導入まで3カ月!?ボトムアップで構築された、立花高校のチーム担任制。職員皆でとことん対話して見えてきた、今、改革が必要な理由とは?

1957年の学園創立以来、「一人の子を粗末にするとき、教育はその光を失う」という創設者・安部清美氏の言葉を大切に、どこまでも生徒に寄り添うための学校改革に取り組んできた立花高校。
同校は2021年4月に、教員の負担を軽減し、生徒一人ひとりに、より多様なサポートを届けるべく、チーム担任制を導入した。2クラスを3人の教員がローテーションで担任する。
導入に当たっては、校内でワーキンググループが立ち上げられ、教員たちがボトムアップで議論を重ねながら、わずか3カ月で仕組みを構築したという。チーム担任制実施までにどのような議論があったのか?成果や課題は何か?
同校のチーム担任制ワーキンググループメンバーの3人に、話を聞いた。

英語科教諭、生徒理解部、2年学年主任
西村 理恵(にしむら りえ)さん 【写真中央】
国語科教諭、生徒理解部長、1年担任
松田 祥英(まつだ よしひで)さん【写真右】
理科教諭、教務部長、卒業支援学級担任
ボトムアップで構築した、チーム担任制の仕組み
——2021年4月より導入された貴校のチーム担任制について教えていただけますか?
本校は各学年6学級あり、それぞれの学年を10名の教員が担当しています。具体的には、2学級を3人の先生で担当するという形です。
学年を担当する10名のうち9名が3チームに分かれます。残り1名は学年主任で、どこのチームにも属さない代わりに、週に1度だけどこかのクラスに入るという仕組み。
当初は、学年主任もチームの一員だったのですが、試行錯誤を経て現在のような形になりました。3人の教員で2学級を担当するという仕組みは決まっているのですが、役割分担や運用の仕方については、各学年に委ねられています。
3人のチームは、1週間ごとに担任を交代していきます。
1週目は1組をA先生、2組をB先生、補助にC先生。次の週は、1組をB先生、2組をC先生、補助をA先生という感じ。
このようにローテーションすると、3週間に1度、学級担任ではない週が回ってくるため、担当のない先生方は、次の日の準備などが終わったら早めに帰るなどをして、リフレッシュができるような仕組みになっています。
実際に導入してみた3年を迎えた2024年2月に、生徒さん・保護者の方々・先生方にそれぞれアンケートで感想を聞いてみたところ、次のような結果が出ました。

もちろん日々課題はありますが、生徒さんにとっても先生にとってもメリットのある仕組みだと感じています。

——2021年1月に校長の齋藤先生から提案があってから、ワーキンググループを先生方が立ち上げ、チーム担任制の仕組みをボトムアップで作っていったと聞きました。西村さんと井上さんは中心メンバーだということですが、なぜそのグループに入ろうと思ったのでしょうか?
当時、齋藤校長からチーム担任制の提案が出たときは、正直不安に感じました。というのも、私自身急激な変化に弱い自覚があり、自分がその変化についていけなくなるのではないかと感じたからです。
だから、当初私はチーム担任制には反対していました。しかし不安だからこそ、周りの意見に流されるのではなく、この議論に最初から関わってみようと思い、ワーキンググループへの参加を希望しました。
お話があったのが2021年1月末。次の4月に導入ということは、次年度入学する生徒さんたちの入試も終わっている。
これまでの立花高校の様子を見て入学を希望してくれている生徒さんたちや在学中の生徒さんたちに、事前に全く説明できていない。それはいいのだろうか?前例がないものへの戸惑いを感じたり、環境が変化して嫌な思いをする生徒さんもいるのではないか?
紐解いていくとそういったことが私にとっての不安でした。

当時私は、「卒業支援学級」という学級を担任していました。
これは立花高校独自の仕組みで、3年間にとらわれることなく、自分のペースで卒業を目指せる学級です。この学級では、以前から2~3人の教員が一緒にクラス担任をしていたんです。
そのやり方を、通常の学級でやるというのもアリかな、とチーム担任制のお話を聞いたときに感じました。新しい仕組みを作るときに、生徒さんに心配させないようにするにはどうしたらいいか、土台作りから携わりたいと思い、グループに加わりました。

マイナス面を補うのではなく、個性が輝くチームに
——導入を検討する際、どのようなステップを踏んで進めていかれたのでしょうか?
開かれた会議になるように、職員室の一角にあるミーティングルームにホワイトボードを常設しました。このボードに、いつでも誰でもチーム担任制に対する意見を書けるようにして、対話の記録を見える形で残しておくようにしました。
その結果、本当にさまざまな先生方の視点から意見が得られ、チーム担任制について多角的に捉えられるようになってきました。そこでさらに、先生方が感じている不安をヒアリングするために、アンケートを実施し、分類したんです。
不安の例として挙げられたのは「本当に3カ月後に始まるの?もっとしっかり準備した方がいいんじゃないか?」「チームになったらなったで、誰かに仕事が集中するのでは?」「チームの間で格差が生まれないか?」「日々の情報共有に時間がかかりそう」など。
それらを解消するためには、どのような方法が取れるのか、ワーキンググループを中心に意見を出し合い、提示することになりました。

