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経済格差なく、誰でも入学できる市民がつくる公教育。愛知県瀬戸市のオルタナティブスクール「瀬戸ツクルスクール」とは?

経済格差なく、誰でも入学できる市民がつくる公教育。愛知県瀬戸市のオルタナティブスクール「瀬戸ツクルスクール」とは?

2017年に施行された教育機会確保法により、フリースクール、オルタナティブスクールと呼ばれる学び場の選択肢が増えている。

多くのオルタナティブスクールが月額数万円の学費がかかるのに対して、「市民がつくる公教育の形」をテーマに、公立学校同様に昼食費・施設利用費の実費しか徴収せず運営しているのが、愛知県瀬戸市にある「瀬戸ツクルスクール」だ。

教育機会確保法の趣旨に沿った全日制のスクールとして、現在小学生から中学生まで約50名が通っている。

国からの補助を一切受けず、利益度外視で運営するに至った立ち上げのストーリーやスクールの理念、既存の学校では伸ばしきれない子どもたちの個性への寄り添い方について、瀬戸ツクルスクール代表の一尾茂疋さんに話を聞いた。

写真:一尾 茂疋(いちお しげひこ)さん
一尾 茂疋(いちお しげひこ)さん
地域立小中一貫校「瀬戸ツクルスクール」代表

大学卒業後、流通業、外資系医療機器メーカー、進学塾、出版社、海外語学学校、個別指導塾、国内大手英会話スクールで、販売、営業、講師、企画、運営、人事、経営企画を経験したのち、2009年より瀬戸市にて教育支援業を開業。
小学生から中学生の学習サポートからスタートさせ、母親が子どもとの関わり方を学ぶ「せとオヤ子育てプロジェクト」も発足させている。また2017年からは瀬戸市教育委員会主催の瀬戸市教育アクションプラン推進会議委員も務めている。一方で、学校教育へのサポートもしており、PTA家庭教育セミナーの講師や教員向けの研修講師、授業サポーターでもある。北米アドラー心理学会認定プログラム、ポジティブディシプリン学級&ペアレントエデュケーター。


市民がつくる公教育の形

——瀬戸ツクルスクールを立ち上げた経緯について伺えますか?

僕は塾を経営しているのですが、少人数制なのでどうしても月謝が高額になる。そうなると、不登校や何らかのサポートが必要な不特定多数の子どもたちには届きにくい。そういったジレンマを抱えていました。

それなら「学校を支援しよう!」と学校に働きかけたり、保護者向けの勉強会を主催したものの、学校に変化を起こすには至らなかった。

そのようなときに、子どもが主体となって学んでいるサドベリー・スクールを見学して、「これなら自分でもできるかもしれない」という手応えを感じたのがスクールを立ち上げるきっかけになりました。

サドベリー・スクールでは、生徒は学ぶべき内容を学校から押し付けられることがなく、自らの好奇心の赴き、ルールの範囲内で追求することができます。

瀬戸ツクルスクール代表の一尾茂疋さん

 
——スクールの学費は、実費のみですよね。驚いたのですが、どのように運営されているのでしょうか?

僕は「教育とお金は、水と油」だと思っています。

教育にお金を発生させると、格差が生まれる。だから、僕はできる限り学習者からお金を徴収したくなかったんです。

ただ、公立小学校でもPTA会費や給食費などで月々およそ6,000円前後は徴収されていることを知り、授業料は無料ですが、昼食費・施設利用費の実費はいただくことにしました。

現在は、給食費1日300円と月額利用料3,000円を徴収し、運営しています。人件費は基本的に無償ですが、ボランティアとは違いますね。ここでしか体験できない学びがたくさんありますからね。むしろ本当はお金をもらってもいいくらいです(笑)。


——公立校より安い!利益がないということは、一尾さんはどのように生計を立てられているのでしょうか?

平日10~15時は本スクールの運営に携わり、17~22時は塾を経営し、塾の経営で生計を立てています。

僕は吉田松陰が好きなんですね。昔の寺子屋を考えてみると、藩主が自分の地域の子どもたちを集めて、いい先生を探してきて場所を貸すわけですよね、あれをイメージしています。

今の運営スタイルに至るまでに、もう一人影響を受けた方がいます。

元塾の経営者で、ベストセラー作家の喜多川泰さん。当時彼が経営していた横浜の塾まで会いに行ったこともあります。そのきに彼がポロっと、「僕みたいに本が売れたり講演活動をすれば、子どもたちは無料でスクールに行けますよね」って。そうだよね!と、強く共感しました。

2020年6月から拠点となっている校舎


——校舎が立派ですよね。

今の校舎に落ち着くまでは、場所を転々としました。

最初はダンス教室をされている方が場所を無償提供してくださり、次に公民館に移りました。公民館は安く借りられるものの、それなりに費用はかかる。最初は「飲み代くらいだしな」と思い、自分の持ち出しでやっていました。

現在は、閉校になった専門学校の校舎で運営しています。

この校舎と出会ったのは2020年3月で、たまたま破格の値段で売り出し中だったんですね。とはいえ個人で購入できる金額ではなく、どうしようと思っていたところに奇跡の出会い(笑)。

地元企業の経営者の方と知り合い、スクールの構想や校舎の話をしたら賛同してくださった。結局その経営者の方が校舎を購入し、2020年6月から拠点としています。先方にお支払いしているのは光熱費だけです。


毎日「自己決定」を繰り返すことが大事

 ——スクールの基本理念とネーミングに込められた思いを教えていただけますか?

