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教職員の主体性を引き出すユニークな取り組み「この指とまれプロジェクト」

教職員の主体性を引き出すユニークな取り組み「この指とまれプロジェクト」

横浜市立日枝小学校では、2019年4月から、教職員の主体性を引き出すユニークなプロジェクト活動が行われている。

その名も「この指とまれプロジェクト」。
先生たちが気づいたこと、やりたいと思っていること、どうにかしたいと思っている困りごとなどに予算をつけてプロジェクト化する取り組みだ。

こんなことをやってみたいと言い出した人がリーダーとなり、「一緒にやりたい人はこの指と〜まれ」のような形でメンバーを集め、目的が達成されれば解散する。日枝小学校の教職員なら誰でも参加可能だ。

この取り組みをスタートさせたのが、2018年に着任した住田昌治校長だ。

その狙いは?
主体的な行動を生み出すリーダーシップとは?

住田校長と、現場でプロジェクトを推進した学校事務の上部充敬さんに話を伺った。

写真:横浜市立日枝小学校
横浜市立日枝小学校
校長
住田 昌治(すみた まさはる)校長

学校事務
上部 充敬(うわべ みちたか)さん


やりたいことはありますか?

「この指とまれプロジェクト」が始まった経緯を教えてください

私が日枝小学校に着任したのが2018年4月なんですが、その年の終わりに教職員一人ひとりと面談をして、「やりたいことはありますか?」と質問したんです。

その質問に対して、皆さん最初は戸惑っていました。「やりたいこと…ですか?」と。

面談の際にうまく答えられない教職員もいましたが、後日校長室を訪ねてきて「私、こんなことがやりたいです」と伝えてくれたんです。

「やりたいことをやる」というのは、仕事で充実感を得るためにもすごく大切なことです。

日本では、みんなそろってという変な横並び意識が強いですが、そんな意識は打破してやりたいことをやっちゃえばいいと思うんです。

「こんなこと、やりたいです!」という思いに対して、賛同する人がいればプロジェクトチームを作って取り組んで、どんどんやりたいことを叶えられる職場にしたい、そんなアイデアをずっと持っていました。

面談を通して、学校側が体制を整えて後押しができれば、先生たちも行動に移せるのではないかと思い、「この指とまれプロジェクト」と名付けてやってみることにしました。

これまでにどんなプロジェクトが立ち上がりましたか?

非常勤の先生たちの固定席をフリーアドレス化するプロジェクトや、トイレの使い方プロジェクト、働き方を見直す働く場プロジェクト、教室の空気環境改善プロジェクト、時間予算ワークショッププロジェクトなど、これまでにいくつも立ち上がっています。

実は校長室も、脱・校長室プロジェクトを立ち上げて作り上げた空間なんですよ。

トイレから校長室まで、大小さまざまなテーマがあっておもしろいですね。プロジェクトの起案や全体周知はどのような形式で行われているのでしょうか?

スタート当初はプロジェクトリーダー会という会議体にプロジェクトの立ち上げをプレゼンしていましたが、現在は、教職員向け校務支援ツール「ミライム」の掲示板機能を使って、全体周知や賛同者の呼びかけを行っています。

「この指とまれプロジェクト」を始めて1年が経ちますが、最近は教職員が積極的にプロジェクトに参加してくれています。

先日私が立ち上げた、先生たちの時間の使い方を見直す「時間予算ワークショッププロジェクト」には50人近くいる教職員のうち、14人も集まり驚きました。

別のプロジェクトにも15人が手を挙げてくれて、とてもうれしいです。

住田校長がやってきた雰囲気づくりの効果なんだと思います。

特に印象に残っているプロジェクトはありますか?

全て印象に残っていますが、非常勤の先生たちの固定席をフリーアドレス化したプロジェクトで感じたことがあります。

非常勤の先生たちにとっては個々の机がなくなる話なので、準備段階から不安が噴出して…

私はプロジェクトリーダーとして、なぜこれを実現したいのかを説明して回りました。

するとある日、私がいないところで先生たちが意見を出し合っている場面に遭遇しました。これってすごく大事な変化の兆しだと思っていて。

プロジェクトはリーダーの考えだけで進めていくものではなく、それに関わる人たちの意見が必要です。

先生たちが自発的にタテヨコナナメの方向で意見やアイデアを出し合った末に実現できたことがうれしかったですね。

先生一人ひとりに考えがあるので、合意形成を図るのはすごく難しかったと思います。

やってみると、非常勤のみならず常勤の先生たちもフリーアドレス席に集まって打ち合わせしたりと、有効活用しているんですよ。

やっちゃえばと言いながらなかなか一歩を踏み出せない難しさはあるけれど、やったことによって先生たちの動きが変わり、職員室の雰囲気も変わってきている

先生たちもメリットを実感できているのではないかと思います。


上意下達の支配型リーダーシップからサーバントリーダーシップへ

新しい試みをしたくても、リスクを気にして行動に移せないというお話もよく聞きます。リスクについてはどうお考えですか?

