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メディアリテラシーを育み、授業に活動を生む「新聞」を活用したNIEで、学びのアシストを

メディアリテラシーを育み、授業に活動を生む「新聞」を活用したNIEで、学びのアシストを

新学習指導要領が2020年から順次実施され、小中高全ての校種の総則で、情報活用能力の育成のために、新聞などの活用を図ることが初めて明記された。各教科の内容にも、引き続き「新聞」が数多く登場している。

しかし近年ウェブメディアやSNS、検索エンジンの発達により情報を得る手段が増え、紙の新聞離れが進んでいるのも現状である。

時代の変化に伴い、新聞の価値も見直される中で、なぜ紙の新聞を教材として活用するのか?新聞を教材として使うことで子どもたちは何を学ぶことができるのか?

長年、小学校教諭としてNewspaper in Education(以下、NIE)に取り組み、東海地方を中心に発行されている中日新聞の新聞学習カリキュラムの作成にも携わった三原貫司さんに話を聞いた。

写真:三原 貫司(みはら かんじ)さん
三原 貫司(みはら かんじ)さん
元小学校教諭/元中日新聞NIE事務局

長年、教員として新聞を教育に活用する取り組みを行い、初代「岐阜県NIEアドバイザー」を務め、中日新聞の新聞学習カリキュラムの作成にも携わった。


新聞に慣れ親しんでもらうファミリーフォーカス

——まず三原さんが授業で新聞を活用されるようになったきっかけを伺えますか?

私が教育実習生だったときの担当の先生が、国語の授業を全て新聞を活用して取り組まれていたんです。

「君が授業するときは教科書を使ってやればいいけれど、私は新聞でやるからこの記事を見てね。」と仰って、子どもたちに印刷した新聞を配り、課題を用意して授業をされてました。

新聞には説明文や文学作品も掲載されており、それらを活用した授業運営が大変印象的で、いつか私も新聞を活用した授業に挑戦しようと思ったのがきっかけです。

NIEとは、Newspaper in Educationの略語で
学校などで新聞を教材として活用する活動のこと


——その後、三原さんが実際に授業で活用し始めたのはいつでしょうか?

自分で最初に取り入れたのは、新任で赴任した特別支援学校のときです。

私はそこで筋ジストロフィーの児童を受け持ったんですね。筋ジストロフィーは骨格筋の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患です。

その児童らは学び始めの頃は歩けていたのが、だんだんと筋力が衰えて歩けなくなり、車いす生活を経て入院生活を送るようになります。その結果、社会とつながる体験が少なくなってしまっていました。

例えば、算数に視点をあてるなら100円を持ってお店に行き、20円のお菓子を何個買おうかといった体験が無くなってきてしまう。

何かこの子たちと社会をつなぐ機会をつくりたいと思うようになり、新聞を読んで世の中のことを知ってもらう機会をつくることにしました。

それが新聞を活用したはじめの一歩になりますが、その後、健常児の学校に移り、NIEがアメリカから入ってきて、日本でNIEという言葉が広がった2000年頃から本格的に新聞を活用した授業に力を入れて取り組むようになりました。

NIEは、子どもたちと社会がつながる機会にもなる


——NIEを始めるにあたって大切なことは何でしょう?

子どもたちが新聞に慣れ親しんでいないと、本当の学びにたどりつけないと考えています。ですので、まずは新聞に慣れるという観点から、私は最初にファミリーフォーカスを取り入れました。

このファミリーフォーカスは元々はアメリカで発祥した取り組みで、学校の授業で使った新聞を家に持ち帰り、家族で読んだのが始まりと言われます。英語を母語としない人が多いアメリカならではの取り組みですが、このファミリーフォーカスを取り入れてみたのです。

学校の授業で使った新聞を家に持ち帰り、家族で読むファミリーフォーカス


——三原さんが取り組まれたファミリーフォーカスは具体的にどのような内容だったのでしょうか?

毎週金曜日に、1週間の中で自分が気になった新聞記事や記事の写真を子どもたちに選んでもらい、その選んだ記事や写真をこちらで用意したA4の用紙に貼って、感想を書いてもらいました。

そして事前にご協力をお願いしていた親御さんたちにも簡単にコメントを書いていただきました。ただ、親御さんがお忙しくて書けない場合もあるので、そのときは代わりに友達に書いてもらうようにしました。

そして最後に、教員のコメントを書いて教室の後ろや廊下などに掲示してためていくということを続けていきました。

この見て分かる学びの蓄積の効果は大きかったように思いますが、学校だけでなく家庭でも新聞に触れ、新聞そのものに慣れ親しんでもらうことを意識しました。

新聞に慣れてもらう他の方法としては、コラムを音読したり、4コマ漫画のオチを白抜きにして子どもたちに考えてもらうということも取り組みの取っ掛かりとして、おすすめです。

子どもたちが新聞に慣れ親しむ機会をつくることが大切


活動の少ない教科で、新聞を活用し「活動」を作りだす

——実際にNIEを取り入れてみて、授業内ではどのような効果がありましたか?

私は授業は楽しく、分かりやすくすることが大事だと考えています。そのために必要な要素がNIEには備わっていると思います。その要素とは「活動がある」ということです。

具体的に言うと、子どもたちが好きな教科としてよく挙げるのが体育、図工、理科などの自分たちが動く、作品を作る、実験をするという「活動がある」教科なんです。もちろん活動があるから苦手という子もいますが、どうしても国語や社会だと、そういった活動が少ない分、あまり楽しい教科としては挙がらない。

そこで、活動が少ない国語でも、子どもたちが楽しく取り組めるための要素として、新聞を使うことにしました。探して切り抜いて貼るという「活動」を加えてみたのです。

新聞を活用することで、国語の授業に「活動」が生まれる


——具体的にどのような授業を実践されていたのでしょうか?

