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教育界のノーベル賞と称されるGlobal Teacher Prize2020でTOP50に選出された公立小学校の先生に聞く、子どもたちの自己評価が高まる図工×ICTの授業デザインとは?

教育界のノーベル賞と称されるGlobal Teacher Prize2020でTOP50に選出された公立小学校の先生に聞く、子どもたちの自己評価が高まる図工×ICTの授業デザインとは?

ピアニストの生演奏から感じ取ったイメージを、プログラミングソフトViscuitを使って動く絵にする実践や、チームラボとの協同、電子工作キットを活用した実践など、図工×ICTで、教科横断型の授業実践に積極的に取り組んでいるのが、東京都新宿区立富久小学校の岩本紅葉先生だ。

これまでの実践が評価され、遂には教育界のノーベル賞と称される「Global Teacher Prize2020」で、ファイナリストTOP50に選出された。

そんな岩本先生に、これまでのICTを活用された授業実践や教員として大切にしていること、授業デザインの発想法について聞いた。

写真:岩本 紅葉(いわもと もみじ)
岩本 紅葉(いわもと もみじ)
東京都新宿区立富久小学校 主任教諭/図工専科

2018年に第21回東京新聞教育賞。2019年にICT夢コンテストにて文部科学大臣賞受賞。プログラミングソフトでつくるプロジェクションマッピングや電子工作など、情報通信技術(ICT)を活用した、新しい時代の図画工作授業を実践している。「SOZO.Ed」「Type_T」「美術による学び研究会」「LINEみらい財団教員コミュニティ」メンバー。2018年よりマイクロソフト認定教育イノベーター。


教育実習でコマ撮りアニメーションに挑戦

――そもそも教員を目指そうと思われたきっかけを教えていただけますか?

最初のきっかけは、小学生のときですね。父の仕事の関係で、転校が多かったので、転校するたびに友達ができるか不安だったんです。

でも、どの学校に転校しても、素敵な担任の先生に恵まれて、クラスの輪の中に入れるように助けてくださったことで、楽しい学校生活を送ることができました。



その経験から、私もそういう楽しい場所を作りたいなと思い、教員を目指すようになりました。

ただ最終決定したのは大学の頃で(笑)。
中学生や高校生の頃は、描くことや作ることが好きだったので、デザイナーや漫画家、イラストレーターの道も考えていました。

どちらにも進めるように教育学部の美術教育コースに入学して、ギリギリまで悩んでいましたね。


――静岡で生まれ育って、今は東京で教員をされているのはなぜでしょうか?

静岡と東京って同じ日に教員採用試験があるので両方を受けることはできなかったんですよね。地元の静岡に戻ろうと思っていたので、静岡の小学校全科を受けたんですが、二次試験で落ちてしまって。

でも、たまたまその年に東京都で、地方で落ちてしまった人を集めるための二次募集というのが開催されたんですね。

その募集、なんと数十年ぶりに実施された二次募集だったんですが、早めに正規として働きたいと思っていたので、小学校全科で東京都を受けました。



受けた後に「図工専科」があることを知り、ダメで元々、面接カードに大学で図工を専攻していたということをアピールしたら、図工専科として採用していただけて。

ただ学校の事情によっては、家庭科も一緒に担当するとか、担任をやる可能性もありますね。


――そうだったんですね。そして、図工専科になられて、ICTの活用は初任から取り組まれていたそうですね。

そうですね。元々、パソコンやカメラといったICTが好きだったんですよ。大学でも、グラフィックデザインをやっていて。

だから、私にとってICTを活用した授業を実践するのは自然なことで、教育実習のときにもコマ撮りアニメーションに挑戦しましたね。

もう11年前の話なので、当時はアプリなどもなくて、描いては撮ったり、スキャンしたりを繰り返して作るというアナログなやり方でした。

でも、そのときに、ICTを活用することで子どもたちのいろいろな表現を引き出せることが分かったので、初任のときはデジカメを使って授業をするとか、そういうところからスタートしました。


ネット環境やタブレットの容量を整備しないと、せっかくのICTツールが台無しになってしまう

――最近では、東京新聞の教育賞を受賞されたり、Global Teacher Prize2020でfinalistTOP50にも選出されました。どういった取り組みをされていらっしゃったのでしょうか?