リスクを全て除外することはできないので、当然不安はあります。

ただ、先生たちがやりたいと言うことで、学校崩壊や報道されるような事故につながることは、経験上もありません。

先生たちは責任を持って取り組んでいますので、子どもの命や健康に関わることでなければ、むしろどんどんやっちゃえばいいと思いますね。

そうやって背中を押してくれるトップがいると心強いですね。住田校長は、校長としてどんなことを大切にされていますか?

私がいなくても自分たちで考えて判断し、行動できる教職員集団を作っていくことが校長としての私の役割だと考えています。

そのためには、“サーバントリーダーシップ”で先生たちがやりたいことを見つけられるようにすることが大切だし、先生たち自身の力でプロジェクトを動かしていく経験も必要です。

そういう環境を実現できる人材配置や職場づくりに自分の考えを反映させています。

“サーバントリーダーシップ”とは、どのようなリーダーシップでしょうか?

サーバント(servant)は直訳すると「使用人」「召使い」という意味で、周囲への奉仕や支援を通して周囲からの信頼を獲得し、主体的に協力してもらえる状況を作り出すリーダーシップのことです。

一昔前までは、上意下達の支配型リーダーシップが主流でしたが、今のような、社会が多様化し複雑化した時代には、自分の持てる知識や経験だけで突き進むことはできません。

いろいろな人の話に耳を傾け、情報や知識、技術を集約しながら決断し、また周囲に返していくようなリーダーシップが求められていると思います。

学校においても、最終的に決断を下すのは校長ですが、それぞれの場所でも意思決定ができる組織づくりをしていく必要があります。

そうすれば、先生たちは「自分ゴト化」しながら学校づくりをするようになる。

カリスマがいてどんどん進めていくのではなくて、教職員一人ひとりがリーダーになり、みんなで組織を作っているという形が望ましいと思っています。


校長は、常に明るく・笑顔で・機嫌よく・暇そうに

お二人が先生たちや職員さんたちとコミュニケーションを取る上で大切にしていることはありますか?

“サーバントリーダーシップ”は傾聴が基本なので、声をかけられたときはどんなに忙しくても、必ず耳を傾けるようにしています。

校長室にくる教職員は、何かしらの相談があって訪ねてくるわけなので、「後で」「また今度」ではダメです。

校長や教頭といった一人職は、とにかく「常に明るく、笑顔で、機嫌よく、暇そうにしておけ」です。

いつでも話しかけられる空気感を漂わせておくことがコミュニケーションの大事なポイントだと考えています。

上部さんなんて、校長室に毎日くるよね。

はい(笑)。学校事務として、校長がどんなことを考えているのかは常に知っておきたいところなので。

他の教職員の方々とも積極的に話すようにしていて、何か行動に移すときは、自分が共有したいビジョンから先に話すようにしています。いきなり具体論から入っても身構えてしまうので。

あとは、本当に難しくなかなかできないのですが、人の提案や意見は却下せずに、まずは受け入れて共感すること。

自分にありたい姿があるように、他の人にも理想像があるはずなので、そこはお互いに尊重できるようにしたいと思っています。

最後に、何か行動したくてもなかなか思うようにできなかったり、時間がないと悩む先生方にアドバイスをお願いします。

まず、やらなきゃいけないことがたくさんあって忙し過ぎるのであれば、やらなくていいことはやらないとか、使い回せるものは使い回すとかして工夫しながら「やりたいことができる時間」に変えていく必要があります。

それから、何か新しい試みに挑戦したいときには、周りに変わってもらおうと期待するばかりでは失敗します。

まずは自分のクラスやクラブ活動など、自分がコントロールできる範囲内で挑戦してみて、子どもたちに良い変化が見られれば、周りも真似したくなるはずです。

そういううねりを作って少しずつ広げていけばいいのです。

自己変容を通して子どもたちが変わっていき、子どもたちの変容を通して、周りの変容につなげていく。

時間はかかりますが、そんな方法を考えてみてはどうでしょうか。