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山内佑輔の[余白]をつくる#4

山内佑輔の[余白]をつくる#4

これからの時代に必要なクリエイティビティとは?

「余白」をキーワードに、これからの時代に必要なクリエイティビティを読者の皆さんと共に考える、新渡戸文化学園の山内佑輔さんによる連載第4弾です。

写真:山内 佑輔(やまうち ゆうすけ)
山内 佑輔(やまうち ゆうすけ)
新渡戸文化小学校 プロジェクトデザイナー/VIVISTOP NITOBEチーフクルー/SOZO.Ed副代表/Microsoft Innovative Educator Expert

実社会と学びを繋ぐ授業をデザイン。ワークショップの手法をもちいて、子供たちのクリエイティビティを育む環境をつくりだす。
学校内では様々なアーティストや専門家、企業と連携した授業を実践。2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVITA株式会社と連携しVIVISTOP NITOBEを開設。「教室や教科、学年などの枠をなくし、教師も生徒も共につくり、共に学ぶ」を掲げ、新しい学びのあり方を模索したり、放課後の子どもたちの活動を拡張中。
学校外ではTechnology×Creative×Artをキーワードに各地でワークショップやイベントを展開。キッズワークショップアワード優秀賞を受賞。出張図工室プロジェクト「山と水の図工室」の活動では東京新聞教育賞を受賞。その他にも、地域と連動した創造型プロジェクトに複数携わる。二児の父。

出典:Google for Education より


まもなく1人1台端末が配備され、教育史上初と言っても過言でもないような大変革がはじまろうとしています。まさに余白だらけの世界ではないでしょうか。

このGoogle for Educationの動画はそんな余白の世界を旅する先生と生徒児童の姿が描かれています。それは、旧来の「教える」と「教わる」の関係ではない、大人も子どももともに学びをつくりだす姿のように僕には見えます。

大人も子どもも、余白の世界=未知の世界を共に歩き出せる仲間になれたなら、きっと共に心強いと思うのです。

さて、#3でも紹介した、2019年に6年生と取り組んだ「さくらの森再生プロジェクト」。まさに未知の世界を切り開いていった頼もしい6年生たちも、最初は「何をつくればいいですか?」と尋ねてくる子も少なくありませんでした。

それが、自分たちで考え、試し、つくることができる。そんな姿勢に変容していく一つのプロセス、2014年4月〜2020年3月まで公立小学校の図画工作専科として勤めていた時に僕が大切にしていたことを、今回ここで振り返りながら紹介させていただきます。

#1#2で紹介した紙コップや新聞紙の授業と同じように、「造形あそび」という領域の材料にまみれ、そこから思いつくことをどんどん試すことのできる授業をたくさん実施しました。

時には図工室を飛び出して、学校全体をフィールドとすることも。

これらの授業では僕が「教える」ことはほとんどありません。

僕が考えるのは、材料との出合わせ方、手渡し方。あとは子どもたちが自分たちでひらめいて、どんどん試して、授業が広がります。

僕は教師として、そんな子どもの活動を見て、記録したり、適宜フィードバックしたり、場の流れをみて全体に違う視点の問いを投げてみたり、時には一緒にやってみたりしています。

図画工作科は、絵や工作がうまくなるためでも、見本どおりにつくれる力をつけるものでもなく、子どもの力を信じて、子どもの力を引き出す教科でした。

僕は授業を”大人が知識や技能を伝達する場”ではなく、”子どもたちが自分ごととして取り組み、共創をすることを通じて、自ら学びを生み出す場”としてデザインしていくことに挑戦しました。

「造形あそび」以外にも「絵であらわす」「工作であらわす」「立体であらわす」「鑑賞する」といった授業ももちろん実施しますが、大切にしていることはどの授業でも同じです。

それは子どもの「やってみたい!」を引き出すことです。そして、その気持ちを邪魔しないことです。それには材料との出合わせ方、手渡し方を工夫し、その説明の時間(先生の話)を5分程度におさめることが大切だと考えています。


#2でも触れたように、追加で伝えることがあればタイミングをみて、再度子どもたちを集めて(注目してもらって)短くポイントを伝えればいいのです。

長い説明は、「やってみたい!」とせっかく高まった気持ちを下げてしまいますし、言葉やお手本として技術を伝えるよりも、自らが試して、得た知識、技術や感覚の方が自分の力となると言われています。

