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ICTに限らず、まずは体験してみないとその可能性には気づけない。先生こそ、アクティブラーナー であってほしい!

ICTに限らず、まずは体験してみないとその可能性には気づけない。先生こそ、アクティブラーナー であってほしい!

2020年度からスタートする新学習指導要領では「プログラミング教育」が必修化され、ICTを活用した授業の実践も数多く見られるようになってきた。

そのような中、2014年から知的障害のある子どもたちが通う特別支援学校で、iPadを積極的に活用し、子どもたちの創造性・表現力を引き出すアプローチに取り組んでいるのが、東京都立石神井特別支援学校の海老沢穣先生だ。

2017年には日本の公立学校教諭では非常に珍しいApple Distinguished Educator(ADE)にも選ばれ、日本のICT教育を引っ張る存在である海老沢先生に、ICT教育の可能性や活用法、それを支える自己研鑽について話を伺った。

写真:海老沢 穣(えびさわ ゆたか)
海老沢 穣(えびさわ ゆたか)
東京都立石神井特別支援学校指導教諭
知的障害のある子どもたちが通う特別支援学校で、iPadを積極的に活用し、子どもたちの創造性・表現の力を引き出すアプローチに取り組んでいる。ICT夢コンテスト2016日本教育情報化振興会奨励賞受賞。東京都教育委員会令和元年度職員表彰受賞。NHK for School「ストレッチマン・ゴールド」番組委員。Appleのテクノロジーを活用した教育分野のイノベーターである Apple Distinguished Educator に2017年認定された。「テクノロジー」「クリエイティブ」「エデュケーション」をキーワードに結成した、教員によるコミュニティ、SOZO.Ed(ソウゾウエド)の代表を務める。


苦手だから」「できないから」はもったいない


——海老沢先生は「テクノロジー」「クリエイティブ」「エデュケーション」をキーワードに結成した教員によるコミュニティ、SOZO.Ed(ソウゾウエド)の代表を務めていらっしゃるので、ICTはもちろん、美術の印象も強いです

実は、美術の教員免許は教員になってから取ったんですよね(笑)。
美術の担当やってねって言われてやってみたんですが、これ勉強しなきゃ分からないなと思って通信で。

ものすごくハードでしたね。夏とか5週間くらいスクーリングで。


——そうだったんですね!それはいつ頃のお話ですか

教員になって2年目ですね。デッサンも工芸も一通りやりました。
ハードでしたけど、おもしろかったですよ。全国から学びに来ていて、新幹線で新潟から毎日通っている人や、1カ月アパートを借りて泊まり込みの人もいて…

すごい人たちって世の中にいっぱいいるなって思ったのはそれが最初だったかもしれないです。すごく刺激を受けましたし、その経験が今に活きてるんですよね。


——海老沢先生の美術×ICTの取り組みは、どんなきっかけから始まったんですか

デジタルで美術をやれたらおもしろいな〜とは、ずっと思っていたんですよね。コマ撮りアニメや物語づくりをみんなでやったら、きっと子どもたちはすごく喜ぶだろうなって。

そんなタイミングで、ソフトバンクと東京大学先端科学技術研究センターが、実践したい授業を申請して採用されたらiPadを1年間貸し出すという「魔法のプロジェクト」を募集していることを知り、申請してみたんです。iPadで物語づくりをしたらきっと楽しいだろうなと思って。

それが採用に至り、2014年の4月にはじめて学校に2台のiPadがやってきました。その年の後半になると、都立の全特別支援学校にiPadが配備されました。


——当時はまだiPadも珍しかったと思うのですが、ほかの先生方も巻き込んで取り組まれたんですか

そうです。特別支援学校って、学年の教員は全員で授業をやるのでみんなで取り組みました。

中学3年生の担任だったので、卒業生を送る集会で在校生に発表することを目的に、クラスごとに別れてコマ撮りアニメに挑戦したのですが、それぞれのクラスで何を撮影し何を表現するかっていうのは、学級担任のアイデアが大事で(笑)。

