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ICTを活用した授業のおもしろさと可能性に気づいた73歳美術教員の挑戦!チャンスと捉えて、試してみて

ICTを活用した授業のおもしろさと可能性に気づいた73歳美術教員の挑戦!チャンスと捉えて、試してみて

世界に猛威をふるう新型コロナウイルスの影響により、今年の2月の終わりに安倍首相から突如要請された「全国一斉休校」。

そのような中でも要請発表の翌日には、学校公式サイトにて臨時休校を発表し、休校期間中も「オンラインで学校機能を継続」することを伝え、いち早くオンライン授業に切り替えたのが、静岡県静岡市にある私立中高一貫男子校の静岡聖光学院だ。

未曾有の事態においても、スピーディーな判断で生徒の学びを止めなかった静岡聖光学院で、50年近く非常勤講師として美術教育を支えてこられたのが勝山陽子先生だ。

当初、ICTの活用に苦手意識を持っていた勝山先生が、コロナをきっかけにデジタルならではの授業の可能性に気づき、楽しみながら実践を繰り返す姿は、他の先生方の意識をもポジティブに変えてしまったという。

そんな勝山先生に、ICTを活用した授業づくりのアイデアの源と、苦手分野に取り組む際の姿勢について伺った。

写真:勝山 陽子(かつやま ようこ)さん
勝山 陽子(かつやま ようこ)さん
静岡聖光学院中学校・高等学校 美術科講師

武蔵野美術大学造形学部美術学科芸能デザイン専攻卒業。創立3年目の静岡聖光学院中学校・高等学校に非常勤講師として着任し、今年で勤続48年目を迎える。聖光学院での勤務と並行し、静岡市内の公立中学校の美術の授業や、幼稚園の教員を対象にした美術の授業を担当。美術の授業の他、技術・理科・音楽をはじめとした他教科との学びを融合した「BIGIRION(美・技・理・音)」という考えを提唱し、早くからSTEAM授業を実践してきた。


生徒たちに助けられたICT導入初期

――新型コロナウイルスによる休校をきっかけに、貴校はいち早くオンライン授業に切り替えられましたが、不安な気持ちなどなかったのでしょうか?

すごく不安で、ドキドキしました。先生対象のICT研修もありましたけど、内容が頭に入らないの(笑)。研修ではパソコンで操作を習っていたんだけど、タブレットになるとまた少し操作が違うのね。少しの違いで分からなくなってしまう。


でも若い先生たちに助けられました。授業が始まる前に、必ずどこの教室にどの先生がいるかを調べておいて、困ったらすぐに聞きに行っていましたね。


――貴校では、ICT推進チームを設けて先生方のICT定着をサポートされていたと聞いています。やはり、その存在は大きかったですか?

大きいです、すごく大きいです。

周りの先生たちに教えてもらったパソコンの操作を家で何度も復習して、やっとの思いで覚えました。予習や復習の大切さを、身をもって体験しましたね。

静岡聖光学院のICT推進チームの皆さん


若い先生たちからすると信じられないと思いますが、パソコンを立ち上げる電源ひとつとっても、どう操作したらいいか分からないんです。だから早めに学校に行って準備をしていました。

でも、そのうち生徒たちが教えてくれるようになって、「もう生徒も先生もないな」と実感しました。


――「生徒に教えてもらう」という体験は初めてでしたか?

いえ、本校は3年前からiPadを導入していて、授業の作品をオンラインで提出する「ロイロノート・スクール」というアプリを使いこなせないときも、生徒たちに助けてもらいました。

でも助けてもらうばかりではなくて、あるときなんとか自分でやってみたら簡単にできて。「こういうことか!」というのがだんだん分かってきて、少しずつタブレットやパソコンが使えるようになりました。


なので、オンライン授業も最初は不安でしたが、少しずつ分かるようになるから大丈夫って思ってましたね。

ただ、3年前にiPadが授業に導入されたときは、正直困ったなぁと思いました。生徒たちが授業と関係のないサイトを見ることがあってイライラしちゃったり。当初は「こんなものが学校に入ってきちゃいけない」と頑なに思っていました。


デジタルならではの授業をデザイン

――そのような状態から、iPadへの印象はどう変化したのでしょうか?

70歳の誕生日にiPadをいただいて、自分でも実際に使ってみたんです。すると、写真が撮れることが分かって。

今まで美術の授業の中で生徒たちと植物の絵を描くときは、実物を見て顕微鏡やルーペで拡大していたけど、iPadだと画像を大きくできるから、ものすごくハッキリ見られるでしょ?

細部を観察すると新しいアイデアにつながるから、「これは美術で使える!」と思いました。


そこから、アイデアがいくつか生まれるようになって、パラパラ漫画にも取り組んだわね。

生徒たちに、授業で描いた絵をiPadで撮らせるのね。次の授業で作品に手を加えて行くじゃない?絵を描き進めるたびに写真を撮って記録するようにしたの。もし10枚写真が残ったとしたら、作品の進化の過程を確認できるでしょ?それをiPadで次々見たら、タッタッタと絵が動いて、アニメみたいになるわけ。

生徒たちも私もおもしろがってね。そんな授業を続けていくうちに「ICT授業も悪くないな」と少しずつ考えが変わっていきましたね。


――そこからコロナ禍でも、オンラインだからこそできる美術の授業を実践されたと伺っています。具体的にどのような授業を実践されたのでしょうか ?