また、子どもたちがどんどん試していく様子を見て、「上手いね!」等その成果を褒めることはしないようにしていました。「がんばったね!」等と過程をたくさん褒めるよう心がけました。

どんなに見た目はぐちゃぐちゃでも、例えきれいじゃなくても、その制作過程に一生懸命向き合う姿勢があれば、その姿を見ていれば、全力でその子を認めてあげることができます。そうすれば失敗なんてないのではないかとさえ思うのです。

「またやりたい!」「もっとやりたい!」「また次も!」と思ってもらいたい。何度も挑戦すれば、最初よりも絶対うまくなります。そのためにも、まずは「楽しい」そして「好き」になってもらいたいのです。

「今まで図工は大嫌いだったけど、1番好きな教科になった。」

「図工があるから学校に来ているんだ。図工が楽しみなの。」

「絵は苦手だけど、不器用だけど、図工の時間は好き。」


僕に届くこどもたちの声が、何よりの支えであり、力の源です。


そんな授業を実践していく中で、ある先生との忘れらない会話があります。

「うちのクラスの子たちに、“明日は図工だね”と伝えると、“やったー!遊びの時間だ!”と言っていますよ。どうなんですか?」と。

当時はどの学年でも図工の時間で達成する目標は、
“自分でひらめく/他人をおどろかせる/みんなでおもしろがる”
の3つとしていました。

上手くかけること、つくれることではなく、この3つを達成しようと伝えていました。子どもたちは遊ぶような感覚で取り組むことができます。

ところが、高学年には”学びの時間”としての価値を自分で感じてもらわなければと考えました。この時から、5年生に向けた意識づけとして、次の話をするようにしました。

1+1は?答えは「2」
カーボンオフセットとは、何を保護するものですか?答えは「森林」。

学校で学ぶことの多くには「答え」がある。
では、こんな問題はどう?

「世界中の誰もが欲しい!と思う商品って?」
「23歳になった君に、最もふさわしい職業は?」
「世界から戦争をなくす方法は?」

「答え」は1つじゃない。
もしかしたら「答え」なんて、ないかもしれない。人生には「答え」はない。

だから、一生懸命考えて、悩んで、みんなで考えて、一番いい方法を探す/つくる/やる。

この大事なことを、学校ではどこで学んでるの?

そうすると、子どもたちはニコニコしながら、「図工だ!!」答えてくれました。

またその後、6年生とは、「コンピューターに負けるな!」という話をするようにしました。ロボット(AI)が得意なこと不得意なことを考えて、人間にしかできないことを話し合います。

「アイデアを出すこと」
「創造性」
「協力すること」
「感性」

などのキーワードがあがります。

ここまでやりとりをすると、子どもたちから「これ、図工で学んでいるよ!」と満面の笑みで伝えてくれます。それはとても嬉しい瞬間です。

「楽しい」「好き」だけの時間ではなく、ここは学びの時間として価値がある。そう感じてくれた子どもたちは、さらに意欲的に取り組んでくれるようになりました。

4年生は
“自分でひらめく/他人をおどろかせる/みんなでおもしろがる”

5年生は
”一生懸命考えて、悩んで、みんなで考えて、一番いい方法を探す/つくる/やる。”

6年生は
”コンピューターに負けるな!(人間にしかない「感性」「アイデア」を伸ばせ!)”

と、全ての授業がこれらのテーマに紐づくように設計し、年間通じて筋の通った学びの時間になるようにしました。またそれを都度都度、子どもたちとも共有して授業を進めるようにしました。

この構成を毎年ブラッシュアップし続けた公立勤務の最後の年、6年生と実施できたのが「さくらの森再生プロジェクト」でした。

余白の世界を冒険できる。
未知なものに対してワクワクできる。
まず、やってみることができる。

当時の6年生のこれらの姿勢抜きには、このプロジェクトの達成はあり得ませんでした。もちろん、僕との授業だけでなく、他教科での学びや、生活での学び、日常を過ごすありとあらゆるものが関連しての姿だと思います。

その中で、ぼくとの授業を通じて子どもたちが身につけたスキルは、ある「マインドセット」ではないかと考えるようになりました。

ワークショップはある程度モチベーションをもった参加者で実施することができますが、学校の授業はそうはいきません。様々なモチベーションの子が存在します。その中で授業者が「余白」を意図的につくり出しても、子どもたちが効果的に活用できなくては価値が生まれません。

次回は「余白」を楽しめるキーとなりそうな「マインドセット」を考えていきたいと思います。

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