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日本一フランクな校長!?トキワ松学園中高・田村校長、教えてください!先生が生き生きと働くコツは何ですか?

日本一フランクな校長!?トキワ松学園中高・田村校長、教えてください!先生が生き生きと働くコツは何ですか?

東京都・目黒区に校舎を構え、「探究女子」の育成を教育目標に掲げるトキワ松学園中学校高等学校。

2022年4月から新しく校長に就任している田村直宏先生は、これまで受け持ってきた教え子たちや同僚の先生たちから「タムタム先生」の愛称で親しまれ、自他共に認める“超ポジティブマインド”の持ち主だ。

「日本一フランクな校長を目指す」と宣言する田村校長に、生徒との接し方や教職員のマネジメントにおいて大切にしていること、先生が生き生きと働くコツについて聞いた。

写真:田村 直宏(たむら なおひろ)さん
田村 直宏(たむら なおひろ)さん
トキワ松学園中学校高等学校 校長

1971年生まれ。大阪府立茨木高等学校卒業、京都大学理学部地質学鉱物学教室岩石学教室卒業。1997年より大阪工業大学高等学校(現常翔学園中学校・高等学校)で24年連続で学級担任。大阪高体連卓球専門部で、会計、事務局、副委員長を通算14年務める。ティーチャーズ・イニシアティブ2期生。2021年トキワ松学園高等学校教頭、2022年トキワ松学園中学校・高等学校校長に就任。


安心・安全な学校づくりは職員室から

——トキワ松学園中高の新校長に就任され、田村先生の“校長1年目”としてのキャリアがスタートしました。どんな学校づくりを目指されていますか?

私には日本中の子どもたちを幸せにしたいという夢があります。

そのために、日本中の学校を安心・安全の場にしたい。さらにそのために、日本中の学校の職員室を安心・安全の場にしたい。なぜなら、先生たちが生き生きと楽しそうにしていれば子どもたちも幸せだからです。

1916年(大正5年)に設立されたトキワ松学園は素晴らしい学校ですが、さらに風通しの良い学校にしていきたいと思っています。


——新たに始められた取り組みなどはありますか?

まずは、生徒や先生方が気軽に相談しにきてくれるように校長室を開放しました。ドアは常にオープン、壁には私の似顔絵を飾り、机の上には鬼滅の刃全23巻を置いています。

「ちょっと遊びに行ってみようよ」と思ってもらえる楽しい校長室にしたいですね。

さらに、生徒から校長に直接声を届けられる仕組みとして、ロイロノート・スクールで「校長目安箱」という提出箱を全クラスに作ってもらいました。

「部活を見にきてください」といった生徒からの声が徐々に届くようになり、うれしく感じています。

職員室に関しては、もともと皆さんすごくフラットな関係性の中で穏やかな空気でしたが、今年になってさらに雰囲気が良くなったように思うと言われました。

実は先生方がより一層やりやすくなるようにと考えて、人員の配置を工夫し、若手の先生に学年主任などの役職を任せ、 生徒たちともっと触れ合いたいというベテランの先生には担任をお任せする形にしました。

なので今は60代の担任もいますよ。

校長に意見を届ける仕組み「校長目安箱」を
ロイロノート・スクールで作った


——おもしろいですね。その人員配置にはどんな狙いがあるのでしょうか?

一般的に、若手はベテランの前では遠慮して言いたいことがあっても言いにくいものですよね。そうであれば、言わざるを得ない立場にしてしまおうというのが狙いです。

トキワ松学園の先生方は皆さんとても人間性が高く、このやり方は違うと思ったら、相手の考えを慮りながらこうした方がいいのではと言える人たちなので、きっとスムーズに回るだろうと思いました。

トップダウンではなく、ボトムアップで環境を変えていこうと思うと、ボトムにも発言できる人を置いた方がいいというのが私の考え方です。


——随所に田村校長の工夫がうかがえますが、職員室を安心・安全の場にしたいと考えるに至った背景には何があるのでしょうか?

過去の職場で、教員同士の会話が少なく、けんかや責任のなすりつけあいが多発する居心地の悪い時期を経験しました。学科ごとに職員室が別れていたため、先生間のやり取りはほぼ全て内線電話で行われる環境。

原因はここにあると考えた私は、内線電話は一切使わず、できる限り職員室に顔を出して先生たちと直接コミュニケーションを取るようにしたところ、少なくとも私は、同僚と良好な関係性を築けていたように思います。

学年主任になったときには担当学年の雰囲気がとても良くなり、生徒からも「先生たちの仲が良いから学校が楽しい」と言われました。

先生同士の仲が良いことは、生徒の幸せにもつながるのだと気づき、校長室や職員室から風通しを良くしていこうと考えるようになりました。

校長先生を開放し、風通しの良い学校を目指す田村先生


生き生きと働くコツとは?

——田村校長が教員として働く上で大切にしてこられたことは、どんなことですか?

4つあります。
1つ目は「生徒ファースト」

自分が忙しいからとか面倒だから行動しないというのはナシ。とにかく生徒の成長のために動くのみ!と決めています。

2つ目は「おもしろい先生でいること」

教員になりたての頃は先生におもしろさは不要だと考えていました。でも先生がおもしろい方が生徒は喜ぶし、成績も伸びるし、満足度が上がるんですよね。今では学校の先生はおもしろい方がいいと思っています。

3つ目は「学び続けること」

昔から外部の研修やセミナーには積極的に参加するようにしています。今は生涯学習の時代。先生も学び続ける姿勢を生徒に見せたいですね。

4つ目は「本音で対話すること」

私は小さい頃から、建前を言う先生が嫌いでした。建前には何の意味も納得感も伴いません。私自身は常に自分に正直に、生徒にも先生方にも誠実でいたいと思っています。お互い本音で会話することで、より良いアイデアも生まれやすくなりますしね。

いつもユニークで、場の雰囲気を和ませてくれる田村先生


——田村校長が考える、先生たちが生き生きと働くコツとはズバリ何でしょうか?

