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全国で18万人以上いる、学校外で学び育つ子どもたちが、安心して立ち寄れる地域の居場所「街のとまり木」とは?

全国で18万人以上いる、学校外で学び育つ子どもたちが、安心して立ち寄れる地域の居場所「街のとまり木」とは?

全国で18万人以上いる、学校外で学び育つ子どもたち。

その中でフリースクールに通う子は全体の3%、適応指導教室に通う子は10数%とごくわずかで、9割近い子どもたちが在宅で過ごしているそうだ。

その中には「不登校」という言葉につくネガティブイメージや、「学校に行くのが当然」という社会的風潮によって、外に出られなくなっている子もいる。

そんな「不登校」のネガティブなイメージを払拭し、学校に行くことが困難な子どもたちが安心して立ち寄れる地域の居場所づくりをしているのが「多様な学びプロジェクト」代表の生駒知里さんだ。

学校外で学ぶ子どもたちが、家以外で気軽に立ち寄れる場をつくる「街のとまり木」事業を中心とする、このプロジェクトにかける思いを聞いた。

写真:生駒 知里(いこま ちさと)さん
生駒 知里(いこま ちさと)さん
多様な学びプロジェクト 代表

神奈川県川崎市高津区在住。0歳から中学1年生まで7児の母。「孤独な子に寄り添える大人になりたい」と「川崎市子ども夢パーク」のオープニングスタッフとして就職。妊娠を機に退職、出産後は、子育て中の母親が同じテーマで話し合え専門家の知恵を得られる「ママカフェ」や「橘自主保育のびのびーの」の立ち上げ、運営に携わる。
長男が学校に行かない選択をしたことで焦りや不安を感じる日々を過ごし、ホームスクーラーの心理的・物理的ケアが少ないことを身をもって経験。このプロジェクトは長男との雑談から生まれた。


全国400か所以上に広がる「街のとまり木」

——多様な学びプロジェクトの現在の活動を教えてください。

活動の柱は3つあります。

メインは「街のとまり木」という学校外で育つ子どもたちが気軽に立ち寄れる場所を増やす活動です。

お店や施設に目印のステッカーを貼ってもらい、それを多様な学びプロジェクトのWebサイトに掲載しています。

全国で18万人もいる「学校外で学ぶ子どもたち」の多くはフリースクールなどに通わずに、家庭を基盤に育っています。「不登校」ということをネガティブなイメージで見られると、子どもたちは家から出られなくなってしまいます。

私たちは彼らのことを「free bird kids:自由な魂をもった子どもたち」と呼びたいと思います。鳥が止まり木を自由に選べるように、自分の遊び場も、学び場も、自分で選ぶことができる。

そういった場として「街のとまり木」は、現在、全国400カ所以上に広がっています。

こちらのステッカーが「街のとまり木」の目印


——街のとまり木が全国に400か所も。すごい数ですね。

最初は本当に一軒ずつ「発掘する」ことを私の地元の神奈川県川崎市から始めました。

これまで、フリースクールやプレーパーク、子ども食堂など、全国のネットワーク団体にとまり木募集のお知らせに協力してもらったこともあります。おもしろいのは、プログラミング教室やアトリエなど、学校外の教室同士のつながりで知って協力してくださる方がいることです。

とまり木になってくださる方の共通点は、「学校外で学ぶ子の育ちを支える」という私たちのビジョンに共感してくださること。皆さんどこかで当事者性を持っていて、多様な学びプロジェクトが目指す世界観に共感して、とまり木になってくださっています。

「街のとまり木」は全国400か所以上に広がっているそうです


——例えば小さなお店がとまり木のステッカーを貼ったとして、そこからどんな変化が起きるでしょうか?

とまり木になってくださった東京都世田谷にある楽ちん堂カフェで起きたことは本当におもしろくて。

もともと障がい児を預かるなど、福祉的要素のあるコミュニティカフェですが、一組の家族がそこにたどり着くことができて、それが口コミで広がりすごい勢いで他の家族も集まったんです。

店主が高齢の女性で、経営難だったこともあり、それを見たお母さんたちがカフェで働き始めるんですよ。仕出し弁当を作って売るなど新しい事業が立ち上がったり。

子どもたちはお母さんたちに見守られながら育ちます。カフェや地域の元々の土壌があってこそですが、その変化は目を見張るものがありました。

東京都世田谷にある楽ちん堂カフェさんでの様子


——とまり木が地域密着型なのに対して、オンラインの活用も積極的にされていますね。

私たちの印象では、残念ながら地方に行くほど「不登校」に対する偏見が強く、親御さんがフリースクール等の利用を躊躇してしまう雰囲気があるように感じています。閉塞感の中で孤立している方は多くいます。

