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高齢化率47%の小さな町の高校が、 地域×探究学習で起こした「みさこうの奇跡」

高齢化率47%の小さな町の高校が、 地域×探究学習で起こした「みさこうの奇跡」

四国の最西端にある愛媛県立三崎高等学校は、長年新入生の定員割れに苦しんできた。

2019年度には分校化の危機を迎えた三崎高校だったが、2020年度は約3分の1が愛媛県外から入学し、前年度の約2倍となる新入生を迎えた。なぜ三崎高校は、全国から生徒が集まる学校に変化したのか。

そこには、6年前から地域と共に積み重ねてきた軌跡があった。

分校化の回避という「みさこうの奇跡」の立役者である津田一幸先生に、三崎高校の「総合的な学習及び探究の時間」を活用した地域活性化授業において、これまでの苦労や大切にされてこられた姿勢について話を聞いた。

写真:津田  一幸(つだ かずゆき)さん
津田 一幸(つだ かずゆき)さん
愛媛県立三崎高等学校教諭

国語を担当。保育所から高校までを伊方町(旧三崎町)で過ごす。県外の大学を卒業後、愛媛県立三島高等学校で3年間勤務。平成17年より三崎高等学校に赴任。本年度で勤務16年目。6年前から総合的な学習の時間における地域協働活動を導入し、校内の地域協働課の立ち上げにも携わる。三崎高校と伊方町の相乗効果による魅力化に最前線で取り組んでいる。


生徒の「やってみたい」を尊重する学校

——三崎高校は、2019年度には分校化の危機にあったと伺いました。どのような状況だったのでしょうか?

三崎高校は、愛媛県の西宇和郡伊方町という場所にある小規模な学校です。伊方町は、人口はおよそ9,000人という小さな町で、高齢化率が47%に達しています。

高校を卒業する段階で多くの若者が町を出てしまい、「町には仕事がない」という理由から帰ってくることも少ない。そのため、三崎高校では長年新入生の定員割れに苦しんでいました。

しかし2020年度は前年度の約2倍となる57名の新入生を迎えることができました。現在生徒数は1年生が57名・2年生が28名・3年生が23名の計107名(2021年1月現在)です。


——どのようにして分校化を回避されたのでしょうか?

学校の立地上、近くに大学や専門学校がないため、進学のために町を出ることは仕方がないことではありますが、町を出たあとに帰ってくる人が増えるよう、地域に愛着を持ってもらうことが必要だと考えました。

そこで6年前から、地域活性化授業を「総合的な学習の時間」を使って始めました。

初年度は手探りの状態でしたが、テーマを「三崎おこし」にして、柑橘を使った新しい地域の特産品を作ろうと、地元のお菓子屋さんとコラボしました。そうして出来上がったのが、愛媛県佐田岬産の柑橘が中に入ったスイーツ「みっちゃん大福」です。

パッケージも自分たちで考えて、高校や地域でのイベントに出店し、販売もしました。2019年11月には全国の地方新聞社が集まり、地域の商品を全国に届ける47CLUB主催の「こんなのあるんだ大賞」で、みっちゃん大福が36,000点の頂点である日本一にも選ばれました。


また、みっちゃん大福の売り上げの一部を寄付していただき、「みっちゃん大福基金」を作りました。

総合的な学習及び探究の時間に、地域での課題を住民からのヒアリングやフィールドワークを通して解決するためのプロジェクトを、自ら立ち上げて行動する課題発見・解決学習の予算として、循環する仕組みを作っています。


——地域活性化の取り組みが評価され、分校化の回避につながったのですね。

2019年度の入学生は30人で、3年連続で入学生が40人以下だったので分校になる予定ではあったのですが、2019年に文部科学省の「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」の指定を受けたため、研究期間の3年間は特例として分校化を免れました。

本校の特徴である地域との連携活動が評価されたと考えています。2020年は生徒数も約2倍に増えましたが、三崎高校であれば自分のやりたいことができるとの理由で、入学をする生徒が多くいます。

本校の特徴は、生徒の「やりたい」を実現できるよう全力で取り組むことです。

生徒がやりたいと思うことがあれば、「無理だよ」ではなく「どうやったらできるか考えよう」と伝えています。そういった本校の姿勢や、少人数の学校で地域に密着した活動ができることは、とりわけ都会に住む中学生に魅力的に映っているのだと思います。


最先端にチャレンジし続ける「せんたん部」

——「みっちゃん大福」の活動以外にも地域と連携された取り組みがあれば、教えてください。

海岸の清掃活動で拾った漂着物と、真珠などの養殖に使う「ブイ」という直径30cmほどの浮きを使ってアート作品を作ったこともありました。登龍門を表現した作品は、県の公共施設で開催された芸術祭でグランプリを受賞しました。

また2016年からは県や内閣府、大学などの公募に対して、「せんたん部」の生徒たちが地域活性化のプランを企画し、提出しています。

その年の愛媛県教育委員会主催のコンテストで実践校に選ばれ、翌2017年にはブイアートを発展させるかたちでアートイベントを地域の中でも開催するなど、精力的に活動しています。


——「せんたん部」とは何ですか?

せんたん部は、2名の生徒から始まった有志の集まりです。先ほどご紹介した2016年のコンテストに応募した作品が入賞し、2017年からは学校全体でこのプランに取り組むこととなり、最初の2名が他の生徒に呼びかけた結果、メンバーも増えていきました。


主な活動は、地域活性化につながるプランの計画です。その他にも、本校では総合的な学習の時間の中で6つの研究グループを作って活動していますが、せんたん部はグループの取りまとめや調整、「せんたんミーティング」というイベントの企画や運営も行います。

メンバー構成は1年生から3年生まで、全ての学年の生徒が一緒になって活動をする仕組みです。1年生は2学期までは地域理解に努め、3学期からは2・3年生と一緒に活動していきます。基本的には放課後や土曜日に活動をしていますね。


——「せんたんミーティング」はどのような取り組みでしょうか?

