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あなたなら「先生、トイレどこですか?」にどう答えますか? 探究に取り組む上で大切なのは、スキル<スタンス

あなたなら「先生、トイレどこですか?」にどう答えますか? 探究に取り組む上で大切なのは、スキル<スタンス

大阪府寝屋川市にある香里ヌヴェール学院高等高校では、2017年より1)PBL、2)グローバル、3)ICTの3本柱で学校改革に取り組んでいる。

いち早く全教科PBLスタイルの授業を導入し、独自の探究カリキュラム作りを進めている香里ヌヴェール学院高等高校で探究主任を務め、探究授業に取り組む先生方を支えているのが、阪本恒平さんだ。

全教科PBLスタイルの授業を推進しつつも、「うまくいかないことを良し」として先生方のサポートにも心血を注ぐ阪本先生に、探究を推進する上で直面した困難や大切にしている思い、3年間蓄積してこられたPBLのノウハウについてお話を聞いた。

写真:阪本 恒平(さかもと こうへい)さん
阪本 恒平(さかもと こうへい)さん
香里ヌヴェール学院高等高校
探究主任/学年主任/ICT委員

「学校を開く」をテーマに、なにかと学内をかき回すのがお仕事。大学2留→私学教員→自営業を経て、現在香里ヌヴェール学院高校に勤務。学年主任と探究科主任、ICT委員となんだかいろいろやっている人。生徒はもちろん、若手教員が将来食いっぱぐれないように愛情とおせっかいの間を行ったり来たり。生み出す教員を育てる教員。


探究の浸透に、教員の負荷軽減は欠かせない

——貴校がPBLに力を入れるようになったきっかけについて、教えてください。

本校は、1923年に聖母女学院として創立され、現在は、保育園・幼稚園・小学校・中学校・高等学校を擁する総合教育機関です。

中高一貫の老舗の女子高でしたが、生徒数が1学年70人程に減少したことから学校改革が進められ、2017年に女子校から共学校となり、校名を香里ヌヴェール学院高等学校として新たにスタートしました。

その際に、PBL、グローバル、ICTを3本柱にカリキュラムが刷新されました。

改革がスタートして丸3年が経ちますが、カリキュラムの刷新や共学化によって、1学年約70人だった生徒数が現在は約140人と2倍になりました。


——コースもバラエティに富んでいますね。

そうですね、SA(スーパーアカデミー)コース、SE(スーパーイングリッシュ)コース、GS(グローバルサイエンス)コースの3つのコースがあり、生徒数はコースによって異なります。

SAコースが一番多く1学年で約100人、SE・GSコースは20~30人ほどです。

各コースによって人数も特徴も異なりますので、それぞれの状況に応じた探究活動を展開しています。


——それぞれの状況に応じて、というのは具体的にどういうことでしょうか?

一番ケアする必要があるのは、クラスの人数です。クラスの人数が多いと、生徒一人ひとりの興味に沿ったゼロイチの探究は正直難しいと思います。

先生方の負荷も考えると、ある程度のフレームが必要です。先生方の負荷をどう取り除くかが、探究が浸透していく学校になれるかどうかの大きな分かれ道だと思います。

例えば人数の多いSAコースでは、週2コマの「探究ゼミ」という授業の年間カリキュラムをバチバチに組んでいます(笑)。


1年生の最初に企業との探究活動に取り組み、次に研修旅行を自分たちで企画して、最後にキャリア教育に取り組み、自己探究します。

2年生になると、大学との連携授業から始まり、次にフィールドワークを通じた地域貢献の取り組みを実施し、最後に社会課題を発見・解決していきます。

カリキュラムだけでなく、例えば研修旅行のプレゼンテーションの資料等もフレームワークを僕が用意して、生徒たちに埋めてもらうようなスタイルにして、先生方にはフィードバックに力を入れてもらうといった工夫をしています。


「何したい?」から始める探究

——人数が少ない場合は、どのように進めていらっしゃいますか?

僕が担任をしているGSコースは、生徒数が20人ほどで一人ひとりと壁打ちができる人数なので、「テーマどうする?」から始めています。

まずはテーマを決めて2カ月研究して、また異なるテーマで2カ月研究して、最後に大きなテーマで4カ月かけて研究していくという、ざっくりとしたフレームしかありません。

ちなみに授業のフレームもありません。本当に「何したい?」から始めています。

オープンに聞かれても困ってしまう生徒もいるので、興味関心を分解したものを提示して、テーマ設定のサポートをすることはあります。


——一人ひとり異なる内容というのはおもしろいですね。これまでどういったテーマで取り組まれてきたのでしょうか?

