1. TOPページ
  2. 読む
  3. ​​独自の探究科目を立ち上げて約20年。かえつ有明中・高の「自分探し」を支える、・・・

​​独自の探究科目を立ち上げて約20年。かえつ有明中・高の「自分探し」を支える、プロジェクト型学習とは?

​​独自の探究科目を立ち上げて約20年。かえつ有明中・高の「自分探し」を支える、プロジェクト型学習とは?

かえつ有明中・高等学校には、「サイエンス科」「プロジェクト科」という独自の科目がある。探究する学びに必要なスキルやマインドを養うために始まったこれらの科目は、約20年の試行錯誤の中で変化し続けてきた。

その結果、現在はプロジェクトに取り組むことを通して、それらの力を育む形になっている。他者と協働し、内省を繰り返すプロジェクトの時間は、「自分探し」の学習とも言えるそうだ。

そんな同校の取り組みの変遷や具体的な実践、試行錯誤から得た気づきについて、サイエンス科・プロジェクト科主任の田中理紗さんに、詳しく話を聞いた。

写真:田中 理紗(たなか りさ)さん
田中 理紗(たなか りさ)さん
かえつ有明中学・高等学校 英語科教諭、サイエンス科・プロジェクト科主任

同校オリジナル科目「サイエンス科」、「プロジェクト科」において、生徒のワクワク感を大切にしながら、思考力・表現力育成のためのスキルやマインドを育成する授業を目指す。2018年には東京学芸大学教職大学院教育実践創成専攻で現学習指導要領と国際バカロレアのTOKの趣旨を踏まえた授業づくりに関する研究に取り組んだ。2019年にマサチューセッツ工科大学で開催された「Introduction to the Compassionate Systems Framework in Schools」ワークショップに参加し、システム思考教育やSELと出会う。2023-2024年にはEmory大学のSEE Learning Facilitator Certification Courseを受講。


探究する学びに必要な力を育む「サイエンス科」「プロジェクト科」


各学年のテーマこそは決まっていますが、取り組む内容はそのとき目の前の生徒にとって一番いいと思うものを担当する先生方が相談して決めているため、新しいプロジェクトを立ち上げることもあれば、過去のプロジェクトを踏襲して取り組むこともあります。一例として、よく取り組むプロジェクトを紹介します。

中学1年生には、フィールドワークのスキルを学ぶために、私たちの学校がある臨海地区を探索し、地域のリーフレットを作るというプロジェクトや、ブレインストーミングのスキルを学ぶために、地域のお弁当屋さんとコラボレーションして、新しいお弁当のアイデアを考えて提案するプロジェクトがあります。

中学3年生であれば、1人1つプロジェクトを立ち上げて探究し、探究した内容について発表し、プレゼンテーションのスキルを学んでいきます。

プロジェクトには考える道筋として「情報収集・整理分析・統合」という3つの段階があり、情報収集であればブレインストーミング、マッピング、メモの取り方といったスキル、整理分析であれば、原因と結果の因果関係を分析したり、異なる意見を分類・グルーピングしたりするスキル、また統合の段階では、レポートや小論文、ポスターセッション、新聞の作成などというように、プロジェクト毎に異なるスキルを使用します。

高校生のプロジェクト科になると、授業の中で取り組むプロジェクトもあるのですが、外部とやりとりしながら進めるものの方が多いので、プロジェクトが進行するのに必要なスキルやマインドをさらに伸ばしたり、整えたりするような時間として機能しています。


スキルやマインドの定着には、情動が必要


現在も引き継がれるサイエンス科のコンセプトは、どの教科でも共通して必要な学びのためのスキルやマインドを育成することです。

共学になった2006年に立ち上がった当初は、国語と理科の先生が協働して進めており、調べ学習中心の取り組みだったそうです。その後は批判的思考について学んだり、プレゼンテーションやブレインストーミングなど、アカデミックなスキルに注目した授業に取り組んでいました。

当時はその取り組みが最善と考えて進めていたのですが、スキルに特化した授業を進めるほど、実は学んだスキルが生徒に身についていないことに気づいたんです。


例えば「楽しい旅行のアイデアを出そう!」というテーマのもと、ブレインストーミングについて学んでいくのですが、いくら旅行のアイデアを出したとしても、その旅行は架空のものなので、実現されることはありません。

本来であれば探究するスキルは、何かを実現する過程で必要があって学ぶものなのに、ずっと「練習のための練習」をやっているような感覚に陥ってしまって。これでは、学びによって生徒の情動が動くことはなく、思うように定着していかなかったんです。

そこからの試行錯誤の過程では「まずは楽しい学びにしよう」と、マインドを重視しすぎた時期もあり、その結果、学びが本当に生まれているのか?と疑問に感じたこともありました。そこでの話し合いの中から、「やっぱりスキルも大事だったよね」という結論に至り、また変化していきました。

現在のSELをベースにした探究の形は、20年近く試行錯誤してきた結果、「探究に必要なスキルやマインドは、プロジェクトに取り組む過程で一番身につく」と気づいた結果と言えます。


中学3年生のサイエンス科で取り組んでいる「世界を変える0.1%プロジェクト」ですね。このプロジェクトは2018年から始まった取り組みで、生徒たちがそれぞれやりたい形のプロジェクトをやって、やりたい形でプレゼンテーションをするというものです。

一番印象に残っているのは、ある3人の男子グループが取り組んだ「幸せとは何か」をテーマにしたプロジェクト。彼らは当初、幸せを「衣食住が満たされていること」と定義していました。そのため、衣食住が満たされていない人に話を聞こうと、ホームレスの支援をしている団体を訪ね、実際にホームレスの方に話を聞いたんです。

すると、話を聞かせてくれたホームレスの方々から「とても幸せを感じている」という話を聞いて驚き、生徒たちが定義していた「衣食住が満たされていたら幸せ」というものは崩れ、「衣食住だけが、幸せを定義するものではない」と考えるようになりました。

最終的には「幸せとは何か」について、3人の生徒が約30分かけて熱く発表をしてくれました。多感な時期の中学3年生の男子生徒たちが、幸せについて30分語りきった姿を見て、すごく感動したのを覚えています。

それまでは「私がおもしろい授業やプロジェクトを提供してあげないといけない」と思い込んでいました。でも、生徒たちにプロジェクトを組み立ててもらったら、私が提供するどんなおもしろいコンテンツよりもおもしろかったんですよね。この経験が私が持っていた授業に対する価値観をガラリと変えてくれました。


その生徒たちのおかげで、プロジェクトを通して探究してほしいことに気づくことができたんです。正直最初は、なぜプロジェクトの学びに取り組んでいるのか、自分たちも腑に落ちていないところがありました。

でも彼らのおかげで「プロジェクトを通して探究しているのは、自分とは何者か、どのように周りとつながっていきたいのか、自分がどう世界に貢献したいのかを考えることだ」と理解できました。


プロジェクト型学習は、「自分探し」の学習