あとからお互いのを見て、「おおー!」と盛り上がりました。
当時は私もそんなに詳しくはなかったので、やりながらみんなで学んでいった感じでしたね。

昔も今も、ICTはできる人がやるという風潮があるように思います。でもICTってアプローチの一つだと思うんですよね。

何ができて何ができないのかっていうのを先生自身がある程度体験しないと、その可能性にも気づけないですよね。

「苦手だから、できないから、やりません」というのは違うと思っていて、もったいないというか、ある程度自分でも挑戦し体験してみるというのは、ICTに限らず必要かつ大切な姿勢だと思っています。


ICTは学習効果を高める一つのツール


——卒業生を送る会での子どもたちの反応はいかがでしたか

それが映像が始まるやいなや中学部90名の在校生が食い入るように見始めたんです。

このとき、誰よりも我々教員が驚いたんですよね。こんなに集中して見るものかと。それ以降、毎年どこかの学年が映像で発表するようになりました。


——知的障害のある子どもたちにとって、視覚で伝えることのできるICTとの相性は良さそうですね

相性いいですね。知的障害のある子たちは音声言語のみだと理解が難しいことがあるので、視覚的な支援が加わることで伝わり方は変わりますね。

ICTを活用し、例えばスライドを分かりやすく作り動画で見せることで、もっと伝わるなっていうのは実感としてありますね。

ICTだけでなく、日常の掲示物もそういった点を工夫しています。


——「魔法のプロジェクト」以降も、ICTを活用していろいろ取り組まれたのでしょうか

2015年から東京都のICT活用推進事業に携わり、本格的に授業での活用を始めました。中でも物語づくりはやっぱりおもしろくって、その後も続けていました。

中3の後に中1の担当になったのですが、その学年でも物語づくりを始めて、5人の子どもたちに一人1台iPadを渡してレゴブロックを活用した物語づくりに挑戦しました。

その中に、少しコミュニケーションが苦手な女の子がいたんですが、その子の作る物語がおもしろくって、うわーこんな世界観だったんだって、私もその子が作る物語がすごく好きになっちゃって。

その物語を印刷して小さな冊子にして渡したら、肌身離さず持ち歩いていました。ICTを使って授業をしたら、こんな風に自分の世界観を表現できる子もいるんだなと感じました。


——これまでICTを活用してこられて、どういうシーンでICTを使うとより効果があると思われますか

iPadを学校で使おうとすると、どうしてもドリルや計算問題をやらせようというイメージが先行してしまいますが、やはり思考や表現のツールとして使うのが一番大事だと思っています。

そしてそのやり方は文字に限らず、映像でも音楽でもいい。

例えば熊本市は、市内の全公立小中学校に2万台を超えるiPadを配布しざまざまな実践に取り組んでいます。

ある先生は、国語のごんぎつねの単元で場面に合ったBGMをつけて朗読する授業を展開したところ、子どもたちが家で何十回も朗読を練習したり、定期テストでの平均点が格段に上がったりしたと言います。

ICTを使って、より学習効果を高めるための授業デザインを考えるのが、これからの先生の役割になってくるんだと思っています。


——新型コロナウイルスで子どもたちの学びを止めないためにも、ICTは一つの選択肢として重要ですよね

そうですね、新型コロナウイルスの影響で多くの学校が休校を余儀なくされていますが、教室の中だけでICTを使っていても全然ダメだなって。

こういった事態でも、学校とつながってやりとりができるという体験を積み重ねて、学校にいなくとも学べる環境はこれから整えていかないといけないですね。

ICTの整備が進んでいる学校は、結構いろんなやりとりができているじゃないですか。もちろんどう活用していくかは模索していく必要がありますが、整備が進んでいなければ、トライアンドエラーさえできないんですよ。それで悔しい思いをしている公立の先生っていっぱいいて。

