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未曾有の事態に、教員と学校事務のワンチームで挑む“学びを止めない”学校づくり

未曾有の事態に、教員と学校事務のワンチームで挑む“学びを止めない”学校づくり

世界に猛威をふるう新型コロナウイルスの影響により、今年の2月の終わりに安倍首相から突如要請された「全国一斉休校」。

そのような中でも要請発表の翌日には、学校公式サイトにて臨時休校を発表し、休校期間中も「オンラインで学校機能を継続」することを伝え、いち早くオンライン授業に切り替えたのが、静岡県静岡市にある私立中高一貫男子校の静岡聖光学院だ。

このような非常事態の中でも迅速に対応できた理由、実際にオンライン授業を実施したことで見えてきた学校の役割について、ICT推進チームの皆さんに伺った。

写真:静岡聖光学院中学校・高等学校
静岡聖光学院中学校・高等学校
静岡聖光学院中学校・高等学校は、静岡県静岡市駿河区小鹿にあるキリスト教の教育理念に基づく、6カ年一貫の男子校。姉妹校に、神奈川県横浜市中区にある聖光学院中学校・高等学校、東京都世田谷区のセント・メリーズ・インターナショナル・スクールがある。


一番大事なのは、生徒の命と安全、そして学力を保証すること

——「休校要請」を受けすぐに対策を講じていらっしゃいましたが、新型コロナウイルスへの対応策は、いつ頃からどういった手順で進めていらっしゃったのでしょうか

最初に管理職が集まって対策会議を行ったのが2月の中旬でした。ただこのときは、マスクと消毒用のアルコールを買っておこうというくらいの話し合いだったんです。

その後じわじわと感染者が増え続けたため、2月の3連休明けにこのICT推進チームを立ち上げ、オンラインで学校機能を継続することを決めました。

2月最終週にZoomなどツールのアカウント取得をしたり各関係機関に連絡をしたりと準備を進め、教員への研修や生徒へのタブレットの使い方のレクチャーを実施し、休校に向けた準備が整った段階で、安倍総理から全国の学校に休校要請が出たんです。


——そのときはまだ静岡県での感染者は一人も出ていなかったですよね。先手先手で危機管理されていらっしゃる印象ですが、指示を待たざるをえない公立校との違いを感じます

確かに私たちは、どこからか下りてくる決定を待つのではなく、現場の教員それぞれが考えて動くことができますし、そうすべきだと考えています。でも本当は公立校でも、それはできないことではないと思うんです。

今の日本の教育は、100人の生徒がいたとして5人の家庭にICT環境が用意できなければ、オンライン授業は実施しない、という判断になる傾向が強いように感じています。

しかし、95人に対してICTを活用して学びを届け、5人に対しては泥臭く電話や郵便などを活用して学びを届けていくことも選択肢の1つにできると思うんです。

一番大事なのは、生徒の命と安全、そして学力を保証することです。

それらをどう両立させるかということは、本当は上の人間ではなく、生徒たちに日々向き合っている現場の教員だからこそ考えられることだと思います。

私たちは、学びを止めないことを最優先し、こういった判断に至りました。

——具体的には、どのようなツールを活用し、オンライン授業を実現されたのでしょうか

休校を開始した3月2日からの一週間は、朝のホームルームをZoomで実施し、授業については事前に撮影したものiTunesUで配信しました。

そして放課後に再度Zoomでホームルームを実施するという形式で進めていたのですが、1週間取り組んでみてiTunesUの授業配信については、撮影する先生の動画のクオリティによって見やすいものとそうでないものができてしまったので、現在は全てZoomのライブ授業に切り替えました。


全校の保護者アンケートでも、全ての学年でZoomのホームルームの評判だけ非常に高かったんですね。

やはり生徒の顔を見て話ができるところが良かったのだと思います。

——オンライン授業に向けて、生徒たちのICT環境はどのように整備したのでしょうか

オンライン授業を検討する中で、そもそも各家庭でオンライン授業が実施できるWi-Fi環境なのかが分からなかったので、保護者向けにアンケートを作ってお送りしたところ、Wi-Fi環境が整っていない家庭は10家庭ほどでした。

設定がうまくできない家庭には、担任が電話をしてサポートしたり、こちらから準備したものを郵送するなどして、なんとか環境を整えることができました。

学校に来ないとできないことって何だろう、を考えるきっかけに

——オンライン授業を通して、今どんなことが見えてきていますか

授業というものが、先生が一方的に何かを伝えるだけのものなら、今の形でも十分事足りてしまいます。

生徒からも冗談で「これなら学校はいらないね」という声が出てきたのですが、じゃあ我々が教科を通じて子どもたちに身につけてもらいたい力って何だろう、学校に来ないとできないことって何だろう、と考えるきっかけになったと思っています。


ちょうど時間もできたので、5教科の先生たちで集まって「育てたい生徒像」について話し合う研修の機会も設けました。

今まで当たり前だと思っていた学校が一体何のために存在し、先生はそこでどういう仕事をするべきかという原点に立ち返ることができたことが私にとっては大きかったです。

学校に生徒が戻ってきたときに、我々の授業も大きく変わる気がしています。


——原点に立ち返り行動するチャンスですね

そうですね。そして、生徒たちの方がやはりいろんなことの吸収も早いんですよ。僕たちが生徒たちに教えているようで、私たち教員が生徒たちに教えてもらっていることもたくさんあります。

