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特別支援教育は、教育の原点。特別支援学級を2度立ち上げた小学校教諭が大切にする「子どもファースト」とは?

特別支援教育は、教育の原点。特別支援学級を2度立ち上げた小学校教諭が大切にする「子どもファースト」とは?

教員13年目の私、特別支援学級の立ち上げに挑戦する私、そんな今の私だからこそ、改めて大切にしたいことは、「子どもファーストで考える」ことです。

私にとっての「子どもファースト」とは、一人ひとりの子どもに寄り添うこと。私はこれまでに2度、小学校の中に新しく特別支援学級を立ち上げるという、貴重な経験をさせていただきました。

2020年4月当初、新しい学校に赴任すると同時に、慌ただしく支援学級を立ち上げる準備がスタート。そんな中でいつも念頭に置いていたのが、「子どもファースト」でした。

学校の中に新しく特別支援学級をつくるということは、特別支援の考え方を学校の中に持ち込むということです。学校という組織の中で、新しく特別支援学級を立ち上げ、特別支援教育が大切にしている文化を教職員に伝える私の取り組みについて紹介します。

写真:大和 佑子(やまと ゆうこ)さん
大和 佑子(やまと ゆうこ)さん
埼玉県小学校教諭

杉並区立和田中学校土曜日寺子屋にて、ボランティアリーダーとして、約60名のスタッフと共に運営を行う学生時代を過ごす。同時に、埼玉県教員養成セミナー第3期生として、大学3年生〜4年生にかけて、約10カ月間小学校にてインターンシップを行う。現在は、埼玉県小学校教員13年目。さまざまな学年や特別支援学級(知的)の担任を経験し、現在、特別支援学級(自閉・情緒)担任。ヒミツキチ森学園の季節スクールスタッフやシュタイナー教員養成免許を取得するなど、オルタナティブ教育にも関心が高い。2020年度は特別支援学級の情緒クラスの立ち上げを行いながら、タブレットを活用したオンラインゲスト講師授業を年に8回、オンライン他校交流を年に3回実施するなど、さまざまなことに挑戦している。


子どもたちを詳細に見取れるようになりたい

私が特別支援学級の担任をするまでは、小学校の通常学級を担任していました。通常学級を担任する中でずっと葛藤していたことがあります。それは、「一人ひとりの子どもに寄り添いきれない」ということでした。

集団行動を基本とする学校生活の中で、不適応を起こす子どもたちは、ともすれば厄介者扱いをされてしまいます。しかし、どんな子どもにも学ぶ意欲や、認められたいという気持ちがあります。40人近い集団の中では、なかなかその思いを私が拾ってあげることができず、モヤモヤしていました。

そのような葛藤の中で、「子どもたちを詳細に見取れるようになりたい」という思いから、支援学級の担任へと舵を切っていきます。

実際に支援学級の担任となり、私は「子どもファースト」でいられるようになりました。学習の進め方はもちろんのこと、学校行事への参加の仕方など、子どもの状況や課題に応じてアレンジすることができます。通常学級において私が難しいと感じていた「一人ひとりを詳細に見取る」ことに没頭できるありがたみを感じています。

「子どもファースト」は、自分の学級さえよければそれでいい、ということではありません。他学級の先生や管理職の方に対して、支援学級への理解を得るための働きかけや、専門機関との相談、保護者とのやりとり…支援学級の担任には、こういった連携を図るやりとりが仕事の大半を占めます。

「子どもファースト」が実現できるのは、こういったさまざまな方との連携があってこそであると、支援学級の担任になって初めて知りました。支援学級の担任という経験は、本当に学びの連続でした。

前任校の校長先生手作りの教室看板


一人ひとりが安心して学べる支援学級を作る(1)子どもの実態把握と教材教具の用意

私が特別支援学級の新設を担当することになったのは昨年度のことでした。

実を言うと、私が支援学級の立ち上げに関わるのは、2度目になります。1度目は知的障がい学級の立ち上げ、昨年度は自閉症・情緒障がい学級の立ち上げに関わりました。

担任は一人。机と椅子以外何もない教室。通常学級の教室の様子を思い浮かべてみてください。最低限、机と椅子さえあればなんとか学習が成立しますよね。しかし、支援学級においては通ってくる子どもに合った環境調整が欠かせません。

特に2度目に関わった情緒に関する支援を要する子どもにとっては、周囲の環境調整や周りの接し方で、課題の現れ方が大きく増減します。ですので、子どもたちが登校し始めるまでの1週間の間に、私には最低限用意したい、取り組みたい、と思っていることが山ほどありました。