最初はコロナのことがあったから、マスク作りに取り組みました。以前から「社会とつながる」という点では、「美術も技術家庭科も理科もひとつ」だと思ってました。


だからマスクもただ作るのではなく、顔の骨格について考えたり、マスクの素材の多くは不織布が使われていることが分かったんだけど、そもそもどういった性質の素材がマスクに適しているかを調べたりね。

ファッション面も大事だよねと、色のことも考慮しましたね。生徒たちにはマスクの完成予想図、図面とできあがりの写真をロイロノート に提出してもらいました。

他には、お弁当作りにも挑戦しましたね。
色、形、食材、レイアウト、道具、栄養面も学びながら、最後には担任の先生にも声をかけて昼食会もして。


最初はオンライン授業というのは、画面越しだから「冷たいイメージ」があったの。でも、大きなジェスチャーで反応してくれる子や、チャットをしてくれる子がいたりね。

あるとき、ある生徒の部屋のカーテンが揺れるのが見えて、「風が入ってくるお部屋にいるのね」なんて普段の暮らしが分かって、画面の向こう側に手触り感のある現実の世界が見えて、オンライン授業に対する印象も変わっていきました。


――現在はオンライン授業ではなく、対面の授業に戻られていると思いますが、これからもICTを活用した授業を実践していきたいとお考えですか

そうですね。今回のことで、オンラインとオフライン、両方の良さが分かりましたから。生徒の中には、「タブレットの方がイメージが湧きやすい」って子もいるしね。

美術は表現のひとつで正解はないから、10人いたら10種類答えが違うものだと私は思います。それぞれの子どもたちのやり方を認めないとね。ICT授業というのは、教える側もほんの少しやれば慣れるしね。

コロナの前は、生徒がiPadを持っていると「あなた一日中マンガを見てるつもり!?」って取り上げたりして、お互い嫌な気持ちになっていたけど、これからはそういったやり取りが減る気がしています。


やってみると意外とおもしろい!

――これまでの約50年間の教員生活で、大切にされてきたことを教えてください。

教科書通りではなくて、「子どもたちが、ワクワク感や興味関心を抱くかどうか」ということを大切にしてきました。

10年前から「ビギリオン(=美術のBI、技術のGI、理科のRI、音楽のONをつなげた造語)」という考え方を持ち始めたんです。

あるとき、「楽器を作ってみたい」と思ったことがあるんですね。弦楽器も打楽器もそうだと思うけど、音は空気の振動ですよね。だったら美術の授業ではあるけど、「理科」につながると思ったの。理科の先生に協力してもらって、教材屋さんで売ってないオリジナルの材料で楽器を作りました。

他にも、音色っていう言葉があるくらいだから、「音楽」の先生にも授業に来てもらったりね。決して美術にこだわらず、教科の枠を超えた授業作りをしてきました。


――「ビギリオン」という考え方、とても素敵です。今でいうSTEAM教育のような考え方ですよね。

本校では「ビギリオン」という名の部屋もあるくらい、浸透しています。だから「ビギリオン」という単語が英語にあるんだと勘違いされて、検索する方がいたみたいです(笑)。


でも、美術・技術・理科・音楽以外にも、もっともっと必要。詩を書くときは「国語」じゃない?本当は教科の区切りなんてなくて、全部がつながっていると思いますよ。

きっとレオナルド・ダ・ビンチの頃はそんな時代だったんじゃないかしら。もともとは全部ひとつで、そこから専門家が出てきてバラバラになって、今に至ったんじゃないかなって。


――コロナをきっかけに、GIGAスクール構想も推進され、公立の学校でも今こそ「やらざるを得ない環境を作るチャンス」だと思うのですが、なかなかICT化が進まないのが現状です。どうしたら良いと思われますか?

そうですね…でも私も「逃げてたな」って経験はありましたよ。昔はパソコン類は嫌いで。コードがいっぱいあってね。今もガラケー使っていますし。


でも、こういうことは「チャンス」と捉えた方が楽しいなって思ったの。子どもたちは、新しい機会を通して興味を持つから、困ったときは彼らが助けてくれると思いますよ。分からない人に何かを教える方法も身につけられるでしょ?私がいうのも変だけど、前向きに捉えた方がいいね。


――今回、後ろ向きに捉えていたICTに取り組んで、どんどんおもしろいアイデアも出てきましたよね。最後に、ICTに苦手意識をお持ちの先生へ、メッセージをお願いします。

やらなきゃいけない、逃げられない状況を受け止めたとき、案外、力が出るんじゃないかと思います。

私の場合は、みんなが教えてくれたし、環境が良かったと思いますが、それでも「どこから取り組もうか」と悩んだら、楽なところから少しずつ始めればいいと思います。

そして、やってみると意外とおもしろい!そのおもしろさも、試してみないと分からないから、まずは試してみましょう。すると、自分の中の未知の部分が動き始めるんじゃないかな。

<取材に同席してくださった田代副教頭のコメント>

休校が続いていたとき、勝山先生が楽しんでオンライン授業をされている姿を見て、「自分たちも頑張らなきゃ」と何度も思いました。

勝山先生がICTを楽しんで活用してくださったおかげで、ICT授業に苦手意識を持っている先生も、授業のオンライン化に対してポジティブに受け止めてくださいました。


授業の内容についても、美術だけじゃなくて「美術と社会」が合同でエコバッグを制作したり、「理科と数学」がくっついて何か新しいことを実施したり。

「教科を超えて授業を進めていこう」という動きが若手の先生中心に出ていて、そのきっかけを作ってくださったのが勝山先生です。

私も中・高校生の頃、勝山先生に美術を教わっていましたが、今も昔も、勝山先生は変わらず良質な学びを私たちに届けてくれています。

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