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海外の教育大学院に進学し、家族ごと移住をしたい(20代・私立高校教諭)

海外の教育大学院に進学し、家族ごと移住をしたい(20代・私立高校教諭)

2018年に「教員をグローバルリーダーに。」というミッションのもとに「Hero Makers」を創設し、教育の本質的なシフトを世界的に推し進めるための活動に取り組む起業家であり教育革命家の白川寧々さんが、先生たちから寄せられる悩みや相談に答える連載です。

写真:白川 寧々(しらかわ ねね)
白川 寧々(しらかわ ねね)
起業家/教育革命家/国外逃亡者を守護する召喚獣

華僑。日中英のトライリンガル。6歳で来日後、日本国籍取得。フェリス女学院中学・高校時代に独学で英語を学び、米国デューク大学に進学。卒業後、米国大手コンサルティングファーム勤務を経て、マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA 修了。在学中にMIT の「創造しながら学ぶ」教育理念を英語学習に取り入れた英語習得メソッド「Native Mind」を開発し、MIT ソーシャルインパクト財団より出資を受ける。
2015年にタクトピア株式会社、2017年に「Future HACK」を創設。グローバルキャリアと日中英の3カ国語能力を生かして現在までに世界20カ国、累計15,000人の学生に対してアントレナーシップ教育を行う。また、2018年には「教員をグローバルリーダーに。」というミッションのもとに「Hero Makers」を創設。同事業は経済産業省「未来の教室実証事業」に採択された。九州大学、立命館大学、奈良先端科学技術大学院大学、大阪府立大学のコンソーシアムのもとで行われたアントレプレナーシッププログラム、Startup Hub Tokyo 主催の起業家育成プログラムなどで、多数の起業家も輩出。現在は「教育乱世」を提唱。著名起業家、教育者、宇宙飛行士などの日本内外のグローバルリーダーや、官公庁、全国各地の教員、企業人、大学生や高校生を巻き込みながら、教育の本質的なシフトを世界的に推し進めるための活動に取り組んでいる。白川寧々チャンネル(YouTube)、ねねみそ相談サロン(Facebook グループ)でも活動中。


寧々さんへの相談

海外の教育大学院に進学し、家族ごと移住をしたい
(20代・私立高校教諭)

寧々さん、こんにちは!私は、東京の私立高校に勤める20代の女性教員です。未就学の子どもがいます。

職場環境に大きな不満はなく、生徒たちと接するのも大好きなのですが、このコロナ期間中の教育現場および政府の硬直した対応を見るにつけ、「自分の子どもをこの前進しない社会で育てたくない」という思いが爆発しました。

そして今、海外の教育大学院進学を通した海外移住を検討しているのですが、挑戦するからには寧々さんがおっしゃるように、世界のどこでも生きられるような戦闘力をつけるために、ハーバード大学やコロンビア大学など、アメリカのIvy Leagueの大学院を目指すべきなのでしょうか。

世界でもトップと言われる大学院なのは分かっているのですが、学費が高く、求められる高い英語力や、高尚なビジョンなどが自分から出てくるのか、イメージがつかめず、自信が持てません!そして、日本の教育をよくしようという意識がない私でも、そういう大学院に合格することができるのかわかりません。

どうしたらいいでしょう?


寧々さんの回答

まず、勇気の要る決断、お疲れさまです。

私があえて自分のやっていることを「国外逃亡の応援」と呼んでいるのは、社会人が海外に行くというのは、「どんなに教育に情熱があろうとも、今自分のいる環境や、自分自身の知識やスキルに勇気を出して向き合い、その限界を感じないとできないこと」だからなのです。

日本人がよく言う「逃げとはラクな方向にいくことである」という思い込みがあって、正直あてはまるのは戦争中の敵前逃亡か、小さい頃に始めたあまり合わなかった習い事くらいです。

高校生の海外進学も、社会人の大学院進学やセカンドバチェラー(2個目の学士資格取得)も、決してラクなことでもなんでもなく、実現するにはかなり勇気と努力と精神力が必要なことなんですよね。

逆に、ひどい職場環境や希望のない進路だろうとも、逃げたりせずに流れに身を任せる方がよほど「ラク」なことです。

さて、学校の先生の海外教育大学院進学は、院卒教員が圧倒的にもてはやされる世界基準に鑑みたら本来そんなに思い悩むような決断じゃないんですが、「日本国内の情報がちょっと偏っているよ」という点は指摘しておきます。

ずばり、Ivy Leagueおよび、アメリカの有名ブランド大学しか目に入らない病!です。

海外大学院に行きたい学校の先生にはいろんなタイプがいると思うんですけど、日本で目立つのは、やはり有名なハーバードのHGSEとか、コロンビアのTeachers CollegeとかスタンフォードのGraduate School of Educationですよね。