10年後の未来を予想して、こんな時代になるから備えようと教えられないからこそ、「とにかく先生の言うことを聞きなさい」とは言えない状況にあると思っていて。生徒たちと一緒に作っていく、そういうスタンスを教員一人ひとりが持つことが大切なのではないかと思っています。


——ICTに苦手意識を持たれている先生もいらっしゃったと思うのですが、ICT推進チームで工夫されたことはありますか

困ったことがあればICT推進チームに何でも聞いてください、相談してくださいという状況を作りました。

もう一つ気をつけていたのは、ICTに熟知していると、いろんなことを便利にしようと「あれもやろう!これもやろう!」となりがちなんですが、常に「ICTが苦手な人の顔を思い出そう」と声を掛け合いました。

苦手な人の立場に立ち、極力シンプルに、極力通常の授業に近い形でやれるように工夫しました。


——ICT推進チームは、やはりICTに熟知された方ばかりなのでしょうか

いえ(笑)。そこがポイントなんですけど、僕たちも全てを理解しているわけではないんですよ。

もちろん詳しいメンバーも数名いますが、分からないことについては、必死に調べたり問い合わせたりして解決しています。だからどの学校であっても、みんなで調べながら、十分実現できると思います。

私たちはいろいろな失敗を繰り返しながらようやく今の形になってきましたが、この形を導入するだけならきっとどの学校でも1週間程度で同じことができてしまうと思います。


——ICT推進チームは、何名で構成されているんでしょうか

8名ですね。6学年あるので、各学年の教員一人と、事務の方が一人入ってくださっています。


事務の方がいてくれると教員が気づかない視点を言ってくださるので、本当にありがたいです。

Zoomを使った際に、インターネット回線の容量が本当に重くなるのかっていうのをNTTさんに来ていただいて検証したのですが、回線そのものはあんまり増えなかったんですよ。400人くらい使っても、400メガバイトくらい。あんまりそこは問題にならないことが分かったのですが、NTTさんをお呼びして検証するという案も、事務の方の提案でした。

そうした、我々教員だけでは気づくことのできなかった視点を持った方がメンバーにいてくださったことは、かなり意義深いことだったと感じています。


「ICTがあると便利」から「ICTがないとできないこと」へ

——ICTの活用自体は、以前から取り組まれていたのでしょうか

実は、本校は21世紀型教育機構という団体に加盟しており、これからの時代の流れに合わせた教育活動を行っていこうという中で、ICTを取り入れた教育を2017年から始めていました。

具体的には、各教室にスクリーンとプロジェクターがあるので資料を投影したり、ロイロノートというソフトを使って生徒に課題を出して提出してもらったり、アプリケーションを使って生徒とクイズを行ったりしていました。


どちらかというと教員が工夫して生徒に投げかけるものが多かったのですが、2019年の秋に開催した「ICTフェスティバル」をきっかけに生徒側からのアクションも増えてきました。

——ICTフェスティバルとはどのような取り組みでしょうか

本校には、各学年の生徒から2人ずつ選出されたICT推進委員がいます。
ICT推進委員はアプリケーションの使い方やICT環境について話し合いを行い、話し合った内容を生徒たちに伝えていく役割を果たしていました。

その中で映像編集や写真が得意な生徒から、iPadの活用方法にはいろいろな可能性があるから、iPadでできることをもっと他の生徒や先生に伝えたいという提案があがり、生徒主体でICTフェスティバルが企画されました。

例えば、GarageBandという作曲アプリがあるのですが、音楽の先生と音楽に興味のある生徒でiPadを使って楽器を演奏するセッションをしたり、Keynoteでもこうしたらアニメーションを作れるとか、プロのような写真の撮り方など、希望者を募り発表していきました。

参加は任意でしたが、iPadの可能性を知りやる気を持った生徒もいましたし、教員側もiPadやICTに対するハードルが下がった印象があります。
 


——今回の未曾有の事態を機に、ICTの活用方法もますます広がりそうですね

そうですね、ICTと授業をどう絡めていくかというのは常に大きなテーマとしてあります。

2017年から試行錯誤しながらICTの活用を進める中で、当初はアプリを活用してクイズに答えさせるなど、アクティブラーニングを促す活用方法を試していたのですが、それってICTじゃないとできないのか?を考えたときに、そうでもないと思ったんです。

今回の事態も踏まえ、「ICTがあると便利」から「ICTがないとできないこと」に今まで以上に注力していかないといけないと思っています。

また、今年度大学受験を予定している高3生とその保護者の方は特に不安を持たれると思うんです。ですが、放課後にZoomを活用して生徒の心のケアはもちろんですが、学力を落とさない、上げるための試みもどんどん挑戦していきたいと思っています。

また授業を単位として認定してもいいのかどうかについても方針がまだはっきりしていないので、何かあったときにも単位として認定されるように、4月からは完全に時間割通りに体育や芸術系、技能系の教科も全てオンラインで取り組んでいこうと思っています。


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※取材内容は、2020年4月に行った取材当時のものです

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