このような話し合いを重ねているうちに、不安でいっぱいだった私も「やれるかも」というマインドに変わってきました。心配な気持ちを抱えているのは私だけではなく、皆一緒だったからです。その中で、私が感じている不安をポジティブに捉えている人もいると知りました。そうやって多角的な視点を得ることができたのが、モヤモヤが解消したポイントです。
次第に私たちの話し合いも「チーム担任制を導入するのか否か」というテーマだったのが、「どうやったら抵抗感を減らして導入できるか?」という話題に変わったんです。
既に立花高校に通っている生徒さんたちにも、今までの立花を見て入学を目指してくれた新入生たちにも、安心して学校に通ってもらうために、どのような形での導入が望ましいのか、同僚からの意見をとにかく集めていきました。
大きな不安として挙がったのは、やはり「チームで学級を担任するイメージがうまくできない」ということでした。
——具体的に2クラスを3人で見るというチーム担任制を想定する上で、工夫されたことがあると聞きました。
教員とひとくくりに言っても、同じ職場で働いている人たちの生徒さんへのアプローチは三者三様。何が得意で、苦手なのか。思考のスタイルや、大事にしている価値観は何か。違いを知って補い合えれば、チームで働くイメージも湧き、組織全体の力も高まると考えました。
そこでワーキンググループが雑談の中から考案したのが、かの有名なRPGゲーム「ドラゴンクエスト」を模した「タチバナクエスト」という仕組みです。

ドラゴンクエストとは、主人公の勇者がパーティーを組んで、敵を討伐しにいくというゲームです。
学校でいう主人公・勇者は、もちろん生徒さんです。その勇者を、3人の先生がどうやって支えるのか。「もしこの3人でパーティーを組むことになったら?」という想定で、各々の役割を、ゲーム感覚で考えていきました。
例えば、A先生はやわらかく生徒さんを包み込む後方支援が得意な僧侶タイプ。B先生は、ただ実直に、ひたむきに生徒さんと向き合うアプローチが得意な戦士タイプ。C先生は、あの手この手を使い、変化球で斜めから切り込みを入れるアプローチが得意な魔法使いタイプ、というように設定をつけました。
「あの先生は〇〇タイプかな?」と考えるのがすごく楽しかったです(笑)。
ある程度バランスのとれたチーム編成を考えた後は、次年度の実施に向けて、「このメンバーでどのように学級経営をしますか?」と、シミュレーションしてみました。
互いの得意をグループの中でどう生かし、不得意をどう補うのか。話し合いの過程がとてもおもしろくて。結果として、マイナス面を補うのではなく、「〇〇先生って、こういうところあるよね!」「〇〇先生がこう動いたら、私はこんな風に生徒さんをサポートしようかな」とそれぞれの得意なところを輝かせて活動していこうとするシミュレーションが多かったように思います。
それぞれ生徒さんと関わる上での目標を定めたり、作戦名(スローガン)を作ったりもして、とにかく楽しみながら具体的に複数人でクラスを運営することを考えてもらいました。
チーム担任制導入の1年目がちょうどコロナ禍で、生徒さんが学校にほとんどいない状況でした。リモートでホームルームをするのがメインだったので、学校に出勤している先生たちは生徒さんがいないタイミングで対話を重ねる時間をたっぷり取ることができ、チームで担任するイメージが徐々に湧いてきました。
そのため、翌年にこれまで通り生徒さんが登校できるようになった際には、1年目にうまくいったことを共有しながら、対面でのチーム担任をスタートすることができたと感じています。
同僚はライバルではなく、手と手を取り合って助け合う仲間
——先生同士、対話を重ねる中で気づいたことはありますか?
私たちの対話が、だんだん「今、改革ができない理由」と「今、改革が必要な理由」を考えるようになったという点でしょうか。
チーム担任制の導入以前から、複数人で1クラスを担任する卒業支援学級を受け持った先生が、「そのスタイルを全学年で行うだけなのだから、導入できない理由って本当はないよね」と話していて。改革ができない理由が、ここで一つなくなりました。
さらに対話を重ねて驚いたことは、どの職員もこれまでの立花高校スタイルにまだ満足しておらず、大なり小なり変わったらいいなと思うところがあったこと。もちろん新しいことに対する不安はあるものの、何かしらの改革が必要な理由が、明確にあることに気づいたのです。

