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校内研修をアップデート!教員が「学びたいことを 学びたい人から 学びたいように学ぶ」校内研修へ

校内研修をアップデート!教員が「学びたいことを 学びたい人から 学びたいように学ぶ」校内研修へ

埼玉県戸田市にある戸田市立美女木小学校では、2021年度から対話を通して教員の教育観を深掘りし、それぞれの教育に対する思いを起点とした『学びたいことを学びたい人から学ぶことのできる』校内研修への転換を進めてきました。

個人でテーマを決め、テーマごとに研修の企画運営を行い、それぞれが学んだことを共有しています。

今回は、新しい研修体制を提案した勝俣武俊教頭と、校内研修の変容を目の当たりにしてきた研修プロジェクトメンバー5人に話を聞きました。

写真:戸田市立美女木小学校
戸田市立美女木小学校
\私たちが取材しました/
戸田市立美女木小学校 教諭
井上 咲希(いのうえ さき)さん
山崎 幸恵(やまざき ゆきえ)さん
真田 尚也(さなだ なおや)さん

校内研修アップデートの仕掛け人・勝俣武俊教頭インタビュー

「自分ごと」にならない校内研修

——なぜ校内研修を転換しようと思われたのでしょうか?

私はこれまで9つの小学校で勤務させていただき、さまざまな校内研修を見てきましたし、挑戦してきました。過去には、Microsoftとの共同研究や、放送大学の教授に指導していただきながらデジタル教科書の研修も行いました。学習塾の「花まる学習会」と連携し、朝学習の新しいモデルを構築したこともあります。

ただ、ずっと課題に感じてきたことがあります。それは、校内研修が全教員にとって「自分ごと」にならない、ということです。

校内研修は、1つの学校で1つのテーマを決めるのが一般的ですよね。その場合、そのテーマに興味のある人は一生懸命学ぶことができるけれど、興味のない人にとってはどうしても「自分ごと」にならない。そんな状況に課題を感じていました。

——確かに全員にとって「自分ごと」にするのは難しいですね。

研修主任が外部の素敵な講師を呼んできて、新しいことや自分のワクワクすることに取り組んだとしても、これまで私の経験してきた研修では、「全員が自分ごと」になることはありませんでした。

「学ぶこと」は本来、人間にとって喜びを伴うものだと思うんですよね。だから当時の私は、「こんなに楽しい研修なのに、なぜこの人たちは学ぼうとしないのかな?自分で教員になると決めたはずなのに、なぜ学びを楽しめないのだろう」というモヤモヤをずっと抱えていました。

インタビューに答える教頭の勝俣武俊さん

研修のあり方を考えさせてくれた2つの言葉

——そのモヤモヤはどのように解消されていったのでしょうか?

研修に対する私のモヤモヤが晴れるきっかけとなったのが、私が自らの学びの中で出会った言葉でした。NPO法人SOMAの瀬戸昌宣さんの「ひとが育つ環境をととのえる」と、システム思考教育家の福谷彰鴻さんの「人は変化することを恐れるのではない。人に変化させられることを恐れるのである」という言葉です。

今まで研修といえば、「知見のある人から、学びたい人に知見を与える」というイメージが強くありました。しかし、2つの言葉との出会いを通して、これまでに私が経験した研修の形では、先生方の価値観や考え方が変わらない理由が分かった気がしたのです。

——「変わらない理由」を勝俣さんはどのように捉えたのでしょうか?

子どもだけでなく、大人も「自分で学び、その中で自ら気づいたことでしか変わらない」ということです。

自らの学びを自らの手でつかみ取ることのできる環境を整えることで、先生が生き生きと学び、自らの教育観を変化させていくことができるのではないか、と考えました。この考えが基盤となり、「教員が学びたいことを、学びたい人から学ぶことができる」という現在の美女木小学校の研修スタイルに辿り着きました。

先生がありのままの自分でいられる職員室へ

——研修の形を変える上で、こだわったことはありますか?

普段は職員室で笑いながら話をしているのに、研修の場になった途端に、雰囲気がガラッと変わってしまうことに課題を感じていました。

「研修主任とその他大勢」という構図になってしまい、新しいことを提案しようとすると「はっ?勝俣何言っちゃってるの?」みたいな空気になるんです。「夢中になれている先生」はひがみや妬みの対象になってしまい、それが教員間の分断を生む原因になるんじゃないかなと。

一生懸命学んでいるはずなのに、いいことしているはずなのに、「負の感情」を向けられる。これって、おかしいですよね。だからこそ、先生同士が安心して、新しいことにチャレンジできる土壌を整えるために「対話」の時間を設けることから始めました。

——対話の時間に、どのようなことに取り組んでいるのですか?

