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他人とごはんが食べられない子どもたち。給食や修学旅行の食事悩む、会食恐怖症とは?

他人とごはんが食べられない子どもたち。給食や修学旅行の食事悩む、会食恐怖症とは?

皆さんは「会食恐怖症」をご存知ですか?
 先日、とある県の教育委員会より講師の依頼があり、私は上記の質問を受講者の皆さんに投げかけました。
 
すると、全体の3分の1近くでしょうか。チラホラと手が上がることに少し驚きを覚えたと共に、「あぁ、少しずつ認知が広がっているのかもしれないなぁ」と感じました。
 
人前で食事ができない「会食恐怖症」の当事者経験を持つ私は、少しでも会食恐怖症について知っていただきたく、活動を続けています。

写真:山口 健太(やまぐち けんた)さん
山口 健太(やまぐち けんた)さん
岩手県盛岡市出身。人前で食事ができない「会食恐怖症」の当事者経験を持つ。克服後、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会を設立し「食べることができない」悩みを抱える当事者支援活動を始める。講師活動・カウンセリング活動や、安心できる居場所作りの「食べなくても良いカフェ」を都内で運営。その中で「食べられない」ことへの適切な対応や支援が、子どもたちと関わる教育者に広まっていないことを痛感。メディア「きゅうけん|月刊給食指導研修資料」では毎月、先生に向けた給食指導・食べられない子についての情報を発信。著書に『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)、『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)他。


他人とご飯を食べられない子どもたち

会食恐怖症は、「他人と食事をすることができない病気」のことで、不安障害の1つの症例として挙げられています。私のところには、会食恐怖症に悩む方からのさまざまな相談やメッセージが届きます。

例えば「給食がどうしても食べられません…」、「部活の合宿の際にノルマの量を食べないと指導者から怒られてしまいます…」、「修学旅行は楽しみなのに食事の機会があるので行こうか休もうか迷っています…」など。

というのも、実は私自身、高校生のときに会食恐怖症を発症しました。

私は野球部に所属していたのですが、合宿の際には朝2合、昼2合、夜3合の白米を食べることがノルマとして課され、それを食べることができずに指導者の方に怒られてしまってから「また、食べられなかったらどうしよう…」と、食べる前から不安が込み上げるようになっていきました。

次第に吐き気や嚥下障害(うまく飲み込めない)という身体症状が出るようになり、ひと口食べることすらも辛くなってしまったのです。

後にそれが「会食恐怖症」というものに当てはまるということが分かったのですが、当時は「どうして自分だけ食べることができないんだ…」という孤独感、そして「将来もずっとこのままだったらどうしよう…」という絶望感を感じていたことを、今でも鮮明に思い出します。

その後、一つひとつの行動の積み重ねや周りの理解に支えられ克服することができましたが、その経験を世の中に発信していく中で、たくさんの食べられない当事者の声が届くようになったのです。

「食べることができない」悩みを抱える
当事者支援活動をされている山口健太さん


「残さず食べよう」で困る大人と子ども

一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会で、当事者642名に向けて「発症のきっかけ」についてインターネット上でのアンケートに回答してもらったことがあります。

以下が、その回答結果の一部です。

Q1.会食恐怖症の1番のきっかけとなったことを教えてください

・完食指導や周りからの強要:223名(34.7%)
・その他、体調不良から:135名(21.0%)
・明確には覚えていない:122名(19.0%)
・自分や周りの嘔吐に関する体験:115名(17.9%)
・周囲からの注目を浴びたことに関する体験:47名(7.3%)

Q2.「完食指導や周りからの強要」と答えた方へお聞きします。具体的にはどのようなシチュエーションで誰からでしたか?