漢字の学習を例に挙げると、小学3年生で学ぶ「へんとつくり」の授業では、新聞記事の見出しや広告の大きな活字の中から「木偏のつく漢字をたくさん見つけてね。チャンピオンは誰かな?」と言うとみんな必死で取り組むんです。

その授業の後に、「先生、人偏集めてきた。」と言って、自主学習ノートに書いてきてくれた子もいました。

頭で考えるよりも新聞を使った「活動」を通して、学びのポイントに子どもたち自ら気づいていくんです。わざわざ教員側から言わなくとも、「今日分かったことを言ってみて。」と聞くと、子どもたちが見つけた学びを発表してくれる。それで授業が完結するんですね。


——新聞を教材にするからこそのメディアリテラシーを高める取り組みはありますか?

僕が教えていた当時は、上野のお花見の記事についての記事比較が教科書に掲載されていました。

1つの記事はすごく盛り上がっているという表現で、もう1つはゴミの山が映してある記事でした。それを読み比べて、なぜ違うのか?など意見を交わす取り組みを行いました。

現在は、中3で社説比較に取り組むことになっていますが、社説比較になると各社の考えの違いが明確に出ます。どの意見がいいのかを教員が押し付けることは絶対にしてはいけないことですから、社説比較をしてどう思うか?どう判断するか?、立場の違いでこんなに考えが違うんだということに子どもたちに気づいてもらうことが大事になります。

このような授業を続けていくと、子どもたちが情報を読むことに慣れ、長けてきます。そうすると情報を自分の中で整理する力や読み取る力もついていくようになります。

また、正確な情報を選ぶということが重要になってくるので、誰が書いた記事なのかを子どもたちに意識してもらうようにしていました。誰が書いているかが分かると、その後の追調査ができたりしますからね。

新聞を活用することで、メディアリテラシーを育むこともできる


教員の務めは、学びのアシスト

——NIEを取り入れるためにはどのような環境作りが必要でしょうか?

学校図書館が、NIEの環境整備には欠かせません。
学校司書さんであったり、司書教諭の免許を持った先生や図書整理員さんに協力していただくことが大切になってきます。

例えば、司書さんに社会科見学に関するテーマの記事や、子どもたちが関心のある分野の記事を集めてファイリングしていただき、閲覧しやすいようにしていただくといいと思います。

新聞には文字だけではなく、例えば宇宙に関する記事であれば写真や図なども載っていることがあります。そういった読みやすい、目につきやすい記事を選ぶと子どもたちが新聞を読む機会が増えていくと思います。

また各学校には新聞2紙を購読する予算は国からついていますので、記事比較もしやすいかと思います。

例えば、図書館に記事の比較をするコーナーを作っていただき、子どもたちが記事の比較をし易いものを折に触れて目にするような環境を作ることも大事ですね。

自分だけではどうしても記事の見落としもありますし、時間も限られてきます。そこで、図書館は読書の場だけではなく情報センターの役割もありますので、協力をお願いすることが大事になると思います。

学校図書館が、NIEの環境整備には欠かせない


——三原さんにとってNIEとは何でしょうか?

私の恩師も、私自身も新聞を活用してきましたが、絶対に新聞を活用しないといけない、とは思っていません。

私が思う教員の務めは、学びのアシストだと思っています。学習のねらいを子どもたちができるだけ自ら獲得できることが1番大事。その学びのアシストが教員には必要だと思います。

教員は手を抜こうと思ったら、いくらでもできてしまうんですよね。

教えるべき事項をただ子どもたちに話すだけであったり、教員の指導用の教科書もあるので、その内容を子どもたちに教え込めばそれで済んでしまいますが、それでは教育にならない。

教育は子どもと教員で作り上げるものだと思いますし、楽しいという言葉が適切な表現かは分かりませんが、子どもが楽しいと思えばその学びは身につき、深いものになると思います。そのためのツールの1つとして新聞を活用し、NIEを実践してきたということですね。

いろいろ考えの違うものを一緒くたの中からきちっと分けていくこと、他人と関わり合いながら何か身につけていく学びの中では、新聞が適材ではないかなとは思っています。

学習のねらいを子どもたちが自ら獲得できることが1番大事


——最後にこれからNIEを取り組んでみようと思われている先生に対してメッセージをお願いします。

インターネットで検索すると全国各地の新聞社さんごとにNIEの活用例や授業のヒントが出てきます。そういったものを参考にすると、比較的手軽におもしろい授業が組めます。研究授業の参考にしてみてもいいですね。

著作権に関しても、授業で新聞を使う分には問題ありませんので大いに活用してください。

現在、中学3年生、高校3年生の受験生を持っている先生方は、今後どういう受験対策をすればいいのか?を考えられるかと思います。教員が新しい教育に関わる情報をどれだけ取り入れようとしているか、どれだけ持っているかによって、子どもたちの学校生活、今後の人生が豊かになるかに違いが生まれます。

私はスマホなどの検索は否定しませんし、便利ですからそれで済ませてもいいと思いますが、ご自身のためにも、子どもたちのためにも一次情報である新聞を読んでいただきたいです。

ぜひNIEを頭の片隅に加えてください。

〈取材・文=藤田 岳斗/写真=ご本人提供〉