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一人ひとりの声に寄り添う、GOOD NEIGHBORでありたい。公立学校に近い経済負担で通える不登校状態の子どもたちのためのオルタナティブスクール「学藝の森CoE」が大切にしていること

一人ひとりの声に寄り添う、GOOD NEIGHBORでありたい。公立学校に近い経済負担で通える不登校状態の子どもたちのためのオルタナティブスクール「学藝の森CoE」が大切にしていること

株式会社スマイルバトンは、「先生の学校」や雑誌HOPEの制作を手掛ける一方で、2024年10月25日にNPO法人スマイルバトンを立ち上げました。その目的は、不登校児童・生徒を対象としたオルタナティブスクール「学藝の森CoE(こえ)」の開校です。

「子どもたちの声、全ての人の声を大切にする場所」というコンセプトを掲げ、約半年間にわたる準備期間を経て、2025年4月に16人の子どもたちを迎えて開校しました。

立ち上げの背景や、開校から1カ月で起きた変化、そして運営する上で大切にしていることについて、代表理事の三原菜央(通称:なおさん)と副代表理事でありスクールディレクターの岩田龍明(通称:いわたつ)が対談形式でお届けします。

写真:
三原 菜央(みはら なお)/写真右
特定非営利活動法人スマイルバトン 代表理事

岩田 龍明(いわた たつあき)/写真左
特定非営利活動法人スマイルバトン 副代表理事/「学藝の森CoE」スクールディレクター

「学藝の森CoE」って、こんな場所!
(1)公立の学校に近い経済負担で通えるオルタナティブスクール
(2)小学1年生〜5年生の不登校状態の23人が在籍中(2026年2月時点)
(3)在籍校への再登校を目指して通ってもらうもよし、CoEに中等部までいるもよし
(4)基礎学習+探究する学びを組み合わせた独自のカリキュラム
(5)お昼ごはんは、栄養士監修の手作りごはん


教育の前に、向き合っているのは「尊い命」

「学藝の森CoE」開校から1カ月が経ちました。1年前は想像もしていなかった未来だと思いますが、まずはそもそもなぜNPOを立ち上げて、学藝の森CoE(以下、CoE)を作ろうと思ったのかについてなおさんから話してもらうのがいいかなと思っています。

そう、1年前は「どんな学校を作りたいですか?」と聞かれても「そもそも学校を作りたいと思ったことがないし、今後も絶対に作らないと思います…」と答えていた私が、まさかスクールを立ち上げているなんて不思議な気持ちなんだけど、過去の私も驚いていると思う(笑)。

そもそもなぜ「絶対に作らない」と思ってたんですか?

多くの子どもたちが通う公立の学校という場所が、誰にとってもベターな場所であるといいなと思っていたからかな。あと、シンプルに 「こんな学校を作りたい!」という理想像も欲もなかった。

だから、CoEを立ち上げるプロセスの中で、一番難しかったのが教育理念や目標みたいなものと向き合ったとき。私たちには、「自律的な学習者を育てる」とか「心身共に健康で、自立し、地域社会に貢献できる子どもを育てる」という教育理念や目標がどうしてもしっくりこない。

私たちの一方的な「こう育ってほしい」という願いではなく、子どもたちの声を聴きながら、一人ひとりが自分が持っているものをちゃんと輝かせることができる場所にしたいと思ったんだよね。誰もを包括するような場所で、伸びていくその子と保護者の方と、上も下もない関係で一緒に歩んでいきたい。

そんな願いは見えてきたので、教育理念や目標は作らずに、場のコンセプトだけを決めました。それが「子どもたちの声、全ての人の声を大切にする場所」

これまでなおさんと仕事をしてきて、YouTube動画を始めたときも突然でしたけど、今回も突然で(笑)。でも、動画のときは本当にびっくりしましたけど、スクールの立ち上げはどこか必然、自然な流れだったと僕は思ってます。

これまで一緒に世界中の教育現場を見て、まなざしの素敵な先生とたくさん出会う中で、やっぱり自分の心に響いたのは、子どもたちがありのままで、一人ひとりの命が大事にされている現場に出会ったときなんですよね。

自分たちが向き合わないといけないのはやはり子どもたちの「命」だし、子どもたちの「今」だし、そこに一石を投じられないかと僕も思っていました。

だから2023年の今年を表す漢字一文字を、なおさんと「せーの!」で出し合ったときに、2人とも「命」だったときは、驚きもしたけど「やっぱりそうですよね」ってなりました。