多様な価値観を認め合い、職場の仲間の行動や言動の奥にある思いや背景にまで目を向ける姿勢を育み、教員がありのままの姿で働ける職場になってほしいと思い、月に一度、対話の時間を設けています。対話を専門的に取り組まれているNPO法人の方々に伴走していただいています。

先生たちって「先生」という鎧を着ていて、「先生なんだから、こうあるべきだ」 という固定観念に縛られている気がします。自分は、それがすごく息苦しくて。 そんな世界では、失敗なんて許されないだろうし、弱音なんて当然吐きにくいわけで。

しかも、その関係が、職員室内でも成り立ってしまうわけです。そんな世界から、本当の自分の思いや願いに出会う場をつくりたいと思いました。そして、対話を通して生成した「先生たちのこれを学びたい」を研修で形にしています。

——対話や、独自の校内研修を通して目指す、美女木小のあり方を教えてください。

先生だって、好きなこと嫌いなこと、得意なこと苦手なことがあって当然ですよね。それをもっと、正直に口に出していいんだと思うんです。

子どもたちには「多様性が大切。正直に生きることが大切」と伝えているのに、先生自身が正直に生きていなければ、子どもに真に伝わることはないと思います。だからこそ、先生がもっとわがままに生きていける世界線をつくっていけたらいいなって。まずは、今の美女木小学校で挑戦していきたいと思います。

研修プロジェクトメンバーのリアル座談会

ここからは、新しい校内研修に挑戦した2021年度から、校内研修の変容を目の当たりにしてきた研修プロジェクトメンバーに話を聞いてみたいと思います。


戸惑い、焦り、ワクワクから始まった新しい形の校内研修

——ちょうど1年半前になりますか。研修の形が変わり始めた頃はどういう思いで校内研修を見つめていましたか?

(吉川さん)
正直、戸惑いました。やはり従来の校内研修は、学年ブロックでテーマをそろえて、方策を立てて、どうやって取り組むかを「一斉」でやってたと思うんですよ。

私自身は教員として採用されてからそういう形で取り組んできて、苦手な分野であっても、ちょっとずつ知識を身につけて、引き出しを増やしていけた。それが校内研修の当たり前だったから、「どこが学校研究になってくるのかな」「3年間の研究で深めていけるのかな」と、不安に感じていました。

2020年度 研修主任を務めた吉川明子さん

(柘植さん)
私は、研修がすっごい変わって、サボれないかもと思いました(笑)。 これまでの研修は、研修主任の先生がいて、 何グループかに分かれて、役割分担で割り振られたことをやっていれば良かった。プリントを刷ったり、掲示物を整えたり、言われたことだけをやっていれば良かったところから、「自分の学びたいことに取り組んでいいよ」ってことは、自分で行動を起こさないと研修が進んでいかないということなので、焦りはありましたね。

(菊池さん)
2年前の研修では、研究授業者になりましたが、自分の思いを十分に取り入れた授業を行うことができませんでした。「自分の中でこういう風にやろう」と思ったことに対して、周囲の先生から「多分無理だよ」「できないよ」とフィードバックいただき、授業に私の考えていたものをあまり取り入れることができなかったという苦い経験があって。

新しい研究体制になって、 自分の思いを十分に取り入れた研究ができるっていうところで、とてもワクワクしていました。

2020年度 研修主任を務めた菊池基祈さん

——校内研修では、具体的にどのようなことに取り組みましたか?

(柘植さん)
昨年度は学年でGBL(ゲーム・ベースド・ラーニング)に取り組みました。タンキュークエストを展開するtanQ Inc.のモリソン(森本佑紀)さんに指導していただきながら、算数のメートルの単位を使ってゲームを作りました。無料デザインツール「Canva」で動画作りにも挑戦したのですが、学年の先生方ととっても楽しく取り組むことができました。

今年度は、SEL(人間関係における心の学習)について学んでいます。 学び始めてみたら、いろんなことがSELにつながっていくことが分かりました。その他にも、GWT(グループワーク・トレーニング)やプロジェクトアドベンチャーを学んでいます。

(後藤さん)
昨年度から、哲学対話やPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)、自由進度学習に取り組んでいます。今年度の哲学対話の研修では、講師の神谷さんに授業を直接見てもらい、その後に1時間丸々フィードバックをいただく学びを行っています。

——研修の内容や方法は、その都度変えているのでしょうか?