前任校が東京都三鷹市の小学校だったんですが、三鷹市在住のピアニストの方に曲を演奏していただき、その曲から連想されるイメージを絵に表してみるという活動を5年生で行いました。



ただ、いきなり、聞いた音楽を絵に表すって難しいじゃないですか。

なので、ほぐしの運動ということで、まずは生徒に自分の好きな色を組み合わせて抽象画を描いてみようというところから始めて、その生徒たちが描いた絵をピアニストさんが「絵を見た瞬間、即興で僕が曲にしてあげるよ」と言って、弾いてくださったんですよ。

何人か弾いてもらって、絵を曲にするとこんな感じなんだというイメージを生徒がつかんで。

いろいろピアノの構造とか、耳で聞くだけじゃなくて、こんなにピアノって揺れているんだっていう、そういうものを肌で感じたりして、感性を豊かにしてから曲を聞いて、実際に今まで習ってきた画材を組み合わせて自由に表現するという授業を行いました。



そして、完成した作品をデータ化して、三鷹市芸術文化センターで開催されたクリスマスコンサートで、演奏に合わせてスクリーンにプロジェクションマッピング風に投影しました。

会場ロビーにも作品を展示させていただき、来場者に鑑賞していただきました。



――子どもたちの生き生きと学ぶ様子が伝わってきます。

2年目以降は6年生でもレベルアップして何か挑戦しないかと言われたので、新渡戸文化学園小学校の山内先生から教わったばかりのViscuit(ビスケット)というビジュアルプログラミング言語を使って、描いた絵を音楽に合わせて動かすことに挑戦しました。

ただ、三鷹市のICTの環境だと、Viscuitなどのアプリを使用するとフリーズしちゃうんですよね。

そこは今後、どこの学校でも起きうることだと思うのですが、やはりネット環境やタブレット・パソコンの容量などを整備しないと、せっかくのICTツールが台無しになってしまうので、注意していただきたいです。



当時は、私がマイクロソフトの認定イノベーターということで、マイクロソフトの教育チームからパソコンとルーターをレンタルして、実践しました。

この取り組みは、Viscuitをうまく活用することによって、子どもたちの創造性を高めることができると考えて取り組みました。


―他にも、チームラボさんとの協同や、電子工作キットを活用した実践など、図工×ICTでさまざまな実践をされていますよね。

そうですね、チームラボとの協同は知人がいた関係で実現したのですが、平面に絵を描いてスキャンすると、それを立体化できるという、展開図を出力できる機器を使った実践を3年生で行いました。

その展開図を組み立てていき、立体的な街を作っていくのですが、機器を使うことによって展開図が苦手な生徒も理解できるようになるなど、算数の視点も取り入れた授業になったと思います。

また、ICTを使うことで、紙工作が苦手な生徒も楽しみながら作ることができていたかなと思います。



あとlittleBits(リトルビッツ)という配線やプログラミング不要の電子回路を楽しく学べるマグネット式の電子工作キットをたまたまInstagramで見つけて、取り寄せて使ってみました。

モジュールをつなげて、遊園地を作るというのをやったんです。

まずは、子どもたちにこのリトルビッツを体験してもらった上で、どんな表現ができるかを自分たちで考えてプレゼンしてもらい、グループで遊園地を作っていきました。


失敗を恐れずに取り組めるのがデジタルの良さ

――岩本先生の実践を伺っていると、アナログもデジタルも両方大切にされていますね。

図工においてアナログって本当に大事で、デジタルにはない美しさがあって、絶対になくしてはいけないものだと思うんですよ。

絵の具の感じとか、触り心地とか、テクスチャーとか、そういうのも大事なので、それもやりつつ、じゃあデジタルの良さってどこにあるかというと、失敗を恐れずにできるというのが一番かなと思います。

作品を作った際に、アナログだと失敗したらそれで終わりということもあるじゃないですか。でも、デジタルだと1つ戻ればいいし、修正しやすいというところはメリットかなと思います。

だから図工が苦手な子も納得がいくまで失敗しても大丈夫だから挑戦できるし、得意な子や突き詰めたいタイプの子は、逆に何回も何回もこだわりをもってやり直しをするっていうこともできますし、そういう良さはあるかなと思いますね。



私は図工専科なので、図工のねらいがあって、目の前の子どもたちに今回はこういう力を身につけてもらいたい、という思いがあって、その思いを表現するときに、あえてICTを使わないときもあるんです。

使ったときに、子どもたちがねらいをより達成できるとか、自分の表現したいものをより効果的に表現できる場合はICTを使うようにしていますね。


――ICTを活用された授業実践を行う中で、子どもたちからの反応はいかがですか?

