「中心概念」から始まる授業デザイン!総合的な学習の時間は、社会と子どもたちをつなぐ最高の時間
「社会と子どもたちをつなげたい」——そんな明確かつ強い思いを持って異業種から教員の世界に飛び込み、総合的な学習の時間(以下、総合)を活用して社会に開かれた教育課程を体現しているのが、三鷹市立第三小学校の山下徹先生だ。
これまで表参道のケーキ屋さんとコラボし、マーケティング活動を通して子どもたちが考案したケーキを販売したり、「世の中から“関係ない”をなくす」をテーマに海外の子どもたちとの交流を通して感じた思いを作詞作曲しCD販売を行ったりと、社会とのつながりを意識した実践を数多く手掛けてきた。
そんな山下先生に、授業をデザインする上で大切にしていることや、これまでの実践を通して感じたことについて、話を聞いた。
民間企業より転職し、現職に至る。これまで、総合的な学習の時間を通して、学校と社会をつなげ、企業と一緒に数々のPBLに取り組んできた。例えば「パティシエに挑戦」「持続可能な社会を目指して〜タンザニアの子どもたちのために何ができるか〜」「学芸会プロジェクト」等がある。”子どもたちが主体者となり、社会を変える”、そんな活動をこれからも目指している。
教育を通じて、社会と子どもたちをつなげたい
——山下さんは、食品関係の営業職から小学校の教員になられた異色のキャリアをお持ちですよね。
大学を卒業した後に貿易会社に勤め、その後転職して食品関係の営業職に就きました。私が取り扱っていたのはチョコレートだったので、お菓子は今でも詳しいです(笑)。
そして教員になったのが2012年ですね。2021年で教員生活9年目なので、まだ食品関係の営業職での経験の方が長いです。
——なぜ教員を目指されたのでしょうか?
教員になったきっかけは、会社で出会った上司の影響が大きいです。
その上司から「給料の10%は本代に使いなさい」と言われ続けてきたのですが、その言葉を実行し続けていたら、教育関係の本ばかりたまっていくことに気がついたんです。
もちろんビジネス書から小説までいろいろなジャンルの本を読んでいたのですが、どんな本を読んでいても、結局全ての根本は人を育てる教育だと感じました。実際私自身も、上司に出会ったことで自分の考えがガラリと変わりましたからね。教育の力ってすごいなと強く思いました。
また当時は、東京都で初めて民間人校長として採用された藤原和博先生が、学校と外部をつなげていろいろな実践をされていた時期でした。学校と社会がつながっていく姿を見て、教育業界が大きな変換期に突入しているのを感じたんです。
私も教育を通じて社会と子どもをつないでいきたいと思い、働きながら通信で小学校教員の資格を取得し、教員になりました。
——教員になられた当初から、社会と子どもたちをつなぐ実践に取り組まれていたのでしょうか?
これは今でも反省しているのですが、最初は自分の足元も見ずに好き勝手やってしまって、先生方から反感を買ってしまったんです。
放課後も、教室に閉じこもって一人で仕事をしていました。でもそれでは自分のやりたいことを誰も認めてくれないですよね。
まずは先生たちとのコミュニケーションを大切にして関係性構築に力を入れ、授業を通して子どもたちの変容を見ていただき信頼関係を積み上げることで、少しずつ自分がやりたいことに取り組める土壌作りをしていきました。
今も2校目の学校に異動したばかりなので、土壌作りに力を入れているところです。
——実際に社会と子どもたちをつなぐ授業を始めたのはいつ頃からですか?