(後藤さん)
授業の中で、子どもたちの様子を観察する中で、子どもたちと一緒に経験したいことや学びたいことが生まれてくるんです。そのときに、自分が一番話を聞きたい方と直接連絡をとって、研修の方法や持ち方を講師の方と一緒に考えています。特に、研修に参加する先生たちが課題感を持った状態で研修に参加できるように工夫しています。

子どもたちに自走を求めるのであれば、教員も自走しなければいけない

——新しい研修の形に取り組む中で、どのような変化がありましたか?

(柘植さん)
研修と聞くと重たいイメージがあって、学校の中で“やる気のある人”がやることだと思っていました。でも実際は、新しいことに軽い気持ちで取り組むことも研修なんだなと、イメージが変化していきました。公開授業にしても、いいものを皆で共有していこうみたいな。

きっと、もともとの校内研修のあり方もそういうことだったんだろうなと思って、 そんなに重く考えなくてもいいのかもしれないと思えたことが変化かなと思います。学校全体も生き生きしてますよね。今まで「研修かぁ⤵」ってなってたものが、今では楽しみの一つになっています。

研修プロジェクトメンバーの柘植優季さん

(吉川さん)
変わり始めたと感じたのが、昨年度の夏休みかな。レゴ®︎シリアスプレイ®︎を使って、対話をしたあたりですかね。職員で何回も対話をして、子どもたちの理想像を話したときに、「自走する子どもたち」という言葉が何度も出てきました。

受け身の子どもたちではなく、学びを自分から取りに行ける子どもたちにしていかなきゃいけない。そこで私は、子どもたちに自走を求めるのであれば、教員も自走しなきゃいけないんだなと考えるようになりました。

私を含めた中堅の先生方は、これまでの成功体験の積み重ねがあるから、型にあてはめて考えすぎていたところがあったのだと思います。それがコロナ禍で、子どもたちの経験や感覚も変わってきて、私たち大人も「変化していくこと」は、きっと当たり前なんだなと思うようになりましたね。

でも決してこれまでの経験や以前の研修の形を否定しているわけではありません。今この状況を受けて、変化に対して前向きに捉えていくことは、経験年数があろうがなかろうが関係なく、やっぱり大事なことなのではないかと思うようになりましたね。

(菊池さん)
教師として大きく変わったことは教育観ですね。やる自由、やらない自由があって選択することの大切さに気づいたことが大きいです。 

自由進度学習や哲学対話などに触れて、いろんな考え方や研修のやり方があることを知り学んでいくうちに、子どもにも同様にやる自由、やらない自由があることに気づくことができましたし、それが自分の中のベースになりました。正直、対話や校内研修を通して180度変わったなと感じています。

(才田さん)
私も、教育観が大きく変わりました。「子どもたちができるようになるために、やってあげなきゃ」という考えから、子どもたちの「やってみたい」を応援する考え方になりましたね。

大きな転機は、昨年度3年生で行ったPBLの授業でした。校内に虫を増やすために、子どもたちがSUZURI(オリジナルグッズ作成&販売アプリ)を使って、自分たちでお金を稼いだんです。その利益を資金にして、虫小屋や花壇などを自分たちで作成することに取り組みました。

その授業の中で、私の考えていた小学3年生という枠組みを、子どもたちは簡単に超えていったんです。今は、子どもと共に伴走する「ファシリテーター」としての関わり方がとても心地良いです。

研修プロジェクトメンバーの才田恵理子さん

——来年度も研修は続きますが、どのようにしていきたいですか?

(後藤さん)
全体としては、今年度やっているものがより深まっていって、全体で分かち合うことができたらいいと思います。昨年度までは、勝俣先生がいろいろと種を蒔いて新しい風を起こしてくれて、伴走してもらっている感じが強かったのですが、今年度は先生が起点となった学びも起こり始めたので、来年度は「自走できる先生」が今よりもっと増えるといいなと思っています。

個人的には、職員室の環境が変わっても、この研修の形を続けていきたいです。一般的には、管理職が変わると学校の雰囲気や考え方が変わってしまいます。だからこそ、自分自身の力を付けることが、個人的な目標です。

2022年度 研修主任の後藤宏清さん

(才田さん)
研修単体で「こういうことをやっています」ではなくて、「こういう学校にしていきたいね」を起点に取り組んだことが、研修になっているのがおもしろい。だから、今年の研修は義務でやってる感じがありません。今までの研修を継続しつつも、違うフィールドを試してみながら、今後も挑戦を続けていきたいですね。

〈取材・文=美女木チーム/写真=美女木チーム提供〉