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子どもと会話ができなくなった半年間。リフレクションと対話で見つけた、本当の「自分軸」

子どもと会話ができなくなった半年間。リフレクションと対話で見つけた、本当の「自分軸」

「子どもや同僚との関係がうまくいかない」「自分のやり方、これでいいのかな?」と感じたとき、皆さんはどのようにしていますか?

近所の本屋さんで教育書を買って読む、セミナーに出かけて講師から学ぶ、身近な人に教えてもらう…いろいろな手段があります。でも、求める答えはどこにあるのだろう?と感じることはありませんか?

私も、ずっと答えを探し続けていました。しかし、その答えは自分の中にありました。

私は、子どもと会話ができなくなった半年間をきっかけに、リフレクションと対話を通して、本当の自分の「軸」を見つけることができました。そんなお話を、皆さんに共有したいと思います。

写真:元吉 佑樹(もとよし ゆうき)さん
元吉 佑樹(もとよし ゆうき)さん
小学校教諭

「誰もが自分らしく輝く社会」の実現を目指して学校現場で授業実践を重ねる。キャリア教育の実践では、実践校で文部科学大臣表彰、個人として市の教育研究奨励賞を受賞。子どもと大人のあたたかな関係性のある学校環境を目指し、Q-Uを活用した学級経営やクラス会議を実践し、広めている。2児の父として、地元でさまざまな遊びやスポーツを体験できる場作りも探究中。


価値観を見つめ直すきっかけ

教職7〜8年目の頃、当時の私は、さまざまなセミナーに参加して多くの先生方と交流したり、自分の実践を発信したりしていました。素敵な取り組みを聞いては教室で実践し、成果があったかのように発表していました。

そんなときに担任をした5・6年生の学級の一人の子どもと、半年ほど会話をすることができなくなった時期がありました。挨拶をしても声をかけても応えてもらえず、授業もまともに受けてもらえませんでした。

そのときの私は、どうしてその子と会話ができなくなったのか、全く分かりませんでした。最初は「どうして理解してくれないんだ」「自分はこんなにやっているのに」「伝わらない子がいても仕方ない」などと、子どものせいにしていました。

当然状況は改善されず、子どもの表情はどんどん曇っていきました。どんよりと重くなった空気は、周囲の子どもたちにも広がっていきました。

そのうち私は、教室までの階段を登ることさえ辛くなっていきました。

このときの経験が、自分の価値観を見つめ直すきっかけとなりました。そして卒業間際には、なんとか子どもとの関係を改善することもできました。それは、「リフレクション」と「対話」の成果でした。


リフレクションで、変えたい自分に気づく

熊平美香さんの著書『リフレクション(REFLECTION)自分とチームの成長を加速させる内省の技術』によると、認知(知覚と判断)の裏側にある、「意見・経験・感情・価値観の4つを切り分けて考える習慣を身につけることで、自己理解が増し、自分を変える力が圧倒的に高まる」とされています。

また、「人間は、自分の見たいものを見たいようにしか見ない。その状態でリフレクションを行っていても、大きな収穫を得ることはできない」と言われています。

つまり、自分の見方・考え方について客観視できないと、自己変革もできないということです。

当時の私は、目の前の状況を生み出している原因が自分自身の行動であるにも関わらず、自分の内面を見つめることはありませんでした。そのため、自分を変えることができなかったのです。

リフレクションについて詳しく学んだのは最近のことですが、私は地元の5人の仲間と月に一度集まって実践について振り返り、対話する会を10年ほど続けてきました。1カ月間の出来事をレジュメ1枚にまとめ、一人ずつ話をしたり意見を聞いたりする形で進行しました。

関係性の悪化を子どものせいにしていた私は、この会のためにレジュメを書いていて、あることに気がつきました。「あんな実践をした」「こんなことに取り組んだ」と、私が「実践したこと」だけが書いてあり、「子どもの姿」はほとんど書いていなかったのです。