今回のことで、教室の中だけでのICT活用ではなく、やっぱり子どもたちがいろんなところでいつでもどこでも学べるとか、アウトプットするっていうことができるんだっていうことを体験していないとダメだなと痛感しました。


行動を起こして違う世界に入ると、また知らない世界に出会う

——2017年にADE(Apple Distinguished Educator)にも選ばれています。これはどんなきっかけで挑戦してみようと思われたんですか

ある取材を受けたときに、ICT関連のライターさんに「海老沢さん、これならADEなれると思いますよ」と言われたことがきっかけです。

ADE自体は知っていて自分はとてもそんなレベルではないと思っていたのですが、ライターさんにそう言われてやってみようかなと思ったんです。応募してみたら幸いにも選考を通ることができました。

ADEになると毎年世界規模で教育者が集まるカンファレンスに参加できるんですが、そこにはものすごい方たちがいっぱいいらっしゃっていました。

Appleからの案内には「ラフな格好で来てください」という一文があって正直戸惑いましたが、その言葉を信じてジーンズで参加したんですが、みんなラフな格好で参加されていて。

一方で、違うフロアではある日本企業の研修会が行われていたんですが、みんな同じ色のYシャツを着て、キレイに整列されている姿が見えました。それを見て、違和感を覚えたんです。あの場から、本当にクリエイティビティは生まれるのだろうかと。


——どんどん視野が広がっていったんですね

そうですね。勇気をもって一歩踏み出すと、ものすごい世界が広がっていくんだということに気づいて、それを積み重ねてきた感じです。

行動を起こして違う世界に入ると、また知らない世界に出会う。
それを繰り返すことで情報もまわりだして、どんどんおもしろくなっていくんです。未完成であることを楽しんでいます。


——ICTを活用してみたいと思ったとき、どんな一歩を踏み出すと良いでしょうか

ICT関連の情報って、なかなか校内では学べないんです。だから外に出るしかない。

僕は実は、そんなにバンバン外に出るタイプじゃないんですよ。でもICTって分からないから研修会に行こうって思って、どの研修に参加するにも「分かるかな、大丈夫かな」とものすごく勇気がいりました。


そんな中で、東京都多摩市の愛和小学校元校長の松田孝先生が主催する外部向けの講習会が行われるという情報を知り、勇気を出して行ってみることにしたんです。

その講習会はとてもおもしろかったんですが、もちろん私から松田先生に声をかけることもできず、帰ろうと思ったときに松田先生から「今日はありがとう」と声をかけてもらったんです。

そこから松田先生とつながって松田先生が行う研修会に頻繁に参加するようになり、いろいろな方とのご縁や、さまざまな情報が得られるようになりました。

今ではつながった方々のFacebookから、また次の新しい情報に出会えることが多いです。ですので、やってみたいアイデアや勉強したい分野について、まずは研修会などに足を運んでみるのも小さな一歩につながると思います。


——先生自身も、積極的に学ぶ姿勢が大切になってきていますね

そうですね。経済産業省が行っている「未来の教室」の資料の中にも、新しい教師の役割としてチェンジメーカー、アクティブラーナー、ファシリテーターの3つが挙げられています。これからはこの3つが教員の専門性になってくる時代です。

だからこそ、教員のマインドも変えていかなければならない。新しいものをどんどん取り入れて、少しずつでいいからどう自分の力でアクションを起こしていくかが大事になってくると思っています。



教員の世界には、自分から求めて何かをやろうと思ったら、実はいろいろなプログラムがあり、一歩外に出ると、さまざまな研修やワークショップ、勉強会が行われています。

でも、それを知って「おもしろそうですね」という人はたくさん見てきましたが、実際に一歩踏み出してみようという先生は少ないです。

小さな一歩でもいいので何かアクションを起こし、それを少しずつ積み重ねていくような先生が増えていくことが、これからの未来を創っていくのだと思っています。

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