スマホはサクサク文字が打てるのに、パソコンのキーボードはなぜ打ちにくいのか!?という疑問から、キーボードの配列について研究している生徒もいれば、犬のコーギーを自宅で飼っている生徒が、コーギーの後ろ足の怪我の多さに着目し、足の模型を作って研究していたり、温暖化で漁獲量が減少することで和食が消えてしまうのではないか!?と研究している生徒と、昆虫食を研究している生徒が、学校の裏庭で採れる虫でフルコースを作れないかと共同研究していたりとさまざまです。

一人ひとりとSlack等のチャットツールも使って日々壁打ちしながら進めています。


——「評価」はどうされているのでしょうか?

指導要録にコメントを入れる必要があるので、評価の選択肢を5つほど用意して先生方に評価してもらっていますが、生徒の状態を教員が把握して、未来につなげる方が大事なので、評価はほとんどしていないようなものです。

評価より、「めっちゃええやん」と「これからどうする?」というテンションを上げることの方がよっぽど大切だと思っていて。

ただ、Googleフォームなども活用して生徒たちにリフレクションはよくしてもらっています。生徒のコメントは、教員評価としても活用できるんです。

例えば、先生としては満足のいく探究の授業ができなかったと自己評価していても、生徒のリフレクションの中に先生が伝えたかった狙いが少しでも含まれているなら、その先生の探究の授業は成功したと言えるんじゃないんでしょうか。


——評価はほとんどされないとのことですが、生徒のアウトプットに対してどういった基準でフィードバックされていますか?

生徒のこだわりポイントを「verbal・non-verbal(言語・非言語)」で受け止めた上で、生徒が「自分の問いに対してこだわり抜いたか?」を話して、判断しています。

その問いに対して100%YESではないというニュアンスを生徒から感じたら、「ほら、そこもったいないやん」と励まして、次のアクションを促します。必ず「悔しいなぁ!もっとやってやる!」と思わせるポイントを作って、生徒のテンションを上げることに全力を注いでいます(笑)。

生徒のアウトプットに対しては、まずは全力で肯定すること。その上でOKを出すのか、もう一歩深めるようネクストアクションを促すのか?という見極めはすごく大事だと思います。


探究に取り組む上で大切なのは、スキル<スタンス

——探究に取り組む上で、先生方に共通認識として伝えていることはありますか?

いくつかありますが、前提として、探究においてはスキルよりスタンスが大事であるということを強調して伝えています。

変な質問ですが、例えば遠足で「先生、トイレどこですか?」と聞かれたら、皆さんは何と答えるでしょうか?

昔の僕は、「あそこを右に曲がって…」と場所を教えてあげていました。それが優しさだと思っていたので。でも探究を通して僕の中でも意識に変化があって、今の僕ならトイレの場所を知っていたとしても「どこだと思う?先生も分からん」って答えます。

「案内板とかに書いてあるんじゃない?」「警備員さんに聞いてみたらどう?」と、答えは教えず、答えの探し方や見つけ方を伝えます。

探究って、生徒が「気づきを得るための装置」だと思っているので、先生たちにも「答えを求めたら、答えが降ってくる先生から脱却しよう」という話をよくしています。


——そのスタンスは、とても大事ですね。

あと探究に対して苦手意識を持っている先生は少なからずいらっしゃると思うのですが、「できないは、ダメではない」と伝えています。

探究的な学びなんて、これまで取り組んだことのない先生からしたら、恐いですよね。なぜ恐いかというと、少なからず評価されるからなんです。話を聞かない、アウトプットを作らない、対話しない、寝る…探究の授業においてもこういうことは起きます。

でもそれは、先生の力量のせいではありません。だから、探究授業がうまくいかないこともよしとしています。

ただ、環境づくりの大切さは丁寧にお伝えするようにしています。


——環境づくり、ですか?

はい。例えば、カビが生えるという【現象】に対して、カビを取り除くという【対処】ってやってしまいがちだと思うのですが、カビを発生させないために湿気を防ぐという【環境設定】が本質的な解決につながりますよね。

それと同じで、探究学習をやらない生徒がいたとして、「やらない→”ちゃんと”やらせようとする→しぶしぶやる or やっぱりやらない→お互いに疲弊し、信頼関係が崩れる」という流れは、よくある話かと思います。

そこで大事なのは、生徒が探究学習をやりたくて仕方ない状態になる環境設定として、何ができるか?どんな工夫ができるか?を考えることだと思っています。そのためには、目の前の生徒を観察すること、です。

探究を通して、先生方が生徒の様子や感情にすごく敏感になって、生徒の様子を把握する先生方が増えたことが何よりうれしいです。

〈取材・文=先生の学校編集部/写真=中庭 廣子〉