レジュメの中の充実した実践内容と、日々遠のいていく子どもとの心理的な距離感に、大きなギャップを感じました。

このときの私は、さまざまな実践を行うこと自体に楽しさや喜びを感じていました。出会った素晴らしい先生方や書籍に影響を受け、「良い実践をたくさん積み重ねることが、良い教師へと近づく道」であるということが価値観となっていました。また、一定の評価を得ることで、その価値観は強化されていたようにも思います。

私は教室を、自己実現の場にしようとしていたのです。「変えるべきは、ここだ!」と感じました。ここまでの出来事を、継続してレジュメに書きためていたことで、自分の経験や感情を客観的に振り返ることができ、変えたい価値観に気づくことができました。


対話によって、子どもの姿が見えた

先ほどご紹介した熊平さんの著書では、「対話」を「学びを支える土台となる力」と位置づけています。

先述した会では、まさにこの「対話」を行ってきました。リフレクションによって自分の価値観に気づき始めたとき、仲間の一人が書いたレジュメに、「キュンとしたこと」というコーナーがあることに気づきました。

教師から見た、キラリと光る子どもの言葉や行動を、毎月書き記すコーナーでした。「友達同士でありがとうと言い合えた」「目を輝かせて学習に取り組んでいた」という姿が感情と共に語られると、子どもたちが本当に輝いているように感じられました。

「キュンとした」という感情で切り取られた子どもの姿の裏には、教師のあたたかな眼差しがありました。そんな仲間の姿勢から、自分も、子どもとの一瞬一瞬を大切にしながら毎日を過ごしていきたいと、強く感じました。

熊平美香さんの書籍では、「リフレクションができない人は、対話をすることができない」と書かれています。「キュンとしたこと」のお話は、素敵だとは思っていても、自分に必要なものとして聞いてはいませんでした。

これまでのものの見方・考え方では対応できない問題が起きて、自己を見つめ直して初めて、私は仲間の経験や感情、価値観に関心を持ち、自分が大切にしたいことに気づいていきました。

このときから、私はレジュメに子どもの姿をできるだけ客観的に書きためていきました。加えて、そのときの自分自身の感情も書いたり仲間に伝えたりするようにしました。子どもたちの言葉や表情、ちょっとした仕草や日記に書いてあったことなど、日々成長していく子どもの姿に注目して過ごすほど、子どもたちとの心理的な距離が近くなり、関係性が改善していきました。

冒頭の子どもとの関係性も同様でした。卒業の日にもらった手紙には、先生はどんな相談も前向きに考えてくれた、良い所をたくさんほめてくれた、クラスの問題も皆の意見をしっかり聞いてくれた、と書いてありました。

私が自分の姿勢を改めることに時間がかかったにも関わらず、一人ひとりと関わろうと行動を変えたことを認めてくれたように感じました。

左が以前のレジュメ。右がリフレクション後のレジュメ。


リフレクションと対話を通して、種を見つけよう

それまでの私は、「教師が何を教えたか」を重視していました。しかし、地元の仲間と学び合う時間の中で、「目の前の子どもたちの姿」が見えるようになりました。

そうして子どもたちと過ごす中で得られた、「一人ひとりの子どもに関心を向ける」や「全員と関わる」という価値観が、その後の全ての実践を支える土台となりました。

これが、今の「自分の軸」となっています。

仲間との「リフレクション」と「対話」は、過去の成功体験を手放させてくれました。また、仲間の感情や価値観が、自分自身の価値観をアップデートしてくれました。

書籍やセミナーでも、文字や音声として同じような情報を得ることはできます。私もそうした学びにたくさん支えられてきました。しかし、自分の価値観に触れるような経験とはなりにくく、また同じ日常に戻って結局何も変わらない、ということも起こりやすいと考えています。

SNS等で自分以外の人のストーリーが、毎日手軽に届く環境にありますが、そこに答えは見つけにくいかもしれません。

全ての人のストーリーには、「自分の軸」をつくる経験や感情、価値観が埋まっています。いわば、「自分の軸」をつくるための種です。

答えはもう、自分の中にあるかもしれません。そのことに気づき、これまでとこれからの自分自身の経験や感情、価値観を大切する仲間が増えてくれたら、とてもうれしく思います。