もちろんどちらの仕組みにもメリットとデメリットがあります。1人で学級を担任するのは、自分の思いが学級経営にすぐに反映できる点が強みです。でもチームで担任をすると、自分だけでは出せない知恵が出てくる。それなら、互いの違いを受け入れ合いながら、チームで知恵を出し合って担任をした方がいい。
皆が新しい仕組みに不安を感じていました。でも、1人で変わるのが怖いなら、皆で変わっていけばいい。チーム担任制を導入すれば、皆が変わらざるを得ない状態のスタートラインに立つことができ、自然と変わる方向に進んでいけるんじゃないかと気づきましたね。
——デメリットよりも、メリットの方が上回ったという感じでしょうか。
固定担任制の一番のデメリットを考えると、何より生徒さんは担任の先生を選べないこと。生徒さんの言葉を借りると「当たり外れ」ですが、話しやすい先生とそうでない人がいるはずです。逆に言えば、先生もまた然りです。
逆にメリットは、自分の思いを学級経営に思いきり反映させられること。その反面、担任が学級の課題を抱え込んでしまうというデメリットもあります。でもチーム担任制であれば、そのような疲労感を、助け合うことで軽減できるかもしれない。
このように、たくさんの対話を重ねる中で、デメリットだと感じていたことが案外そうでもないと感じるようになったり、それよりもメリットの方が大きいと気づいたりするようになりました。

——最後に、3人が感じているチーム担任制の良さについて、改めて教えていただけますか?
生徒さんが固定担任制のときよりもいろいろな先生と話せるようになったことですね。以前生徒さんに取ったアンケートを見てみると「自分にとって合わない先生が担任になる『当たり外れ』がなくなった。自分の思いを、伝えたい先生に話せることがいい」という回答がとても多かったです。
同時に先生同士もコミュニケーションが取りやすくなり、異なる年齢や経験、異なる教科の先生と話し合えるので、自分の見方や考え方が広がったり、頼れる先生が増え、1人で担任をしていたときの心細さがなくなりました。
先生がチームになったことで、職場がより安心できる場所になりました。
私は、毎朝チームで昨日の出来事を話し合い、起きたことに対する具体的な対応策などを決められるところが気に入っています。
たくさんの先生の目で生徒さんを見て、たくさんの先生で関わっていくこと。私たちは、ライバルではなく、手と手を取り合って助け合う仲間、小さな家族みたいなイメージだと捉えています。
私たちがチームになっていることが、生徒さんの安心感につながっている。これが一番大切なことだと今は思っています。

大前提、チーム担任制は、我々が目指す教育を実現するための手段の一つであり、目的ではありません。本校のチーム担任制は、絶対的なベストというわけでも、当然ありません。他の学校で実施すれば違う形になるし、私たちのスタイルもこれから変わっていく可能性だって十分にあり得ます。
その上で、今の立花高校のチーム担任制の良さと言えば、生徒さんが多様な先生と関わる機会が増えたことにより、先生が1人で学級の問題を抱え込む必要がなくなったこと。
一人ひとりの先生が、スーパーティーチャーとして活躍することを期待するのではなく、チームの中で本当の意味でそれぞれが個性を発揮し、自分の役割を果たしながら生徒さんと向き合うことができるようになったことだと思います。
チーム担任制を提案した齋藤校長にインタビュー

——齋藤さんは、どのような思いでチーム担任制の導入を提案されたのでしょうか?
私がチーム担任制の導入を考え始めたのは、実は提案する10年以上も前からでした。
これまで「生徒さんのためになるのであれば」と、良いと思えるものは何でも取り入れてきました。それらの取り組みも、先生方の声から生まれて実行されたものの方が多かったように思うのですが、それでも拭えなかったのは、先生の疲弊感でした。
疲弊というのは、先生が常に全力で一生懸命にやってくださった結果なので、決してネガティブなものではありません。それでも、これをなんとか軽くできたらという思いがありました。
——先生にとっては、自分が頑張って指導したことが喜びとして跳ね返ってくることもありますよね。
教員は日々頭の中で考え、自分で決断し、自分で実践するのが一般的な担任の仕事です。うまくいけば、生徒さんの成長につながり、保護者の方からも感謝される。教師冥利に尽きますよね。「来年も先生のクラスがいいな」と言われたら、本当にうれしいものです。
しかし、その一方で、自分の指導力に頼りすぎて、自己満足に陥っていないかと、不安にもなるのです。また、うまくいかなかったときには、「自分にもっと力があればなんとかできたのではないか」と自分を責めることもあります。
教科指導、生徒指導、進路指導…学級担任は全てに対応するマルチな能力を求められますが、1人でそれを完璧にこなすのは無理です。そしてそこで成果を求めるほど、疲弊しつぶれてしまう。固定担任制は、生徒さんの個性が多方面から引き出されるはずのチャンスを奪っている可能性すらある。
多様な大人が子どもたちの近くにいることで、生徒さんが自分に必要な手助けを「僕はこの手をつかみたい」とか「この手とあの手に支えられたい」というように選べることこそが大事なのではないか。チーム担任制は、そんな大人1人との出会いによって、教育の質が左右されてしまうという課題を解決するための仕組みだと考えています。
〈取材・文:中川恵乃久、先生の学校編集部/写真:立花高等学校ご提供〉