一方、フリースクール等の運営者さんも、思いがあって立ち上げても、利用者が少なくて採算が合わず、スタッフさんが貧困層に陥っているということが分かりました。

私たちはリアルな場のとまり木を増やすことに力を入れていますが、それと同じくらいオンラインにも力を入れ、とまり木とオンラインの相乗効果で偏見を減らして、社会の空気を変えていきたいと願っています。

全国の横のつながりで、成功の知見を共有している


小学生の不登校が急増している

——地域を超えたオンラインの学びや交流で、どんなことが起きるのでしょうか?

不登校あるあるとして、給食費問題という悩みがあります。一般に、学校給食のために各家庭が給食費を支払います。予め長期的に休むと分かっていると給食費を払わなくていいものの、たまに行って給食を食べると、それだけで毎月全額を払わなくてはいけないとか、そういった決まりごとが学校によってバラバラなんです。

藤沢市のあるお母さんが市に働きかけた結果、「食べた回数分だけ支払えばよい」という市内統一のルールが実現しました。その経緯を書いたブログがサロンでシェアされて、「それなら私もやってみたい!」と行動を起こす保護者がいました。

全国の横のつながりで、成功の知見が共有され、これまで小さな集まりでは解決できなかった困りごとや悩みごとが解決し、ボトムアップ的に社会を変えていくという流れが起きています。


——活動が広がっている背景には何があるのでしょうか?

全国的には、教育機会確保法が徐々に知られるようになり、社会や学校側も少しずつ変わってきているとは思います。

コロナ禍で一斉休校になったことも引き金になり、「教育長格差が自治体の取り組みの格差になっている」なんてこともささやかれますが、全体としては良い方向に変わってきていると思います。

ただ、実はあまり知られていませんが、小学生の不登校が急増しています。私たちも、「なんとなく増えているよね」とは感じていましたが、実際の数はどれくらいだろう?と分からずにいました。

『不登校新聞』の編集長石井さんが示してくれたグラフでは、まるで崖を上るように急増していることを知りました。働いている親は仕事との兼ね合いという面でもすごく困ります。

中学生以上の不登校とはまた違った悩みを多く聞くようになりました。


——他にも近年ならではの変化はありますか?

新しい流れだなと思うのは、積極的不登校、積極的ホームスクーラーが増えていること。

VUCAといわれる時代、保護者の方たちが、これからの社会で自分の子どもが生きていくと考えたときに、公教育に対しての疑問が湧いてくる。

氷河期世代でもある私たち世代は、右肩上がりに経済が成長することや、学歴があれば社会で生きられるなんて、もうそんな神話を信じられなくなりました。


むしろ、経済が低迷しても幸せに生きていける力の付け方を考えている人が増えています。

私がこの活動を始めたときに、きっとこの層はいるだろうし、増えていくだろうなと思っていましたが、現実的に増えていることを実感しています。


——生駒さんのお話を聞いていると、時代の変化を敏感に感じとって、いち早く動きだしているように見えます。

ありがとうございます。私の中には、直感みたいなものがあって、その答え合わせをしているように思うことがありますね。多分この先、「学校に毎日行くのが当たり前じゃない社会が来るだろうな」というのを、活動を始めた4年前に思っていました。

というのも、大人も会社に毎日行くわけではなくなっている時代に、学校に毎日行くということは、おそらく無くなっていくだろうと思ったんですね。ではどういうときに学校に行くのかというと、多分プロジェクトなどを動かすとき、チームが集まるために行くんだろうな、ということが見えていました。

学校以外で育つ子が​豊かに育てる場を提供したいと語る生駒さん


親御さんが安心して学校外で学び育てる社会に

——生駒さんがこのような活動を始めた原点は何ですか?

