ての教員、また教育担当職員が一堂に参加できる場を目指しました。

現在も教員に対しては少なくとも年間3日間の研修が義務づけられていますが、Educaのプログラム内容は、その研修を代替できるようなプログラムになるよう配慮され、当初より教職員研修のビックイベントをイメージして運営してきました。

2004年よりOAJはメッセ会場と提携をし、展示は会場側が、そしてプログラム内容は引き続きOAJが担当し、その形が現在も続いています。

教員の関心事や要望に応える多様なテーマのセミナーは人気で、現在も常に5つのステージでほぼ同時進行的にセミナーが開催されています。

ちなみに2020年1月(取材当時)のEducaでは、セミナー数250件、参加者の95%が何らかのセミナーに参加しています。また、教材会社の参加も大きな意味があると感じています。

30年以上続く、教職員研修のビックイベントEduca


——Educaを企画・開催される上でこだわっていらっしゃること、大切にされていることがあれば教えてください。

プログラムの内容を良いものにすることです。つまり、参加いただく全ての先生方に必要なもの、有益なものを提供できるか、それを常に念頭に置いています。

またフィンランドは小国ですので各地で開催される教育関係のセミナーでいつも同じ登壇者が(たとえ有名な方であっても)同じテーマで同じ話をすることは避けたい。

昔は1回の講演で一人が45分間話すというのが主流でしたが、現在は教員、生徒、教員になるために学んでいる大学生など、さまざまな立場の方々がパネルディスカッション形式で意見交換をするのが大変人気です。

これからの教育を支える未来の教員である学生たちもEducaには積極的に参加しており、現在ある5つのステージのうちの1つは彼ら(SOOL)のプログラムに使われています。また管理職である校長先生方、職業教育の教員の方々など同業種のグループセッションなどの機会も大切に考えています。

2020年1月に開催されたEducaでは、初参加の参加者が約30%を占めていたことも大きな喜びでしたが、それと同じくうれしいニュースとしては退職をされた元教員の方々の参加が年々増えているということです。

これは職場を去っても教育に関心があり、またはその後も社会で教育に関係した活動に関連があるのかもしれませんし、現場の人たちだけでなく、社会全体に教育に関心を持ってくれる人がいることは本当に素晴らしいことだと思います。

ちなみにEducaは、無料で誰でも参加ができるのです。

教科書や書籍、学校机、デジタル関連機器などの販売も行われている


私たちの大きな願いは、全ての人に生きる力を見つけて備えてもらうこと

——フィンランド人だけでなく、日本人も含め世界中から参加者が集まっていることも特徴ですね。

今回初めて正式に世界に扉を開いたEducaとなり、2日間の訪問者数は約2万人、うち海外からは700人の参加があったのは、大きな驚きと共に喜びでした。ヨーロッパはもちろんですが、ロシア、アメリカ大陸、南アフリカ、アジアからの参加がありました。

毎年Educaが終了するとすぐにフィードバックと次回の企画を始めます。またOAJ主催のクルーズ(船)トリップが即開催され、職員のほかに教員も参加できるので、船旅を楽しみながらEducaの今後と教育現場について対話をする機会が継続して準備されています。

Educa会場においても、“Opettajan Huone(職員室)”というスペースを用意していますが、そこでは音楽を楽しんだり、シャンパン片手にトークを聞くなどリラックスした雰囲気を作っています。

なぜそのような工夫をしているかというと、現場の本物の声を聞きやすくするためです。常に目と耳を開き現場の声を吸収する、敷居の低い関係作りを模索しています。

Opettajan Huone(職員室)というスペースでは、音楽を楽しんだり、
シャンパン片手に登壇者の話を聞くことができる


——Educaに参加された先生方の感想など、これまで印象的だったものがあれば、教えてください。

先ほどご紹介したEduca後に開催するOAJ主催の船旅で、先生方がリラックスして、喜んで教育を語っている姿を見ると、とてもうれしく思います。

94%の先生方がEducaに満足しており、次回も参加すると答えた方も70%を超えています。これはうれしいことです。

私たちの大きな願いは、全ての人に生きる力を見つけて備えてもらうことです。そのために教育は欠かせないもので、その現場で働く教員の存在と影響力は貴重なのです。

その教員の仕事への尊敬の念と、その仕事と質が保たれるような教育環境の維持と研修の確保が必要です。


——今後Educaを通して挑戦してみたいことがあれば教えてください。

ワークショップをやってみるのはどうかと考えています。実は試みている場面もあるのですが、事前申し込みが必要であるなど難しい点もあります。特にデジタル教材、遠隔授業などはタイムリーなテーマですし、教員の方々が参加体験してみたい内容ではあると思います。