・給食で先生から:161名(72.1%)
・家族や親戚から:32名(14.3%)
・クラブ活動の指導者から:21名(9.4%)
・その他:8名(3.1%)
・恋人や友人から:2名(0.8%)

当初想定したよりも多く、「給食で先生から」という回答が多かったのが驚きでした。確かに私自身の子どもの頃も、時間内に食べられずにいわゆる“居残り給食”という形で食べていた記憶があります。

この結果を見ると「学校の先生の指導が多くの原因になってしまっているのか?」と感じる人もいるかもしれませんが、実はそうとも言い切れないと感じた私の体験があります。

私がとあるトークイベントの話し手として招かれた際、自分自身の「食べられなかった経験」をお話ししました。そのイベントの終了後、とある女性の方が私のところに駆け寄り、以下のような自分の体験談を前のめりになって話してくれたのです。

私は今、中学校で教員としてクラス担任をしているのですが、給食時間がものすごく苦痛なんです!子どもの頃は給食時間がとっても楽しみで大好きでした。でも、今はそうではありません。

なぜかというと、クラスの残食を減らさないと、周りの先生方から「残食が多いからちゃんと指導しないと」と言われてしまうのです。

でも、おかわりを呼びかけても、ほとんど誰もおかわりをしてくれません。仕方なく私自ら食缶を持って回ったりもしていますが、果たして良い指導なのか分かりません。どうしてもというときは、私自身がいっぱい食べることで、どうにか残食を減らしています…。

私はこの話を聞いて「先生もどうすればいいのか分からず困っているんだな」と感じたのでした。

実際、とある県の教育委員会から依頼されて栄養教諭の方に向け研修会を行った際に「給食をあまり食べない子に対して、自信を持って指導ができますか?」というアンケートに回答してもらったことがあります。

結果としては、62名中58名が「いいえ」だったのです。

『食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)』(文部科学省)などを参考にすると、いわゆる“食べない子”の指導は、栄養教諭の力を借りながら、指導をすることとなっています。しかし、栄養教諭が学校に常駐していない場合も多い中、栄養教諭ですらなかなか自信を持って指導をすることができない現状なのです。

私はこういった現状をどうにか変えて、指導に悩む先生方に情報を伝えていきたいし、子どもたちが楽しく給食時間を過ごせるようになってほしいという思いから、「きゅうけん|月刊給食指導研修資料」というメディアを立ち上げました。


食欲があるのは当たり前ではない?

「きゅうけん」では毎月、給食指導や食べられない子についての情報を、分かりやすく1枚のイラストつきの資料にまとめて無料で配信しており、校内での掲示や配布資料としても、少しずつ活用してくださる学校が増えてきています。

その中で、先生からのさまざまな日々の指導における疑問がたくさん届くのですが、今食べることが苦痛になっている子どもにとって大切なことは、やはり「食べることの苦痛を取り除き、安心して楽しく食べられる環境を作ること」です。

よく“3大欲求”という言葉が聞かれ、その中に「食欲」が入っているので「食欲があるのは当たり前」と感じる人も多いかもしれません。ですが、実際のところは人間の本能は「食欲」よりも「苦痛や痛みを回避すること」の優先度が高いとされています。

例えば、食べることで身体のどこかが痛めば、食べることを避けようとするのは分かりやすいのですが、心理的なプレッシャー(苦痛)を感じる場合も、食欲が湧きません。私自身も「この後、緊張する仕事がある!」という場合、なかなか食欲が湧かないというのはよくあります。

ですからやはり、安心して食べられることが大切です。その先に子どもたちの食の広がりがあります。

毎月無料で配信している「きゅうけん」


食べられない子には個別対応で安心感を

研修会などで「すでに給食が食べられなくなってしまっている子がいるが、どうしたらいいのか」という質問をいただくことがあります。

そこでよくお伝えしていることは、「個別対応の大切さ」です。

具体的には、その子が抱える不安な気持ちを認めた上で「どうすれば安心できるか」を丁寧に聞き、その子のペースを尊重しながら、少しずつチャレンジできる幅を広げていくことです。

例えば、
・教室ではなく、別室だったら食べられそうか
・給食ではなく、お弁当だったら食べられそうか
・クラスメイトには、食べられないことをどう伝えるか

などが、聞いていただきたい事項としてあります。

繰り返しになりますが、今食べられなくなってしまっている子が、食べられるようになるためには「安心感」が何よりも大切であるということです。

そのためにその子の気持ちやペースを尊重し、安心して食べることができる環境を作ってあげましょう。