「せんたんミーティング」は、過疎化が進む地域の学校に通う生徒が、佐田岬半島の先端(伊方町)に集結し、地域の課題発見やその解決策を話し合うミーティングです。

県内外で地域活動に取り組んでいる高校生や大学生に伊方町まで来ていただき、それぞれの学校が実施している地域活動の紹介や、他校のプランに対するブラッシュアップなどを1泊2日で行っています。

また、本校の生徒が伊方町を紹介するツアーを開催したり、伊方町の魅力を紹介する自主映画の制作や、町にある集落を劇場に見立てて研究班の研究内容を発表する「せんたん劇場」など、さまざまな取り組みを行っています。


——さまざまな活動に取り組まれていらっしゃいますが、苦労されたことはありましたか?

地域活性化授業を始めた1年目は、先生・保護者・生徒から理解を得ることに苦労しました。

意欲的な方もいた一方で、「なんでこんなことをする必要があるのか」「うちの子には勉強だけさせてくれ」といった声もあり、正直悩みました。なぜこの授業をするのか、授業の価値は何なのか、当時はうまく伝えられなかったのです。

周囲からの理解を得るためにも、必ず結果を出そうと思い活動に取り組みました。コンテストで賞を取るなど、少しずつ目に見える結果が出せるようになり、1〜2年目は苦労も絶えませんでしたが、3年目からは徐々に生徒主体のスムーズな運営に変わっていきました。



今の環境を嘆くより、この環境で何ができるかを考える

——せんたん部の活動もそうですが、生徒たちの主体性によって活動が進化しているのが素晴らしいと思います。

地域活動を始めた理由は、生徒がやりたいと思える取り組みを実現するためです。

以前は生徒ごとで意欲に差があり、ただ作業をこなしているだけの生徒もいました。しかし、今は手持ち無沙汰にしている生徒がおらず、それぞれの生徒が前向きに取り組んでいると感じます。

その延長として、コミュケーション能力やプレゼンテーション能力が高まった生徒の姿も見てきました。1年生のときにはプレゼンテーションが苦手だった生徒が、3年生になって堂々と話している姿は担任の先生も驚くほどです。


——総合的な学習の時間などを活用し、地域と連携した探究学習に取り組みたいと考える全国の先生方に、津田先生ならどのようなアドバイスをされますか?

まず、学校外に仲間を作ることを伝えたいですね。地域の方の中には、地元を元気にしたいと考えている方が必ずいます。

しかし、地域の方から学校の先生に「何か活動をしよう」とは伝えにくいと思います。だからこそ、先生側から「こういった活動がしたい」と地域の方に伝えると、協力してくれるきっかけが生まれるかもしれません。

また「探究学習が生徒にもたらすメリットは何か」を、管理職の先生に伝えることも大切だと思います。

管理職の先生が探究学習に難色を示している場合は、地元を良くしたいと考えている地域の方を巻き込んでみましょう。自分1人だけで進めるのではなく、外部の力を借りることで状況が好転するケースも考えられます。


——この三崎高校の勢いを一過性ではなく持続可能な状態にするために、取り組まれていることがありましたら教えてください。

私も含め、今いる教職員がこの学校からいなくなってもクオリティを維持した探究活動を続けるために、仕組み化が欠かせないと考えています。

私自身、本校ではすでに16年間勤めていることもあり、いつ転勤になるか分かりません。「あの先生がいなくなったらできない」というのは望ましくないので、誰が担当する場合でも探究活動が継続できるよう取り組んでいます。

もう一つは、情報発信です。

これまで学校のホームページに学校の情報を掲載していましたが、そもそも三崎高校を知らない方はホームページを見ることもありません。入学希望の生徒や保護者に向けて三崎高校を紹介した際に、「魅力的でいい学校だと感じたけど、知らなかった」という声をたくさんいただきました。

三崎高校のことを知らない方に向けて、どう魅力を伝えるべきか。一つの方法として、現在は公式のFacebookで情報を発信しています。

学校のホームページでは動画の掲載ができないため、Facebookに動画を掲載して学校の魅力が伝わるように取り組んでいますね。

三崎高校の公式Facebookページ


——最後に、少子高齢化で三崎高校同様に学校の存続に悩まれている自治体も増えてきていますが、津田先生が大切にしてこられた考え方がありましたら教えてください。

三崎高校は田舎にある学校ですが、田舎だからこそできることがあると考えています。

今の環境を嘆くよりこの環境で何ができるかを考え、「四国最西端から最先端の取り組みを」をキャッチフレーズに、日本にある高校の中でも最先端な取り組みが実現できる学校を目指してきました。

また、生徒一人ひとりが、自分の個性や興味・関心に合った学習活動を行えることで、三崎高校で学ぶことが楽しいと思える学校づくりにも力を入れてきました。

地域活動を始めた理由は、生徒がやりたいと思える取り組みを実現するためであり、生徒を増やす・メディアに取り上げられるということが探究学習の目的ではありません。

この部分は学校としても思いをぶらさず、生徒が楽しみながら成長できる環境を用意したいです。その先に、活性化された学校や地域の姿、そして笑顔で過ごす生徒の姿が待っていると思います。

〈取材・文=西本 友〉