特別支援学級の立ち上げに2度携わった大和さん


まずは、保護者面談。
児童生徒の実態を確認するために保護者との面談を設定します。今回は新設ということもあり、管理職の許可を得て、新学期前に子どもと保護者との顔合わせを行い、面談を行うことができました。

次に、届く予定の備品リストを確認。
整理整頓用の棚、時間を視覚的に伝えられるカウントダウンタイマー、周囲の視覚的な情報を遮断できるパーテーション、聴覚過敏の児童に対応するイヤーマフは支援学級の備品で必ず用意したいモノの1つです。確認が終わったら、必要に応じて追加で備品の購入をお願いします。

教材教具の確認もします。教科書だと情報が多すぎて気が散り理解が不十分になってしまう児童もいるため、問題数を少なくしてある問題集や学習障害の特性に配慮されている支援学級用の教材もお願いしました。支援学級には自立活動という学習があります。この学習に関わる教材を特に重点的に用意してもらいました。

今回は「コグニティブ・トレーニング」(学習面、身体面、社会面を育む教材)や「ソーシャルスキル・トレーニング」(人との関わり方を身につける教材)のワークブック、手先を使うことを通して細かな体の動かし方を学ぶ「ひも通し」や「アイロンビーズ」、バランス感覚を鍛えるバランスボールやトランポリンなども用意してもらいました。

他にも以前担任した支援学級の保護者からさまざまなものを寄付していただき、たくさんの教具が支援学級の中にそろいました。絵本やパズル、言葉遊びのカード、カルタ、レゴブロック、ミニカーなど…ここでは書ききれないほどです。

支援学級の担任になってからしみじみ感じていることは、「保護者は一番の理解者であり、パートナーである」ということ。今回の立ち上げでも「先生にはお世話になったから…」といって協力してくださる保護者の温かい気持ちに支えられました。


一人ひとりが安心して学べる支援学級を作る(2)視覚情報を整える

前任校の保護者からいただいた教材教具や私物の教材教具

上の写真は、教材が外から中身が見えないように収納した様子です。

なぜ教材が外から見えないようにしているかというと、視覚的な刺激に過敏で集中力が削がれてしまう子どもたちもいるからです。箱の中が見えなくても、子どもたちが必要なときに必要なものを使いやすいようにラベルを貼って整理しています。

子どもが必要なタイミングで必要なものを使える環境を整えることは、特別支援教育で自立を促すための大切な準備です。

その次に取り組んだのは、畑の確保です。
支援学級に通う子どもの中には、抽象的なことを頭の中でイメージすることが苦手な児童もいます。そのため、体験的な実感を伴う学びに取り組むことを大切にしています。

自立活動などで四季の変化を感じる学習に取り組むにも、教科の学習として植物の成長過程について学ぶにしても、畑はぴったりの教材です。管理職の先生たちと相談して、花壇を畑として利用することが決まりました。子どもたちが来たらすぐに学習で活用できるよう、耕したり肥料を入れたりしておきます。

最後に取り掛かるのは、教室全体の環境整備です。
何をどこに片付ければよいのか、目で見てすぐに理解できるよう整えます。

ランドセルロッカーの場所、水筒を置く場所、上着を掛ける場所、体育着を入れる場所、手紙や連絡帳を入れる場所…。支援学級には、音声での指示だと伝わりにくい児童がいることもあります。

視覚的に理解しやすいように環境を調整しておくことで、教員の生活場面での些細な指導や注意を減らすことができます。そうすることで、子どもは「言われなくてもできる」経験を積み重ね、それが自信につながっていきます。

廊下のフックの掲示


一人ひとりが安心して学べる支援学級を作る(3)学校生活の見通しがもてる配慮

ある日の一日の流れ

上の写真は、ある日の一日の流れを示したホワイトボードです。登校後すぐに子どもたちがこのボードを確認することで1日の見通しが持てるようになり、落ち着いて1日を過ごすことができます。

支援学級の子どもたちの中には、見通しが立たないと不安を感じる子どもがいます。子どもの様子に合わせて、時には単元名など、それぞれの授業の詳細な内容をボードに書くこともあります。

朝の会が始まったら、1日の流れをみんなで確認します。帰りの会では1日の流れを振り返り、連絡帳に次の日の予定や持ち物を写します。

ここまで、支援学級を新設するにあたって、私が実施したことについてお話をしてきました。

新年度が始まってからも、4月中に一人ひとりの実態に合わせて個別の年間計画や個別の支援計画をつくったり、支援学級と同時に所属できる通常学級である「交流級」の先生と、交流学習の計画を打ち合わせたりします。1年を見通した計画づくりを、1カ月で取り組みます。