そういう学校に行って帰ってきて本を出す人や起業する人、政治家になる人って結構いるし、どうしても目立つし、専用の塾の説明会とか聞きに行こうものなら「あなたも行ける!さあ一緒に目指そう!」とか言われて「よし、目指そうか、ふむ」ってなるのも分かります。

特にもともと勉強の才能があって真面目にコツコツ準備することができて、英語もクリアしたら合格することも難しくありません。

けれど、あなたの場合は、ちょっと本来の目的を思い出してください。

子連れ移住を目的とした大学院進学の場合、特に専門が教育である場合は、たとえIvy Leagueの教育大学院に合格する能力があっても、アメリカを国としておすすめできない理由がいくつかあります。

もちろん、その理由には例外もあるので、例外の場合も記しておきますね。


1.まず、移民フレンドリーではない

移民や多様性の象徴とも思われているアメリカですが、他の先進国よりはよほどハードルが高い国です。

カナダやオーストラリア、ヨーロッパ諸国などは、たいていの場合、現地で学位を取り、仕事を見つけることができれば永住権取得も時間の問題です。

なのに、アメリカだけなぜかハーバードを卒業して仕事が決まっていようともビザの抽選に外れてしまうと、ビザが下りない、なんてことが平気であります。ですので、小さいお子さんを連れて「ここにみんなで住もうね」と落ち着きたいなら、あまりおすすめできません。

ちなみに、有名な大学を卒業して仕事も見つかったのにビザが下りない、なんてことはほぼアメリカだけの現象で、カナダなんかは政府指定の資格を満たせばそもそも現地の学歴などなくても移民が可能なので、子どもの将来を考えるなら視野を広く持ちましょう。

<例外>
先生の中でも、教育大学院ではなく、理系(教育系のデータサイエンスなども含まれる)のPhDまたは修士を目指したい人は、恵まれた研究環境に加え、卒業後に比較的潤沢な雇用市場および、ビザ取得の猶予があるので、そちらならいいかもしれません。


2.先生の待遇も公教育の質も、平均的には微妙なことが多い

教育大学院→移住を目指すということは、そのうち現地で教育の仕事に就くことも考えていると思います。

もし、先生になりたいと思われているのでしたら、一度「Breaking Bad」というテレビドラマを観てみてください。公立高校の化学の先生があまりの低賃金と将来に対する不安で、覚醒剤密売に走るお話です。

アメリカの先生たちは、日本の先生たちとは違い、無理やり無報酬で部活顧問をやらされるとか、しょうもない書類作業が多いとかの悩みは確かにありません。が、日本の学校の先生で「先生じゃ給料安すぎて副業しないと路頭に迷いそう」という話は聞きませんよね。

そう、アメリカの公教育は、基本、平均したらだめなことの方が多いんですよ。

もちろん、ホットケーキ生地を混ぜるときにできるダマのように、あちこちで公立でも伝統的に世界的に見てもかなり素晴らしい教育をしている学校がたくさんあります。そういう素晴らしい学校をつくりたい!と大騒ぎする若い才能も、それに投資する人たちもたくさんいます。

なのに、国全体で見たら人種問題や経済格差に端を発する不平等が子どもたちの学力にも反映されていて、問題はかなり山積みです。

自分のお子さんのことを考えると、私は日本からアメリカに移住するなら、「相当の高所得に我はなる!」と覚悟を決めないと、良い教育を受けさせることは厳しいと思います。

平均的な公教育、というやつのクオリティが、日本とは別の意味で微妙だからです。そもそも、先生の社会的地位が低く、大学の成績が低い人間が圧倒的に先生になる可能性が高い国の「平均的教育」には、期待できないことが多いですよね。

もちろん、例外もたくさんあるのですが、貧しい子どもたちのために用意された無料の公立校は抽選倍率が高く、郊外の裕福な家庭が多く良いとされる公立校は、その学区に住むこと自体のコストが高いというのは端的な問題ですし、大学の学費もめちゃめちゃ高いです(本当に低所得なら大学がタダになるケースも多いけど、移民家庭として頑張ってしまって中流以上に生きていると学費をまけてもらえません)。

<例外>
そもそもアメリカで学校の先生になるのは外国人にとっては珍しい選択なので、Ivy League系の大学院を卒業してアメリカに残りたい人は、大体EdTech系の企業、全然関係ない金融企業、教育スタートアップで起業!など上記の問題とはあまり関係ないルートに行くことも多いので、上に挙げたことが気にならず、「アメリカの平均ではなく、アメリカの突き抜けた方の教育めがけて移住したいのだ!」という方はぜひどうぞ!