最初のきっかけは長男が小学1年生のとき不登校になったことです。
「ママ、学校に行くのやめられないの?」と言われ、「え、学校ってやめるところじゃなくない?」と私は驚きました。

でも彼は「自分は強制されるのが好みじゃないから学校やめる」と言って、行くのをやめました。いろいろ説得しようとしましたが、彼の言うことの方が理にかなってることばかり…。

その頃、下の子どもたちのために親が交代で保育をする自主保育を始めていたので、そこに一緒に通いました。

数カ月して、もう大丈夫かなと思っていたある日、「ママ、僕は大人になれないんだ」と言われ、「え、なんで?」と聞くと「脳が退化して大人になれないんだ」と言ったんです。

頭をガーンと殴られたような衝撃でした。

ただ学校が合わないというだけなのに、ただ学校に行かないというだけなのに、彼は「自分はもう大人になれないんだ」と思ってしまった。責められるように感じたり、まっすぐ育っていけないと感じたり、それはすごくおかしいと憤りを感じました。

それが私の原点です。


——それですぐに何かアクションを起こしたのでしょうか?

いえ、それが活動の根っこにあるけど、すぐに始めたわけではないんです。その後息子は、学校に行ったり行かなかったりする時期もありながら10歳になり、春を迎えました。

はじめは同じ境遇の人が周りにいなかったし、不安はあったけど、1年生から10歳までやってきて、なんとか育っていけるなというのが自信になってきて。

10歳になった彼に、「こんなことやってみようかなぁ」となにげなく話していたら、「やってみたらいいんじゃない」と言ってくれて。ポンと背中を押してくれたようで、そこからいろいろなことが動き出しました。


——多くの人は、自分の子がなんとか育ってくれたらそれでいいか、と思って行動にまで移せないと思うのですが…。

私だけならそうだったかもしれませんが、身近にそういう人が大勢いることに気づいたんです。

友だちの同年代の子が不登校になって悩んでいる話を聞いたり、前職でスタッフをしていた川崎市子ども夢パークによく来ていた子が、その後引きこもっていることを知ったりして、気づいたんです。

私はなんとかなりそうだけど、私のすぐ隣で同じように悩んでいる人がいる!実は私より前に悩んでいた人も大勢いた!ということに。

そして冷静に考えると、フリースクールや親の会が増えるのはいいけれど、一つ一つ点と点が増えても、不登校児は急増していて、点が追いつかない。

何かもっと社会全体を見て、違うデザインをしなければカバーできない、もっとハードルが低くなければだめだと思いました。居場所を運営するのはコストがかかる。親の会をするにも人集めなどに長けていないとできない。

今あるものを活用しながらハードルを下げなければ、誰でもできるようにはならない。そうやって考えだしたのが「とまり木」でした。

「街のとまり木」を希望される方は、
「多様な学びプロジェクト」さんのサイトまで


——今後、どんな展開をお考えですか?

 短期的には2つあります。

一つは、オンラインで学校外の子どもたちの居場所づくりをされている人のための中間支援的な講座を開催することです。

先日もファンドレイジングの講座を開催し、それを機に助成金がとれた団体がいくつかありました。組織運営や組織立ち上げなども、親の会など小さな居場所向けと、フリースクールのような事業者向けと、それぞれの講座を連続的に開いていく予定です。

もう一つは、来年度以降、事業効果を数字で測れるようにしていきたいと思っています。

学校外で学ぶ子どもたちの居場所って、非認知能力が育まれるなど価値は高いのですが、なかなか数字的な評価がしづらい。それが運営者の待遇面の低さにもつながっていると思うし、それでは持続可能ではないので、何か評価ができるような仕組みができないかなと思っています。

まあ、評価できないところが良かったりもするんですけどね(笑)。

親御さんが安心して学校外で学び育てる社会に


——確かに評価できないことが良さだったりしますよね。

今後、学校外で学ぶ子どもがさらに増えて、私たちのような活動が益々必要とされるのか落ち着いていくのかは、公教育次第だと思います。

公教育で多様性が認められているオランダや北欧では不登校は少なく、ホームスクールは盛んではありません。逆にアメリカのように競争や分断が進み公教育が崩壊してしまうとホームスクールは急増します。

日本は今、その過渡期にあると思います。

もし改革が進めば、今学校外で学んでいる子どもも学校に戻ってくるかもしれません。ただ、子どもの成長は今起きていることなので、もう待っていられない、学校外で学ぶことを今選ぶ、というのは分かりますよね。

そうした親御さんが安心して学校外で学び育てる社会にしていきたいと思っています。


〈取材・文=鈴井 孝史/写真=ご本人提供〉