そうなんだよね。教育の前に、「向き合っているのは、尊い命である」という当たり前のことを、たくさんの教育者の方に私たちは教えてもらって。なので改めて、学校を作る気もなかった私たちが、なぜ突然、不登校状態の子どもたちのオルタナティブスクールを作ろうと旗を立てて動き始めたかというと、「今ないと困る」状況だったからかな。

文部科学省の統計では、全国で35万人を超える児童・生徒が不登校となっていて、実際は不登校状態の子どもたちはもっと存在する上に、これからも増え続けることが予想されている中で、その不登校状態になった子どもたちの約7割が「自宅で過ごしている」という現状に私は強い危機感を持ったんだよね。

自分の2人の子どもに置き換えて考えてみても、あの有り余るエネルギーをどうやって自宅の中で発散して過ごしているんだろう、と。子どもだけでなく、保護者の方も含めて、不安や苦しさ、生きづらさを抱えていることが容易に想像できて、これは私たちのミッションとして取り組んでいきたいと思った。

そうですね。可能性に満ちあふれ、元気な子どもたちの「元気」が失われている状況って、どう考えてもおかしいと僕も思います。

子どもたちには本来自ら育つ力が備わっていて、それを出し惜しみなく出す存在なはずなのに、それを出せなくなってしまっていることって、やっぱり社会や僕たち大人のつくるシステムや制度、子どもという存在に向けるまなざしに課題があると思います。

ただ、声を大にして言いたいのは、不登校が増えているのは先生個人や学校の対応に原因があるのではなく、今の学校の仕組みが、誰かには合う仕組みで、誰かには合わない仕組みである、ということ

もちろん、誰にとっても合うような学校になっていくことが理想だと思うものの、多様な子どもたちを丁寧に見とるにはどうしても先生の数が必要で、どう考えても今の状況では難しい。なので、公立学校に近い経済負担で、一時的に利用するもよし、ずっと過ごすことを選択しても、未来に不安を持たなくていいオルタナティブな場所を作れないか、そんなことを考えるようになりました。

最近は、不登校特例校改め学びの多様化学校も増えてきているものの、まだ全国に58校。これから300校を目指すという文部科学省の方針もあるけれど、どうしても数に限りがあるので、民間の力も必要。

そうなったときに、既存の民間の選択肢では、どうしても経済負担が大きくなってしまうので、自宅で過ごすという選択を取らざるを得ないというジレンマがある。

なので、私たちは行政の選択肢と、既存の民間の選択肢の「間」の選択肢をつくることはできないだろうか?「今」困っている状況をなんとかできないだろうか?という問いに向き合い続ける中で生まれたのが、「公立の学校に近い経済負担で通うことのできるオルタナティブスクール」だったんだよね。

きっと気になる方もいると思うので、財源の確保はどうしているんですか?という質問もさせてください。

そうですね、この選択肢づくりに欠かせないのが「財源の確保」です。

既存のフリースクールなどの民間の選択肢の財源は、負担が大きい順に「学費(保護者負担)> 寄付・助成金 > 自主事業の余剰利益」という構造ですが、それを「自主事業の余剰利益 > 寄付・助成金 > 学費(保護者負担)」にすることで持続可能な状態にできないか、というのが今回の挑戦です。

例えば、9時〜15時は「学藝の森CoE」を運営していますが、平日15時以降や土日は終日教室が空いているので、そこで民間学童保育を運営したり、空き時間を活用して他のビジネスを行って生まれた余剰利益を「学藝の森CoE」の運営にかかる費用に充てるという仕組みです。


「こうあるべき」を捨てれば捨てるほど、安全安心な場所になっていく

ここからは開校して1カ月の様子であったり、気づきを話していきたいんですけど、開校して1カ月余りが過ぎましたが、今どんな心境ですか?

まずは、「とにかく始めてよかった」「一歩踏み出してよかった」に尽きます。

特に最初の1週間が終わったときにそれを強く感じたんだよね。それは「声を大切にする」という感覚が自分の中でつかめた瞬間があったからだと思っていて。そのエピソードを1つ共有してもいい?