オンラインEducaも不可能ではないと思います。ただ、一堂に会して、顔と顔を突き合わせて語り合うこと、また学生時代の仲間との再会、職場の同僚たちと共に参加することの意味は大きいと思います。周囲の人々の笑顔や反応などを肌で感じることも大切なのです。

そして展示のために参加している業者や財団などさまざまな参加者がいます。彼らも教育現場のプロフェッショナルと直接語り合うことの喜びを伝えてきています。

あらゆる立場の人々が一堂に会して教育をテーマに対話をする…それがEducaの醍醐味だと思います。

Educaの醍醐味は、あらゆる立場の人々が一堂に会して教育をテーマに対話すること


先生方にはもっと勇気を持って、新しいことにチャレンジしてもらいたい

——フィンランドの教育システムの長所と、現在の課題について、どう捉えていらっしゃいますか?

長所はやはり大学修士レベルでの教員養成と、それによる教員の高い質です。

また教育が無料であり、全ての人々に教育の機会が広く提供されていることは大きいです。幼児期から初等、中等、高等教育まで途切れない学びの場が確保されています。

もちろん人々の関心はさまざまでしょうが、進路や学びの選択肢の豊富さも大きな特徴だと思います。

そして、現在及び今後の課題としてはグループサイズが大きくなりつつあることで、一人ひとりの生徒への対応が十分でない場面が発生していること。また教員には教え方など自由決定の権限が与えられていることは知られていますが、それぞれのやり方があるという利点が、共に協力が必要になる際の足枷にもなり得ること。

ただ、教員のWell‐beingを考えた場合、一人で頑張るのではなく、他教員または職場内、職場外のプロフェッショナルとの協力関係も必要になってくることは皆、理解はしています。

時間がかかるかもしれませんが、協力体制、チームワークについては、引き続き努力していく必要があります。

2020年1月に開催したEducaの訪問者数は約2万人。
そのうち海外からは約700人が参加している


——フィンランドの教育が世界中から注目されている理由は何だと思われますか?

最初はPISAの結果からだと思いますが、教員のあり方(自治が任されている、自由度が高いなど)にも関心を持たれていると思います。

もちろん教育の目標は明確にあり、カリキュラムにも明記されていますが、ただ、その方法、場所などが自由に決定できるということなのです。

自由度が高く、教員間で教え方に差があることで「評価にどのような影響があるか」というご質問をよくいただくのですが、基本的に教員、生徒、そして家族も含めたそれぞれの自己評価が基本になっていることも注目される点かと思います。

最終的には、教員が個人で評価の総合決定をすることになりますが、その傾向や指針を示すものとして勉強会などを通して共通の理解と価値観を維持するように努めています。

2022年はコロナの影響で開催できず、次回は2023年1月の予定だ


——日本の先生たちにへメッセージをお願いします

日本に限らず世界中の先生方への共通のメッセージになりますが、先生方にはもっと勇気を持って、新しいことにチャレンジしていただきたいです。そして生徒一人ひとりを唯一のユニークな存在として認識し、急がず成長することを支援できる環境作りができることが望みです。

また自分の仕事にプライドを持ち、楽しんでほしいです。

毎年10月5日は“世界教員DAY”ですが、そういったカレンダー上の記念日を利用しても、改めて自らの仕事を振り返り「目線を上げる」意識が必要なのではないかと思うのです。

今回のコロナ禍でも、戸惑いながらもフィンランドはいち早く遠隔授業に踏み出しました。今回のこの経験を通して、良かった点は家庭で同じくリモートワークをしている保護者が学校の授業のあり方、教員の仕事を垣間見ることができたことです。

通常現場を知らない保護者からの理解が得にくく、クレームが出ることがときにはありますが、今回教員の仕事ぶりを見て、改めて尊敬の念を持たれた保護者が多かったことも救いです。

教員の仕事に誇りを持ちましょう。素晴らしい仕事です。

〈取材・文=ヒルトゥネン久美子/写真=ヒルトゥネン久美子、田中潤子〉