本格的に総合の時間を活用して社会と子どもたちをつなぐようになったのは、2016年頃です。
当時は5年生の担任をしていて、私が社会人時代にお世話になったパティシエの方と子どもたちをつなぎ、子どもたちが考えたケーキを販売するという実践に取り組みました。
その実践で課題と手応えを感じ、次の年には「タンザニアの子どもたちに自分たちができること」というテーマで、SDGsに取り組みました。
その後もアパレル会社と共同したり、2020年にはエンターテイメントを通して社会課題を解決するWORLD FESTIVALさんと共同して、ヨルダンやネパールの子どもたちとの交流を通して、感じた思いを子どもたちが作詞作曲に挑戦し、CD販売をするという取り組みを行いました。
何よりも大切なのは、学びの柱となる「中心概念」
——初めて取り組んだ2016年の総合の実践では課題も感じられたとのことですが、どのような課題でしょうか?
初めての実践では、子どもたちは考えることに慣れていなくて、教員側が引っ張って授業を作ってしまったという反省がありました。
母の日のデコレーションケーキを考えるというテーマでしたが、「こんなアイデアが出てくるといいな」といった教員の望む解が子どもたちからなかなか出てこなくて、教員側から「これはどう?」なんて誘導しちゃって。
子どもたちは当然それに飛びつきますよね。でもそれは本当の思考ではないと感じたんです。
そのときに思ったのが、各グループに子どもたちに寄り添うファシリテーターの存在が必要ではないか、という仮説でした。
私自身、かなり歩き回って各グループの話を聞いていましたが、一人ではやはり限界があります。どのグループにも、子どもたちに寄り添い待ち続けられるファシリテーターがいることで、子どもたちが対話し続けられる筋力がつくのではないかと考えたのです。
——対話することに慣れていないからこそ必要な存在ですね。
そうですね。今でも鮮烈に覚えているのが、会社を辞めて全国各地の授業を見に行ったときに出会ったラーンネット・グローバルスクールというフリースクールの授業です。
一つの問いに対して、子どもたちが楽しそうにずっと喋り続けていたんですよね。子どもが探究して学んでいるときってこんなに喋るんだ、これが本当の探究的な学びの姿なんだ、とこれまで自分が抱いていた授業観が音を立てて崩れていくのを感じました。
それまでプレゼンテーションだと企業のプレゼンみたいなのを思い浮かべていたのですが、そうじゃなくて、子どもたちが静かに動いている。そういう姿を目指したいと思ったんです。
そのためには、自分で解を見つけようとする力、なんとかしようとする力、この対話の先に解が見つかるんじゃないかと思える力が必要だと実践を通して感じました。
だから次の年からは、各グループに大学生ボランティアをつけることにしたんです。
そして普段の授業から対話ベースの授業を行ったり、リフレクションカードで内省の時間を取ったりと、思考力を育むトレーニングに力を入れるようになりました。
総合の時間だけでなく、普段の授業から思考力を使う練習が必要だと感じました。小学生の早い段階から思考力を育むことで、これから先体験することがもっともっと有益な体験になっていくと思っています。
——総合で扱うテーマについては、いつもどのように決めているのですか?
まずはその年度に何を核として捉えるか、という「中心概念」を考えるようにしています。総合は教科横断的な学びだと思うので、最初に総合の全体的なデザインを考えるんです。
例えば前任校の最後の年は、英語の研究発表会の実施が決まっていて、なおかつ6年生の担任だったので、核として「国際交流」というテーマは外せないなと思っていました。
その中で、ものづくりを通して子どもたちに学んでほしいという思いがあり、英語の単元にある「I like my town」という教材を使って自分の街を紹介する映像作品を作りたいと思いました。
前期で自分の街を紹介する映像を作り、後期はSDGsの取り組みを考えていたのですが、前回SDGsに取り組んだ際の反省点として「SDGsをやろう!」と前面に出すよりも、授業を通して結果的にSDGsにつながった方が子どもたちにとって実になるのではないかと思い、「世の中から“関係ない”をなくす」を中心概念に、動き出しました。
1年間を通じて、総合の時間だけでなく、他の教科においても「“関係ない”をなくすためにはどうしたらいいか」という本質的な問いを考え続けられるよう授業設計していきました。
——山下さんはカリキュラムデザインを総合だけで考えるのではなくて、教科や行事と連動して考えられているんですね。
そうですね。総合の時間で話したり発表したりすることは国語の力だし、世界の友達に自分の考えを伝えたいと単語を調べて英語を話すのは外国語の力ですからね。
道徳で国際交流の教材を扱ったり、家庭科では交流するネパールの料理を作ったり、曲作りも音楽の先生と連携したりと、中心概念がしっかりあると子どもたちは全ての学習をつなげて考え続けるようになります。
だからこそ、本質的な問いである中心概念が何よりも大切だと思っているんです。
今振り返ると、最初の頃の実践には中心概念が欠けていました。しっかりした中心概念があると、子どもたちはどの教科の学習においても、問いを深めながら学ぶことができる。私はそれがとても大切だと思っています。
結局行き着いた答えは「先生が楽しむこと」
——山下さんにとって、先生の仕事とは何でしょうか?