ぜひぜひ。

私たちは、毎日の食事を心と体の成長に欠かせないものとして、スクール内で手作り調理しています。食事は、管理栄養士さん監修のメニューをCoEクックさん(調理員さんのことを私たちはCoEクックと呼んでいます)が愛情たっぷりに作ってくれるのですが、開校初日は3色丼とお味噌汁というメニューでした。

ものすごく美味しくて、私もおかわりさせてもらったんだけど、子どもたちには平等という観点で、初日はご飯の量も、具の量も一律にして提供したところ、何人かの子どもたちが顔を曇らせて「残してもいいですか?」「食べられなくてごめんなさい」と食器を戻してきました。

そのときにハッとして、次の日から子どもたちにご飯の量や苦手な食材を聞き、量の調整や苦手な食材については「無理して食べる必要はない」と声を掛けるようにしました。牛乳も飲みたい子どもたちにだけ提供するようにしたら、自然と子どもたちに笑顔が増えていって、うれしそうに「給食を初めて完食できた!」「8年間生きてきて、初めておかわりができたよ!」と伝えてくれた子もいて。

そのときに、実は給食を残すことは、子どもたちに小さな罪悪感として積もり積もっていたのかもしれない、と思ったんだよね。あと、私は給食の牛乳が大好きな子ども時代だったから何も違和感を持っていなかったけど、CoEだと「牛乳大好き!」と毎日飲んでいるのは16人中4人くらい。

改めて、栄養はもちろん大切だけど、それ以上に「おいしいね」と暮らしの基本となる食を楽しめる時間の方が、よっぽど大切ではないかと思うようになったかな。

僕も最初の一週間ですごく学びになったことがあります。

小学5年生の女の子がスクールから少し離れた場所に住んでいて、朝は一人でバスに乗って登校しているんですね。それで開校初日は元気に来てくれたんですけど、2日目からお休みが続いて少し心配になって保護者の方に連絡をしてみたら、始業時間である9時20分に絶対に行かないといけないと思っていたみたいなんです。

それまでの経験から「その時間に行かなきゃ」と思っていたようですが、「遅くなってもいいし、〇〇ちゃんのペースで来てくれたらいいですよ」と伝えたら、すんなり来られるようになって。そうやって固定観念がほどけたら、毎日通えるようになったということがありました。

私たちがコンセプトにしている「声を大切にする」というのは、決して「聞こえる声」の話だけではなく、声なき声というか、表情であったり、少し気になった行動の背景に思いを馳せることであったり、そういうことだよね。

「今少し表情が強張っていたな」という瞬間に、「そうさせているものはなんだろう?」と思いを馳せてみる。

こちらが「こうあるべき」とか思い込みを捨てれば捨てるほど、子どもたちが安全安心に過ごせているような感じはするよね。

声というのは音声だけじゃなくて、表現しないことも含めたその子が表現する全てという感じがしますね。

だから、表情が動いたとか、顔色が変わったとか、何かに夢中になっている、あるいは、拒否反応、「これは嫌だ」と強く言った、目の色が変わった、体がピクッと動いた、何かしようとしたとか、そういう、本当に細かい情報を集める。

だから、「声を大切にする」というのは、そういう言語・非言語に関わらず、そういう情報を見とっていくことだと思っています。

いわたつは、CoEが開校して想定外だったことはある?

私が最初の頃に驚いたのが、保護者の方が子どもの付き添いとしてスクールでずっと一緒に過ごしていること。今は当たり前の風景だし、「むしろ居てください!」という感じだけど、最初の頃は毎日が授業参観みたいで(笑)。

でも、子どもたちの状態として保護者の方と離れることが難しい子もいて、そういう状態を想像しきれていなかったからこそ、本当に日々私は子どもたちから学ばせてもらっているなと思う。本当に「不登校の子どもたち」を一括りにして捉えてはいけないな、と。

本当にそうで、僕たちの今後の役割として、世の中に対して不登校の子どもたちの状況を正しく知ってもらう活動に力を入れていきたいです。

不登校の子どもたちって、先ほどなおさんから話があったように、「学校という選択肢にどうしても合わなかった」だけなのに、社会の見方や認識はさまざまで、それによって傷ついている人たちもいる。

僕たちも「学藝の森CoE」の企業寄付を集めるために、企業訪問をさせてもらっていますが、反応は本当にさまざまです。「不登校になったら社会でやっていけないのではないか。だから学校にいち早く戻すべき」「そんな楽させる選択肢をつくってどうするの」という言葉をもらったこともあります。でも、「うちの会社の社員やパートさんでも悩んでいる方がいます。力になります」とすぐに寄付してくださる企業様もいます。

そう考えると、僕たちの役割は、不登校の子どもたちに対する未認知を認知に変えていくこと。分からせようではなく、伝えるということがすごく大事なのかなと思っています。その先に、共感してくれる人たちとこれまでも出会ってきたし、ここからも出会えるはずだから、出会い続けていく。そこを頑張りたいですね。


16人一人ひとりを「特別扱い」する

私たちが大切にしてきたことの一つに、CoEには入学条件はないけれど、唯一保護者の方にお願いしたことがあって、それが「子どもの育ちを共に支えるパートナーとして関わってください」というお願い