自分がやりたいようにやる。これが一番です。

プライベートと仕事の境界をくっきり分けずに、人生は1つと考えて、WILL(やりたいこと)・CAN(できること)・MUST(やらなければならないこと)を一緒にしてしまえばいいというのが私の考え方です。

校長就任時、先生方には「言われた通りにやる必要はありません。何かあったときの責任は校長である私が取りますから、どうぞご自身のやりたいことをやってください」と挨拶しました。

最終的な責任は校長にあるので、とりあえず好きなように動いてみて、うまくいかなくて怒られたら、潔く謝ればいいんです。ただし、やりたいことをやるからには、それなりの覚悟を持つ必要があります。

何が起こるか分からないからこそ、常に想定外のことが起こったときのことを考えて対応方法をシミュレーションしておく。それが私の考える覚悟です。


——忙しくてなかなかやりたいことができないという先生も多いと思いますが、学校の先生の長時間勤務をはじめとする働き方についてはどのように捉えていらっしゃいますか?

今の教員採用選考試験の倍率の低さを見ても、教員の長時間勤務や部活動指導の休日出勤といった働き方が影響していることは確かでしょうね。実際に私も若い頃は、労働時間が過労死ラインを超えている時期が多々ありました。

ただ、私の場合は部活動の顧問や授業動画の撮影などは全て趣味だと思ってやっていたので、あまり苦ではありませんでしたが(笑)。

教育現場も多くの企業のように、労働時間ではなく与えられたミッションに対してどの程度成果を出せたかで評価や報酬が決まる仕組みにしてはどうかと思います。

目標を設定し、達成できればOK。その日の授業が昼に終わって退勤したとしても、生徒の学力や得意が伸びていたらそれでいいと思うんですよ。

その時間で外部の研修やセミナーに参加した方が先生自身の成長にもつながり、よっぽど効率的です。不要な仕事は思い切って削り、もっと効率化できるところはして、生徒や先生ご自身の成長につながる時間を大切にしてほしいですね。


——例えばどんなことが不要な仕事として削れそうでしょうか?

まず労働時間が長くなる一因として、採点や成績をつける作業が大きいと思います。

宿題をなくす、小テストはICT端末で実施して生徒自身に採点までしてもらうなどして個々の負荷が軽減できれば、その分生徒を伸ばすことに集中できるはずです。

また、学校は生徒に対して親切すぎる部分もあると個人的には思います。

例えば、課題や提出物が期限通り提出されているかのチェック&フォローにも膨大な時間を費やしますが、締め切りを守らなければそれ相応の不便が生じることを教えるのも教育です。

内容にもよりますが、ある程度の割り切りも必要ではないでしょうか。


朝令暮改でいい

——取捨選択をすることでもっと削れる仕事はあるということですね。

その通りです。もう1つ、学校の先生にはその場で対処する力がもっと必要だと思っています。

皆さん、「何か起きたらどうしよう」という心配ばかりしますが、それよりも、「何か起きたときにどう対処するか」を考えることの方が重要です。

何かが起こるリスクがあるから実行しないと判断するのではなく、何かが起こったときには保護者や関係者の方々に潔く謝って、説明をして、納得していただく方向に誠心誠意尽くしたらいいのではないかと思うのです。

先日、2年ぶりにトキワ松学園のスポーツ祭典を行ったときのことです。

当初、観覧できる保護者の人数を一人に制限していましたが、マスク着用の基準が緩和された報道を見て、生徒から観覧者数を2人に増やしたいという提言が出ました。

感染対策の他にも会場までの交通手段に関する問題があったのですが、きちんと対策まで考えられていて、校長室でプレゼンしてくれました。これには感動しましたね。ここまでされたら校長としても覚悟を持って要望に応えるしかありません。

とは言え、一度表明していた方針を変更することになるので、保護者の方々には混乱を来さないよう細心の注意を払いながら丁寧なコミュニケーションを行い、ご理解いただきました。


——一度決めたことでも、状況に応じて変化させることを良しとされているのですね。

はい。状況や条件が短期間でガラッと変わる今の社会においては、朝令暮改はいい言葉だと思っています。

自分の都合を押し通すだけに固執せず、この方法が違うと思えば勇気を持って方針転換し、現状で最善の手を打つ。そんな柔軟性が受け入れられる教育現場になっていかないと、無駄な仕事がどんどん地層のように積み重なっていってしまうだけです。

方針転換をするのは何ら悪いことではない。先生方にはそういう意識で、言いたいことをどんどん言ってほしいですね。


——最後に、この記事を読む先生方へメッセージをお願いします。

先生方は皆さん、それぞれに強み弱みが異なります。

個を尊重せず、一律に型にはめて同じような形のブロックを積んでいくのではなくて、一人ひとりが長所を伸ばして尖っていき、各々の強みが生きるような形で石垣のように組み合わせていった方が強い。

ですので、先生方には恐れずに、ご自身の得意を発揮して生徒たちの個性を伸ばしていっていただきたいと思います。

朝令暮改でも、事後報告でも大いに結構。先生という働き方を、一緒に楽しみましょう!


〈取材・文=栗崎 恵実/写真=ご本人提供〉