マネジメント、かな。理想は教員が何もしなくなることだと思っていますが、最初はやっぱり教員が介入しないと難しいです。インプットとアウトプットすることの配分を少しずつ変えながら、子どもたちに預けていくアウトプットの割合を徐々に増やしていけたらいいですよね。
先ほど話した楽曲作りをした6年生は、卒業を祝う会で歌う曲を大人の都合で1曲選んだら猛抗議して、自分たちの歌を歌うんだと自主的に練習を始めましたからね。音楽の先生にも掛け合って、最終的には大人が折れる形になった。
でもこういうのっていいなって思ったんです。教員が言ったことをただやるのではなく、自分たちでやりたいという明確な意思を持ってやる。
子どもたちの力は、大人を変え、やがては世界を変えるということを体感した出来事でしたね。子どもたちにとっても、自分たちの思いで身近な人が変わっていく姿を見て、さらに社会の人たちにも自分たちの思いを知ってもらいたいと思っていくんだと思います。
そんな風に、子どもたちが自立していくのをマネジメントしていくのが先生の仕事ではないでしょうか。
——山下さんの総合は、先生側からの提案から始まりますが、それでも最後は子どもたちのものになっていくのがすごいですね。
そこも私が大きく変わったところですね。
最初はイエナプラン教育(ドイツ発祥・オランダで広まった教育モデル)のワールドオリエンテーション(対話を中心とした総合学習)のようなことをやろうとしていた時期もあったんです。でもどうしても私の力量では子どもたちの思考が薄っぺらくなってしまったんですよね。
私にはどちらかというとアメリカで話題のPBLをベースとした学びを展開するハイテックハイの学び方が合っているような気がしています。
プロジェクトのテーマは教員側が設定しますが、そこに対するアプローチはいろいろあるということを伝える学び方ですね。
今後は教員側からのプロジェクト提案と並行して、子どもたち起点のプロジェクトも進めていけるような学びの場が提供できたらいいなと考えています。
——「社会と子どもたちをつなげたい」という信念を持ち続け、行動し続けてこられたからこその進化がありますね。
「プロジェクトを通じて自律的学習者が育つことで、社会が変わる」という思いが確信に変わりました。
そこにさらに多様な大人を巻き込んで、大人が支えていくプロジェクトにしていきたいですね。実際に子どもたちの熱意のある真摯な言葉は、親を変え、先生を変えました。
そういうことを小学校発でどんどん取り組んでいきたいです。
どの先生も、絶対に自分がやりたいことってあると思うんです。パティシエとケーキを作るという私の最初の総合も、自分のこれまでの強みやつながりを元にアプローチしたに過ぎません。
まずは先生たちがワクワクすることを探して、これを子どもたちに伝えたいんだって思うことは何かを考えてみたらいいと思います。その思いは、必ず子どもたちに伝播していくはずです。
たとえその実践が消化不良に終わったとしても、この先必ずいい経験になります。私自身、今日に行き着くまでいろいろと試行錯誤しましたが、結局行き着いた答えは「先生が楽しむこと」だと思っています。
〈取材・文=先生の学校編集部/写真=竹花 康〉
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