CoEはサービスでもなく、ただ預ける場でもない。私たちも完璧ではないし、間違えることも失敗することも、時には傷つけてしまうようなこともあるかもしれない。でも、改善を繰り返しながら、一緒に悩みながら、子どもの育ちに寄り添うパートナーとして真摯に向き合うことを約束すると伝えて、そこに同意いただいて通ってもらっているので、保護者の方とは良きパートナーシップが育まれている気がするよね。

本当に一人ひとり違うので、その違いに寄り添っていく中で、当然失敗もあるんですよね。でも、そういう小さい失敗を早くトライアンドエラーしてより良くしていくときに、保護者の方がサービスの受け手になってしまうと、「プロなのに、そんな失敗?」みたいな、そういう目線になってしまうけれど、そうじゃないよって。

例えば、開校1週間目に僕の注意の仕方について、保護者の方からご意見をいただいたんですよ。でもそれもフラットに、「どんな場面でそう思われましたか?」とか「どんなところが気になりましたか?」とフィードバックをいただいて、僕自身も学びが多くて。

逆に、僕の意図もしっかり伝えて、理解していただいたり。共に子どもの育ちに寄り添うパートナーであることを擦り合わせていくことは、公教育においてもすごく大事なことだと思います。あと、個人的に大切にしているのは一人ひとりを特別扱いすることですね。

特別扱いの話は、スタッフで対話してたよね。

「自分のことを見てほしい」という気持ちの強い子がいて、それが叶わないと周囲に影響が及んで収拾がつかずに大変だなと思うことがあったんですけど。

そのときに僕はその子の「見て」をその時々でしっかり叶えていく方が全体最適としていい気がするということをスタッフに伝えたんですよ。そうしたら、「ある種その子だけを特別扱いしてるようにも見えなくないですか?」という会話になって、「確かにそうだな」と思ったんですけど。でもその子にはその関わりが必要で、きっと他の子はそうじゃないにせよ、他の子に対してもある種、特別扱いをしているなと思って。

学校DEIの「エクイティ」の話に通じるんですが、「一人ひとり特別扱いでいいんじゃないかな」という話をしました。自分が大事にしてきていることってそれだよなと改めて思っていて。

だから、野球を見るために必要なものが、台かもしれないし、双眼鏡かもしれないし、眼鏡かもしれないし、実況を聞くためのイヤホンかもしれないし、一人ひとりへの特別扱いが16通りあっていいはず。だから、それを探していこうっていうことは話しました。

誰か1人のために考えた特別扱いが、その子だけにフィットするものではなくて、誰かにもかすったりヒットしたりするものになると思うので。

私たちが尊敬する福岡県にある立花高校の先生も同じことをおっしゃってたよね。

誰かの困りごとの解消が、他の生徒の困りごとの解消につながるから、一人ひとりの声を学校運営に反映しているって。

先生たちは「みんなにとってどうか」を考えるのは得意だし、上手だと思うので、一度「この子にとってどうかな?」と立ち止まって考えてみてほしいんです。そうすることで、その子に合わせた取り組みが結果的に他の子にも響くことがある。

「この子にとって」を考えることは、特別扱いをすることではなく、その子や同じ感性や特性を持つ子たちの生きやすさをつくることにつながると思うんです。

だから、「この1人にとってどうか?」を考えることは、明日からでもすぐに始められることだと思います。今後CoEでは、大人が学ぶ場も作っていくし、子ども食堂など地域と共に作る場もやっていくので、ぜひ一度CoEに遊びに来ていただきたいですね。

開校1カ月で何人かの知り合いの先生たちが見学に来てくださって、みんな口をそろえて「どうしたらこんな場を作れるんですか?」って言ってくださるんだけど、正直特別なことは何もしていないと思うんだよね。

でも、何か起きた際に個人に原因を求めず、環境や仕組みを見直していくことを大事にしているのと、個人的には「GOOD NEIGHBOR(グッド・ネイバー)でありたい」と思って子どもたちと接しているかな。

良き隣人ってことですか?

そう。先生でも家族でもなく、隣にいる人。隣にいて、できることがあれば力になる。自分にできる形で寄り添う。そして、自分も隣の人に助けてもらう。

隣人への共感と信頼と相互扶助が、良いコミュニティを育てる鍵なのではないか。今、そんなことをずっと考えています!


「学藝の森CoE」では、随時視察研修や見学会の申込を受け付けております!ぜひ、リアルなCoEの様子を見に来てください^^

https://smilebaton.notion.site/CoE-1c445d9e69cb80e08a1de269690f9467?pvs=4


〈取材・文・写真:先生の学校 編集部〉