別段高所得ではなくても、突き抜けたおもしろい私立校などで職を得ると、お子さんの入学が簡単になったり学費が免除になったりすることもあるので、そちらのルートもいいかもしれません。その場合、IB校が狙い目だそうです。

あと、Ivy League系のブランドはかなり世界でも通用するので、例えば卒業後は平均的に教育の質がよく、教師の地位も高いシンガポールに行きたい、などのプランがある方はどうぞそちらを目指してください。


3.Ivy League諸校をはじめ大学院の学費はバリ高で、奨学金がつかないことも多い

教育関係者の社会的地位が低いのに、教育大学院の学費は1年間で600〜700万円という現実、私はちょっと率直に言うとひどいと思いました(笑)。

だって、明らかに借金を背負ったままだと、卒業後に先生という職業を継続するのが難しくなる金額ですから。

これに対し、理系の大学院に進学する人たちなら、特定研究室の研究を手伝ったり、学部生を教育したりすれば海外からの学生でも学費を払うどころかお給料が出るのですが、教育大学院は多くの場合、MBAと同じような扱いで学費をがっつり払わされます。

もちろん、フルブライト奨学金など大学からの奨学金など、奨学金オプションもたくさんあるにはあるのですが、肝心のフルブライトは選考がかなり倍率高い上に「受け取ったあとは日本に帰ってきて2年間過ごすべし」という規約で移住など最初から無理です。

これに比べると、フィンランドの最高学府、ヘルシンキ大学のChanging Educationという修士号は1年間の学費が190万円ほどで、成績により半額や全額免除のオプションもあります。

この国は教師の社会的地位が高く、賢くなければ先生になれない上、公教育も大学まで無料、社会正義や平等などはアメリカと比べたらかなり実現された方の社会なので落ち着いて移住したいのなら、フィンランドの方がいいのでは…と、思ってしまいます。寒いのでもちろん向き・不向きはまたご検討ください。

<例外>
もちろんフルブライト以外の返還義務のない奨学金を手に入れたらアメリカもご検討ください。倍率高いけど!!


4.保育、医療などの社会保障は無料ではないため、高所得者でないときつい

アメリカの医療はカナダやイギリスのように無料ではないため、保険に入っていないと、とても病院にはいけないのですが、保険の質は高所得者でないと高くないという、これまた社会的にどうしようもない問題があります。

保険は、移民の立場でも学生の立場でも大体持ってないといけないものなので気にしなくても良いのですが、しんどいのは保育園です。

Ivy Leagueが密集している東海岸周辺の未就学児のケアセンター(要するに保育園)の月間利用料がだいたい30万円という話を聞いてかなりぶっとんだ覚えがあります。

これがカナダになると高くても7万円程度になるらしいので、未就学のお子さん連れの方はご注意ください。

<例外>
何度も言ってますが、高所得予定の方は気にしなくてもOKです。あと、アメリカでも未就学児でも5歳を迎えればKindergartenといって、無料公教育への参加ができて、特に入学に際してランドセルなどの高価なモノを買わされることもなく公共サービスが利用できるので、お子さんの年齢に応じてご検討ください。


5.社会正義や民主主義、多様性を求めて子どもを育てたいなら、他の国の方が進んでいる事実もある

ここまで読んだ方なら分かると思いますが、アメリカの教育の良さはお金のある・なしおよび、例外と、ローカル性と、一部の人の起業家精神に依存し、国全体としては面倒な問題がとても多いところです。

つまり、「ここに移住したからボーッとしていても子どもたちの未来はそこそこ明るい」という希望的観測は立てにくく、勉強しながら小さいお子さんも育てて常に起業家精神を発揮しながら主体的に自分にとっても子どもにとっても最適な場所を見つけるために努力を継続しないといけない移住先です。

そういうのが楽しい人にはかなり最適でもあるので、世界中からチャンスを求めて人が集まるのも本当ではありますが。

それでも、Ivy League系大学院を卒業していたら、ある程度は社会的に有利な立場からキャリアをスタートはさせられますが、頑張ることだけが人生じゃない、競争に勝つことだけが人生じゃない、もっとバランスを持って生きたい!!!と少しでも思っているなら、他にいくらでも移住に向いている場所はあるよ!という点を指摘しておきます。

進学準備はアメリカの有名大学院の方が難しいので、とりあえずアメリカを目指しながら、他の国の大学院にも願書を出す、というのなら戦略として「あり」ではあります。

大学の学部進学もそうですが、アメリカの入学要件も倍率も一番面倒なので、それをクリアしてしまえば、他の国のものはほぼ「出すだけ」になります。

それでもワークライフバランスに支障をきたす可能性が高く、高価な進学準備塾などにお金をいっぱい取られてしまう結果になったら目も当てられないので、本当に本当に人生の目的が移住や、社会保障や社会正義のちゃんとした社会で子どもを育てたい、とかなら、アメリカ以外の選択肢を本気で検討してみてください

教育者として学ぶことが多いのは、そっちの国たちであることも多いからです。