前任校には6年いたんですが、6年間のうち5年間私と一緒に図工の授業をやった学年の子たちがいたんですね。

2年生のときだけ一緒に図工はできなかったんですが、中学年からICTを少しずつ入れて、高学年ではICTをがっつり入れて授業をやっていたんですが、その学年の子どもたちが授業のアンケートで「自分はできるようになったか?」という設問の自己評価を、100%の子が「図工の授業は自分はできる」と回答してくれたのが、私にとってのICTを使ったことの効果なのかなと思っています。



――岩本先生が授業づくりにおいて大切にされていることを教えてください。

子どもたちが主体的に、ちゃんと自分の考えとか思いを持った上でそれを表現するために試行錯誤できるような声がけとか、環境とか、材料の出合わせ方とか、そういうのは大切にしていますね。

東京造形大学の石賀先生がおっしゃっていたことなんですけど、「子どもたちが造形活動とか何か表現するときに、心に余裕があったりとか、落ち着いている状態じゃないと良い表現はできない。例えば、満員電車の中でぎゅうぎゅうづめになって、イライラしてる精神状態のときに伸び伸びと表現できるかというと、表現できない」と。

その通りですよね。伸び伸びと心が解放されることによって、子どもたちも自分の表現したいものを心から表現できるので、私はなるべく叱らない、なるべく認める声かけをする。

失敗したとしても、前向きな声かけをすることを意識しています。


ICTはただの文房具!黒板を使うとか、定規を使って描くとかと同義

――岩本先生の実践は、学校の枠に縛られない自由な発想があるように思います。そういったアイデアの種は日頃から収集されていらっしゃるのでしょうか?

私、コロナなどがなければ休みの日はパンパンに予定を入れるタイプなんです。美術館に行ったり、いろいろな学校を見学したり。

展覧会が開催される秋は、1日に何校も学校をまわって、いろいろな物を見るようにはしていますね。

そういった日々の積み重ねの中で、ふとした瞬間に、あの先生がやっていたアイデアと、あの先生がやっていたアイデアを組み合わせたら、もっと良い授業ができるなとか。

いろんな先生方の実践や、美術館や芸術作品といったアートが、日々の実践のヒントになっています。



――今後、取り組んでみたいことや展望を伺えますか?

Global Teacherの50人に選出され、そのTOP50のオンラインミーティングが最近頻繁に行われているのですが、情報交換する機会がたくさんあって、世界の先生たちってスペシャリストって言葉では片付けられないくらい、本当にすごいんですよね。

そういった先生方とつながって、アートで子どもと子どもがつながったらいいなと思っていて。そういう授業はしてみたいですね。

また、ICTを活用した図工の楽しさを、全国の先生に知ってもらいたいなという思いもあるので、実践をきちんと発信していきたいと考えています。


――最後に、岩本先生はICTを活用されて多くの実践を生み出していらっしゃいますが、ICTに苦手意識をお持ちの先生もいらっしゃると思います。どういった一歩を踏み出すといいと思われますか?

まず、私はICTの活用って黒板を使うとか、定規を使って描くとかと同義だと思っていて。

そういう物と同じようなツールとして認識できれば、こんなに便利な道具ってないと思うんですよね。メリットしかないと思います。

やっぱり使ってみないことにはそのメリットも感じることはできないので、ただの文房具だと思って使ってみていただきたいです。



先生がICTを使う機会を最初にちょっと作ってあげるだけで、子どもたちの方からこれだったらこのICT使えるよとか、このツール使えるよってヒントをくれると思うんですよね。

子どもの方が吸収力もすごいので、ちょっとこっちが教えただけで、応用力とかは子どもたちの方がある。

だから、苦手な先生にはまず一歩踏み出してみませんか?、とお伝えしたいです。


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