特別支援教育は、教育の原点

私は特別支援教育こそが、教育の原点だと考えています。それは、特別支援教育に学校教育で大切にしたい要素がたくさん詰まっていると感じているからです。

子どもがいて初めて私たちは教員として働くことができるという当たり前の事実に立ち返り、子どもに寄り添う大切さを、支援学級から伝えたいのです。

私は、自分が先生でいられることに感謝しながら子どもの立場に立ち、寄り添うことを大切にしています。

私にとって「子どもに寄り添う」とは、一人ひとりの子は何が好きで何が得意なのか、何をしたいと思っているのか、何が苦手で何が嫌いで何に困っているのか、どんなところに才能が眠っているのか…そんなことをひたすら探り、その子の世界に潜ること。

そうやって関わっていくことで、子どもたちが自然体で無理なく、その子らしく振る舞えるようになり、少しずつ一人ひとりのキラッと光る個性が見えてきます。

子どもたちが学校に安心安全な居場所を見出し、自己開示してくれるまでひたすら観察し、寄り添い続ける先に子どものありのままの姿が見えてきます。ありのままの姿が見えて初めて、その子に合った、本当に必要な学びとは何か?を考えられるようになると思っています。


「障がい名」というラベルの奥にあるものを見つめたい

支援学級には、いろんな経緯や背景を持った子がやってきます。

入学時に保護者の判断のもと支援学級に入ることが決まった子。学校の先生や他機関との連携の上でやってくる子。本人が希望してやってくる子。どの保護者も子どもも、迷いや悩みを抱えながらも決断して支援学級に来ています。

だからこそ、その気持ちをしっかり受け止めたい。安易な気持ちで障がい名や特性を語ってはならないし、「障がい名」というラベルの奥にあるものを見つめたい、と強く思います。

子どもたちは、受け止められること、認められることを通して才能が開花していきます。愛してもらっている、受け止められているという十分な感覚、つまり他者による受容が土台となって、自己受容が起こり、自己肯定感や自己効力感が育まれていきます。

これらのことは子どもの成長にとって大切な過程であるにも関わらず、発達に課題があると言われる子は、その障がい特性により、幼少期から注意・叱責を受けることが多い傾向にあり、自分でも「うまくできない」もどかしさを感じることが多いのです。自己肯定感が下がりやすい傾向にあるため、「寄り添う」ことは特に重要だと私は考えています。

だから、私がクラスでやっていることの半分近くは、子どもたちを受容することだと感じています。ときには、癇癪やパニックを起こす子どもたち。そのときに、一番つらいのは子どもたち本人です。

クールダウンしたのちに、「自分の中であばれているものを抑えることができない」「なんか分からないけどどうしようもできない」「(抑えるの)痛かった?」と言葉にしてくれる子のことばを聞きながら、「大丈夫だよ」ということしかできないときもあります。

他者に対してエネルギーを発散させながら、それと同じ分だけ自分に対しても攻撃しているんだな、と感じさせられます。


NOと言えることがスタートライン

癇癪やパニックのきっかけになることはいろいろありますが、その一つに「無理して頑張ること」があるように思います。

自分の限界を超えて頑張ることは、長く続かないですよね。一人ひとりの子どもに合わせて学習進度を変えたり、課題を用意したりする支援学級であっても、「今、そのとき」の子どもたちの体調や気持ちを捉えて学習内容を用意していくのはとても難しいものです。

ましてや体調や気持ちなど、目には見えないものに対して教員は対処しようがありません。そのときに大切になってくるのは、「NO」と言える力。「やりたくない」「今は無理」「できない」と言えること。

一見ネガティブに感じる言葉ですが、私は、子どもたちがNOを言えるようになったとき、やっとスタートラインに立てた、という思いになります。

「NOが言える」→「NOの理由が言える」→「どうするか、どうしたいか決める」→「自分で自分に合った課題が選べるようになる」

自己認識、自己把握の一つとしての「NO」。NOを繰り返すことによって、自分のキャパシティを知り、自分のことを知っていく。そして、自分で自分をコントロールする力、自己調整能力を身につけていきます。

そうやって成長していくのではないかと思います。

教員になって13年。私が教員として実現したことは何か?今までやってきたことは正しかったのだろうか?というような悩みや葛藤を抱えながら生きてきました。教員として生きることは、常に自分のあり方・考え方、感じ方と向き合うことなのだと思うようになりました。

毎年毎年「今が一番楽しい!」と言える子どもとの出逢いを経験し、味わい続けています。同じ現場で頑張っている先輩・仲間、そしてこれから教員になる人と肩を組んで、最高に楽しい日々をつくっていきたいです。

内容について何かご質問等ございましたら、いつでもInstagramのDMにてご連絡くださいませ。