瀬戸市の理念と同じ、「自立・創造・協働・共生・挑戦」です。「学びの選択肢を作りたい」とは思っていたけど、こうでなきゃという僕の理念はなくて。

そもそも「学校とはどういうものだろう?」と考えたときに、「地域とのつながりが欠かせない」と気づいたんですよね。それであれば、瀬戸市の教育理念を導入するのがベストだろうと。

スクールのネーミングは悩みましたが、「生み出すこと、作り出すこと」で人間は今まで生きてきましたよね。僕は昔から「無いものは作ればいい」と考えています。

子どもたちはここで考えて、自己決定をして、無いものは作りながら日々を過ごす。「瀬戸ツクルスクール」は、我ながらいいネーミングだなと思っています。

子どもたちのアイデアでスタートした駄菓子屋さん


——スクールのシステム作りにおいて、参考にされたことはありますか?

アドラー心理学です。アドラーは、「人とのつながりが大事」ということを言っていて、代表的な考え方として、「Gemeinschaftsgefühl(共同体感覚)」という言葉があるんですね。

ドイツ語の造語なんだけど、「自分の利益のためだけに行動するのではなく、自分の行動がより大きな共同体のためにもなるように行動する」という考え方で、すごく共感していますね。

またアドラー心理学をベースにした「ポジティブ・ディシプリン」という、手をあげたり叱ったりではなく、でもしたい放題にさせるわけでもない日々の課題に子どもと同じ目線で向き合い、自信と力を伸ばしていく考え方を参考にしています。


——スクールでは、毎日子どもたち自身が昼食を作るそうですが、そのねらいを伺えますか?

お弁当持参となると、お母さんたちの負担が増えるからそれは避けたかったんですね。それに昼食作りは脳に良いというエビデンスがあるので実際にやってみた。そうしたら本当に良かった。

子どもたちが皆でメニューを決めて、買い物に行って、一緒に作って食べてという一連のやり取りがすごくいいわけです。素麵を作りすぎてしまったり、カップラーメンに水を入れてしまったり(笑)。

昼食作りは、そういった失敗を通して学ぶ一つの機会にもなります。

昼食作りは本スクールの特徴ですが、他にも毎週水曜日は公園で運動する「パークデイ」、金曜日は畑で農作業をする「ファームデイ」にしていますね。

瀬戸ツクルスクールの特徴の一つである昼食作りの様子


——パークデイやファームデイへの参加は任意ですか?

はい。このスクールは、全てが任意です。来たい子が来たい日に来る。週5回のスクールで、全日参加する子は全体の6割前後です。

だから、一般的な学校と比べて、毎日毎日「自己決定」をする回数が、かなり多いと思いますよ。この、自己決定をするということが本当に大事なので。

具体的な時間割としては、朝10:00~11:15はスクールミーティング(関係づくり、昼食メニュー決め、ルールづくりなど)の後に、絵本タイム、学習タイム。学習はタブレットなどを利用し、自分のペースで進めます。

11:15から買い出し、自炊をして昼食、片付け。昼食後は各自好きなことを15時までやって帰宅です。

子どもたちは自己決定を繰り返しながら、過ごしている


学力とは、蓄積された力ではなく、生涯をかけて学び続ける力のこと

——学習タイムが設定されていましたが、自分のペースで進めるということは、一斉授業などはされていないのでしょうか?

してないですね。実はいろんな先生方や教育者に、「学ぶってどういうことですか?学力って何ですか?」と、聞いてまわったことがあるんですね。

世間では基礎学力という言葉を使うけど、それがいったい何を指すかの中身に言及する人はいない。

ある先生の言葉に納得したのですが、その方は、「学力=学ぶ力」だと。僕たちは、何か蓄積されたものを学力と呼ぶけど、本質的には、学ぶ力を学力と言うんじゃないかと。

そもそも何かができるようになること自体が学ぶ楽しみの一つですよね。だから一斉授業はやらない。タブレットなどを利用し、自分のペースで進めてもらっています。

学ぶことに第三者のジャッジが入ったり、自分のペースで取り組めないと学ぶことが嫌になってしまうからね。 ただ、ジャッジは不要だけど、アセスメントは必要だよね。

現在、小学生から中学生まで約50名が通っている


——ジャッジとアセスメントは似て非なるものですね。

自己成長が分かるようにアセスメントは必要。だけどジャッジはいらない。

子どもたちと、「目標が無いと学習って難しいよね」という話になり、子どもたち全員で、昨年漢字検定を受けたんですよね。「合否はどちらでもいいんだけど、みんながどう取り組むかを見たいんだ」みたいな感じで。

受かった子はうれしそうだったし、いい取り組みだったなって思います。次回は算数検定を受けます。


——保護者の方と意識をそろえるために、何か働きかけをしていますか?

任意ではありますが、保護者の方には学期ごとにレポートを書いてもらっています。

何を書いてくださっても良くて、子どもやご自身の変化を赤裸々に書いている方が多いですね。保護者の方と「当事者意識を持って子どもと一緒に学び続ける姿勢」を共有したいんです。

スクールは法人化しておらず、一般社団法人やNPOといった非営利組織の形式でもなく、任意団体でもありません。団体という形式を取ることで、どうしても教育がサービス化してしまう。

保護者の方とも対等な関係を築くために、あえてこの形にこだわっています。

人間関係のトラブルもできる限り自分たちの力で解決していく


——最後に先生方にメッセージをお願いできますか?

先生自身が、とにかく楽しく授業をされることが一番だと思います。

例えば、古文についてめちゃくちゃ熱く語るとかね。そういう風に好きなことをしている大人の姿から、子どもたちは「学ぶ楽しさ」を知るはずです。

学びは生涯続くもので、学校を卒業したら終わりではない。だから、先生も生徒も平等に学ぶ者として、学ぶ楽しさを子どもたちに伝えていくことが大事なのではないかと思います。

〈取材・文=中庭 廣子/写真=西村 真由〉


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